フィリアの部屋にて。
「フィリア、首尾は?」
フィリアの部屋につくと、待ち構えていたらしいアースが椅子に座って優雅に紅茶を飲んでいた。
「アー兄様!?な、なんで私の部屋に!!」
「いいから。ラックを連れ出したんだ。どうなった」
「良くないです!!えっと…キスしてました!」
抗議しつつもアースに聞かれたことをフィリアは答える。
「なんだ。うまくいきそうなんだ」
「はい!だから、出てってくださいよ!妹の部屋に勝手に入るなんて、さいってい!!」
「しかも勝手にお茶飲んでるし?」
レオが追撃する。
「良いだろう別に。妹のモノは俺のモノ、俺のモノは俺のモノ、だ」
「っ!出てけー!!」
キレたフィリアが、動じないアースを部屋から追い出す。
「おっやぁ、いいのかな。そんなことしたら母上に言いつけるぞ」
「ひ、卑怯者!」
「最高の褒め言葉をどうもありがとう」
ニマニマと笑うアースにフィリアは言葉に詰まる。
「アースさん。フィリアを弄るのが楽しいのは分かりますけど、それくらいにしないと…」
俺が怒りますよ、とレオは言外に含ませる。
「はいはい。もう、ラブラブな奴らは嫌だね。俺なんて…俺なんてっ!!」
「何が続くのか聞きたいような聞きたくないような…」
ワクワクとクライトがアースへ続きを促す。
「一生バカ妹のお守りなんだ!!なんで、アイツと双子なんだよ、俺!」
「に、兄様!!お、落ち着いてください!大丈夫、リナ姉様にも近々縁があるそうなんで、売却されますよ!…多分」
怒りを壁へぶつけようとしたアースをフィリアが止める。
「マジか!?あ、相手は誰だ!」
「えっと…宰相さん?」
「…」
フィリアの解答にアースは沈黙する。
「兄様?」
「どうしよう…それはそれで嫌だ。リナがあんなのと夫婦だと!?」
「あんなの呼ばわりですか」
何処からか湧いて出た宰相にアースはつぶされる。
「ぐふ…」
「アース。きちんと政務を行ってください。それができないなら書類はすべて埋めてから出しなさい」
うめいたアースを床へ落とすと、メシスは懐から十数枚の紙を取出し、突き付ける。
「だから、ここ…私の部屋…」
「うるさいですね。別に誰の部屋だろうが構いません。ああ、フィリアも出してないものがありますよね?」
「いやっ!!ないです!!気のせいです!」
ぼやいたフィリアへメシスの標的が移る。
「龍との子を補佐にした手続きが、もう少しあるのでは?」
「嘘!?ぬけてるところがないか、何度も確かめたのに…」
「で、メシスはリナと婚約するのか?」
「しません。どこからの情報ですか」
立ちなおったアースに問われ、メシスは即答する。
「たった今フィリアから聞いた」
「フィリア様?」
ニコリと笑われながらメシスに名前を呼ばれたフィリアは硬直する。
「ち、ちがうよ!!お姉さま方が、楽しげにお話していたんだもん!!」
「元貴族の井戸端会議もどきですか…困りましたね」
私じゃない!っていうフィリアの叫びにメシスは額に手をあてて悩む。
「立ち入り禁止にしてしまえばいいだろう」
「皇太子。それではいけないのですよ」
「なぜ?」
レオの疑問にメシスは淡々と答える。
「貴族の女はうるさい。この一言に尽きますね。全く…いつまでも古い制度にこだわって。困りましたね。リカルドにでも言いつけますか」
「父様にいいつける…?なんか効果ありますか」
「えええ、抜群ですよ。リカルドはやるときはやる子ですからね。たとえ…今はバカ親でも」
「やる子って…」
クライトのボヤキを一笑し、方針が定まったメシスはフィリアの部屋を出ていく。
「アー兄様も!!いつまでいるつもり!」
「この書類が埋まるまで」
真剣な顔をしてアースはメシスに押し付けられた書類と格闘する。
「フィリア、諦めた方がいい。多分この人は梃子でも動かないぞ」
助けを求められたレオはそう返答する。
「あ、じゃあ俺は緒事情で」
クライトが部屋から消える。
「レオ、ちょっと手伝え」
「命令ですか…。まぁいいんですけど。で?」
アースの手元をレオは覗き込む。
「ここ、爆発原因はなんだと思う」
「グリンダさんでは?」
「母様!?い、いつの話!!」
2人の会話に焦ったフィリアも書類を覗き込む。
「ああ、確かにそうだったな」
「なんで覚えてるの…」
「フィリア!!おいてくなんてひどいよっ!!」
ライラが、上からフィリアめがけてラックと共に降ってくる。
「ひっ!?」
「危ないだろ!」
フィリアをライラに当たらないよう引き寄せたレオが抗議する。
「ご、ごめん…」
「アースさん、すいません」
すぐさまラックがアースの書類を手伝う。
「いや、いつまで居座るつもり?」
「すみません、フィリア様。すぐに出ていきますね」
ラックの助け有り、アースを追い出したフィリアは、まだ部屋に残っているライラへ視線を向ける。
「え、でてったほうがいいの?」
「どう思う?」
「わかった、出てくね」
なんで追い出されるの、と哀愁を漂わせてライラも部屋を出ていった。
「なんだ、わざわざ追い出して?」
「いいの!!私がしたかったんだから!」
頬を膨らましたフィリアの頭をレオはゆっくりと撫でる。




