久美と健治郎
男の名前は、多川健治郎57歳。今から8年前の、梅雨入りして間もない頃だった。健治郎が勤めている家電量販店の会社に、一人の女性が入社した。細身で髪は短く、小柄な女性である。 彼女の名前は、村岡久美25歳。健治郎が勤めている、会社に入社する前は、デパートに勤めていたが、人間関係が上手くいかず、職場を去ったのである。健治郎は、久美を見つめ[どことなく、暗さを感じる女性だ。人と会話する事が、苦手なのか、そもそも暗い性格なのか、人と話す事が苦手では、接客業は務まらない]と、健治郎は小さな声で呟いた。しかし健治郎は久美のことが気になるのか彼女のために、何かできないかと考えていた。彼女が入社して一週間が過ぎた。しかし、久美の顔に笑顔は見られない。
時折、笑顔を見せるものの、造り笑顔にしか見えない。健治郎は[入社して間もないため、緊張のあまり、笑顔になれないのだろう]と思った。健治郎は、久美の笑顔を見ることで、心に癒しを感じるようになっていた。しかし、健治郎と久美は挨拶程度の言葉を交わすだけだった。彼女が入社して、2ヶ月が過ぎようとしていた。ある日の朝、何時もより早く出勤して来た彼女が[相談したい事があるので、仕事が終わってからでいいので、話しを聞いて欲しい]と健治郎に久美が言った。健治郎は[分かりました。
[じゃぁ、仕事が終わったら、近くのファミレスで待っています]と久美に言った。そして健治郎は、あまり話しをしたことない私に、なぜ、相談したいと言って来たのか、わからなかった。その日の午後、彼女が私に相談したいと言って来た訳がわかった。同じ課の部下が、彼女に私の事を話していたのだ。彼女が入社した時期は、女子社員達は社内派閥で二分していた。彼女は、二分している、どちらかの女子社員から、誘われたのだろう。その事で悩み、私に相談したいと言って来たのだろうと健治郎は思った。 確かに、男性社員から見ても、派閥闘争は徐々にエスカレートしていた。だが、健治郎に対して、逆らう者は誰一人としていなかった。仕事が終わり、健治郎はフアミレスで彼女が来るのを待つことにした。しばらくして、彼女が来た。