表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/42

2周目 2




「どうしたんだ、鉄真? そんなに急いで?」


「これから学食に行くんだろ? なら確認しておきたいことがある」


 友則が生きているのなら、まだ静音も生きているはず。その姿をこの目で直接見ておきたい。


 そしてこれから起きる出来事も、前の十日目と同じなのかを確認しないと。


 鉄真は急ぎ足で学食に向かっていく。


 ファンタジーなゲーム世界のはずなのに、周りの風景と比べたらこの学校は場違いな建物だ。


 ロススカのネットワークテストでも、こんなオブジェクトは存在していなかった。おそらく鉄真たちが転移してきた際に用意されたものだ。いわゆる転移特典というやつだろうと推察している。


 実際この学校のなかはかなり便利だ。仕組みは不明だが、生活に必要なものを自動的にそろえてくれる。


 学食に行けば、普段販売しているメニューや購買のパンなどがテーブルに置かれているし、水道の蛇口をひねれば水が出てくる。設置された冷蔵庫のなかには、ペットボトル入りの飲料水やジュースだってある。


 運動部が使用していたシャワー室に行けば、体の洗浄だってできる。更衣室には、着替えの制服が大量に置かれている。


 衣食住に事欠かない。この学校という特典がなければ、天の地での冒険はより過酷なものになっていた。

 

「スマホもほしかった」と静音は愚痴っていたが、なんでもかんでもそろっているわけじゃない。我慢しないといけないことだってある。


 鉄真も最初はスマホがなくてがっかりしたが、数日すれば慣れてしまった。案外スマホがなくても生きていけるものだ。


 それに学校のなかにいれば、最後の夜になるまでは安全だ。外部をうろついている魔物たちは、校門を境に学校内に入ってくることができない。


 校庭の片隅にある、半月のような形状をした一メートルくらいの石像。神意の像と呼ばれるものが結界を展開して、魔物が近寄れないようにしている。


 神意の像については、ロススカのホームページにも説明が載っていた。


 天の地の各地に神意の像は立っていて、結界によって守られるのでプレイヤーにとっての安全地帯になる。この学校もその一つだ。


 鉄真は学食の前まで来ると、足を止める。


 前の十日目のことを思い返す。これから起きるであろう未来の出来事を。


「今から静音が学食の入り口から出てくる。一周目では俺とぶつかって、持っていたペットボトルのジュースが制服にかかってしまい、不機嫌になっていた」


「何を言っているんだ?」


「ちなみに、静音が持っているのはオレンジジュースだ」


 ドヤ顔で宣言してくる鉄真に、友則は疑念を募らせる。半目になって呆れた視線を向けてきた。


「まぁ見てなって」


 野郎二人で廊下に待機し、学食の入り口を見守る。


「何が楽しくてこんなことをしなければいけないのか?」と友則からの抗議の眼差しを感じるが、どこ吹く風で鉄真はそこから友人が出てくるのを待った。


 ほどなくすると、記憶にある通り学食から見知った少女が出てきた。


 黒い髪を二つ結びして肩口から垂らしている。大人しげではあるが整った目鼻立ち。身長はそこまで高くはないがスタイルがよくて、制服を着て立っている姿は絵になる。


 物静かな空気をまとった雨野静音あまのしずねがそこにいた。


「馬鹿な……どういうことだ?」


 友則が信じられないものでも見たように驚いていた。


「静音。おまえがその手に持っているのは……」


「……オレンジジュースだけど、それがどうしたの?」


 学食から出てきた静音は右手にペットボトル入りのオレンジジュースを持ちながら、狼狽している友則を眠たそうな目で見てくる。


 知っていたとおり、鉄真の予言は的中した。


 だが予言が当たったことよりも、生きている静音をこうしてまた目にすることができて、そのことがうれしかった。まだこの時間なら生きているのはわかっていたが、こうしてその姿を目の当たりにすると、胸のなかが温かくなる。


「静音……よかった」


「……なに? こわいけど?」


 静音は表情を曇らせて、率直な感想を述べてくる。


 学食を出たら、男二人が待ち伏せていた。片方は驚いて慌てている。もう片方は感動でうるうる。確かに意味不明すぎてこわい。


「なぜだ、鉄真? なぜ静音がオレンジジュースを選ぶとわかっていた?」


「どういうことなの?」


 友則は口早に問い詰めてくる。状況についていけない静音は、説明を求めるように鉄真を見てきた。


「静音が学食から出てくるのを俺は知っていた。本来なら、俺とぶつかってオレンジジュースが制服にかかってしまい、静音はムスーッとして、しばらくヘソを曲げたままだったけどな」


「ジュースがかかったくらいでスネるなんて、わたしそこまで子供じゃないけど? バカにしないで」


「いや、本当にそれでスネてたんだけど……」


「勝手な妄想を人に押しつけるのはどうかと思うよ」


 静音はほんのわずかに頬をむくれさせて、睨んでくる。


 ……ホントなのに。信じてもらえなかった。 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