肝試し(後)
「さて、とつぜんですが、問題です!ここは、一体どこでしょう?」
テンションの上がったらしいライラは、レオへマイクの形にした手を差し出して叫ぶ。
「音楽ホールから4回まで上がって左へつきあたりまで進んだところだ」
「即答ですね!あっとざいやしたー!!というわけで、私たちは今。理科センターにいます!」
「何の茶番だ?」
バッと上から降ってきた骸骨を鬱陶しげに振り払い、クライトはライラへこれまた鬱陶しげに尋ねる。
『はい、サラッとスルー!!渾身の一撃がっ!!』
『…コイツは黙ることができないのか?』
「兄様、怒ってる…」
『まぁまぁ、怒らないで。体力使うだけだし』
『それもそうだな』
「で、何がしたいんですか?」
意図を得ない放送へレオが聞く。
『指令3 宝の地図を見つけよ』
『さっさとやって終わらせろ。これが終わったら校舎を一周して終わりだ。時間の関係で』
4人は顔を見合わせてからため息をつき、地図を探すことにする。
「とりあえず…教室を片っ端から見てけばいいよね」
手近にあったドアを開けたフィリアはすごく後悔した。
勢いよくドアを閉めたフィリアへレオが尋ねる。
「どうした?」
「ううん。私、何も見てないよ」
「明らかに見てたよね!?」
つっこんだライラはフィリアに全力で無視され、へこむ。
「暗闇か…。俺、チートだ!」
「バカが…。影なんて、暗かったらないだろ」
「フッ!これが真の力だ!!」
自棄に廚二な台詞を放ち、クライトは手の平を宙へかざす。
と、クライトの前が一段と暗くなった。
「また…フラグ立てちゃって…。私、知らないよ?」
呆れるフィリアへクライトは完成した黒い鎌を渡す。
「どうぞ、フィリア様。完全に太陽の光が差し込んでいないところでだけ、使えます」
「これをどうしろって言うの!」
つい、受け取ってしまったフィリアはクライトへ押し返す。
「鎌ですよ?あこがれません?」
「憧れません!!私をなんだと思って…」
プンプンとわざとらしく怒るとフィリアは少し進んだところにあるドアを思い切り開け放つ。
「フィリア!しゃがめっ!!」
珍しくレオが焦ってフィリアへ叫ぶ。
「へ?」
首をかしげたフィリアを黒い靄が包み込む。
「みぎゃ―――!?」
かわいらしい悲鳴と共に、フィリアの姿が見えなくなる。
「あ!?」
「こんなところでいらないドジっ子を発動しやがって…中は確かめてから開けろよ!」
「っていうか、叫んでないで助けたらどうなんだ?」
冷静なクライトの切り返しをレオは鼻で笑う。
「あれはな?亡霊だ」
「そんなのはみりゃわかる」
「亡霊っていうのはな。一度包まれたら自力突破しか手段がない」
「…初耳だ」
レオの言葉にクライトは素直に降参を認める。
「手がないわけでもないが、俺は使いたくない」
「それはどうなの!?」
「こっちが死にかけるんだよ!後、過去のトラウマとか掘り出されたくないものが色々と…」
額に手をあて、レオは深いため息をつく。
「で、どうすればいいの?」
「俺が聞きたいね…あ」
レオはクライトが持つ鎌を見て、名案が浮かんだようで瞳を輝かせた。
「なんだよ?」
「貸せ」
クライトから鎌を奪い取るとレオは一回だけ素振りをして感覚を確かめる。
『ヒューヒュー!!かっくいー!』
『お前は一回黙ってろ』
ライが実力行使した音が聞こえてきて、放送は途切れる。
「かっけー!!」
「ここにもいたし」
ライラとクライトが見守っていると、レオは鎌を黒い靄へ振り落した。
「お、おい!?それ、ヒトも切れるんだぞ!?」
「知ってる。《人の怨念を食らい生きながらえし者どもよ。我が手によって浄化され消え去るがいい》」
カッとレオの呪文であたりが閃光弾のように白く光り輝いた。
まぶしさに瞳を閉じたライラが光が消えてから開けると、ぐったりしたフィリアがレオに受け止められているのが見えた。
「大丈夫!?」
「俺の鎌ー」
レオの手の中か粗鎌が消えているのにいち早く気付いたクライトが消沈した声を出す。
「クライトはバカなこと言ってないの!!…フィリア、大丈夫?」
「うんー。多分大丈夫だ。ちょっとしたあれこれはつらかったけど」
それをライラは一種するとレオへ詰め寄ってフィリアの安否を確かめる。へらへらと力なく笑ってフィリアは答える。
「ライラにバカなんて言われたらおしまいだな、クライト」
「失礼なっ!そこまでバカじゃないし!!」
レオはライラにバカと言われたクライトをからかう。
「地図は、あったの?」
「教室の中にいかにもって輝いてる箱があったよ」
レオに支えられてフィリアは自分の足で立ち、教室の中を指す。
「…ダミーだな」
「あ、そうなの?」
レオのつぶやき遅く、フィリアの言葉を聞くなり飛んで行ったライラがすでに箱を開けてしまっていた。
「ギャ―――!?…?あ、よく見たらただのゴキちゃんだ」
箱からあふれ出した黒くてカサカサ動くものに悲鳴を上げたライラは、正体を見て、気の抜けた声を漏らす。
「ゴキちゃん…?」
「ゴキブリのことだろう。で、地図は入っていたのか?」
「え、こん中に手を突っ込めって?」
まだまだ溢れ出してくるゴキブリたちを見て、ライラはさすがに顔を顰める。
「ごきぶり…?あ、ゴキブリ!やだっ!」
やっと思考回路が正常に回ったフィリアは、悲鳴を上げるとレオの後ろへ隠れる。
「役得だな。で、地図ならあったぞ」
他の教室を見ていたクライトが黄ばんだ地図を片手に戻ってくる。
「どこだ?」
「俺たちの教室だな。一周しないとたどり着けないようになっている」
「わかった。歩こう」
ゴキブリ相手に苦戦しているライラを置いて、フィリアたちは先へ歩き出す。
「待って!!」
そして。とうとう辿り着いた目的地。
2-3へフィリアは足を踏み入れる。
「長かったー」
「で、何が最後に待ち受けているんだ?」
教室の中央に置いてあったのは超特大の。ライトアップされてキラキラと金色に輝く。なんだか威厳すらも感じられそうな…
『校長でぇす』っていうロゴ入りのポスター。
「フフフフフ…フフ。兄様もお茶目さんなんだから」
ビリとフィリアはそれを破り捨て、宙を睨みつける。
「フィリア、落ち着け。そこまで悪くはなかっただろう?」
「ええ。ええ。レオはそうかもしれないね?フッ…」
笑顔のフィリアへレオはため息をつき、ポスターからこぼれたものを拾い上げる。
「それ、なに?」
「…イヤリング?」
レオが拾ったものを見たライラとクライトは首をかしげる。
「成程。フィリア、片方つけておけ。もう片方は俺が付けているから」
透明な青い結晶が付いた銀のイアリングを見て、レオはフィリアへ片方私、もう片方は自分の右耳へつける。
「わかったー!レオとお揃いだね」
嬉しそうに頷くとフィリアも右耳へそれを付ける。
「そうだな」
という訳で長かった肝試し大会、終了。落ちは校長が締めました。




