怖いよ。自覚して。怖いんだから!
「ダメに決まってるじゃん!!お兄ちゃんはレーブのモノなの!!大体、お兄ちゃんとの付き合いはレーブの方が長いよ!」
フェカはつまらなそうな展開になったのを感じ取ってフィリアとチェンジした。
「つっこみたいところはいろいろあるのだが…。面倒だな。俺がどうしてお前を呼びにわざわざ来なければいけなかったんだ。帰るぞ」
眉間をもみつつレオはレーブの腕をつかみなおす。
「だからいやだて言ってるでしょ!バカっ!!」
「うるさい黙れ。お前よりもフィリアと過ごしている時間の方が長いんだ。これでいいか」
「は、放してよっ!!そんなに楽しい出会いだったの!?レーブと会った時よりも!?」
甲高い声でわめくレーブをうるさそうに見るとレオは怒りを鎮めようと深呼吸してから話す。
「お前と会ったとき…?俺はお前に蹴られたが?」
「知らないよっ!!そんなの覚えてない!!」
「じゃあ俺も話す必要はないよな」
納まったかのように見えたレオの怒りが再び再燃しだした。
「うっ!!どうして!どうしてお兄ちゃんはフィリアのことを話したがらないのっ!!どうせ、好きじゃないんでしょ!!」
ブチリと何かが切れる音が聞こえた気がしたライラは隣に腰掛けるフィリアの袖を引っ張る。
「どうかした?」
「怖いから帰ろうよ…」
「え、レオかっこいいよね」
話が通じてないっ!?ライラはにっこり笑ったフィリアに戦慄した。
元城はリカルドに気絶させられ、リランの元へと送りとばされていた。
「なぁ。俺はお前に何度も言ったよな?あまり詮索をするな、と。お前は王族ではないんだ。所詮、人質にしか過ぎない。思い上がるな」
「お兄ちゃんは最初から全部持ってたからそうやって冷たいこと言うんだ!!レーブの気持ちも考えてよ!お父さんもお母さんも死んじゃったんだよ!?おまけに変な力があるとか言って連れてかれたんだよ!!どうしてレーブの力をとったの!?もう、あんなところに戻るなんて嫌だ!!お兄ちゃんのバカっ!!反乱で殺されちゃえばいいんだ!!!」
「それが目的か」
小さく呟くとレオは口角を小さく持ち上げる。
それを見て、ライラの警鐘が頭の中でなりわめきだす。
「逃げようよ、フィリア!」
「大丈夫だって。父様もいるし…あ、逃げられたっ!?」
フィリアの隣にいたリカルドが掻き消えていた。
「リカルドさんー!自分だけ逃げないでくださいよっ!!」
ギャーとライラは悲鳴を上げるとフィリアを引っ張ってレオから少しでも遠ざかろうとする。
「もう、全部が嫌!!どうして頑張ってるのに認めてくれないの!レーブのことも話し合いに参加させてよ!!お義父さんとお兄ちゃんだけずるいよ!!」
レーブは一歩後ろへ足を引く。
レオは一歩レーブへ近づく。
「不幸面って本当に不愉快だ。見るに堪えられない。自分が恵まれていないって?父親、母親が殺されて可哀そうだって?お前、覚えていないのか?両親を殺したのはお前だぞ」
「嘘だ!!そんなことない!!大体肉親殺しは重罰で…!」
「お前が言霊を両親にかけたから。両親が殺された?間違えるなよ。お前の親は呪いをかけて逃亡したんだ。だから、父さんはお前を人質にとった。まぁ、無駄だったようだがな。同じことを繰り返そうとしているとは思ってもいなかった」
「そんなっ!嘘だよ!レーブはそんなことしてない!!」
怖れを抱くレーブの茶眼を見て、レオは冷酷な光を隠すように瞳を閉じる。
「俺が最初から全部持っていた、と。そんな訳ないだろ。俺は何も持っていなかった。臣下からは早くに見切りをつけられていたんだ。あの時フィリアに助けられていなかったら、俺はもうこの世にいない」
レオから初めて聞く逸話に短くレーブは息を吸い込んだ。
広場の反対側からそれを聞いていたライラは後ろで座ってるフィリアへ話しかける。
「なんてシリアスっ!!て言うかフィリアレオのこと助けてたんだ?」
「…そんな、覚えは全くないよ。ね、ライラ。ちょぉっとレオのこと止めてくるね。レーブ、殺されちゃったら可哀そうだし。レオ、ためらいなくそういうことしちゃうからなぁ。昔っから変わらない」
少しためらうようにライラへ答えると、フィリアは立ち上がりレオの方へゆっくりと歩いていく。
「お前に話すことになるとは思わなかった。じゃ、自由に生きるといい。もう、俺はお前を止めない。レーブという存在を消し去っておこう。何人にも邪魔されない生活を楽しむといい」
瞳を開けると、レオはレーブの額へ手を伸ばす。
「っ…!」
鮮やかに煌めく緑眼が初めて怖くなったレーブは目じりに涙を浮かべる。
「レーオ。また、そうやってウザい女の子怖がらせて。って言うか私がいるのにそういう恥ずかしい話をするのはやめてくれる?私は、何もやってないよ。レオと初めて会ったのは7歳の時、でしょ」
フィリアがそっと声をかけて抱き着いた途端、レオが放っていた冷たい死を招くような空気が霧散した。
体を圧迫するようなプレッシャーから逃れられたレーブは知らずのうちに止めていた息を吐きだした。
「…そうだったな」
金色のまつ毛に縁どられた緑眼に先ほどとは打って変わったあたたかい光を讃えてレオはフィリアを優しく抱きしめ返す。
「どうして…っ!私のせいなんかじゃない!」
「そうだな。物事には表があるように裏がある。当たり前だがな」
「だから何っ!」
「お前がそういう言霊を放つように仕向けた奴がいる、ということだ。安心しろ。お前の両親の命をとるつもりは微塵の欠片もないからな」
何とか丸く収まりそうな気配にライラはほっと胸をなでおろす。
「そ…」
レオは勝手にレーブとの話を打ち切って、腕の中のフィリアの顔を覗き込む。
「フィリア、怒っているか?」
「ん?そんなことないよ。大丈夫!」
「なら、いい」
少し照れたように笑うと、レオはフィリアを放してレーブへ近づく。
「あっ…」
「…。《眠れ》」
怯えたように身を縮こまらせたレーブの頭へと軽く手を乗せると、レオは魔法を発動させ、レーブを眠らせた。
「・・・そんなに俺は怖かったか?」
「あ・・・ハハ」




