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【2.000pv感謝!】底辺騎士が紡ぐ物語 〜英雄になれなかった少年〜  作者: 達磨 紺紺


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合同依頼

 この世界の人間は、魔法を駆使して様々な発展をしてきた。



 人間の中には例外なく魔力が宿っており、人間にとって魔法は生活の一部となっている。



 だが、日常生活で使用する程度ならば問題ないが、強い魔法を使うのならそれ相応の訓練が必要だ。



 そして、魔法を使う職に着いた者達のことは、総じて【魔導士】と、そう呼ばれていた。




                ********




 ここはリガレア王国の王都、カルマーナ。



(……あー、疲れた)


 通りを俯きながら歩く男。【リン・アルテミス】は、騎士団の仕事をこなして帰路についている最中だった。


 黒髪黒目の、これといった特徴のない容姿をしており、簡素ながら威風堂々とした騎士服に着られている印象すら持たれる。

 腰に装備した剣は支給品だが、見栄えが重視されているらしく、言葉を選ばずに言えば鈍の類だ。


 騎士を名乗ってはいるが、この国の騎士団は他の国とは少し形態が違う。リガレア王国には軍がなく、その代わりに騎士団が存在している。

 だが、その成り立ちは他の国で言う軍と大差はなく、主な仕事内容も国家の防衛や治安維持などで、どちらかと言えば職業軍人に近い。

 これは過去の大戦から続く伝統のようなものだった。貴族階級が独自に所有する騎士団もあるが、王国騎士団は入るだけなら特に身分も問われないため、リンも昨年冒険者から転職して騎士になった身だ。


(明日休みだし、今日はすぐ寝よ)


 そんなことを考えながら家のドアに鍵を入れると、すぐに違和感に気づく。間違いなく出る時にかけた鍵が空いていた。

 心当たりがないわけではないが、あるからこそため息が漏れる。


(………()()()()か)


 疲れで半分働かない頭で、それでも残りの半分を呆れに全振りした心持ちでドアを開けた先には、予想通りの光景が広がっていた。



「あ、リン兄おかえり〜」


「お疲れ様です。兄さん」


「遅かったじゃん」


「………うん、ただいま」



 リビングに置いた木製の机を囲むように、3人の幼馴染達が座っていた。


 色々と言いたいことはあったが、長い付き合いで言っても無駄なことはわかっているので、

諦めてそれだけ返す。



「リーンー、お腹すいたー」


「……ねえ、俺今帰ってきたんだけど…」



 椅子から飯の催促をする【サラ・ローレン】は、この中で唯一、リンと同じ十八歳の少女だ。腰まで伸ばしている髪は透き通るような水色だが、瞳は鮮やかな紫色をしている。

 その傍らには、女性としては高い本人の身長と同じくらいの長い杖が立てかけてあった。



「おじゃましてま〜す!」


 サラの一つ年下の弟、【ライル・ローレン】は、姉とは対象的に炎を思わせる赤い髪をしていて、瞳は姉よりも赤が強い紫。

 袖無しの服から伸びる腕は鋼を思わせるほど鍛え上げられており、正面で向かい合えば否応なしに威圧されるだろう見た目だが、姉同様顔立ちは整っている。



「お久しぶりです」


 【シオン・アルテミス】は、その名の通りリンの妹だ。髪と目の色はリンと同じだが、血は繋がっていない。

 黒を基調とした『和装』と呼ばれる服を着こなし、長い髪を一つにまとめた見た目は上品な印象を持つが、腰に添えつけられている刀だけは、意外と苛烈な本人の気質を表してるように思えた。


「帰ってたんだな」


 この三人は、二週間ほど前から王都を出て遠方まで高難易度の依頼を受けに行ったそうだが、丁度リンも騎士団の遠征に行っていたので事後報告で知った事だった。


 こうして部屋でくつろいでいる姿を見てると忘れそうになるが、全員がこの国の冒険者にとってトップクラスの称号であるS級を冠するものであり、そして騎士団、冒険者を含め、全王国民の中で十二人しかいない二つ名持ちの実力者である。


 そして、冒険者として二つ名持ちのみで構成されたパーティは、数多ある冒険者パーティでただひとつ。



 《月華(げっか)銀輪(ぎんりん)



 活動を開始したのはつい最近だが、その活躍は瞬く間に国中に広がり、今では冒険者業界の最高戦力の一角として名を馳せている稀代の天才達。


 そして、名前の由来であるシルバーリングを、シオンは右手の小指に指輪として。ライルは右耳にピアスとして。サラは右腕に紐で縛りブレスレットのようにして、それぞれ付けている。


