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29/42

4周目 7




「そこの巫女の娘。なにをボーッと突っ立っている? 早くその剣をオレによこさぬか」


 英雄が声をかけてくる。そのことに気づくと、魂が抜けたように凍りついていたヨゼッタはビクッとした。


 英雄の瞳が映しているのは、おびえているヨゼッタではない。その手のなかにある白銀の王剣だ。


「このオレを長年封じてきた忌々しい剣ではあるが、それは王が持つべき剣。新たな王であるオレにこそ相応しい。王の許しなく手にするとは、盗人たけだけしいな」


 英雄の左手にある黒い杖が前に向けられる。その先端が光り出すと、黒々と燃え盛る火の玉が撃ち出された。


 鉄真は駆け出す。硬直するヨゼッタの前に躍り出る。

 

 飛来してくる黒い火の玉に狙いをつけて、獣王の大剣をフルスイング。灰色の鉄塊による斬撃。黒い火の粉が辺りに飛び散って、黒炎を打ち消す。


「その子は死なせないって決めたからな。勝手に手ぇ出してんじゃねぇよ。殺すぞ」


「吠えたな、雑兵」


 空気が凍りつく。放たれる殺気がさらに冷たくなる。 

 

 英雄が高宮鉄真を敵と認識する。


「あの野郎はその王剣を欲しがっている。ヨゼッタは王剣を持って、この場から離れててくれ。あんたを守りながらボスキャラと戦うのは、難易度が高すぎる」


「そのお言葉に甘えさせてもらいます。王剣をあの英雄に取られたら、面倒なことになりそうですから」


 ヨゼッタは頭を下げると、封印の間から立ち去ろうとする。


「オレは立ち去ることを許可した覚えはないぞ、娘?」


 それを看過するはずもなく、英雄が再び杖から黒い火の玉を撃ち出した。


 さっきよりも数が多い。火の玉が立て続けに飛んでくる。


 鉄真は前歯を噛みしめると、大剣を振り回して黒い火の玉を打ち消す。高速で連射される黒炎を全てさばききるのは困難だ。スピードが追いつかない。


「そうやっておまえが率先して動いてくれるから、恐怖で竦んではいられなくなる」


 灰色の鉄塊が風圧を起こし、飛来する火の玉の群れを消していく。

 

 友則は獣王の大剣を振って、ヨゼッタを守っていた。英雄に立ち向かう鉄真に感化されて、肉体を縛る恐怖心を振り払っていた。


 鉄真が笑いかけると、友則もその横顔に笑みを浮かべる。


 二人が守ってくれる間に、ヨゼッタは駆け足で封印の間から出ていく。


「英雄であるオレの覇道を阻むか。どうやら先に邪魔な雑兵共を始末する必要があるようだな」


 連射されていた火の玉が止まる。まずは鉄真たちから殺すつもりのようだ。


 鉄真は英雄を睨みつけて、【鑑定】を発動させる。


【英雄スレイド】

 レベル:1000

 天界の大戦を生き延びた不滅の三王の一人。

 最も多くの王候補を葬った英雄。


 頭のなかに説明文が表示される。


「ついにレベル1000を超える敵が出てきやがったか」


 だけど格上を相手にするのは初めてのことじゃない。これまでのように仲間たちと協力して、勝利をつかみ取ってみせる。


「数で勝っていると考えているのならば、それは誤りだぞ」


 英雄が左手に握った黒い杖を天にかかげる。先端が金色の輝きを発すると、その輝きが三つに分かれていき英雄の周りに落ちてきた。


 三つの輝きは拡大していくと、手足が生えて、人型の形へと変わっていった。


 それらは光の鎧を装着して、光の剣を握っている。


 三体の光の騎士が具現化された。


 英雄は魔術によって、手駒を増やしてきた。


「光の騎士たちよ。行くがよい」


 英雄が命じると、三体の騎士たちが剣を構えて走り出す。


 その身のこなしは迅速で力強さがある。英雄スレイドほどではないにしても、かなりの強敵だ。


「あの騎士たちは俺と静音で押さえる」


「鉄真は、あいつをやっつけて」


 友則は真正面から駆けていき、三体の光の騎士に向かって大剣を叩き込んでいく。

 

 しかし三対一では、まともに打ち合っても長くは持たない。


 そこで距離を置いたところにいる静音が杖を構えて、【支配の糸】を発動させた。杖の先端から複数の糸が伸びていき、光の騎士の一体に突き刺さる。鎧の隙間に糸が侵入し、騎士を人形へと変えていく。


 どうやらあの光の騎士たちは、静音よりもレベルが低いみたいだ。


 静音は遠隔で光の騎士の一体を操ると、別の光の騎士を攻撃させる。これで五分以上の戦いができるはずだ。


 他の二体も操れたらいいが、今のところ【支配の糸】で操れるのは一体が限界だ。それに自分よりもレベルの高い相手は操れないので、糸を使って英雄スレイドを攻略することはできない。


「【破滅の鎧】は、ここぞというときまで取っておけよ。前回はアレのおかげで難局を乗り越えられたが、犠牲が出ることになった」


「了解した」


 鉄真の言葉からいろいろ察すると、友則は二体の光の騎士を押さえ込むように大剣を叩き込む。


 静音も人形にした光の騎士を操って友則をサポートしつつ、【氷の槍】を飛ばして援護する。


 光の騎士たちの相手は友則と静音に任せる。 


 鉄真は目の前の敵を殺すことに集中する。




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