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4周目 6




「ここが封印の間になります」


 ヨゼッタに連れられて、秘境の奥へと足を運ぶ。


 光沢する白い石の地面がひろがり、いくらか暑さが緩和された冷たい風が吹きつけてくる。


 その中央には、太陽の光をあびて輝く白銀の剣が突き立っていた。


 目にしただけで、尋常な剣ではないとわかる。神聖なものを前にすると、思わず膝をついて頭を垂れたくなってしまうような、あの感じ。それがあの剣から感じられる。


「伝説の剣だけあって、他の武器とはオーラが違うな」


 友則は息を飲みながら天空の王剣に見入っている。あの剣を入手しなければラスボスに対抗できないとわかっているのに、触れていいものなのかためらっている。


「天空の王剣は、世界の神意と通じています。みなさんが畏敬の念を抱くのも無理のないことです」


 ヨゼッタは落ち着いた声で語りかけてくると、王剣のもとに歩み寄っていく。


 鉄真もその後に続く。友則と静音も、少し遅れてついてくる。


「巫女の一族も、必要でないかぎり王剣に触れることは許されていません。英雄が目覚めたら一大事ですので」


 王剣の前まで来ると、ヨゼッタは立ち止まる。


 今はどうしてもその剣が必要なときだ。不滅の三王を起こすことになるとしても、手にしないといけない。


 ヨゼッタは金色の瞳を三人に向けて、問いかけてくる。


「王剣を抜きますが、準備はよろしいですか?」


「あぁ、いつでもいいぜ。ここに来たときから意識は切り替えている。英雄ってのがどんなヤツだろうと、確実に息の根を止めてやる」


「英雄よりも、鉄真のほうがおっかない」


 鉄真が不敵な笑みを浮かべて即答すると、それを近くで見ていた静音は少しホッとしたようで軽口を叩いてきた。


【アイテムボックス】からそれぞれの武器を取り出す。鉄真と友則は獣王の大剣を、静音は氷魔術師の杖を握りしめる。


「では、封印を解きます」


 ヨゼッタは王剣に手をそえる。両手で柄を握ると、ゆっくりと引き抜いていく。


 白銀の剣が、地面から抜かれる。


 ――目の前が輝きに埋めつくされた。


 王剣から、黄金の輝きが津波のようにあふれてくる。

 

 地響き。足場が揺れている。


 王剣が地面から離れたことで揺れは一掃激しくなり、轟音が響く。


 そんななかで、鉄真は足を踏ん張らせて体の姿勢を保ち、いつでも戦えるように己を研ぎ澄ましていた。


 やがて地響きが小さくなっていく。揺れが収まる。


 封印の間が静まり返った。


 前方には、白銀の王剣を引き抜いたヨゼッタがいる。


 その更に奥では、土煙が立ちこめていた。


 足音する。金属音をともなった足音。鎧の音だ。


 土煙のなかから、獅子を彷彿とさせる金髪の青年が姿を現した。秀麗な目鼻立ちをしていて、緑色の瞳がこちらを見つめている。


 長身の体には漆黒の鎧を装着しており、右手には黒い剣を、左手には黒い杖を握っている。どちらの武器も禍々しい気配がする。


 この男がいるだけで、大気が悲鳴をあげているような強いプレッシャーをかけられる。人形使いや獣よりも、遙かに格上の生物だ。


「――――ふ、ふふふ」

    

 英雄の唇がほころび、笑った。


「ふ、ふふふふ、ふはははははははははは!」


 歌うように高らかに笑い声を響かせてくる。


 その様子に、友則と静音とスレッタは呆気に取られる。


「どうした、雑兵ども? 英雄であるこのオレが再び天の地へと舞い戻ったのだぞ? 歓喜し、笑うがいい」


 男は笑い声を噛み殺しながら、語りかけてくる。自分の封印が解かれたのは祝うべきことだと、本気で信じている。


「それともオレの機嫌を損ねて死にたいか?」


 笑いながら放たれる殺気。それは凍土の吹雪さながらに冷たく、向けられた者の身を竦ませる。


 巫女たちの言いつけは正しかった。三日目の夜になってもヨゼッタが王剣を抜かなかった判断も正しい。


 この男は、決して解き放ってはいけない存在だ。


「ようやくオレが新たな王として天の地を統べるときがきたようだな。天界の大戦は中途半端な幕引きとなかったが、今こそ玉座に着いてやろう」


 天の地の新たな王となる。


 それは天界の大戦で決めようとしていた、何百年も前の出来事だ。現在の天の地で生きている者たちにとっては昔話でしかない。


 だというのに、この男はその続きを行おうとしている。


「見た目は俺らよりもちょい上っぽいが、王候補に選ばれて神意の力の一部を授かっているから長生きできるんだったな。中身はジジイってわけだ」


 英雄に殺気を向けられたら、誰もが等しく体と心を凍りつかせる。刃向かおうとする者などいない。


 だというのに、例外がいた。


 高宮鉄真は全身に殺意をまといながら、伝説の英雄と反目する。


「一体いつの話をしてんだよ? そんな大昔のことを持ち出されても、ここにいる連中からすればいい迷惑だ。だいたい人形使いも獣も、もう始末したんだ。天界の大戦なんてもんは、とっくに終わってんだよ」


「……どうやら一匹、しつけのなってない雑兵がいるようだな」


 緑色の目が細まり、冷たい殺気がひろがる。


 鉄真は腰を落として心静めると、いつでも動き出せるようにする。殺し合う準備はできている。


 ……クスリ。英雄が笑った。刃向かってくる鉄真のことをおもしろがるように。


「露払いが済まされたのであれば、もはやオレこそが天の地に君臨する王ということだ。あとは目覚めようとしている夜闇の王を滅ぼすだけか」


「あの女のことに、気づいているのか?」


「当然であろう。貴様が言ったように、このオレの身には神意の一部が宿っている。それを通して、夜闇の王のことは感じ取っている。地上を震撼させた厄災を殺し、天空の王すら成しえなかった大業を成してやろう」


「……イカレてんな、こいつ」


 精神は正常のようだが、思考がまともじゃない。


 勝手に天の地の王を名乗り、あまつさえ夜闇の王と戦うつもりでいる。


 すぐにまた眠らせたほうがよさそうだ。ただし次は永遠に起きることがないように、封印ではなく息の根を止めて。




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