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2周目 6




 新たに獲得した【レベルループ】の効果によって、鉄真はループものの作品のような状況に置かれている。ということは、前の周で得ることのできた知識を活かせるということだ。


 記憶を受け継いでいる鉄真なら、一周目で知った情報を二周目で活用できる。ゲームでいえば、攻略情報を多く持った状態でプレイするようなものだ。


 しかし、やり直しが何度もできるかどうかは不明だ。【レベルループ】の効果が一回かぎりだとしたら、この二周目が最後になってしまう。


 なので鬼門である三日目の夜に備えて、できるだけレベルをあげて強くならないといけない。その方針に、友則と静音も賛同してくれた。


 もしも元の世界に帰るための条件が三日目の夜を乗り越えることだとしたら、なんとしても全員生存した状態で達成しないといけない。


「こちらの世界にはスマホがないからな。スミレたんの配信が見れない。ゲームをプレイしてハシャいでるスミレたんの姿を見るためにも、一刻も早く元の世界に戻らなくては」


「わたしも見たい映画がいっぱいあるから、早く帰らないと」


 二人とも現実世界への未練がモチベーションになっている。


 スマホがないのはもう慣れたが、鉄真も大好きな日常系ほのぼの漫画を読みたいので、二人の気持ちはよくわかる。やさしい世界に癒やされたい。


 学食で昼食を済ませると、たくさんのパンや飲料を【アイテムボックス】に入れて、校門前に集合する。神意の像が展開する結界に守られた、内側と外側を隔てる境界線だ。 


 身につけているものも制服から、【アイテムボックス】に収納してあった黒色の軽装鎧に着替える。放浪の鎧といって、学校の近くにある洞窟にいた黒金の戦士という敵からドロップした装備だ。軽くて、そこそこ防御力がある。


 鉄真とは対照的に、友則は鈍色の重装鎧を装着している。重量があるが、そのぶん防御面に優れており、パワー特化した重戦士のような出で立ちだ。


 静音は魔法使い然とした黒色のローブを着ている。物理防御のほうは心許ないが、魔術への防御力は高い。後衛向きの装備だ。


 物語に登場する冒険者さながらの格好になると、胸が高鳴る。夢想していたファンタジー世界のなかにいることを実感できて、本物の冒険者になった気分だ。 

 

 早く元の世界に帰りたいという想いとは裏腹に、もっとこの世界を冒険したいという欲求がわきあがってくる。


 友則と静音と視線を見交わすと、鉄真は校門の外側へと踏み出した。薄い膜を破っていくような感覚が全身を包み込む。鉄真たちを守ってくれている結界だ。


 膜の外、結界を抜けていくと、そこには緑におおわれた平原がひろがっている。涼やかな風が吹くことで草木がそよぎ、何枚もの木の葉が舞い上がっていく。


 はじまりの町から外の世界に飛び出して、広大なオープンワールドのフィールドを前にして、胸を弾ませるようなワクワク感。


 どこまでも果てしない空は青く、地上から切り離されている浮遊した島にいることを感じると、体が浮いているような気持ちになる。


 暑い。真夏のような日差しが照りつけてくる。


 現実世界の暑さを思い出す。


 夏休みで。みんなで遊ぶ約束をしてて。それで集まって……。


 それで……。それで……。


「…………」


 ……軽く目まいがした。


 何かを思い出せそうだったが、それがなんなのかわからず、鉄真の視界が一瞬だけ白く染まると、思い出せそうだったナニカが薄れていく。


 ……大事なことを忘れている。そんな気がする。


 でも思い出せない。思い出せないなら仕方ない。今は自分のやるべきことに集中しよう。


 辺りに魔物がいないかを確認すると、そばにいる仲間たちに目を向ける。


 すると静音がムスーッと頬をむくれさせていた。


「ユイナのこと、そんなに不満か?」


「ユイナがあぁいう性格だっていうのはわかっているけどね。それでもやっぱり、そばにいてほしいよ」


 静音の言い分も、わからなくはない。こんなゲーム世界のなかに迷い込んでしまったんだ。友達として、目の届くところにいてほしい。


「鉄真と友則は、パーティで行動していくつもりなんだよね?」


「そのつもりだ」


「鉄真に同意だな。生存率をあげるためには、パーティで行動すべきだ」


「それじゃあこの先も勝手に一人で行動したらダメだよ? 少し離れるときも、きちんと声をかけないといけないからね。ごはんだって一人で食べるのは禁止。ちゃんとみんなで食べること。一緒に行動するって決めたからには、もう二度とパーティを抜けることは許されないから」


「……パーティ組むのって、そんなにルール厳しいの?」


 友情が重たい。縛りプレイを強制されている気分だ。 


 友則は低い声で唸ると、広大な景観を眺めながら口を開いた。


「俺は静音ほど、ユイナのことを心配してはいない。あいつなら上手くやれるはずだ。元の世界でも優秀で、なんでもこなす奴だった。このロススカの世界でも、鉄真と同じく最初から魔物を殺すのに抵抗がなかったしな」


