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4周目 11




「そして鉄真さんが所持している【レベルループ】ですが、それは鉄真さんのスキルではありません。本来それは五人目の来訪者であるヨミのものです。鉄真さんはヨミとつながり同化することで、そのスキルを使えていたのでしょう」


「さっき情報が開示された【境界を越えてあなたとつながる】ってスキルに、観測者の能力が使えるって書いてあったな」


 このスキルによって鉄真はヨミとつながり、ヨミのスキルを自分のもののように使用できていたわけだ。


「【レベルループ】については、まだ勘違いしていることがあります。鉄真さん、あなたは記憶を引き継いだまま時間を巻き戻ることで、天の地の最後の三日間をやり直していた。そうですね?」


「あぁ、この世界は俺にとって四周目になる」


 だがヨゼッタは、勘違いしていると言った。


 つまり、そうではないということだ。


「鉄真さんが天の地での冒険の記憶や経験値、装備品などを引き継いでいるのは間違いないでしょう。ですが、それは時間を巻き戻っていたわけではありません」


「時間を巻き戻っていないなら、なんだっていうんだ? 一日目のみんなの行動は、間違いなく俺の知っているものだったぞ?」


「この天の地がある世界と、鉄真さんたちが暮らしていた世界が全く異なるもののように、その逆もまたしかりです。いまわたしたちがいるのと、そっくり同じ世界が無限に存在しています。その隣り合った世界には、ここにいるわたし達と同じように別のわたし達がいる」


「同じ世界って……まさか」


「なるほど。並行世界というやつだな」


 困惑した鉄真が周りの友人たちに目を向けると、鉄真が考えているのと同じことを友則が口にした。


「鉄真さんは時間を巻き戻って記憶やレベルを引き継いでいたのではありません。同じように存在する世界の自分や友人たちに、手に入れたものを引き継がせていたのです」


「時間遡行ものじゃなくて、並行世界ものだったってわけだ」


 前に見たアニメや漫画で、そういったジャンルのものがあった。無限に分岐する世界線や、隣り合う同じ世界など。オタク知識が活きてくる。


「自分が死んだ世界から、同じような似た世界のわたしたちにいろんな要素を引き継がせていた。そのなかで【レベルループ】を使用できる高宮くんだけが、記憶を引き継げていたのね」


 ユイナは考えを整理するようにつぶやく。


 友則と静音もアニメや映画などで、そういったものを見たことがあるので、話についてこれている。 


「今いるこの世界もふくめて、俺には四つぶんの世界の記憶しかない。だけど本当は無限の並行世界があって、そこには俺の記憶にはない冒険をしている俺がいるのか」


「そうなりますね。鉄真さんの記憶にある四つの世界がそれぞれ異なる冒険をしていたように、鉄真さんの記憶にはない世界では、それぞれのあなた達が異なる冒険をしている」


 鉄真の知らない世界で、自分が体験したことのない冒険をしている。たどったルートはそれぞれ違うだろう。もしかしたらヨゼッタではない他の誰かを仲間にしたのかもしれない。


 ここにいる鉄真の知らない武器を手に入れたり、見たことない強敵と戦ったりしたのかもしれない。


 そこでの高宮鉄真は、どんな冒険をしているのか?


