ガンジー
結局レオは学校へ来なかった。後クライトも。
王宮から至急戻ってくるように、と連絡があったので、フィリアとライラは青の王宮を歩いている。
「残念だったねぇ」
「なにが?」
からかうようなライラにフィリアは首をかしげて返す。
「…なんでもない」
「ライラ!!」
前から廊下をラックがすごい勢いで走ってきて、唖然とするライラを連れ去った。
「あ…置いてかれた。廊下は走っちゃいけないんだー」
「フィリア様!ちょ、ちょっと!!」
ラックとすれ違ったセイロウが、呑気なフィリアへ慌てて話しかける。
「どうかした?」
「あなたの級友だって言い張る方々が…。まぁ、見たことはあるんですけれど。流石に許可証がないと部屋には入れられませんし」
「級友?えっと…クラスメートのことだよね。ん…わかった、行く」
フィリアはセイロウに案内されて、衛兵ともめているセノーテとソフィー、レンの元へたどり着く。
「やぁ」
「やぁ、じゃあないから!!顔パスできないの!?」
「…あのね」
文句を言ってきたソフィーにフィリアは呆れる。
「顔パスなんてできるほどの友人が!?あ、すみません」
驚いたセイロウはフィリアに睨まれて謝る。
「とにかく!…私の部屋に入るのは問題だから、庭園に行こうか」
ゴホンと咳払いをして気まずさを追い払ったフィリアはセノーテたちを庭へ連れて行く。
「凄く広いねー」
「王宮だからね?レン」
感心したレンにフィリアが深いため息をつくと、ライラを連れ去ったラックがすごい勢いでフィリアに近づく。
「フィリア様!!何呑気にご友人方と話していらっしゃるんですか!?」
「セイロ…あ、逃げられた」
セイロウへどういうことなのか聞こうとしたフィリアは、隣にいないことに気が付き舌打ちをする。
「今!緑の国にライラのような人が嫌いな奴らが大量に押しかけてっ!!ガンジー村の奴らなんですけど!ライラにもしものことがあったらどうするんですか!!あなたの補佐ですよ!!」
「連れ去ったのはあなただけど…」
早口でまくしたてられたフィリアはとりあえず反論してみる。
「そういう問題じゃないんです!!僕だって、ファイナ様に素晴らしいほどの形相で睨まれて連れ去ったんですから!!ちょっと、どうにかしてくださいよ!!」
今のラックには何を言っても無駄だと判断したフィリアは、落ち着けーと身振りで伝えようとする。
理由はセノーテたちが目を待歩くして驚いているからだ。
「ああ、ライラの彼氏だね」
「ハッ!?ば、ばれちゃったか!?あー…ラック、ライラに怒られるよ」
「あなたもですから!っていうか、本当にどうしましょう…」
ソフィーの横やりで熱が冷めたラックは冷静になり頭を抱える。
「ほっとけば?ライラのことだからどうにかするでしょ」
竜の子だから再生能力半端ないし、とフィリアは付け足す。
「むぅー…」
フィリアが若干ひどいことを言い放った時、傷だらけのライラが庭園に現れる。
「あ、聞こえちゃった?」
「それよりも前に!ライラ、大丈夫?」
ラックがライラへ駆け寄り治癒魔法をかける。
「あ。魔力の無駄遣いはしなくていいですよ?」
「無駄遣い…って!僕の気持ちの問題です!あのね、彼女が傷だらけで帰ってきて、治療しない彼氏なんていないでしょ!」
「まぁ…そうかも」
ラックの言葉にライラは納得して頷く。
「ライラ」
名前を呼ばれて振り向いたライラをフィリアはすかさず気絶させ、ラックへ預ける。
「フィリア!?」
「な…」
何しちゃってんのこの人!と口に出しかけたラックは慌てて口を塞ぐ。
「とりあえず、どっか別の所に運んでおいてくれる?雑魚相手にそこまで傷だらけになられてても困るし…」
「…はい」
色々と言いたいことを飲み込んで、ラックは頷きライラを運ぶ。
「…」
「……」
「………」
「ん?何、その視線は」
3人から物言いたげな視線を注がれ、フィリアは尋ねる。
『まだまだこんなのは序盤だぞ!!』
激しい爆音とともに、黒いローブを目までかぶって、人相を隠している男が数人庭園へ現れる。
「…ここ、王宮なのに」
悲しげにつぶやくと、フィリアはセノーテたちへ魔法障壁を築いてから、男たちと対峙する。
『ガンジー!!ガンジー!我らが龍神ガンジー!!聞け、者ども!!』
「え…うん、続きは?」
すごく嫌そうな顔をして、フィリアはガンジーガンジー騒ぎ出した男たちに続きを言うよう促す。
『最終的には龍が世界の王となるのだ!!』
「リィ!!変態さんがいる!!」
それを聞いた途端フィリアは全力でリィを呼び寄せる。
「!?ガンジー村のバカ!?あ…ごめんフィリア!俺嫌だから帰る!」
人型で現れたリィはガンジーと紙ふぶきを散らしながら騒ぎまくる男たちを見て、フィリアに制止させる時間も作らず消える。
「リィ!?ま、待って!?」
「…フィー。あまり面倒事を増やすな」
通りかかったライが叫んだフィリアへ忠告して通り過ぎていく。
「兄様!て、手伝ってよ!!」
「お前が俺の雑用を手伝ってくれるのなら」
「…ごめんなさい。手伝わなくていいです!」
ライの言葉を聞くと、フィリアは前言撤回をする。
『ぅおらぁ!!』
怒号をあげて、男たちはフィリアへ雷系魔法を放つ。
「…めんどくさい。ここ壊すと、私母様に怒られる。後父様にも。それだけは絶対にいや!!」
悲鳴を上げるとフィリアは空気中の水を操り、男たちの顔を水で覆い隠しおぼれさせる。
『グッ…我らをなめるな!!』
とか言いつつもガンジーと叫ぶ声は次第に聞こえなくなっていき、途切れた。
「よし…」
全員が気絶していることを確かめると、フィリアはロープをポケットから取り出して、男たちを縛って放置する。
「という訳だから、ごめんね。セノーテたちとお話しする時間、なくなっちゃった。また明日」
「わかった!」
「ごめんね、邪魔しちゃって!」
フィリアの笑顔を見た女子二人は即座に頷き、レンをつかんで学校へワープした。




