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【2.000pv感謝!】底辺騎士が紡ぐ物語 〜英雄になれなかった少年〜  作者: 達磨 紺紺


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指名依頼


「……な、にを言ってんだよ? ライ?」


 ライルの正気を疑う発言に、リンの顔に驚愕が広がる。

 言うまでもなく、これは月華の銀輪にとっても無視できない仕事のはずだ。報酬も名誉も、普段受ける仕事とは桁違いだろう。


 それを、こんな思いつきのような形で棒に振る事があっていいはずがない。受けないなら受けないで、それ相応の理由があって然るべきだ。


「ん〜、元々俺ら、リン兄と同じ依頼したくてここ来た訳だし、終わったら一緒に帰るのは普通じゃない?」


「は、はぁ!?」


 しかし、ライルから出たのは合理性など欠片もない、ともすれば身勝手にすら取られかねない発言だった。


「バ、バカ言ってんなよ! 俺なんか気にしなくていいから。指名依頼なんてそうそうないぞ!?」


 ソクロムは今回、ギルドのトップとしての責任感から、この都市を襲う厄災をなんとかしようと依頼を出したはずだ。それも、双方にとって損がないよう、あえて恩恵の大きい指名依頼という形をとった。

 ライルが言ったことであり、リンが望んだわけじゃない。それでも、そんな理由で本当に依頼を断られたら、リンにだって罪悪感が湧く。


 考え直すよう説得しようとするが、しかしそれは――


「じゃなくて。俺がリン兄といたいの」


「んぐっ」


 どこまでも真っ直ぐなライルの言葉に、何も言えなくなる。

 それこそ身勝手な話だが、これが自分とは別の他人に対して言われた事なら、まだリンは食い下がっただろう。明らかに常軌を逸した理由で、こんなことで指名依頼を断るなんて聞いたこともない。説得の材料などいくらでもあった。

 やり込められたわけではない。しかしだからこそ、口論としては完敗だ。


「ライに全部決められんのは癪だけど、まぁそーゆーことなんで」


「そうですね。異論はありません」


 頼みの綱である他の二人も、その内容に了承を示す。これで完全に依頼は固辞されたことになる。

 リンは恐る恐るといったようにソクロムに視線を向けた。こんな理由で断られるなど予想外でしかないだろう。さぞや困惑しているか、怒りを覚えても良い場面だ。


「〜〜〜〜ククッ」


 しかし、ソクロムの反応はリンの想像の斜め上。何故か笑いを堪えるように下を向き、口元に手を添えていた。


「………ソ、ソクロムさん?」


「……んんっ、失敬。では、依頼内容をリン殿を追加した四人に変更しましょう。ただ、報酬を上げることは難しいので、こちらはそのままになってしまいますが」


「! ……いや、それは…」


 明らかに、先ほどの依頼より条件が悪い。


 当然だ。三人で受けられる依頼をわざわざ一人追加しただけ。その分報酬も受ける名誉も分配される。それも、戦闘能力が必要な依頼で、文字通り戦力にならない者を追加するなど愚行でしかない。

 つまり、リンの存在が足を引っ張ってる。言ってしまえばお荷物だ。普通に考えたら有り得ないその提案に反対しようとしたリンだが、背後から腹のあたりに回された手に言葉が途切れる。後ろからは、サラが寂しそうな顔を肩越しに覗かせた。


「……リン、うちら重いかな?」


「え……?」


 それは、風の音にすら流されてしまいそうなほど、小さくか細い声だった。


 普段、誰よりも強気なサラが、ここまで弱々しい姿を見せるのは珍しい。記憶を辿ってもそうそう思い出せないほどだ。

 だからこそ、リンは長い付き合いだったとしても、その対処法を思いつかないし、何を言えばいいのかわからない。


 正直に言えば、サラ達を重いとは思っていない。


 この街の人々には申し訳ないが、リンにとっての最優先事項はここにいる幼馴染達だ。

 依頼にしても、彼らにとって良いことだと思ったから受けるよう言っただけで、これがもし危険な依頼だったなら、リンは逆にどんなに良い条件だろうと受けて欲しくないと願っただろう。

 それを伝えればサラが元気になるならいいが、ここまで落ち込んでるのは何か理由が他にあるはずだ。しかし、今の状況ではそれがなんなのかリンには分からず、慎重な姿勢にならざるを得ない。


「……迷惑なら言ってね? これ、こっちの我儘だから」


「べ、別に……迷惑とかじゃないけど……」


「でもリン、うちらと依頼受けんの嫌そうだったから」


「違っ! 俺はただ………お前らの足を引っ張りたくなくて……」


「そんな事気にしないのに………本当は重いと思ってるんでしょ?」


「だから違うって!」


「……じゃあ、一緒に依頼受けてくれる?」


「う、うん」


「はい言質とった」


「………………ん?」


 途端に明るい声が聞こえて、思考に一拍だけ穴が空く。それが、一言前まで沈痛な面持ちをしていた少女のものだと理解した時、リンはようやく、自身が嵌められた事に気付いた。


「――っ! サラ!? おま―」


「ねえ今聞いたよね?」


「聞いた聞いた。バッチリ聞いた」


「ええ。バッチリです」


「んなぁ!」


「ではソクロムさん。それでお願いします」


「ええ、承知致しました」


 動揺したところを突かれ、依頼の件を二の次にしてしまったのが仇となった。考え無しに返事をしてしまったことを後悔するが、考えがまとまる前にトントン拍子に依頼受理へのステップが踏まれていく。

 その四人から視線を送られたリンは、降参と言わんばかりに一つ息を吐いた。


「……あー、まぁ……うん。納得出来ないけど……受けるよ。うん……………納得出来ないけど!」


 こうなってしまえば観念するしかないと、悔しさを押し殺してリンも腹を括る。

 そもそも、この依頼内容で一番損をするのは、リンというお荷物を抱える他の三人なのだ。いつまでも自分が渋るわけにもいかない。


 その様子を見ていたソクロムは、心底愉快そうに口を緩め、そしてすぐに引き締めた表情に戻した。


「しかし、今回の件。正直に申し上げますと、底が全く見えないと言わざるを得ません。これから更に危険になっていく可能性もあります」


 ソクロムは、不安を孕んだ声で警告を促す。それはきっと、こちらを心配したソクロムの最後の警告だった。

 彼自身、まだ成人もしていない少年少女に、こんな得体の知れない重積を押し付ける事を良しとする人間とは思えない。苦渋の決断であることは、今のソクロムの表情が如実に語っていた。


「まぁ大丈夫っしょ」


 しかし、その返答は、どこまでも簡潔なものだった。


 ただ一言、あっけらかんといった感じでそう言ってのけたライルの言葉に、反論する者は一人もいない。ライル同様、サラとシオンの顔にも、不安は微塵も感じられなかった。


 それはただ能天気なわけではなく、絶対的な、強者としての自信によって裏付けされたものだ。そして、それがハリボテの慢心でないことは、彼らの実績が証明している。


 それを見て一瞬呆気に取られたソクロムだが、すぐに自身の不粋を確信するように口元を緩めた。


「まあそんな事は、私のような老いぼれに言われるまでもないことでしょう。何せあなた方は」


 そう言って一度言葉を切り、サラ、シオン、ライルを見やるソクロムは、敬意を乗せた声音で、こう続けた。


「この国に十二人しかいない、《天名会》に名を連ねる方々ですからな」



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