はい、あーん。なんてしないんだから!
「…へぇ、そうなんだ。それは良かったですね。お大事に」
棒読みで伝えるとフィリアは何ともなかったかのようにスタスタと早歩きで寮へ向かう。
「ちょ、待ってよ!返事くらい…」
「バカじゃないんですか。私が話してあげているだけでもありがたいことなのよ?告白の返事とか、ずうずうしいことを言わないでくださる?」
しつこく食い下がってきたセインにイラっと来たフィリアは、怒ってますよオーラを振りまく。
「ずうずうしいことなんかじゃないよ!」
「ああ、自覚がないんですね。あなたがどう思っていようが、私にとっては図々しいことなんです。気持ち悪いので私の半径20mに近づかないでくださいますか?これだけ丁寧に言ってあげているのだから、わかりますよね?」
というか怒っている。
「なっ、僕は君を助けてあげたんだから、少しくらい話してくれたっていいじゃないか!君は皇太子のモノじゃないんだろ!」
セイン、あきらめが悪いのか完全に脈なし宣言されているのにも拘らず、しつこく付きまとう。
「あげた?私はあなたに何も頼んでなんかいません。いい加減離れてください。シツコイ男は嫌われますよ」
腕をつかんできたセインを振り払うとフィリアはさらに歩く速さをあげる。
「ねぇ!」
「…失礼。妹が何か?」
フィリア様ファンクラブ加入の女子生徒から、フィリア様がなんか男に絡まれてるよ!って言う情報を入手したライがやってきて、コホンと咳払いをしてフィリアの腕をつかんでいるセインの注目を自分に向けさせる。
「僕が助けてあげたんだから、少し話、させてくれたっていいと思わないかい、生徒会長!」
「はい?ああ、全く思いませんが。とにかく妹が嫌がっているので話しかけないでくれますか。…ペソ?笑っていないでお前は仕事をしていろ」
生徒会は、本日も校長の無茶ブリによる溜まりまくった書類整理に追われているのでした。夏休みなのに。
ライについてきたペソは、相変わらずのシスコンぶりに腹を抱えて笑い転げる。
「や、む、無茶言うな!し、シスコン度が上がってる!!」
ヒーヒー言いながらペソはライを指さす。
「生徒会長って言うのは、生徒の意思を尊重させるべきだよねぇ?」
いやらしい笑みを浮かべてセインはライへ話しかける。
「ええ。ですがそれが何か関係ありますか?」
「じゃあ、僕…つまり生徒の意思を尊重してフィリアと話させるべきだと思うんだ」
セインの発言に、ライの額へしわが寄った。
ため息を吐いて気を静めたライは後ろに逃げ込んだフィリアへ呆れたように諭す。
「…フィリア。お前はどうしてこうやって変な男を引っ掛ける?馬鹿男なんかひっかけないで、普通の男を惚れさせてくれ。頼むから…」
「私のせいじゃない!!な、兄様ひどい!!私だって迷惑なんだ!!」
ライの言葉に憤慨したフィリアはプンプンと怒る。
「僕の意見を無視するなっ!!」
「これだから手に負えないバカ上級生はこま…おっと。生徒の意思の尊重をというのなら、俺は妹の意思を尊重させてもらいますが」
失言しかけたライは、軽い咳払いでごまかすとセインへ返答をする。
「王族だろう!!庶民の意見を聞く義務はある!」
「そうだろうな。お前がそのくくりから外れて、セインという一人の人間として妹と話すのならば、許可しても良いが」
「一人の人間?最初から僕はそうしている!!」
「…フィリア、用があるのならば行け。ちょっとオハナシをしてあげないといけないようだからな」
話が通じないと悟ったライは、ニコリと笑って腕まくりをする。
「ありがと、兄様。今度何かで埋め合わせする」
「ああ、そうしてくれ。お茶会とかで構わないから」
ライに手を振るとフィリアはタタタッと駆け足でレオの部屋へ戻った。
「さて…と、俺のかわいい可愛い妹についた話が通じないお馬鹿さん?ちょぉっとオハナシをしてあげる必要があるようじゃないか。なぁ…対等の立場に立とうとしない卑怯者さん」
ライはイイ鬱憤相手が手に入ったと歓喜する黒い笑顔を浮かべると、セインの襟首をいきなりつかみ床へ一本背負いをする。
「うっ!?」