 転移して間もない頃、友則と静音はなかなか魔物を殺すのに踏ん切りがつかなかった。初日からなんのためらいもなく、魔物を殺せたのは鉄真とユイナだけだ。


「鉄真とユイナは頭がどうかしているよね。特に鉄真が起こしたインプ撲殺事件はスプラッターだったから引いた」


「いや、戦わないとこっちがやられちゃうだろ?」


 この世界で初めてエンカウントした魔物であるインプ。子供のように小柄で、額に角が生えている悪魔のような外見をしていた。


 あのときは学校に置かれていた金属バッドを持ってきていたので、それで何度も殴って頭をカチ割ってやった。それが静音の言うインプ撲殺事件だ。


「俺は死にたくないからな。襲ってくるようなら、容赦なく殺し返す。相手を自分と同じ生き物だとは思わない。そうやって意識を切り替える」


「それって、現実世界で不良っぽい人たちにからまれていたときも?」


「あぁ、そうだ。因縁をつけてくる連中は、そうやって追い払ってきた」


 血筋なのか、体質なのか、鉄真は昔からそういった手合いにからまれることが多い。何度も喧嘩を繰り返しているうちに、あまりからまれることはなくなったが。


「そういえば、俺が初めて鉄真と話したときも、大人数に囲まれていたな。助けに入ろうとしたら、鉄真が一人で全員を殴り飛ばして終わらせてしまったが」


 一年ほど前、まだ高校に入学したばかりの頃の話だ。


 相手は多人数だったので、気が大きくなっていたのか、リーダー格の男がぶつかっただの、謝れだの、金を出したら許してやるだのと、寝ボケたことを抜かしてきやがった。


 だからいつものように意識を切り替えて、まとめて全員打ちのめしてやった。何人かは顎が砕けて病院送り。しばらく硬いものは食べられないようになっていた。


「その喧嘩終わりに、いきなり入学式の新入生代表挨拶をしていた優等生がやって来て、お勧めのVチューバーの話を振ってきたときは、なんだこいつって思ったけどな。さすがに意味わかんなすぎた」


「おもしろそうな男だと思ってな。仲良くなりたかったんだ」


 友則は文武両道の優等生だ。自分のような人種とは相反すると初対面のときは思ったが、話してみればゲームやアニメなんかも詳しくて気が合った。今となっては数少ない友達だ。


「この世界に転移したとき、鉄真がいてくれたことには安心した。おまえが諦めているところは想像できないからな。魔物なんてものが実在するこの異世界でも、鉄真がいるのなら生き延びられると思えた。なんといっても鉄真は『不屈の高宮』だからな」


「その漫画の異名みたいなの、恥ずかしいからやめてほしいんだけど?」


 祖父からの助言に従って、喧嘩を吹っかけてくる連中を片っ端から返り討ちにしていたら、そのうち因縁をつけられることはなくなった。


 その結果、不良たちから恐れられ、すれ違うたびになぜか頭を下げて挨拶をされるようになり、『不屈の高宮』なんていう変な呼び方をされるようになってしまった。


 そういう異名みたいなのをつけられるのは、普通に恥ずかしくてノーサンキューだ。


「鉄真はしぶといから、その異名はあってると思うよ。単独でドラゴンに襲われたときは、完全に詰んだと思ったし」


「俺もあのときは、冗談抜きで死ぬかと思ったよ」


 命がけの鬼ごっこ。思い返すだけで心臓が止まりそうになる。


 何度となく死にかけた。最後の夜にたどり着けず、あのとき冒険が終わっていた可能性だってある。


 だが竜は死に、鉄真は生き延びた。


 ありえない結末をつかみとることができた。


「無事に戻ったときは、珍しく静音が涙ぐんでいるところを見れたな」


「……泣いてないけど?」


 静音はほんのりと頬を染めて、顔をそむけてくる。


 あのときは本気で鉄真の身を案じてくれていた。泣いていたのは、生きている姿を目にして安心したからだろう。


「暴力は好きではないが、必要なら戦わなければいけない。こちらの事情などお構いなしに、この世界では魔物が襲ってくるからな」


「そのへんは、もう割り切ってるけど」


 戦わなければ殺される。それを友則も静音も理解して、魔物を殺せるようになった。これまで過ごしてきた現実世界とは違い、天の地は抵抗しない者を容赦なく殺しにかかってくる。


 元の世界に戻るためにも、否応なく戦いに身を投じなければいけない。


「さて、三日目の夜に備えて強くならないといけないが、行き先は決めているのか?」


「あぁ。一周目の情報をもとに経験値を稼がせてもらう」


 鉄真は唇の端を持ちあげて笑う。


 やり直しなんて反則技が使えるんだ。


 ループ能力を十分に活かしてやる。




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