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【2.000pv感謝!】底辺騎士が紡ぐ物語 〜英雄になれなかった少年〜  作者: 達磨 紺紺


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ルジャ


 竜は倒したのだが、肝心なのはアレが依頼の対象だったのかどうかだ。


 見た目の特徴はかなり近かったが、今回倒した竜は魔獣だったのに対し、依頼書にはそんなことは書かれていなかった。


 冒険者が受ける依頼には、偶に魔獣の表記が抜けているものがあり、度々問題になっている。

 魔獣は普通の害獣と見た目は同じなため、外から見ただけでは魔獣かどうか判断するのは難しいからだ。


 そのため、被害が出ていたり、目撃者からの話を聞いたりして初めて魔獣として依頼される。だから基本的に、保守的な冒険者は受ける依頼のランクを一つか二つ下げて受けることが多い。


 今回も元々がA級の依頼だったので、討伐した竜が依頼対象だった場合、然るべき機関に死体を検査してもらえば、S級分の報酬を貰うことができただろう。


 しかし、ここで問題となるのが、竜の死体が跡形も無くなってしまったことだ。あの後、ライルが作った穴を覗いてみたが、案の定その体は確認できなかった。

 これでは死体の検査どころか、本当に討伐したのか証明することもできないし、ましてや依頼書の竜と見比べることなど不可能だ。


「いや〜、張り切りすぎたかな?」


「当たり前だバカ! こんなんならうちがやっとくんだったよ」


「とりあえず、討伐をルジャの冒険者協会に報告しましょう。依頼書にあったドラゴンかは、これから確認していくしかありませんね」


 顔を歪めて怒るサラを尻目に、現場を見ていたシオンは冷静な言葉を投げかける。


 言うまでもないことだが、竜をその体ごと消し飛ばすなんてことはそうそうできることじゃない。こんな状況のマニュアルなんてあるはずもなく、自分達で判断するしかないだろう。


「そうだよね〜。ひとまずシオンの言う通りにしよっか」


「お前が言うな」





                 ********





「……で、でっけえ」


 ルジャに着いたリン達はまず、その巨大な外壁に圧倒された。石造りのその壁には、外にいる害獣が侵入を試みた痕であろう、大小様々な傷ができていたが、崩れる気配は微塵もない。


 何より、その高さだ。


 この国で一番栄えている王都より圧倒的に高い。ルジャは広い荒野の真ん中に作られた城塞都市で、外壁の外に広がる景色は、街道以外は地平線が続く。それ故に、遠くからルジャを見た時には距離感が歪むほどの存在感を放っていた。


「けど、ただの石なら、B級くらいの害獣に壊されるんじゃ……」


「普通の石ならそうなんだろうけど、これ土の魔力が流れてる。B級どころか、A級でも破れるか微妙なところかな」


 それも見た目だけでなく、魔導のエキスパートであるサラが太鼓判を押すくらいには頑丈ならしい。


 しかし、だからこその疑問。


「何でこんな堅固な守りにしてるんだろ?」


 王都ならばまだ分かるが、城塞都市とはいえ、ただの一都市にしては堅牢すぎる。

 都市にも予算がある。安全なのは何よりだが、それは住民の税によって賄われるため、必要以上に金をかければ反発を生むことは明らかだ。

 そしてその壁も、傷があるとはいえ、作り自体はまだ新しい。普通なら空を飛ぶ飛竜の対策だと思うところだが、飛竜が確認されたのは十日前のはずだ。流石にこの短期間でここまでの外壁を作るのは不可能だろう。


「そこまではわかんないけど……」


「ま〜いいんじゃない?とりあえず入ろうよ」


 ライルの能天気な言葉にサラは頭を抱えるが、確かに今話すことでもないかも知れない。

日も落ちてきたため、あまりここにいてもしょうがないと結論付けた四人は、街の入り口に向かった。





                 ********




 ルジャの街からの歓待は、それはすごいものだった。


 依頼主の領主としても、A級の依頼でこの3人が来るとは思っていなかったらしく、対面した時には目を白黒させていた。



「いやはや、まさか月華の銀輪の方々がいらっしゃるとは思いませんでした。何の準備もしておらず申し訳ございません!」


「いえ、お心遣い感謝します」


 こういった時、前に立って話すのは基本的にシオンの役割だ。サラとライルでは礼儀の面で不安があるし、リンに至ってはそもそも相手が認知していない。無表情なところは相変わらずだが、それに目を瞑ればシオンが最も適任だろう。


