シスコン、ブラコンのつくり方?
無事、自力脱出を達成させたライラは寮の部屋へ直行する。
「フィリアー!!」
バン、と部屋のドアを開け放ちライラは叫ぶ。
1…2…3…。
3カウントしても返事がないのでライラは首をかしげて寝室へ廊下をペタペタと歩く。
「あれ、いないの?」
ソッとライラが寝室を覗き込むとフィリアが布団にくるまって眠っている姿が見えた。
「あー…早くね?今、4時なんですけど」
「少し前まで病人だった。全く早くない」
気配を感じさせなかったレオがライラの背後から忍び寄り、ぼそりと囁く。
「ぎゃあ!?わああムゴ」
叫ぼうとしたライラはレオに口を塞がれもがく。
「暴れるなバカ。フィリアが起きたらどうするんだ」
「プハッ!あ?…あ、レオか。びっくりさせないでよ、心臓に悪い!」
「ふん」
ライラの抗議を鼻で笑うとレオはワープして消える。
「な、何事で?」
戸惑うライラだが、チャンスとばっかりに目を光らせるとカメラ片手に眠るフィリアへ近寄る。
「ふっふっふー。フィリアの写真は高値で売れるのだー」
パシャパシャと写真を撮っていたライラは悪寒を感じ、震える。
「な、なんか…殺気が?睨まれてたような…?ま、いっか」
気のせいにすることにしたライラは写真撮影を続ける。
「あ、メモリー残量なくなっちゃった。残念」
名残惜しそうなライラへ向けて天井から雷が降り注ぐ。
ライラの骨が透けて見え、髪がアフロヘアへと変化する。
「イッ、イダダダダ!?」
ビリビリ~としびれたライラは床へ崩れ落ちた。
翌日。
「んー…?ん!?ラ、ライラ!?ど、どうしたの!だ、大丈夫?もしかしてハナイに!?自力脱出は無理だったの!?情けないことに?」
目覚めたフィリアは床にライラが倒れているのを見て慌てて介抱する。
「フィ…リア…。い、っしょう…わ、すれない、よ…ガク」
フィリアに抱えられたライラは幸せそうに逝った。
「ライラ――――!?…ねえ、何の茶番?」
とりあえず、ライラのノリに乗っかったフィリアは転じて冷たそうな声色を作り尋ねる。
「ガクリ…私はもう無理だ。置いて行け」
「わかった。じゃあね。学校に遅刻はしないでね?」
すぐ頷くとフィリアは制服へ着替え、学校へ長い廊下を歩きだす。
そんで学校。
結局ライラは朝礼までには復活できず、2限目からやってきた。
レオとクライトは学校に来る気がないのか音沙汰なし。そのせいでルーピンが涙目になっていた。
わーって授業やって昼休み。
「いっただっきまーす!!」
実に嬉しそうな笑顔を浮かべライラは昼食へパクつく。
「いただきます」
そんなライラを眺めながらフィリアも昼食を食べ始める。
しばらくして、フィリアが何か思い出したのか椅子から立ち上がる。
「どうしたのー?」
「そ、そういえば…兄様に呼ばれていたような…?ま、いっか」
「良くない。サボりやがって…」
座りなおしたフィリアの背後に妙に迫力をもつ笑顔のライが歩いきた。
「キャ――――!?ラ、ライラ!助けてー…」
フィリア、さらわれる。
「いってらー」
ライラ、呑気に見送る。
ライに連れ去られたフィリアは、生徒会室の前へと引きずられてきていた。
「兄様、何の用ですかー。パシリとか言わないでくださいよー?」
「生意気な。生徒会の役員どもに妹見せろーって俺が、襲われた」
「そ、そうですか…。じゃ、私逃げます!」
生徒会の人って変わった人多いなと反応に困ったフィリアは選択肢『逃げる』を選びダッシュしようとする。
「甘いな。《アレスト》」
が、ライがそれを見通していないはずがなく、フィリアの目論見は1秒で潰える事となる。
紫色の拘束魔法を放たれたフィリアは回避できずに捕まり、ライに引きずられる。
「もうしないからぁー!!兄様のイケズー!!そんなんだから彼女ができないんだー!!」
なんだなんだ?と騒ぎを見に集まっていた野次馬生徒たちはフィリアの言葉に吹き出す。
それを見て、片眉を吊り上げたライは若干怒ったような声音でフィリアへ問いかける。
「…意味、わかっていて言っているのか?」
「意地の悪いさま。にくたらしいさま。また、その人」
「俺に、それが当てはまるのか?」
無言の圧力をかけられたフィリアは冷や汗をかいてライへ答える。
「当てはまらない…かも?」
「疑問形?」
「当てはまらないと思う!」
「と思う?」
「当てはまりません!ごめんなさい、私が間違ってました!ライ兄様はかっこよくて素敵で私の大切かつ大好きな兄様です!」
こうしてブラコン、シスコンは人為的に作られていく。
フィリアの答えに満足したライは小さくうなずくと首根っこをつかみ生徒会室のドアを足でけり開けると中へ放り込む。
「待って!?謝ったよ!?」
「そういう問題ではない」
フィリアが出る暇も与えずライはドアを閉める。
「ふぅ…少しは、休めるか…」
で、後ろを振り返り、集まっていた生徒たちのそれはどうなのって言う視線に気づいたライは、無言で片手に魔力を集め出す。
「《拡散しろ》」
バンと破裂した魔力に驚き野次馬たちは散り散りになる。
「バカが…。野次馬なんかしようと思うのがいけない。ただでさえイラついているんだ。そう…ペソのバカに」
バチバチとライの周囲に小さな青い電気が走った。
「オゾンの形成が…。よし、そうだな」
フッと暗い笑みを浮かべたライは電気が走ったことによる酸素分解でできたオゾンをペソの元へと誘導させた。
「少しは、反省するといい。お前は補佐だろ」
生徒会室には極力入りたくないライは、前の壁へ寄りかかって座り仮眠する。
「兄様!!あ…」
ツララを眠らせることで生徒会室から出れたフィリアは、眠るライを見て憤っていた気持ちを少し沈める。
「ん…?あ、出てこれたのか」
「…はい」
遠い目をするフィリアに、ライはどのくらい時間が経っていたのだろうか、と腕時計を見る。
「1時間、か。よく我慢したな」
「フフ…。有りたけの理性をデスネ」
さらに遠い目をするフィリアにライは焦って機嫌をなだめようとする。
「ほ、ほら!アイツらも別に悪気があるわけではない。…そう、ないから余計にたちが悪いんだが…。ペソだって助けるために尽力は惜しまなかっただろう?」
「ええ…。自分が楽しむために全力で組み敷きにかかってきました」
「レオにはばれないようにな」
あ、フラグ立ったな。と人事のようにフィリアは思う。実際被害を受けるのは生徒会役員だから人事なのだが。
「ほら、レオが迎えに来たぞ。よかったな」
アイツ今日学校には来てないのにな。相変わらず恐ろしい情報網だ。とライはつぶやいて生徒会室から離れる。
誰だって自分の命は惜しい。




