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【2.000pv感謝!】底辺騎士が紡ぐ物語 〜英雄になれなかった少年〜  作者: 達磨 紺紺


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ギルド


「ずいぶんご機嫌じゃん?シオン」


 開口一番、サラは歪んだ笑みを浮かべながら皮肉をぶちかます。


 サラが待ち合わせの場所に行くと、既に全員揃っており、シオンの様子に気づいたサラは一瞬にして不機嫌になった。隣のリンはサラの様子に怪訝な顔をしているが、当の本人は対照的に清々しい笑顔だ。


「ふふっ、そう見えますか? 参りましたね、隠してるつもりなんですが」


「ケンカ売ってんの?」


 実際、シオンがここまで表情を崩すことはあまりない。


 依頼をこなしても、拍手喝采を浴びても滅多に笑わないのだから、ここまで楽しそうな様子を見ると何かあったのかと思われるのは当然だろう。


「いや、サラが思ってるようなことは何もなかったと思うよ?」


 険悪な空気を感じ取ったのか、リンが二人の間に入る。


 シオンの機嫌がいいのはリンにも分かっておるはずだ。ただ、その理由は恐らく想像すらできていないと思えるのは、サラがリンを普段から見ているから分かることだ。


「………ちなみに昨日は何してたの?」


「特別なことは何も、ただ昔みたいに一緒に風呂入ったり、腕枕したり――」


「フロ!? ウデマクラ!?」


 心底から動揺したサラは、ただでさえリンが気圧される程あった威圧感を更に強めて詰め寄った。


「ななななな、何やってんの!? 年頃の男女が!」


「へ? いや、家族だぞ?」


「うるせえバァカ! シオン! アンタもリンに甘え過ぎなんだよ!」


「……え? 普通じゃないの?」


「兄さん。家族のかたちはそれぞれです。気にすることはありません」


「!? このクソガキが!」


 本人に自覚はないが、実際リンはシオンにかなり甘いところがある。親が再婚して妹が出来た時、一人っ子だったリンはとても喜び、幼いながらも大切にしてきたと聞く。

 それ故、シオンのお願いはある程度聞いてしまうのだが、たちが悪いのはシオンがそれを知った上で甘えていることだろう。同じことをライルがサラにしたら戦争になる。


「姉ちゃん落ち着けって〜。そろそろ向かおうよ〜」


 痺れを切らしたライルがサラを諌め、本来の目的を思い出させる。今日は竜討伐の報告と、依頼の確認をするためにこの街の冒険者協会に行く予定だ。


 サラは納得していなかったが、ここで言い合ってもしょうがないと諦めざるを得ない。ため息を吐きながら、その足を外へ向けた。




                 ********




 ルジャは一つの都市にしては相当大きい。朝の市場は人で溢れており、店頭から大きな声で、行き交う人々にその店の商品を宣伝する光景が店の数だけ見えて活気がある。


 市場を抜けると所々に高い建物が並び、例外なく冒険者が行き来していた。


「流石にこの規模の街になると、『クラン』も多いな」


 『クラン』とは、冒険者が組む集団の形態だ。正式には《冒険者(ぼうけんしゃ)組織(そしき)組合(くみあい)》といい、殆どの冒険者はクランに入っている。入る理由としては人それぞれだが、やはりメリットは大きい。

 一番主なメリットは依頼の斡旋だ。冒険者は自分のランクにあった仕事しか受けられないが、そもそも何かしらのコネでもなければ個人に依頼が来ることはほとんどない。


 他にも、情報共有やメンバー間の協力は、やはり独立しているパーティーだとどうしても限界があるが、クランに入っていればそれらがスムーズに進められる。


 それこそ合同依頼などは、その最たるものだろう。余程のことがなければクランの中など、冒険者同士の横の繋がりで組むのが一般的だ。


「兄さん。『ギルド』が見えてきましたよ」


 そして、クランも含め、全ての冒険者の総括として存在するのが、『リガレア王国冒険者協会』。通称、『ギルド』と呼ばれている。


 ギルドは各都市や街に支部を置いており、王都にある本部といつでも連絡を取れる様になっている。

 クランはその場所のギルド支部から仕事をもらい、それを所属する冒険者がこなす事で成り立つのだが、フリーの冒険者やパーティというのも少なからずある。《月華の銀輪》もクランには入っておらず、ギルドや個人から直々に依頼をもらっていた。