 これは今王都に限らず、この国で大ブームを起こすほどの人気となり、持っていない方が珍しいほどだった。もちろん、それはそのまま、この三人の人気の高さに直結する。


 それに比べて、【リン・アルテミス】はごく一般的な騎士だ。彼らの化け物じみた強さは幼少の頃から知っていたが、同郷出身なのに戦闘の実力は天と地ほども差がある。


 それなのにこうして自宅まで遊びにくるのだから、周りから見ればさぞ不思議な関係に見えるだろう。


「飯作るのはいいけど、今のお前らだったらもっといいもの食べられるだろ」


「いや、無性に食べたくなるんだよな、リン兄の作る飯。故郷の味ってやつ?」


「……そっか」


 リンたちの住んでいた街は、今から7年前、ある事件に巻き込まれ、村人の殆どが『害獣(がいじゅう)』と呼ばれる、人に仇なす怪物達に殺された。


 運良く生き延びたリンたちはその後、たまたま近くに遠征に来ていたここ、リガレア王国の騎士団に拾われ、今はそれぞれ別々で活動している。


 リンはよく母の料理を手伝っていたので、あの村にあった郷土料理はほぼ全て作ることができるのだが、他の3人は今でも料理自体あまりしない。


「まあいいんだけど、何が食べたい?」


「肉がいいなー」


「私は煮っ転がしを」


「俺なんでもいいや」


 三者三様の返事が返ってくるのを聞いて、変わっていない好みに少し笑ったリンがキッチンに向かう。


「ん、ちょっと待ってな」


 エプロンをつけて、料理に取り掛かろうというところでライルに声をかけられた。


「リン兄ー。来週からなんだけど、依頼一緒に行かない? 騎士団には話通しとくから!」


「あー、合同依頼ね。多分大丈夫だと思うよ」


 手を動かしながらそう返すリンは、あまり考えずにそう返事をする。

 騎士団と冒険者の仕事は棲み分けが出来ているが、必ずしも同じ仕事をしないというわけでもない。人手が必要なら街の警備に冒険者を雇うこともあるし、王都の外での討伐依頼を騎士団が請け負うこともあるなど、持ちつ持たれつの関係だ。


 まして彼らは冒険者の中でも指折りの実力者で、受ける依頼もそれ相応のものが多い。達成すれば騎士団としての評価も上がるうえ、行くのがまだ新米騎士となれば大してかかる負担も少ないのだから、騎士団にとってはいいこと尽くめだ。

 もちろん、その分危険は伴うが、《月華の銀輪》はリンと行く時には依頼のランクを下げているため余裕ができるし、何より騎士団からも王国からも最大級の信頼がある。

 そのため、こういった合同依頼の申請は断られたことがない。来週というのは少し急だが、問題ないだろう。


 それに、依頼とはいえ四人で出かけるのなんていつ以来だろうか。

 よく一緒に買い物に行くことはあったが、サラとシオンはリンと二人で行きたがったので本当に久しぶりな気がした。


「どんな依頼?」


「"ルジャ"って都市行って、竜の討伐」


「へぇ…………へ?」


 何気なく聞いたその質問に対し、返ってきた答えは想像の斜め上のものだった。思わず手に持っていた野菜を台所に落としてしまったが、それよりも意識はライルの言葉の意味を理解することに使われる。


 この世界で、竜種とは最強の種族である。竜に関する被害は毎年数回は報告されているが、一国を一夜にして滅ぼしたなどという話もあるくらい危険な存在だ。

 そんな怪物を遠足気分で狩りに行こうと言われている、騎士団で最弱の部類に入るリン。不釣り合いの依頼であることは言うまでもない。


「………いや、俺がそんなの行けるわけないだろ」


 リンの騎士団での階級は三等騎士。冒険者のランクで表せば最下層のE級になる。対して竜討伐は、最低でもA級の案件だ。

 最後に合同依頼をこなしたのは随分と前だったが、前までは精々がB級の依頼だったので、三人といれば大した危険でもなかった。ただ、今回ばかりは誘う相手を間違えている。個体差によって能力は大いに差があるが、仮に弱い個体だったとしても、リンの実力では鼻息で致命傷になりうる怪物である。