「へぇ…気絶しないんだぁ。丈夫だねぇ」
妙に間延びした幼児のような口調でライは叩きつけられてうめくセインへ、蹴りを入れる。
「あーららっとぉ。さすがシスコン、本気で怒ってらっしゃるようで」
笑いから立ち直ったペソは、ライのオハナシを見てクスクスと小さく笑い声を漏らす。その際に、人避けの結界を張ることも忘れない。生徒会長が生徒を襲っているのは問題だから。
「フィリアに、何、話しかけているの?俺の許可もないのに。ねぇ、フィリアは俺らの物だよ。勝手に奪わないで。俺から盗っていかないで。…なぁ、聞いているか?」
無防備なところにかなり攻撃を食らったセインは小さくうめくと、身動きをしなくなる。
「…ライ、気絶してるから。そこまでにしとけよ。つめたぁい廊下に放置って言うのも頭が冷えていいぜ」
「ああ、そうだな」
クフフと2人は顔を見合わせて笑うと、セインを廊下に放置して生徒会室へ戻る。人避けの結界は発動させたまま。
さて、レオの部屋へ戻ったフィリアのほうは。
「た、ただいま…レオ」
重そうなため息をつき、フィリアはドアを後ろ手で閉める。
「お帰り」
「あ、その…す、すぐに準備するから!!」
本を読んで待っていたレオに、フィリアは焦ってパタパタと台所へ駈け込む。
レオは何をするのだろうか、とフィリアの後を追ってみる。
「ど…うか、したのかフィリア?顔、赤い」
「体調悪いんでしょ!!寝ててよっ!」
辛そうなレオの声音に、フィリアは怒る。
「フィリア…」
「何、レオ…!?」
後ろからレオに抱き着かれたフィリアは驚いて食材を下に落とす。
「どうした?何か、嫌なことでもあったのか」
「何もないよっ!!レオは寝てなさい!!この、病人が!!」
エイッとフィリアはレオのことを後ろに軽く押すと、落下した食材を拾い上げる。
「…フィリアが欲しいな」
「熱…ひどいんだね。おかゆで良いよね?食べたいものとかある」
「フィリア」
耳に入ってきた言葉にフィリアはレオの方を向いて文句を言う。
「レオ、私は食べモノじゃな…ヒャ」
そうしたら、レオに引っ張り寄せられて気づいたら腕の中にいたので、フィリアは赤面する。
「フィリア…暖かいな」
「レオの方があたたかいです!って言うか暑い!」
ギュウと抱きしめてくるレオから抜け出そうとフィリアは格闘する。
「どこにも、行かないよな」
「行かないよっ!寮監さんに了承貰ったもん!!」
レオの確かめるような囁きにフィリアはキッパリと答えて脱出し、おかゆを作り出す。
「…つまらん」
「布団に入って寝てろー!!人のことはあれこれ言うくせに…自分は…」
ブツブツとフィリアが文句を漏らすので、レオは大人しく布団に引っ込むことにした。
綺麗に盛り付けまでしたおかゆをフィリアは作り上げるとレオの元へ持っていく。
「流石フィリア」
「ありがと。じゃあはい」
ベッドの隣にある机におかゆを乗せるとフィリアは立ち上がって、クライトの布団をあさる。
「…普通はさ。食べさせてくれたりとか、するんじゃないのか?」
フィリアの態度にムッとしたレオは、ぼそりとつぶやいてみる。
「なんで?レオ、独りで食べられるでしょ」
「そういう問題じゃなくてだな」
不思議そうに問い返してきたフィリアにレオは不満そう。
「あれ、今日クライト君いたよね」
「俺と居る時にほかの男の話をするな」
さらに不満を持ったレオは近寄ってきたフィリアをベッドの中に引きずり込んでみる。
「ちょ、なにすっ!?」
触れるだけのキスをすると、レオはフィリアを抱きしめて寝る体勢に入る。
「あ、オイ、レオ!?に、逃げるなっ!後せっかく作ったんだから食べろ!!」
「フィリアが食べさせてくれるのなら?」
「し、仕方ないな!!」
恥ずかしそうにフィリアはレオにおかゆを食べさせたのだった。
このあと、こんなやりとりもありました。
「あーん、とか・・・してくれないんだ」
「な、するわけないでしょ!(ぽかっ)」
「痛い・・・」
「え、あ・・・ごめん!」
「おわびにさ、あーんとかしてくれたら嬉しいかなぁ(ニマニマ)」
「う・・・あ、あーん?」
「・・・かわいい」