「………ん? なんだ?」


 ギルド支部に近づくと、何やら人の怒声が聞こえてきた。どうやらルジャの住民がギルドに押しかけている様だ。


「いい加減どうにかしろよ!」


「これじゃ不安で夜も眠れないわ!」


「あんたらこの街を潰す気か!?」


「お、落ち着いて下さい!」


 ギルドの職員と見られる人達が、ヒートアップした住人達を宥めるように声をかけているが、一向に収まる気配はない。


「何かあったんでしょうか?」


「ん〜。こっからじゃよくわかんないな〜」


 そうは言っても、騒動があるのはギルドの入り口だ。用がある以上、そこは避けて通れない。腹を決めて、リンはその住人の一人に声をかけた。


「あの、すみません。何かあったんですか?」


「あぁ? あんたここの人間じゃないのか? …………え? げ、月華の銀輪!?」


 声をかけた時は怪訝な顔をしていたが、視線を少しずらしてからはそれを驚愕の色に染めた。

 その声は瞬く間にその場に広がり、何の繋がりもないであろう人達が、示し合わせたかの様に一斉に視線を後ろに向ける。


 これを好奇と見たのか、群衆を宥めていたギルド職員がシオン達に声をかけてきた。


「ああ! お待ちしておりました! どうぞこちらへ!」


 その言葉に応える様に三人が進めば、まるで波が引くように人だかりは道を開ける。

 改めて、この三人がどんな存在かを目の当たりにしたリンは、場違いさを感じながらもそれに続いた。




                 ********





「こちらでお待ち下さい。直ぐに担当者を連れてきます」


 外で声をかけてきた職員が、お辞儀をしてから奥の部屋に消えていく。今はリン達が、ギルドのエントランスにあるソファーに案内され、横並びで座っている状態だ。


 ギルド支部の建物内は、リンが思ったよりもずっと洗練されていた。

 決して狭くはないエントランスの大理石で出来た床と柱は、顔が写るくらい綺麗に磨かれていて、日々の掃除が徹底されていることが分かる。それでいて、どこか落ち着いた雰囲気を感じるのは、広く取られた窓から差し込んでくる暖かい陽光によるものだろう。


 冒険者協会と言っても、年中冒険者で溢れている訳ではないが、クランのトップが依頼を取りに来たり、フリーの冒険者が手続きや相談に来ることはどの支部でもよくある。この街に来たのは初めてだが、例に漏れず大勢の冒険者で賑わっていた。


 しかし、やはり二つ名持ちは特別なのか、ギルドに入ってから視線を浴びない時はないと言える程に注目されている。

 抱く感情はやはりそれぞれ違うが、その多くが羨望によるものだというのは見れば分かるし、他のものに関しても、こちらから何か起こさなければ問題ないだろう。


 そんな風に周りを観察していたリン達だが、時間を置かずに一人の男が現れた。

 身長はリンとライルの中間程度といったところか。茶色い髪を肩まで伸ばし、若く整った顔立ちをしている。他の職員にはない胸に装飾が入った制服を着こなしたその姿は女性受けが良さそうな印象だった。


「ようこそ、ギルド支部へ。私はここの支部長をしております。ナルク・モーカです。お噂はかねがね聞き及んでおります。何でも先日、SS級の依頼を達成されたとか」


 笑顔を浮かべながら告げられたナルクの肩書きに、リンは驚きを表情に出す。比較的自由な冒険者業界とはいえ、縦社会は存在するし、ギルドの支部長など普通はもっと経験を積んだ年輩の人間がやるのは他の業界と同じだ。

 いくら有能でも、年下が上司となると反発もあるだろうし、普段荒っぽい冒険者の相手をすることもあるのだから、職員は一癖も二癖もある人が多い。


 ナルクはどう見ても二十代か、精々三十歳前後だろう。あまりに若すぎる。リンの目には、有能な人物への羨望より、異様な事への畏怖があった。


「ありがとうございます。恐縮です」


 だが、シオンはまるでその事に気付いていないかのように普段通りの挨拶を交わした。テーブルを挟んで四人の正面に腰を下ろしたナルクは、そのままシオンとサラにまるで品定めするかの様な視線を送り始める。


