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ご温情(笑)


あれから数日。遥は、なぜか旧後宮で未だに生きていた。

後宮は解体され、皇帝と正妃と寵妃たちと主だった子供たちは処刑、その他は温情にて解放。何じゃそりゃ。


後宮で衣食住を与えられていた女子供が、しかも後宮にいたと丸わかりだろうに、いきなり外界に放り出されて生きていられるとでも思っているのだろうか。


変なところで慈悲ぶる女なんだな、と遥は異母姉らしい人のことを評価した。


「皇女殿下」


「それやめてくんない?」


護衛という名の監視を務めるのは、数日前に会った褐色イケメンときらめきイケメン。

日替わりだが、今日は褐色イケメンの番だった。


ずしんとくる低音で重々しく呼ぶが、生まれてこの方そんな呼び方はされたことがない。

姫様、と呼ぶ声が懐かしい。


「ハリエット様」


「遥」


「……ハルカ様」


「遥」


「…………ハルカ」


「で、何」


素っ気ない遥の対応にもめげず、イケメンどもは何くれと世話を焼こうとする。

今ごろ、新女帝のどうしよっかな〜の時期だろうが。そっちに集中してろよ。


「もう少し……食べられては」


テーブルに所狭しと並べられた食事を前に、遥が口にしたのはほんの少しのパンとスープひと匙。

豪華すぎる味は、今の遥には暴力ですらある。


「残りは使用人にあげて。それと、財政難なんでしょ。こんな豪華なの揃えたら意味ないよ。反乱の意図ぶれぶれなんだけど」


「……」


「困窮した民が今のわたしを見たら、そりゃ首も刎ねろって言いたくなる。改革したいならしたいなりの振る舞いってのがあるでしょ」


貧困を語りながら艶々の見目をしている彼らには、わからない感覚なのかもしれないけれど。

少なくとも遥は、不条理だと思ってしまう。何のための反乱なのか。


「で、わたしの処遇は決まったの。いつ処刑してくれんの」


「処刑などいたしません!」


「何じゃそりゃ」


思わず口に出た。

あれだけ散々ご高説のたまっておいて、今さら処刑はなしだと。ちょっと舐めてるんじゃなかろうか。


「じゃあトワを返してよ」


褐色イケメンが、気まずそうに目を逸らす。


「……彼は、女帝陛下の目に留まりました」


「…………」


深く、深く、何度も深呼吸をする。

ああそう。なるほどね。遥のたった一人の味方を奪って、逆ハーレムに参加させたわけか。


────ふざけるなよ。


この世界も、ヒロインだか何だか知らん女も、薄っぺらいイケメンたちも。

こちとらモブかもしれんが、辛酸を舐めまくりながら必死に生きてきたんだ。


ここは現実で、遥はここに存在している。残念なことに。


「で、わたしは?」


「その、……陛下のご温情により、縁談が」


へええええ? ご温情。縁談が? もう呆れて言葉もない。


うんざりとため息をつく遥の前に、褐色イケメンが膝を折る。

ああうん。なんとなくそんな気はしてた。


「俺……いえ、私と婚姻してください」


逆ハーレムから真っ先に脱落した男を宛てがいやがったな、異母姉。

邪魔者の排除も済んで、一石二鳥ってわけだ。


「断る」


「陛下のご命令です」


「知らないよそんなの。逆らった罪で処刑とかにしなよ」


「なぜそうも死にたがるのですか……」


「意味ないからね」


乳母は死んで、乳兄弟は奪われた。

遥には、この先を続けていく気力も活力も、もう残っていない。明日があると思うのすら苦痛だ。


視線を外し、呼びかけにも応じなくなった遥に、褐色イケメンはそれでも傍を離れなかった。




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