ヒーローインタビュー、俺なの!?
少しでも笑っていただけたら嬉しいです。
俺はプロになって三年目。
怪我の影響もあり、これといった結果も出せず、鳴かず飛ばずのままここまで来た。
正直に言えば──今年のシーズンが終わったら、クビになる可能性はかなり高い。
そんな崖っぷちの状況にいる俺が──
なぜか今、ヒーローインタビューを受けている。
「本日のヒーローは、背番号87、中嶋 茂選手です!」
いや、絶対違う。
マイクを向けないで。
ヒーローは、俺じゃないから……。
だって今日の試合──
九回裏、三点ビハインド、二死満塁。
代打で出てきた神崎さんが、文句なしの逆転満塁サヨナラホームランをかっ飛ばしたのだ。
どう考えてもヒーローはあの人だろ。
俺?
ベンチで座ってただけですけど?
試合に出てませんけど?
「まずは今の率直なお気持ちをお願いします!」
いやいや、なんで!
なんで、普通に進行するの!
観客も──
「良かったぞ~! お前の応援!! 最高の試合だった」
とか言ってるし。
なんでだよ!! 俺じゃないだろ!
何なの、これ……罰ゲームなの?
いや、ドッキリか!?
「えー……あの……」
俺は一応、マイクに向かって口を開くよ。
開くしかないよね? 逃げ場がないんだから。
「今日は……その……いい試合でした」
当たり障りのないことを言ったけど……
というか、それしか言えないじゃん。
「いい試合でしたね! 特に九回の場面はしびれました!」
「そうですね……しびれましたね……」
いや俺、打席にも立ってないんだけど……。
「ベンチからは、どのようにご覧になっていましたか?」
「全力で応援してました」
これは本当だ。少なくとも嘘ではない。
「なるほど! チーム一丸となった勝利ということですね!」
「……そう、ですね」
なんで成立してるんだ、このヒーローインタビュー。
だ、誰か……助けてくれよ……。おかしいだろ、この状況。どうして誰も疑問に思わない。
あ、神崎さん!
タオルで顔を拭いている場合じゃないですって。
普通にくつろいでいる場合じゃないですって。
「お前じゃねぇだろ!」とか神崎さんがツッコんでくださいって。
「ナイス応援!! ナイスベンチ!!」
……違う……違うんですよ、神崎さん。
そうじゃないんです。
ん? 神崎さんに、助っ人外国人のクロマニヨンが近づいていく。もしかして、アイツならこのおかしな状況を打破してくれるかも……。
「ナカジマ、カンザキノ打席デ、“ハナクソ”ホジッテタゼ」
余計なこと、言うな! クロマニヨン!!
「ナイス、ハナクソ!!」
違う、違う……神崎さん!
“ナイス、ハナクソ”って、何すか……。マジでいじめですか?
「ナイス、ハナクソ! どのくらい丸めたんでしょうか?」
インタビュアー!! お前、何を聞いてるの!?
「えっと、そーですね~、一分くらいでしょうか……」
俺も何を答えているん!!
「ということは、手に汗握るあの場面で、手に“ハナクソ”を握っていたんですね?」
インタビュアー! お前、何、言ってんの!! ドヤ顔すんな!
「ハナクソ!! ハナクソ!! ハナクソ!!」
観客まで、ハナクソコール……。
いやいや、ちょっと、俺……ハナクソキャラになっちゃうじゃん!!
「今シーズン三年目ですが、ここまで苦しい時期もあったかと思います」
「……はい」
急に話題を変えてきたな。さすがに、ヒーローインタビューで、ハナクソはマズいと思ったのか……?
「その中で、今日この舞台に立っている今の気持ちはいかがですか?」
いやいや、“この舞台”がおかしいんだよ。
でも、答えるしかないよね!?
「……正直、自分がここにいるのは不思議な感じです」
「そうですよね! 何で選ばれたか分かりませんからね!」
いや、お前も分からんのかい!
「……でも、チームの勝利に少しでも関われたのなら……」
関わったか、俺?
ハナクソを丸めていただけじゃないか?
いや、きっと勝利に貢献したよね……。
「……それは嬉しいです」
パチパチパチパチ
観客席からの拍手は嬉しいけど……。
「ハナクソ!! ハナクソ!! ハナクソ!!」
ハナクソコールは、止めて……。
「素晴らしいコメントありがとうございます!」
違う、違うよ~
満足そうに頷かないで、インタビュアー。
「では最後に、ファンの皆さんへ一言お願いします!」
来てしまった、締めのコメント。
どうせここまで来たんだ。開き直るしかない。
「その……正直、自分はまだ何も結果を出せていません。今日も、試合には出ていません」
なんか緊張する……。
「だからこそ──次は、ちゃんと試合に出て、ちゃんと結果を出して、ここに立てるように頑張ります」
パチ、パチパチ……
パチパチパチパチ──
ワァァァァァ──ッ!!
次にこの場所に立つときは、ちゃんと胸を張って、“ヒーロー”として呼ばれたい。
「ありがとうございました! 本日のヒーロー、“ハナクソ”でした!」
お前までハナクソ言うな、インタビュアー!
「ハナクソ!! ハナクソ!! ハナクソ!!」
ハナクソコールは、マジで止めてくれ……。
翌年。
俺は登録名を“ハナクソ”に変えて、首位打者を獲得した。
なんだ、この話!?
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