2周目 4
事情を説明するために、四人で学食に移動する。鉄真がテーブルに着くと、隣に友則が腰を下ろし、対面にはユイナと静音が座った。
三人の顔を見まわすと、鉄真は口火を切る。
「俺は、未来からやって来た」
「なん……だと……」
友則がとてもいいリアクションをしてくれた。おかげでこっちも話していて、気持ちが良いのでありがたい。
「鉄真、熱ある?」
「真剣に話を聞いているのだから、もっと真面目にやってほしいわね」
女性陣からは呆れられた。あまりに突拍子もないことを言っているので、静音とユイナの反応はまともと言えばまともだ。
「そう簡単に信じてもらうのは難しいよな」
鉄真のステータスを見てもらえば話は早いのだが、この世界では自分のステータスを他人に見せることはできない。初日にいろいろとイジってみたが、そういう機能は発見できなかった。
なので、もしかしたらと思いついた可能性を聞いてみる。
「ついさっき、自分のステータスを確認してみたら、めちゃくちゃレベルが上がっていて驚いたんだ。だけどそれは俺だけじゃないかもしれない」
「レベルが上がっていただと……」
友則が目を見張ってつぶやく。知らない間にレベルアップしているだなんて現象は、この世界に来てからまだ一度も起きていない。
しかし気づいていないだけで、既に三人にもソレは起きているかもしれない。鉄真はそう推察した。
「三人とも、自分のステータスをチェックしてみてくれ」
そう呼びかけると、三人とも口を閉ざした。頭のなかで念じて各々のステータスを表示させているのだろう。
そして、鉄真の推察は正しかったようだ。
「レベル147……! なんだこの数値は? なぜいきなりこんなに強くなっている?」
「……え、こわ。なにこれ?」
「……へぇ。少しは高宮くんの言葉にも信憑性が出てきたわね。それにしても、このステータス数値の高さ。我ながら自分の才能の底知れなさが恐ろしいわ」
三人ともステータスに激しい変化があったようだ。レベル150の鉄真と同じくらい、三人のステータスも急激な成長を遂げている。
「見てもらいたいのはステータスだけじゃない。【アイテムボツクス】のなかも確認してみてくれ」
多くの物を収納できる便利スキルの中身を見るように伝える。
「……っ、なんだこれは? 剛腕の戦鎚? こんな武器を入手した覚えはないぞ?」
「わたしも、知らない装備がいくつか入ってる」
「わたしの嗜好を読み取ったように、刀系の武器が何本か増えているわね。これも高宮くんの推察どおりというわけ?」
「あぁ、そうだ」
先ほど確認した鉄真の【アイテムボックス】には、肉断ち包丁が入っていた。本来ならそれはありえないことだ。なぜなら肉断ち包丁を入手するのは、今日の夜のはずだから。一周目のこの時間には、まだ肉断ち包丁は持っていなかった。
「この奇妙な状況を、高宮くんは説明できるというの?」
「そのために集まってもらった」
ユイナは腕組みをすると、横目で鉄真を見てくる。
静音もジーッと鉄真に視線を向けてきた。
二人とも聞く耳を持ってくれたみたいだ。
「ステータスをチェックした際にスキルも見たんだが、知らないスキルが二つ追加されていた。片方は意味不明すぎて、どんな能力なのかわからない」
「意味不明すぎるって、どういうこと?」
「言葉通りの意味だよ」
静音からの追及に、鉄真は肩を竦めながら答える。
新たに獲得したスキルの片方を確認してみたところ……。
【??????????????】
詳細不明。
……と、このように表示された。名前すらもわからず、どういった効果をおよぼすのかも不明だ。
もしかしたら、何か条件を満たすことで開示されるスキルなのかもしれない。
「だけど俺が話しておきたいのは、もう一つのスキルのほうだ。今の状況を引き起こしている、【レベルループ】についてな」
ステータスを確認した際に、このスキルを発見した。
【レベルループ】
自身と仲間たちに、あらゆる要素を引き継がせる。
達成項目により、経験値が与えられる。
というのが表示された説明になる。
