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【3.000pv感謝!】底辺騎士が紡ぐ物語 〜英雄になれなかった少年〜  作者: 達磨 紺紺


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《月華の銀輪》対《九鬼》


 突如として現れた滝のような水は、轟音を上げてリン達が乗っていた馬車を上から押し潰した。


 キャビンが壊れる音も、馬の悲鳴も、全てを飲み込んだそれは、天災と呼ぶにはあまりにも不自然な上から降り注ぐ洪水だ。


「…………え?」


 たった今起こったことをリンの記憶から辿るなら、シーナにやりたいことを聞いた直後、瞬きの間に視界が変わり、返答の代わりに轟音を響かせた水を目の前に捉えている。


 いつの間に脱出したのかも見えなかった。シオンが助けてくれなければ、リンは意味も分からず死んでいただろう。


「――――サラ!!」


 闇夜を切り裂くシオンの絶叫。それは、サラを非難するというより、この状況の説明を今すぐに求めるためのものだ。だが、余裕のないその声が、切迫した心境を物語っていた。


「あ、ありえない! 警戒はしてた! 急に空から――ライ!!」


 話の途中で、何かに気付いたサラがライルを呼ぶ。直後、その後ろから斧を構えた大男が、ライルに向かって一直線に跳んできた。


「『魔纒器合 炎斧(えんぶ)』」


「っっ! 『魔纒体合 炎腕』!」


 月明かりしか光源のなかった野原を、二つの業火が照らす。圧倒的な破壊力を持つライルの炎腕と、それに襲い掛かる大男の炎斧。激突と同時に辺りが太陽以上の光源を得て、打ち合った場所から大地が割れる。


「っっぐ! こいつ!」


 停滞は一瞬。触れた瞬間から上がり続けた火力を押し合った後、弾かれたようにお互いが後方に吹っ飛ばされた。


「嘘だろ!? ライと互角!?」


 信じられない光景に、リンは驚愕する。攻撃力で言えばサラやシオンを凌駕するライルの拳が、押し合いで吹き飛ばされるところなど初めて見た。


「一体、何が――」


 だが、サラがそれ以上に驚いていたのは、ライルを襲った魔導士が来た方向だ。夜の影響もあってリンでは何も見えないが、少なくともそこにサラは何かを感じたらしい。



 ただ、それを確認する余裕は、次の瞬間には失われた。



「――――っ!!」


「シオン!?」


 リンの真横で突然甲高い音が響き、反射的にそちらを見たリンの視界に、シオンに切りかかる剣士がいた。


「ほう。この暗闇で、拙者の剣を受け止めるとは見事」


 剣士の言った『この暗闇で』という枕詞には、意味以上の理由がある。


 剣士が剣に纏わせている魔力は、シオンの辺りを照らす光刀とは対照的に漆黒のうねりをあげ、夜と完全に同化している。


 『闇の魔纒』。人の根源にある恐怖心を刺激するような禍々しい魔力であり、最も特徴的なことは、昼間よりも夜の方が魔法の威力が上がることだ。


 周りの暗闇すら力に変えたその力と、シオンの光の魔力が激突。しかし、それに気を取られるシオンの背後から、シオンと同様の魔力を宿した女が、シオンに斬りかかってきた。


「『魔纒器合 光剣(こうけん)』」


「――――っ!」


 挟まれる形になったシオンは、一度その場から離脱。度重なる急襲に、移動しながらサラに目を向けるが、そのサラも困惑を隠せない。


「こいつら、まさか――」


 その時、サラが何もない方向に視線を向けた。それにつられてリンもそちらを凝視していると、程なくしてその場が歪み始める。


「これはっ!」


 それは、リンにとっても馴染みのある光景だった。何せ、同じ方法で、リン達はルジャから離れたのだから。


 それは紛れもなく、シーナの空間魔法を用いたものだ。驚愕に揺れるリン達の前で、その歪んだ空間から一人の男が飛び出してきた。


 紫の髪を靡かせ、徐々に全身の白い服が見えてくる。悠々とその場に立った男に対し、リンの後ろに隠れていたシーナが反応を示した。


「………ぁ、……………ぅぁぁ……」


 リンの袖を握り締め、恐怖に塗りつぶされた声を上げるシーナの様子に、リンはギルドでのシーナの話を思い出す。


(そうか、こいつ……)


 シーナが何をされたのか、詳しくは知らない。ただ、この怯えようを見て、友好的な関係であることはないだろう。


「『魔纒体合 岩脚(がんきゃく)』」


 その時、上から声が聞こえたかと思えば、脚に岩の魔力を纏った男が、サラに向かって落下。その勢いを乗せた踵が、サラの脳天を目掛けて振り下ろされた。


「『土杖』 『土魔法 土壁』」


 その時、サラが杖に土の魔纒を纏わせたかと思えば、次の瞬間には地面から飛び出した土の壁が、天を覆うようにサラの頭上に出現。鈍い音を鳴らし、岩に纏われた脚での攻撃を防いだ。


 明らかな奇襲ではあったが、それはサラ・ローレンの絶対防御とも言える土魔法の前に何も出来ずに終わった。


「舐めんな。そんな見え見えの攻撃が当たると思ってんの?」



 ――はずだった。



「いいや。囮だからな」


 男の言葉を理解する前に、サラが出した土壁に一つの影が近付く。


「大したものじゃな。このレベルの土魔法をその年で出せるとは。――じゃが、まだ荒い」



 弱々しい印象を受けるはずの嗄れた声が、一瞬死神を彷彿とさせた。



 その声を発した髭を生やした老人が、サラの杖と同じ、自身の『土杖』を土壁に押し当てた直後、サラが出した魔法が、サラの意思とは無関係に形を変える。


「――――っ!?」


 咄嗟に腕で防いだサラに向かって、土壁から無数の土の塊が襲いかかった。


 いくら鈍重な土魔法でも、ほぼゼロ距離から放たれれば避けようがない。それが、自身の制御下にある魔法からなら尚更だ。


 だが、土魔法に体を突き飛ばされたサラは、自身の失態を大きく後悔する。



「この時を待っていたんだ」



 先程現れた紫髪の男がそう宣言し、でに持っていた黒い球体を前に掲げる。


 瞬間、そこを中心にして空間が歪み、それがリンとシーナを包み込む。シーナが空間移動した魔法の再現であることに気がついたリン達は、事態の重大さに顔を青くするが、遅い。


「にいさ――」


 咄嗟に手を伸ばすシオンを視界に捉えるリンだが、自身も伸ばしたその手が触れ合うことはなく――






 次の瞬きの後には、その視界に遥か先まで続く地平線が広がっていた。


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