2周目 3
鉄真は学食を後にすると、友則と静音を連れ立って屋上に続く階段を登っていく。
「本当にユイナは屋上にいるのか?」
「あぁ、フェンスに背中をもたれさせて、偉そうに腕組みをしているよ」
学食での出来事もあって、友則は鉄真の言葉に耳を傾けるようになった。とはいえ、まだ完全に信じたわけじゃない。半信半疑といったところだ。
一方で静音は、まだ鉄真の言動に疑問を抱いている。屋上についてくるのも面倒くさがっていたので、説得するのに骨が折れた。
「ちなみにユイナは、屋上で必殺技の名前を絶賛考え中だ」
「そんなバカな……」
「ユイナのことをなんだと思ってるの?」
再び予言を口にする。
友則は驚いた顔をしているが、もしかしたらという可能性を感じている。
静音は完全に呆れていて、鉄真の予言を信じていない。
「それじゃあ、行くぞ」
踊り場を過ぎて階段を登り切ると、屋上の扉を開ける。
外気に晒されると、生温かな風が吹きつけてきた。
屋上のふちには、転落防止用のフェンスが設けられている。
鉄真の予言したとおり、そこに背中を預けて腕組みをしている少女が立っていた。
風にさらわれて亜麻色の長い髪が揺れている。優美な顔立ちは気品があって、切れ長の瞳は校門の向こう側にある幻想的な風景を映している。
女性にしては身長が高く、制服のスカートから細くて伸びやかな脚が覗いていた。
類い希な美しい容姿。そこにいるだけで強烈な存在感を放っている。
時遠ユイナ。
鉄真の友人であり、このゲーム世界に一緒に転移してきた四人目の少女だ。
屋上に佇んでいたユイナは神妙な面持ちで、ブツブツブツと呪文でも唱えるように何かをつぶやいている。
クスッと上品な笑みを浮かべると、嬉々として高らかな声をあげてきた。
「決まりね。【必滅の刃・絶】にするわ。それこそが、わたしの使う必殺技に相応しい名よ」
豊かにふくらんだ胸元に手を当てて、フフンと得意げに微笑んでいる。
屋上にいるのが自分だけではないことには気づいていたんだろう。優雅な手つきで長い後ろ髪を撫で上げると、眦を細めながら鉄真たちを見てきた。
「高宮くんに、遠藤くんに静音まで。三人そろってどうしたのかしら?」
「ほらな。俺の言ったとおり、必殺技の名前を考えていただろ?」
「……確かに。いや、でも俺はかっこいい名前だと思うぞ」
「これはひどい」
「ご挨拶ね。なんだか侮辱された気分なのだけど?」
ユイナはムッとすると、不服そうに睨んでくる。
「説明しなさい、高宮くん。ちゃんとわたしが理解できるようにね」
「相変わらず偉そうだな」
ユイナが偉そうなのはいつものことなので、慣れてはいるが。
「前に経験した十日目と同じかどうかを検証していたところだ。そして俺の知っていたとおり、この時間のユイナは屋上で必殺技の名前を考え中だった」
「不合格よ。言っていることが意味不明すぎるわね」
不合格になってしまった。鉄真の説明がお気に召さなかったらしい。
ユイナはフンと鼻を鳴らすと、羽虫でも払うように右手を軽く振ってくる。
逆の立場なら鉄真も同じことを口にしていただろう。なので反論することができない。
「静音の時といい、どうしてユイナが屋上にいるとわかったんだ?」
「それ、わたしも気になってた。鉄真、どうしてユイナが屋上でアホなこと考えてるって知ってたの?」
「必殺技の名前を考えるのは、アホなことではないわよ?」
静音の物言いにイラッとしたようで、ユイナが唇をとがらせる。
「そのことについて、みんなに話さないといけないことがある」
鉄真だけが知っている、これから二日後の夜の記憶。新たに手に入れたスキル。そして今日という時間が二度目であること。
仲間たちと共有しなくてはいけない情報がたくさんある。
「込み入った話になりそうね。だったら場所を変えましょう」
こちらの真剣さが伝わったみたいだ。ユイナは鉄真を一瞥すると、長い足を動かして歩き出した。屋上の出入り口へと向かっていく。
友則と静音と目を見交わすと、鉄真も足を動かす。ユイナの背中を追いかけるようにして屋上を後にした。