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2周目 7




「あの人たち、うつむいたまま動かないけど、何か悲しいことでもあったの?」


「詳しい事情は知らないが、たぶんそんな感じだ。こっちが何か仕掛けたり、近づかないかぎり動くことはない」


 学校から東に進んでいくと、遺跡の残骸が立ち並んだ場所がある。そこに痩せこけたミイラのような外見をしたモノが複数、うつむいて座り込んでいる。干からびた肉体には、ところどころ赤い渦巻き模様の刺青が刻まれている。


 人間に近い外見だが、鉄真たちとは違う生き物だ。アレも魔物に分類される。


 もっとも、相手が人間であろうと襲ってくるようなら鉄真は手加減なしで殺すが。


 友則と静音を連れてぎりぎりの距離まで近づくと、魔物や装備品などの簡易的な説明文を表示させてくれる【鑑定】のスキルを使用する。


【絶望する痩せ人】

 レベル:25

 天の地に絶望し、諦観に支配された者。


 痩せこけたミイラについての情報が頭のなかに表示される。

 

「アレが最初の獲物か?」


「そうだ。単体で多くの経験値を持っている」


 まずはあの痩せ人たちを狩って、経験値を稼ぐ算段だ。それに一周目に比べて大幅にレベルアップした今の自分が、どれほどの実力なのかも知っておきたい。


「なんか動きそうにないし、簡単に倒せそう」


「そう思うよな。けどアイツらは初見殺しだ。近づいたら体が膨張して爆発する。一周目はうかつに近づいて、苦しめられた」


 その情報は【鑑定】しても表示されることがない。ギミックを知らなければ厄介な相手だ。


「それでも生き延びたんだ。ほんと鉄真って、死なないよね」


「その言い方だと、早く俺に死んでほしいと言っているように聞こえるんだけど?」


 自分でも、よくもまぁ死ななかったなと思う場面が転移してきてから何度もあった。修羅場を越える度に、強くなっている感じがする。


「近づいてはいけないということは、静音の魔術で攻撃するのか?」


「そのつもりだが、念のため【アイテムボックス】から武器を取り出しておいてくれ。攻撃したとわかったら、アイツらは集団でこっちに突っ込んでくるからな」


 一周目で得ることができた情報だ。死にかけたのも無駄ではない。


 鉄真は指示を伝えると、【アイテムボックス】から料理で使う包丁を巨大化したような片刃の武器、肉断ち包丁を取り出す。結構な重量だが、切れ味はいい。所持している武器のなかでは、コイツが一番火力が高い。


 洞窟に潜伏していた人食い殺人鬼という、片目だけ穴のあいた皮袋を頭に被っていて、上半身がマッパの変態チックな怪人が使っていた武器だ。ブッ殺してドロップしたのを鉄真が頂いた。


 友則も剛腕の戦鎚を取り出して身構える。金槌をでっかくしたようなウォーハンマーだ。


 静音は魔術師の杖という、木製でできた杖を取り出して構えている。


 鉄真が目線で合図すると、静音が握っている杖の先に青い光が灯った。


 静音は魔術系のスキルを獲得しているので、ロストスカイ・メモリーのなかに存在する魔術を使うことができる。


 スキルによっては消費MPやクールタイムがあるので、使いどころを考えないといけない。


 そしてレベルアップするか、特定の条件を満たせばスキルは強化されることがある。


 静音はうずくまっている痩せ人の一体に狙いをつけると【魔力の槍】を発動。握っている杖の先端が発光し、青い光の槍が放たれた。


 撃ち出された槍は凄まじい速度で飛んでいき、うずくまっていた痩せ人に命中。光が盛大に弾けて、痩せ人の肉体が吹っ飛び、霧状になって散っていく。


 その威力に静音が泡を食っている。一周目に比べてレベルがあがっているので、たったの一撃で痩せ人を倒すことができてしまった。


 ロススカのゲームでもそうだが、この世界の魔物は死亡すると霧となって散っていく。


「ウッ、ウッ、ウッ、ウッ、ウアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 一体の痩せ人が死亡すると、まわりにいた他の痩せ人たちが次々と絶叫しながら立ちあがる。懊悩するように両手で頭を抱えたポーズを取ったまま、痩せ人の集団が鉄真たちのもとに突っ込んでくる。


「なんかいっぱいきたけど……」


「構わず魔術で迎撃してくれ。友則、静音が撃ちもらしたヤツは、俺とおまえで片づけるぞ。膨らんで爆発する前にブッ殺せ」


「了解した」


【魔力の槍】はクールタイムがないので、静音は杖先を前方に向けて青い槍を立て続けに放つ。叫びながら迫ってくる痩せ人たちを吹っ飛ばしていく。


 そのうちの何体かは迎撃を逃れて、鉄真たちとの距離を狭めてくる。


 鉄真は肉断ち包丁を両手で握りしめて駆け出した。苦しそうなうめき声をあげて迫ってくる痩せ人が膨張するのに先んじて、肉断ち包丁をその痩せ細った体に叩き込んでブッタ斬る。


 袈裟斬りにされた痩せ人が霧となって消滅すると、すかさず次の獲物を狙う。他の痩せ人のもとに走り、手近にいるヤツから始末していく。


 自分の身体能力の向上に驚かされる。以前よりも素早く動けている。それに肉断ち包丁の一振りで痩せ人を殺せた。ステータスが上昇したことで、強くなっている。一周目よりも大幅にレベルアップしていることを実感する。

 

 友則も近づいてくる痩せ人を戦鎚で叩き潰して、今の自分が強くなっていることに驚いていた。鉄真と違い一周目の記憶がないので、その動揺はひとしおだ。


『レベルが上がりました』


 戦闘中に二回ほど頭のなかでシステム音が響いた。この場にいた痩せ人を全て片づけると、鉄真はレベル152になった。


「レベル差があるからか? 思ったよりも上がらなかったな」


 痩せ人たちは大量の経験値を持っているが、レベルが100の大台を越えた今となっては少ないようだ。鉄真の想定では10レベルくらいは一気にあがるものだと思っていた。


「どうするんだ? 他の痩せ人を探して狩るか?」


「いや、この辺りにもう痩せ人はいない。他にも経験値の多い敵がいるから、そいつらを重点的に倒していこう」


 鉄真たちは遺跡から離れると、一周目で得た情報を頼りに経験値の多い他の魔物を狩りにいく。そのなかには状態異常攻撃を使ってきたり、隠れて騙し討ちしてきたりと、厄介な敵もいたが、鉄真は既にそのことを知っていたので手こずることはなかった。


 それからまだ足を踏み入れていない未知のエリアにも行き、探索を進める。


 一日目を終える頃には、鉄真のレベルは165まで上がっていた。




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