バカンス、こんなところでいいのかよ
あっという間に雷が落ちている島へ到着した。
「あの…こんなところでバカンスするつもりなんですか!?」
「銘酒グラップサンダーが飲めるからね」
「ここでしか飲めないんだ」
「はぁ…」
心なしかリランの目が輝いているような気がしたライラはフィリアへ視線で助けてと訴える。
「兄様。お酒の話はいいですから…どうするんですか?」
「さー、自由行動だー!!決して一人にはならないように!3時間後に集合!」
メガホンを持ったファイナが威勢よく声を張り上げる。
「…」
「それと。レオ、今日は我慢しないでフィリアで遊んでもいいぞ」
「本当ですか、ファイナさん」
「姉様!?」
「この間、フェカに言いたい放題言われたからな。仕返しだ。遠慮せず、妹と遊んで来い」
「そうさせて頂きます」
にやりと笑った2人にフィリアは固まる。
すかさずレオがフィリアを抱きかかえてどこかへ消える。怖くて誰も後を追おうとしない。
「…クライトー。シベリスが睨んでくるー」
「知るかっ!…仕方ないから、お前がどうしてもというのなら、一緒に行動していてもいいぞ?」
「ツンデレ!?」
「フィリア様ー。僕を置いて行った…」
うなだれた狼を憐れんだリナがモフモフしだす。
「やぁ!?リ、リナ様!」
「よしっ!酒だー!自棄飲みしてやる!」
「兄上…」
所在なさげに一人突っ立っているシベリスへ現れたフェカがちょっかいをかける。
「ダッセ、あとから現れた男に女盗られてやんの」
「なっ!?」
「俺はとってない!!」
「私は誰とも付き合ってない!!」
4人の様子を見たアースがライを小突く。
「あの補佐って、フィリアよりもモテてないか?」
「そうですね。アー兄上も、リラン兄上を止めるの手伝ってくださいよ。それか、俺の雑務を少し変わってください」
「嫌だね。俺は危ない橋は渡りたくない」
にべもなく弟の頼みを断ったアースへライは復讐を考え、周囲を見回す。
フィリア、レオは行方知れず。ライラ、フェカ、クライト、シベリスは互いに睨み合っている。リラン、ファイナは真剣な表情で雷が落ちるところを見つめている。
「リナ姉は…何をしているのでしょうか」
残るリナ…はセイロウを抱えてしゃがみこみ水を垂らしている。
「明らかに、アリの巣に水を注いでいるな。おそらく心中は『ほぉら洪水だぁ。神の怒りを思いしれぇ』ってところじゃないかな?」
「流石双子…ってそうじゃなくて!止めてくださいアース兄上」
ドン!と衝撃波が走った。
「走れ!!雷が落ちた!酒だ!!」
リランとファイナが競うように雷が落ちた山へ走り出す。後を追うようにライたち兄弟と、ライラたちが走り出す。
「アレ…なんで私たちまで走ってるの?」
「とりあえずだ、とりあえず」
成り行き上走り出した一行が山の頂上へたどり着くと、黄色に光る岩と、その下の湖へ雷が注がれていた。
「なにあの岩!」
「雷の純魔力結晶だな」
「酒飲みたいかー!!」
「おー!!」
アースとかがこぶしを突き上げる。
「…酒飲めないし」
「そりゃ残念だったな」
普通に飲みだすフェカにファイナのこぶしを振り落される。
「っ!?」
「フィリアに影響があるだろう」
「…基準はそこなんだ」
「大丈夫だよ、クソババァ。フィリアに影響なんかでねぇっつの。大体レオに今はフィリアと一瞬でも共有すんじゃねぇって怒られたんだからよぉ。酒くらい平気だ!!」
「荒れてますねー。フェカ様も。僕だって荒れたいですけどー」
フィリアの命を忠実に守っているセイロウはいまだに狼の姿のままリナの下敷きにされている。
「ライラ、これをやる」
ライが岩を削り取ってライラへ放り投げる。
「うわっ!?え、いいんですか!?」
「幻術しか取り柄がないのは問題だから」
「しかって酷い!」