「私はこの地の領主、ローグ・アータイルです! さあ! あちらに、この都市で最上級の宿をとっております。ごゆっくり、お寛ぎ下さい!」


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 ローグに促されるまま、リン達は宿に向かう。


 道中には王国一の冒険者パーティを一目見ようと、多くの人が集まっていた。中には興奮のあまり接触してこようとする人もいたが、この街に滞在する騎士が何とか抑え込んでいる状況だった。人手が足りなかったのか、抑える騎士の中には冒険者の姿も何人か見られる。


「シオンちゃーん! この街に来てくれてありがとーう!」


「おい、本物のサラ・ローレンだ! 美人すぎるだろ!」


「きゃー!! ライル君よ! 私大ファンなの〜! こっち向いてー!」


 分かっていたことだが、この三人の人気は凄まじかった。だが、その声援を一身に受ける本人達は慣れた様子だ。

 凛々しい表情で男女問わず羨望の眼差しを向けられるシオン。その美しい見た目と男らしい性格のギャップで、主に男性から絶大な人気を誇るサラ。それとは対照的に、1番威圧感のある見た目ながら、どこか緩い雰囲気を纏ったライルには熱狂的な女性ファンが黄色い声援を送っている。


 ただ、そうなると問題が一つ。


「おい、誰だあの騎士服着たやつ」


「月華の銀輪と一緒に歩いてるってことは、依頼の協力者か?」


「ええ!? A級の依頼でしょ? あの三人が受けて下さったなら問題なくない?」


 この四人の中で、リン・アルテミスのことだけは誰も知らないことだ。

 この国でも指折りの知名度を誇るパーティと一緒にいるのだから、否が応でも目立つのは分かりきっているが、その隣に立つにはリンはあまりに普通すぎる。


 特に目立つ容姿ではないし、冒険者として働いていた時ですら、そこまで顔は売れてなかった。共に依頼をこなすのは初めてではないが、それでも依頼者にとってはあくまで、【月華の銀輪に騎士の一人が着いてきた】という認識のため、リンの存在は世間ではあまりに無名だ。

 先程から一緒にいるローグですら、その態度から見て恐らく護衛か何かと勘違いしている節がある。


 そうこうしているうちに、目の前に一際大きな建物が見えてきた。


 どうやらここが用意された宿のようで、ローグは自信満々といった様子でこの宿の魅力を語っているが、専門用語が多すぎて、豪華な宿など泊まったことがないリンは途中から理解を諦めてこっそり周りを見渡す。


 規制されているのか、先程まであんなにいた街の人間は一人も見られないが、通りの建物の窓からは灯りが漏れ、人が顔を出しているのも少なくないため、こちらに向けられる視線は無くならない。


「ところで……その………そちらの騎士の方とはどういったご関係で?」


 ある程度の説明を終えたローグが、リンの存在に初めて言及する。ここにきて今だこの場を離れないことに、流石に関係者として認識したのかも知れない。


「この方は、今回の依頼の協力者です」


「な、なんと! そうとは知らずとんだ御無礼を! 今すぐにもう一部屋ご用意させていただきます!」


 シオンの言葉に慌てたローグは一度立ち止まり、リンに対して深々と頭を下げる。それに慌てたのが、その礼を受けたリン自身だ。


「い、いやいや! 顔を上げて下さい! こんな豪華なところ泊まれませんよ! この三人に使ってもらって、俺は適当に別の宿をーー」


「何言ってるんですか? 私と一緒の部屋に泊まればいいじゃないですか」


「………流石にそれはなぁ」


当たり前のようにシオンが提案したそれは、正直に言えばリンも考えた事だ。だが、シオンのために用意された宿に、ただの同伴者であるリンが一緒に泊まるのは気が引けた。


「まぁここは普通同性同士だよねぇ〜。女の子と一晩過ごすのは流石にダメでしょ」


「てめーはアリスさんとこで一緒だっただろーが! ………う、うちの部屋使ってもいいし」


「一番ありえないでしょう。それに、私は兄さんの義妹ですよ? 同性などよりよっぽど近い関係ですから問題ありません」


 宿の目の前で喧嘩を始めた三人に対し、目を丸くするローグは助けを求めてリンに視線を送る。

 リンもリンで、自分より遥かに偉い人からすがる様な目で見られても、とりあえず苦笑いを浮かべることしかできなかった。



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