え…忘れてたの!?
1分後
ライラが目を覚ますと肩で息をして独り立っているフィリアが見えた。
「フィリア!!」
「…何?」
話すのも億劫そうにフィリアはライラに聞いた。
「何があったの?いや、答えは分かってるけど!一応聞いてみようかなぁ…と」
しどろもどろになりながら説明するライラの額にフィリアは手を伸ばす。
「記憶。父上が」
「へ?な、なんのこと?!何するの?」
なんとなく避けてみるライラ。
「ごめんね。今日の記憶は消したいの。例え…」
フィリアはそこまで言うとライラの方に倒れた。
「ちょ、フィリア!あ、出血が止まって無いじゃん!!ど、どうすればいいの!?」
「他の皆の記憶は消したの。だから、後はライラだけなんだ。早く消して、ここから逃げないと…」
「え?ちょっと、まだ傷が!魔法も使いすぎてるよ!!何処行くつもりなの!?」
「何処か遠いところ…ライラさよなら」
フィリアはライラの腕の中から立ち上がると何処かへ行こうとして前に立った人につかまれた。
「…その傷でワープするのか?」
「兄様…どいて。私は」
「お前のことなんか知るか!ライラこいつあげる。大事に持っとけ」
ライは素早くフィリアを魔法で気絶させると驚いているライラに放り投げた。
「え?ちょ、ま、わ~」
ライラはフィリアを落としかけて慌ててつかみ直す。
「妹とゆっくり話すと良い。幸いにも時間だけはあるからな。ああ、俺はしばらく戻らない」
ライはそれだけ言って姿を消した
「えっと…この状況で消えますか、普通!!人が倒れてるわ、よく事情分かんないわ、私にどうしろと!!
王家の人間、ふざけんなー!!」
ライラから漏れた心からの叫びだった。
「…ライラ、放して。自分で、歩けるよ」
いつの間にかフィリアが気を取り戻していて叫んでいるライラにそっと囁いた。
「フィリア!生きてたんだ。良かったよ~!!あ、そうそう。さっきライさんがしばらく戻らないって言ってたよ」
「…軽く酷いことを言われた気が。って、待って。もう一回言って」
フィリアはライラに下ろしてもらうと少しふらついてからライラに向き合った。
「え?フィリア生きてたんだねって?」
「違う違う。普通に考えれば私が聞きたいのがそっちじゃないのが分かるでしょうが!」
「すいませんねぇ。普通じゃないんで。ええと、ライさんがしばらく戻らないってってとこ?」
「うん、そう。兄上が戻らないってことは…責任問題かぁ。後で怒られそうだな。嫌だなぁ…」
「責任?ふぅん。でさ、ここに倒れてる人たちどうすんの?」
「どうするも何も、急いで記憶をでっちあげてすり替えて置いておくに決まってんじゃん。よし、やるか」
一通り、手順を勝手に決めたフィリアは目を閉じて何かを呟き、倒れてる生徒へ手をかざす。
「おお!光ってる~かっけ~」
ライラが地味に感動したのは光るフィリアの銀髪。
「よし、すり替え完了。これでバレ無いとは思うんだけどね…」
「ま、予想外のことが起きるのが人生ってもんでしょ」
ライラがかる~く言った。
「聞かない。言わない。黙ってる。この3つが人生を平凡にしてくれるんだよ?知ってる、ライラ?」
「…怖いよ、フィリア。だいたい私は平凡な人生なんて望んでないから!!」
「まあ、ライラはその存在自体がすでに平凡じゃないからね…」
疲れたようにフィリアはライラに向かって呟くとスタスタと歩きだす。
「ちょ、ど、どこ行くの!?」
「何処って…寮に戻るんだけど?何、傷の手当てもさせてくれない訳」
最低限のことをし終えて気が緩んだのかだんだん顔色が悪くなっていくフィリアは気丈にもライラに笑って見せた。
「わ~!!わ、忘れてた!!!フィリアがあまりにも普通にしているから…」
「そう思うなら、さっさと寝かせてね。こんなん寝てれば治るからさ」
「…それはないと思う。治癒魔法かけるよ」
「いい。結構です。そんなものに頼りたくないし。それにライラには悪いけど、まだ信用してる訳じゃないから」
なんとなく早足になる2人。
「え~!!信用してくれたって良いじゃんか!私、頑張ったよね?」
「知らない、見てない、聞こえない」
「それなら~これでどうだ!!」
ふらつき始めているフィリアをライラはお姫様抱っこすると寮まで走った。
「え?な、ちょっと、待って!よ、汚れるよ!?何してんの!!」
「聞こえなーい、聞いてなーい、知りませーん!!」
フィリアの抗議をさらっと流してライラは恐るべき脚力を見せた。なんと、1キロも離れている寮まで、1分ちょいでたどり着いたのだ。
「着いた!ほら、あっという間だったでしょ!!」
どこか嬉しそうなライラに文句を言おうと思っていたフィリアも思い直して笑ってみた。
「そうだね、ライラ。ええと、そこの引き出しに包帯が入っているから取ってくれる?」
「うん!…そう言えばフィリアはさ、私のこと調べたの?」
「え?龍の子だってこと?」
ライラが放り投げた包帯を腹と右腿に巻いて行くフィリア。
「そう、それ。調べて分かるもんなの?」
「いや、そんなことはないよ。でも、まぁ考えればすぐにたどり着いたしさ。緑の国出身で、白の国預かり。母は龍と契約関係、父は謎って言ったらね。それしか考えられないでしょ?」
「普通の人はそんなこと考えないって。だいたいよくそこまで調べられたね。調べる気になったね、と言うべきか…」
ライラが半ばあきれたように言う。
「ア、アハハ。ま、まあ心配性の友達が色々とね」
ギクッとフィリアが包帯を巻く手を強張らせた。
「友達?そんな人いたんだ!」
「…それは酷い」
「で、男の子?女の子?」
「さ、さあどっちなんだろうね」
「はっはぁ~ん。男の子なんでしょ!」
瞳を細めてライラは嬉しそうにフィリアに聞いた。
「え!?あ、いや…ゴホン。どっちだろうねぇ」
冷や汗タラタラでフィリアはライラに切り返す。
「王家関係の人なの?」
「…忘れてた。ライラの記憶、消さないと」
「え゛!!」
まさか忘れていたとは思わなかったライラ。