「前回死んだ時に、システム音が達成項目を伝えてきた。スキルの説明文にもあるように、このロススカの世界のなかで何かを達成したら、報酬として経験値がもらえるようだ。俺だけじゃなくて、仲間であるみんなにもな。その効果によって、ここまで一気にレベルが上がったというわけだ」
前の周で死んだときの最終レベルに、達成項目によって与えられた大量の経験値が加算されて、現在のレベル150になった。
「わたしたちの【アイテムボックス】に見知らぬ装備が入っていたのも、高宮くんの【レベルループ】の効果によるものね。一周目のわたしたちから、装備品を引き継いだということかしら」
「そうなるな。前回の自分が入手した装備品は、【アイテムボックス】のなかに収納されて引き継がれる。そして獲得したスキルも、前の自分から今の自分に引き継がれている」
この【レベルループ】と詳細不明のスキルを獲得したのは、前の周の最後だ。今回の高宮鉄真にも、獲得したその二つのスキルが引き継がれている。
「未来の自分から、経験値や装備を引き継いだ状態で時間が巻き戻った……ゲームクリアした後に出てくる、強くてニューゲームみたいなものか?」
「それに近いものだと考えていいだろうな」
だが鉄真だけしか引き継げていない要素もある。鉄真にはあって、他の三人にはない、決定的な違いだ。
「三人とも、これから二日後の夜に起きることは、覚えていないんだよな?」
「覚えているも何も、知らないからな」
「鉄真みたいな変なスキルがないから、未来のことなんてわからないけど」
天の地にあふれかえる、あの黒い魔物たちのことを友則も静音も知らない。覚えていないのではなく、知りようがないんだ。あの夜のことを体験していないから。
「……そう。記憶だけは、高宮くんしか引き継げないのね」
ユイナの指摘に、友則と静音はハッとする。
それが鉄真と、他の三人との違いだ。
「みたいだな。三人とも前の周のことは覚えていないようだし。なぜか記憶だけは俺しか引き継げていない」
考えられる可能性としては、鉄真が【レベルループ】の所有者だからだ。他の要素はともかく、記憶だけはこのスキルの持ち主しか引き継ぐことができない。
友則は申し訳なさそうに眉間をひそめる。静音も心なしか肩を落として視線をテーブルに伏せていた。ユイナは何を考えているかわからず、澄まし顔でフンと鼻を鳴らす。
「ここまでの話を聞いて、俺が未来から来たってことを信じてくれか?」
「急激なレベルアップや、見知らぬ装備が【アイテムボックス】に入っているのは、それしか説明がつかないからな。信じよう」
「わたしやユイナの行動も言い当ててたみたいだし」
「妙なスキルを獲得したからといって、あまり調子に乗らないことね」
どうやらみんな信じてくれたようだ。ユイナだけはムッとして、偉そうな上から目線だが。
「鉄真の【レベルループ】があれば、やり直せる。いわゆるループものだな。アニメや漫画で、そういった展開を見たことがある」
「そういや友則から勧められてプレイした古い美少女ゲームにも、似たようなシチュエーションがあったな」
パッケージにはかわいい女の子たちの絵が描かれているのに、実際のゲーム内容は主人公がサイコパスで友達同士で殺し合ったりして、やたらと死人が多い作品だった。昔のギャルゲーこわい。最後は感動したけど。
「ループものの名作映画といえば『愛は既視感』。どうしょうもない傲慢な男が同じ一日を繰り返す現象から抜け出せなくて、最初は欲望を満たしたり、自殺したりするんだけど、そのうちいろんな技能を磨くようになって、最後は率先して人助けをして成長していく物語。元の世界に戻ったら、みんなで鑑賞会をやるから、忘れたらダメだよ」
「それ、もう決定事項なの?」
映画好きの静音は、よくお勧めの映画を強制的に見せてこようとするので、ちょっと面倒くさい。
前に見せられたのは、名門音楽学校でハゲの鬼教官がめっちゃキレ散らかして椅子をぶん投げてビンタかましてくる映画だった。おもしろかったけど。
「【レベルループ】については、まだわからないことだらけだ。この先の冒険で検討していくつもりだ」
今回はやり直すことができた。だけど三周目があるかどうかは不明だ。ループできるのが一度だけだとしたら、また同じ結末を迎えれば今度こそ本当に鉄真たちの冒険は終わる。