「いやーしかし、お二人とも噂に違わぬお美しさ。この時間は、私の人生で一番価値のある宝であると確信します」


「そうですか。ありがとうございます。依頼の件なのですが―」


「つきましては、今夜ご一緒にディナーなど如何でしょうか? この街のいい店は全て知り尽くしておりますので」


「お誘いいただき光栄ですが、お気持ちだけ頂きます」


「そう言わず。一度だけでもお付き合いください。絶対に楽しませますから」


「今は予定が立て込んでおりますので」


 ナルクはここぞとばかりに声をかけるが、シオンは無表情を崩すことなく、ただ淡々と断りを入れている。

 断られて諦めないところもそうだが、仕事の話をそっちのけでシオンを口説き始めたナルクの態度は、人によっては不快感を覚えるだろう。実際、感情の読めないシオンはともかく、サラの機嫌は目に見えて悪くなっていったし、ライルに至ってはこの短時間で既に熟睡していた。


「そうですか。しかしだからこそ休息も必要ではないでしょうか? サラさんもいかがで―」


「行かない」


 間髪入れずに、というより食い気味に、しかも不機嫌を隠そうともせずに否定の言葉を口にしたサラは、腕と脚を組み、視線を合わせようともしない不遜な態度だ。

 流石のナルクもこれには面食らった様で、唖然とした顔を隠す余裕も無い。


「……わ、私はあなた方のためを思って進言しているのですが」


「いらねーよ。あたしはお前と飯行く気は無い」


「し、しかし……」


「ナルクさん」


 見ていられなくなったリンが、話を進めようと声をかける。途端、ナルクの目が友好的なものから敵意を孕んだものに変わった。

 表向きは冒険者と騎士は良好な関係に見えるが、もちろん全員が互いにいい印象を持っている訳じゃ無い。

 冒険者の一部は騎士を堅苦しく感じてるし、騎士の一部は冒険者を自由すぎると語る。それはギルド職員も例外ではなく、特に上の立場にあるものほど相手側の業界を見下す傾向にあった。


「そろそろ本題に――」


「何だ? 今大事な話をしているんだが。そういえば何故騎士がこの場にいる?」


 今度はナルクが、嫌悪感を隠そうともせずにリンを睨みつける。しかし、リンもこう言った視線を向けられることは初めてでは無い。むしろ他の騎士よりもよっぽど経験している方だ。

今回はずいぶん露骨だが、月華の銀輪と行動すれば、こういったことがあるのも仕方がないと割り切れる程度には慣れていた。


「申し遅れました。私は、リガレア王国騎士団、カルマーナ警備隊所属。リン・アルテミスと申します。今回、月華の銀輪とは合同依頼を――」


「アルテミス? シオンさんの血縁者か? その割には階級が低い様だが」


 ナルクの言うように、騎士団には階級があり、上から団長、副団長、連隊長、大隊長、中隊長、小隊長、分隊長、一等、二等、三等と十個に分類される。各自に支給される騎士服は、その人物の階級が一目で分かるように袖口の部分の色が違っていた。


「青? というのはどの階級だったか? 少なくとも分隊長より下だろう」


「……三等騎士です」


「三等!? そんな立場でこの私に意見しようとしたのか?」


 大仰な手振りで驚いたと表現するその態度には、侮蔑を通り越して呆れている節すらある。


 三等騎士といえば聞こえは良いが、実際はまだ騎士見習いのような扱いだ。周りで聞き耳を立てていた冒険者も、冒険者業界トップクラスのパーティーについてきた騎士が、最下層の階級と知って嘲笑しているのが分かる。

 その気持ちを代弁する様に、ナルクはリンに対してここぞとばかりに不満をぶちまけた。


「そもそも、そんな奴が月華の銀輪と合同依頼などと、一体どんな神経をしているんだ? 身の程を弁えたまえよ。どうやら王都の騎士団には誇りというものがないらしい。そこまでして手柄が欲しいかねえ。私ならそんな恥知らずな事は――」



 ガシャァン!!


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