嫉妬と八つ当たりが八割
────あーはいはい。もうわかったってば。
いかめしいイケメンに連れられて、初めて足を踏み入れた王宮の一室。
そこで待ち受けていたキラキラしいイケメンの長い長い説教を、遥はうんざりした心地で聞き流していた。
曰く、『父皇帝の圧政は民を苦しめ続けた』
曰く、『恩恵を受けていた皇女としての責任を』
曰く、『知らなかったでは済まない。無知は罪』云々。
かれこれ一時間は同じような言葉を聞いている。
暇なのだろうか。反乱直後だというのに、多忙すぎて寝れないレベルでないとおかしくないか。
あからさまに聞き流す遥に、苛立ったきらめきイケメンがさらに説教し、また聞き流し……
キリがないので、遥は唐突に手を挙げた。
きらめきイケメンと、遥の後方にいた褐色イケメンが身構える。
「さっさと首を刎ねればいいと思う」
空気が凍ったが、この隙を逃すまいと遥は言葉を続けた。
「わたし一人を延々なじったところで、いったい何になるの? さっさと民を集めて、引きずり回して石でも投げさせて、派手に公開ギロチンでもした方が効率的じゃない?」
「なっ……」
「要は、皇帝と連座だって言いたいんでしょ? それでいいんじゃない。さっきからずっと同じこと言ってるけど、何なの? 処刑のための理由づけ? 人殺しの言い訳? 今さらなんじゃない」
「…………」
「反乱って人が死ぬわけでしょ。殺すために立ち上がったんでしょ。なら、たかだか小娘一人殺すのに、別に理由なんかいらないじゃない。そんなことより、疲弊した国の再建案の一つでも考えたら」
無知は罪。よく聞く言葉だ。
でもそれは、学ぶことができる環境の者にしか当てはまらないと、遥は思う。
学べるのに学ばず、知れるのに知らなかったなら、いくらでも謗りは受ける。
けれど、遥は生まれて今日までとにかく飢えて育った。
気狂いにならなかったのは、乳母と乳兄弟と、遥としての意識のお陰だ。
でなければ、とっくに飢え死んでいたし、もっと絶望していた。
「どうでもいい説法はいらない。聞く意味もない。さっさと死にたいんだよこっちは」
傍にもう乳兄弟がいないなら、遥が命をつなぐ理由は一つもない。
優しい乳母と乳兄弟のためだけに、今日までを生き抜く努力をしてきただけなのだ。
もっと早く、自由になりたかった。
でも、乳母はとにかく遥のためにあらゆる工夫をしたし、乳兄弟もとにかく遥のために生きていた。
だから、二人が生かそうとしている間は、遥は生きなければならないと思っていた。
民が飢えていた? 悪いけど、遥だって生まれた瞬間から飢えていた。
圧政に苦しんでいた? 小匙一つの粥を分け合うさもしさを知っているのか。
皇女としての責任? 御託はいいから、溜飲を下げるために殺したいんだと言え。
「民のための反乱って、つまりは皇族の皆殺しでしょ。待遇に納得いかないから殺す、シンプルでいいんじゃない。自分が死ぬより相手を殺す、っていう選択肢があってよかったと思うけど」
遥は、乳母や乳兄弟は、逃げ出すという選択肢すら与えられなかった。
選択肢があるというのは、きっとまだマシだ。
淡々と感情を込めない遥の口調に、イケメン二人は声も出ないようだった。
「圧政にも貧困にも同情する。でも、そんな艶々の見目で飢えを語られてもね。興醒めだわ」
吐き捨てた遥に、図体のでかい二人はびくりと震えた。
だって、目の前にはいかにも貧相な、ボロ布を纏った小さな女。
鎧なんか着て、剣なんて贅沢品を持って、健康そうな身体じゃないか。
服装は整えられていて、髪にも艶があって。靴なんかピカピカだぞ。
「民の前で、これが贅を尽くした皇女だって宣言しなよ。だから石を投げろって、首を落とせって叫びなよ。笑って死んでやる」
本当は。遥は、本当はずっと。
この世界が、憎かったんだ。心の底から。




