4周目 7
「そこの巫女の娘。なにをボーッと突っ立っている? 早くその剣をオレによこさぬか」
英雄が声をかけてくる。そのことに気づくと、魂が抜けたように凍りついていたヨゼッタはビクッとした。
英雄の瞳が映しているのは、おびえているヨゼッタではない。その手のなかにある白銀の王剣だ。
「このオレを長年封じてきた忌々しい剣ではあるが、それは王が持つべき剣。新たな王であるオレにこそ相応しい。王の許しなく手にするとは、盗人たけだけしいな」
英雄の左手にある黒い杖が前に向けられる。その先端が光り出すと、黒々と燃え盛る火の玉が撃ち出された。
鉄真は駆け出す。硬直するヨゼッタの前に躍り出る。
飛来してくる黒い火の玉に狙いをつけて、獣王の大剣をフルスイング。灰色の鉄塊による斬撃。黒い火の粉が辺りに飛び散って、黒炎を打ち消す。
「その子は死なせないって決めたからな。勝手に手ぇ出してんじゃねぇよ。殺すぞ」
「吠えたな、雑兵」
空気が凍りつく。放たれる殺気がさらに冷たくなる。
英雄が高宮鉄真を敵と認識する。
「あの野郎はその王剣を欲しがっている。ヨゼッタは王剣を持って、この場から離れててくれ。あんたを守りながらボスキャラと戦うのは、難易度が高すぎる」
「そのお言葉に甘えさせてもらいます。王剣をあの英雄に取られたら、面倒なことになりそうですから」
ヨゼッタは頭を下げると、封印の間から立ち去ろうとする。
「オレは立ち去ることを許可した覚えはないぞ、娘?」
それを看過するはずもなく、英雄が再び杖から黒い火の玉を撃ち出した。
さっきよりも数が多い。火の玉が立て続けに飛んでくる。
鉄真は前歯を噛みしめると、大剣を振り回して黒い火の玉を打ち消す。高速で連射される黒炎を全てさばききるのは困難だ。スピードが追いつかない。
「そうやっておまえが率先して動いてくれるから、恐怖で竦んではいられなくなる」
灰色の鉄塊が風圧を起こし、飛来する火の玉の群れを消していく。
友則は獣王の大剣を振って、ヨゼッタを守っていた。英雄に立ち向かう鉄真に感化されて、肉体を縛る恐怖心を振り払っていた。
鉄真が笑いかけると、友則もその横顔に笑みを浮かべる。
二人が守ってくれる間に、ヨゼッタは駆け足で封印の間から出ていく。
「英雄であるオレの覇道を阻むか。どうやら先に邪魔な雑兵共を始末する必要があるようだな」
連射されていた火の玉が止まる。まずは鉄真たちから殺すつもりのようだ。
鉄真は英雄を睨みつけて、【鑑定】を発動させる。
【英雄スレイド】
レベル:1000
天界の大戦を生き延びた不滅の三王の一人。
最も多くの王候補を葬った英雄。
頭のなかに説明文が表示される。
「ついにレベル1000を超える敵が出てきやがったか」
だけど格上を相手にするのは初めてのことじゃない。これまでのように仲間たちと協力して、勝利をつかみ取ってみせる。
「数で勝っていると考えているのならば、それは誤りだぞ」
英雄が左手に握った黒い杖を天にかかげる。先端が金色の輝きを発すると、その輝きが三つに分かれていき英雄の周りに落ちてきた。
三つの輝きは拡大していくと、手足が生えて、人型の形へと変わっていった。
それらは光の鎧を装着して、光の剣を握っている。
三体の光の騎士が具現化された。
英雄は魔術によって、手駒を増やしてきた。
「光の騎士たちよ。行くがよい」
英雄が命じると、三体の騎士たちが剣を構えて走り出す。
その身のこなしは迅速で力強さがある。英雄スレイドほどではないにしても、かなりの強敵だ。
「あの騎士たちは俺と静音で押さえる」
「鉄真は、あいつをやっつけて」
友則は真正面から駆けていき、三体の光の騎士に向かって大剣を叩き込んでいく。
しかし三対一では、まともに打ち合っても長くは持たない。
そこで距離を置いたところにいる静音が杖を構えて、【支配の糸】を発動させた。杖の先端から複数の糸が伸びていき、光の騎士の一体に突き刺さる。鎧の隙間に糸が侵入し、騎士を人形へと変えていく。
どうやらあの光の騎士たちは、静音よりもレベルが低いみたいだ。
静音は遠隔で光の騎士の一体を操ると、別の光の騎士を攻撃させる。これで五分以上の戦いができるはずだ。
他の二体も操れたらいいが、今のところ【支配の糸】で操れるのは一体が限界だ。それに自分よりもレベルの高い相手は操れないので、糸を使って英雄スレイドを攻略することはできない。
「【破滅の鎧】は、ここぞというときまで取っておけよ。前回はアレのおかげで難局を乗り越えられたが、犠牲が出ることになった」
「了解した」
鉄真の言葉からいろいろ察すると、友則は二体の光の騎士を押さえ込むように大剣を叩き込む。
静音も人形にした光の騎士を操って友則をサポートしつつ、【氷の槍】を飛ばして援護する。
光の騎士たちの相手は友則と静音に任せる。
鉄真は目の前の敵を殺すことに集中する。




