乳兄弟の意外な一面
次に目を覚ました時、遥は見知らぬ部屋にいた。
後宮ほど絢爛ではない、でももちろん遥の生まれ育った物置小屋よりずいぶん豪華な、歴史を感じさせる重みのある部屋。
ベッドに横たわったまま、自分の身体を確かめる。
今すぐは動けそうにはないが、生命をつなぐためのわずかな力は、戻っているように感じた。
「……トワ」
呼び戻したのが誰なのか、ちゃんと覚えている。
確信を込めて名前を口にすると、もぞ、と身動ぐ衣擦れの音がした。
すぐさま近寄ってきた人の顔に、つい笑みが漏れる。
もしかすると、ほんの少し口の端が動く程度だったかもしれないが、トワはちゃんと気づいて笑みを返した。
「姫様。お水は飲めますか」
「うん」
手を借りて上半身を起こし、支えられながら水を含む。
よく見れば、トワは別れた時よりは幾分か肉がつき、精悍さを増していた。
女帝に気に入られるのもわかる。薄幸の美青年、といった風貌だった。
「顔色、いいね。トワ。よかった」
「それはこちらの台詞ですよ。とはいえ、姫様はまだ顔が白いです。スープを用意させますね」
背中にいっぱいクッションを挟み込み、上体を起こした体勢で整えてから、手際よく部屋を出入りする。
なんだか、すっかり勝手知ったるって感じだ。
戻ってきたトワの手には、スープと小さなカップ。
介助してもらって口に含むと、野菜の旨味がぶわりと広がった。
「トワも食べなよ。美味しいよ」
「では、いただきます。……本当だ、美味しいですね」
昔のように、美味しいねと言い合って、五匙ほど食べた。
くふ、と笑いがこぼれる。だって、嬉しい。楽しい。トワ。
「トワ、大丈夫だったの? 気に入られちゃったんでしょ。ちゃんと食べれたの?」
「大丈夫ですよ。陛下は、どちらかというと美しいものを周りに置いておきたい、という感じでしたから。少しずつ食べられるものを増やして、今は少々の固形でもいけます」
「すごい。偉いね、トワ」
遥とは大違いだ。トワが健やかだったことが嬉しい。
優しい目をした彼が、ゆっくりとした仕草で遥の頭を撫でる。
「私は、姫様のお傍に戻るつもりでしたから、万一のために動けるようにしたかったのです。走ったり、刺したり、するかもしれませんから」
何をだろうか。聞かない方がいいやつだろうか。
「でも、なかなか機会がなくて……ジュエル様がいらした時は、心臓が止まるかと思いました」
誰だろうか。名前からして、きらめきイケメンか?
「かの方が焦って、姫様が死んでしまうと言うものですから、思わずグラスを投げてしまいました」
ん? トワ、そういうタイプだったっけ。
「何をしていたんですかと怒鳴ったら、なんと数日前には自死寸前だったというではないですか。私はそのまま陛下の元へ行き、姫様付に戻してくれないなら舌を噛み切って死ぬと申し上げました」
そうか。舌を噛み切るという手もあったのか。勉強になるな。
「生涯姫様付の任命書を直ちに書いていただき、姫様の元に走ったのです。間に合ってよかった」
なんだろう。記憶していたより、トワが逞しい。
ふは。なんだか笑えてきた。