 想像するだけで胸がウズウズする。この高揚は、楽しみにしている大作ゲームの発売日前の気持ちによく似ている。


「そしてヨミから与えられている【レベルループ】は、今よりも進化できます」


「……特定の条件を満たせば、スキルは強化されるんだったな」


 レベルアップしたり、強敵を倒したり、決まったアイテムや装備品を入手したりと、条件は様々だが、それを達成すればスキルは強くなる。


「どうすれば【レベルループ】を進化させられるのか、ヨゼッタにはその条件がわかっているのか?」


「えぇ。鉄真さんが世界の神意に触れることができれば、【レベルループ】の力を今よりも引き出すことができるでしょう」


 ヨゼッタの返答を聞くと、鉄真はピンとくる。


 英雄スレイドとの戦闘後に、全ての不滅の三王を撃破したことで与えられた報酬があった。


「あの神に届く刃っていう短剣か。説明文に『神意に触れることができる』って書いてあった」


 入手した短剣を使って、何かをしなければいけないということだ。


 そうすれば、ヨミから借り受けている【レベルループ】がもっと強力なものになる。


「それともう一つ……神意を感じ取ったことで、あなた達についてわかったことがあります」


 ヨゼッタはわずかに言いよどむと、胸の前で両手を組んだ。迷いを断ち切るように銀色の髪を揺らしながら首を振ると、鉄真たちのことを見てくる。


「あなた達がなぜこの天の地にやって来たのか。神意が世界の境界線を越えて誰の願いを叶えたのか、それを知ることができました」


「……神意が願いを叶えたのは、ユイナじゃないのか?」


 ユイナの願いによって、鉄真たちはこのゲーム世界に連れてこられた。そう思っていた。ユイナ自身もそれを否定しなかった。


 そのユイナは……痛みを堪えるような苦しげな表情をして、硬く目を閉ざしていた。


「わたしも神意が願いを叶えたのはユイナさんだと思っていました。ですが違います。本当に世界の神意が願いを叶えたのは……」


 金色の瞳が、対面に座っている四人のうちの一人を凝視する。


 ヨゼッタはその人物を見つめながら、口を開いた。


「――あなたです。鉄真さん。世界の神意はあなたの願いを叶えた。それによって、あなたとその友人たちをこの世界に呼び出した」


 名前を呼ばれると、鉄真は呆然となった。


 そして頭のなかが漂白される。


 視界が真っ白に染まっていき、夏の暑さを思い出す。 


 セミの鳴き声。汗ばむ肌。蒸し暑い風。


 夏休み。夏休みだった。


 みんなで遊ぶ約束をしてて……。


 それで集まった。


 夏休みの課題を片づけて、ゲームをしようって。


 その予定だったけど……。


 うるさいエンジンの音。大きいものが。トラック。トラックが迫ってきた。鉄真に。


 そのトラックが目の前にきて……。


 ――光につつまれた。


 忘れていた映像が頭のなかでよみがえると、鉄真はハッとする。


「そうだ。あのとき俺は……トラックに……」


 その先は言わない。声を途切れさせる。


 言葉にしたら、その事実を受け止めなきゃいけなくなる。


「……っ。どうして今まで忘れていたんだ……」


「鉄真……」


 友則と静音も、現実世界での記憶を思い出したようだ。顔色を失って戦慄していた。


 ユイナだけは、さっきから変わらずに苦しげな表情をしたままだ。


「あなた達の記憶が操作されていたのも、神意の力によるものでしょう。受け入れがたい記憶があれば、みんなで楽しく冒険ができませんから」


 みんなで楽しく冒険がしたい。


 鉄真のその願いを叶えた世界の神意は、不都合な記憶を消し去っていた。そうすることで、鉄真たちの冒険を楽しいものにしていた。


 ……まだ信じられない。それが真実だなんて、受け入れられない。 


「夜闇の王を倒して世界の神意を修復すれば、ゲームクリアだ。俺たちは元の世界に戻ることができるだろう。だが元の世界に戻れば、そこに鉄真は……」


「……だったら」


 友則の言葉を遮るように、静音が声を被せてくる。


「だったら、無理にゲームクリアなんてしなくていいよ。帰っても、鉄真がいないなら……」


 静音は瞳をうるませている。泣きそうになっていた。顔をうつむかせて、そんなのはイヤだと駄々をこねる子供のように拒んでくる。


「友則はいいの? 帰ったら鉄真がいないんだよ? それを受け入れられるの?」


「俺は……」


 友則は横目で鉄真のことを一瞥してくる。ほんの一瞬だけ鉄真と視線があうと、長い吐息をこぼした。


 そして目元に水滴を溜めている静音のほうに友則は向き直る。


「鉄真の意思に委ねる。どうしたいのか鉄真が決めたのなら、俺はそれに最後まで付き合う」

 

 友則は落ち着いた表情で答える。鉄真の望む結末についていくことを。


 それを聞くと、静音は眉尻を下げて肩を落としていた。


「夜闇の王が復活する明日の夜までは、まだ時間があります。みなさん、それまで心身を休めておいたほうがいいでしょう」


 ヨゼッタは重苦しい空気を払うように取り澄ました面持ちで語りかけてくると、考える時間を鉄真たちに与えてきた。


「あなた達がどのような選択をしても、わたしは神意を崇める最後の巫女として使命をまっとうするだけです」


 そう言って立ちあがると、金色の瞳で鉄真のことを見てくる。


 どんなことがあっても、自分を貫こうとするその在り方は素敵だ。そういう人には好感が持てる。


 そして鉄真も、そういう人でありたいと思っている。


 どんなに受け入れがたい事実があっても、決して立ち止まらず、最後まで自分を貫けるような人でありたい。


 心から、そう思った。




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