なんで相談してくれなかったの
初投稿です。
お手柔らかにお願いします。
店内を流れる音楽は明るいアップテンポの曲がながれている。しかし、香奈はうかない顔をしてぼうっと道行く人を眺めている。通知音が鳴った。香奈は我に返った。慌ててスマホを鞄から取り出した。そしてさくらに自分の座席を返信した。
社会人になってからさくらに送ったラインは最近ではなかなか返信が返ってこない。こんなことはこれまでにはなかった。1日以上も既読になることなんて無かった。そうしてやっとのことでさくらと休日にランチを取り付けられた。
席に座ったさくらは大学の時と変わらないように見えた。香奈はすぐに切り込んだ。
「さくら、最近何かあった? 」
さくらが目を丸くすると聞き返してきた。
「彼氏ができたかってこと? 」
香奈は冷めてしまったコーヒーで口を湿らすと、強い口調でさくらに問い返した。
「大学まではラインすぐに返してくれてたじゃん。……最近は返信も遅いし、なんか内容もおかしいし……」
さくらは眉を下げて申し訳なさそうにすると
「それはごめん。仕事が忙しくてさ。……でも大学みたいにスマホをいつでも見られるわけないでしょ」
そういうと店員が持ってきたパフェを食べ始めた。
「これおいしい! 香奈も食べてみてよ」
さくらは小声で叫ぶという器用なことをしてスプーンを香奈の口元に突き出した。香奈はこれまでと変わらないように見えた。しかし、香奈はどこか小さな違和感を覚えながらパフェを食べた。みかんの甘酸っぱい酸味と生クリームの甘さがとてもおいしかった。しかめっ面だったが、思わず笑みがこぼれた。その様子を見て表情を緩めるとさくらも笑顔で
「すごくおいしいよね! 先輩に教えてもらったんだぁ。ここの夏みかんのパフェは絶品だって」
さくらは誇らしげに語った。香奈もそんな姿を見て思わず苦笑いを浮かべた。しかし、香奈は表情を改めてさくらに向き直った。今度は言い逃れできないように
「退職を考えてるって聞いたよ」
そこでさくらの表情が崩れた。慌てて何かを言おうと口を開いたが、結局何も言葉は出てこなかった。そして一旦下を向く。香奈は何も言わずさくらの次の言葉を待った。待っている時間はとても長く感じた。さくらは顔を上げた。眉を下げて香奈に向き直ると一息ため息をついた。
「お母さんか……」
香奈は頷くとさくらの言葉を待った。さくら気分を変えるためかパフェをもう1度すくって食べた。そしてぽつぽつと語り始めた。
「思ってたのと違ったんだ……。これまではさ、納得いくまで描けたんだ。でも、仕事となるとそんな風にはできなくてさ……」
「なんで相談してくれないのよ」
香奈は小さく責めるようにつぶやいた。
「相談って? 香奈は絵を書かないじゃん。そんな香奈に何を相談するのよ」
香奈は何も言えず顔を俯かせた。
「……ごめん。八つ当たりだった」
さくらが気まずい沈黙を振り払うように言った。続けて晴れた窓の外に視線を移すと呟いた。
「好きだったから仕事にしたのにさ。なんか嫌いになっちゃいそうで……。でも嫌いにはなりたくないんだ」
そして香奈に視線を戻すと
「心配してくれてありがとね」
さくらはそういって伝票をとると溶けかけのパフェを残して席を立った。香奈はさくらを追いかけようと立ち上がった。しかし、そのまま追いかけることは出来なかった。そして香奈は再び席に座った。テーブルに肘をついて姿勢を崩した。深いため息を吐き出した。