「しょーがないなあ、リンのことはうちが――」

「私が守りましょう」


 リンの全力拒否をみてサラが何か言い出そうとしたところ、その言葉を遮ってシオンが自信満々に胸を張った。


「もともと、役割分担をしながら行くつもりでしたから。竜の討伐担当と兄さんの護衛担当。サラはあまり乗り気ではなさそうなので、私が兄さんの護衛をしますよ」


 何故四人パーティで動くのにリンの護衛担当なんてものがあるのか。なんて思わなくもないが、このメンバーで行く討伐依頼など、リンが足手まといになることは火を見るより明らかだ。ましてや竜の討伐なんて個人では絶対に行けない案件だった。


「……シオン? 今うちが喋ってたんだけど? 邪魔しないでくれない?」


 一見にこやかに接しているように見えるサラだが、額には青筋が浮かんでいる。


「え? しょーがないとか言ってたじゃないですか。嫌々ならいいですよ。私はやりたいんですから」


 シオンは至極もっともなことを言っていたと思うのだが、それを聞いたサラの顔は鬼と見まごうほどに歪んでいる。


「それに、ただの竜なら討伐するより兄さんを守るほうが難易度が高いですから。一番強い人が担当するべきです」


「舐めてんのか! 表出ろや小娘ぇ!!」


 ガタンと机を叩いてサラが立ち上がる。おそらくシオンはケンカを売ったわけではなく、ただの天然なんだろう。そして、サラとシオンの歳は一つしか違わない。


「あ、じゃあ討伐は俺がやる! リン兄に俺が強くなったところを見せてやるよ」


 女性陣が言い合いをする中、ライルが顔を緩めながら要望を口にする。リンより大柄ではあるのだが、その笑みは昔のライルを思い出させ、こうして無自覚にリンの保護欲を掻き立てることがよくあった。


 しかし、その言葉をきっかけに、今にも喧嘩になりそうだった二人の意識が、良くも悪くもこちらに向いた。


「あ? ライ、あんた調子乗んなよ?」


「そうですね。一番弱いくせに」


 怒りの矛先がライルに向き、関係ないはずのリンが萎縮してしまうが、当の本人は慣れているのか涼しい顔をしている。


「そもそも、そんな高ランクの依頼なら俺は行かないほうがいいだろ」


「いやいや、リン兄と行きたいからこんな簡単な依頼にしたんじゃん。普段なら受けないよこんなの」


 その言葉に唖然とする。


 竜は言わずと知れた自然界の最強種だ。リンが知る限り最も難易度の高い依頼の一つではあるのだが、それをこんなのと言ってしまう弟分を理解できず、一瞬言葉に詰まってしまう。


「……逆に聞くけどさ、ドラゴン討伐以上の依頼って何かあるの?」


「んーまあ最近は少なくなってきたけど、『魔獣』の討伐依頼が多いかな? それこそ魔獣のドラゴンとかもたまにいるよ」


「……マジか」


 『()(じゅう)』とは文字通り、魔力を宿した害獣のことだ。

 害獣の全てに魔力があるわけではなく、稀に魔力を持って生まれる個体のことを『魔獣』と呼ぶ。魔獣の危険度は魔力を持たない同種のものとは比べ物にならないほど高く、依頼のランクも1つか2つは変わってくる。



 それが元々A級の竜だった場合、その討伐はS級の依頼の中でも最上位か、もしくはその上、SS級にすら届くのではないだろうか。


 リンもある程度の活躍は噂で聞いていたが、流石にこの歳でそんな依頼を受けられる者はそういない。この国を背負って立つ存在になるだろうことは間違いないだろう。


「なー行こうぜリン兄〜」


「うわっ、おいライ! 包丁持ってる時はやめろって」


 いつのまにか、後ろに移動していたライルが、料理をしているリンに抱きついてくる。常に時と場合を考えて行動する様には言ってあるのだが、改善する兆候は全くない。

 案の定、サラとシオンが飛んできて鉄拳制裁をかまし、二人を引き剥がした。


「まぁ、リンが不安なら依頼のランク落としてもいいし。どうする?」


 普段大雑把の様に見えて、何気に気遣いのできるサラが問いかけるが、リンは先程の話を聞いてある程度気持ちが楽になった。

 確かにS級冒険者が三人もいて、簡単な依頼をさせるわけにもいかないだろう。


 それにルジャに行くなら、道中で久しぶりに"あの人"にも会いに行ける。


「いや、そのままで大丈夫。準備しとくよ」


 そう言って、期待と不安が入り混じった合同依頼への参加を承諾した。

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