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4周目 4




 二日目の朝を迎えると、魔女の森を抜けた先にある道をひたすら歩いていく。


 三周目の最後に来たときは真っ暗だったので気づかなかったが、森の先には金色に輝く草原がひろがっていた。黄金を溶かして垂らしたような草花が地面を埋めつくすほどに生い茂っていて、風に揺れている。


 美しくも壮大な景観に感動がこみあげる。これが本物のゲームなら、この眺めはアーネルを倒したプレイヤーだけが見れる報酬だ。


 だけど、のんきに胸をときめかせてはいられない。草原のなかには、金色の騎士という名前そのまんまの金ピカ鎧を装着した敵がうろついていた。


 外見は派手だが、大幅なレベルアップを果たした鉄真たちからすれば大した敵ではなく、簡単に倒せた。


 なので静音の【支配の糸】の練習台になってもらう。魔女の森でも虫相手に何度か使ってみて判明したことだが、この魔術はかなり扱いが難しいようだ。


「伸ばした糸を突き刺して操ると、精神力が削られるし、MPも減っていく。思考がごちゃごちゃして、頭のなかがわけわかんなくなりそう」


 というのが、実際に使用してみた静音の感想だ。


 やっぱり俺向きのスキルじゃなかったな。鉄真は改めてそう思う。


 ちなみに、自分よりもレベルの低い相手でなければ糸を刺しても操れないという制限があるようだ。格上相手には通じない。


 それに今のところ糸を使っても一体くらいしか操れない。アーネルのように複数の魔物を同時に操るのはまだ無理みたいだ。操作できる数を増やすには、静音がレベルアップする必要がある。


 そうして金色の騎士を倒しながら草原を進んでいくと、やがてその場所が見えてきた。


 卵を真ん中で切ったような半球状のものが並んでいる。白い石の建物だ。それが密集していて、一つの村落のようになっている。


 近づいていくと、その異常性に気づく。


 物音がしない。誰の声も聞こえてこない。生活感がない。


 人間の気配というものが感じられなかった。


 閑散としたその場所に踏み入ると、耳を打つのは鉄真たちの足音だけだ。


 そして踏み入る際に、薄い膜に包み込まれるような感覚があった。どうやらこの場所にも神意の像があって、結界で守られているらしい。


 それに無人というわけではなかった。


「ようこそ、巫女の秘境へ。来訪者の皆さん」


 ウェーブのかかった銀色の長い髪に、金色の瞳をした少女が、胸の前で両手を組みながら出迎えてくれた。


 生きているヨゼッタの姿を目の当たりにすると、鉄真は胸のあたりが温かくなる。


 よかった。ここが巫女の秘境で間違いないみたいだ。


 こうして二日目の明るいうちからヨゼッタに会えたのは、大きな進歩だ。


 友則と静音にもヨゼッタのことは話していたので、その外見から彼女がそうなんだと理解したようだ。


「そっちは初対面だろうが、俺にとっては四度目の対面になる。まともに話せたのは、今のところ三回目のときだけだな」


 鉄真が笑いかけると、ヨゼッタは金色の目をパチクリとさせる。 


 目元を持ちあげて瞳を細めると、鉄真のことを見下すような眼差しを向けてくる。


「何をほざいているのでしょう、このアホウは?」


「……口悪いな。おまえ巫女なのに、本性はそんな感じなの?」


「失礼。あまりにもアレな発言に、少し口がすべってしまいました」


「少しじゃねぇだろ。思いっきり罵ってただろ」


 ヨゼッタは無表情のまま鉄真のことを見てくる。無表情だが面倒くさそうというか、心のなかでため息とかついていそうな顔だ。


「……本当に申し訳ないと思っています」


「本当に申し訳ないと思っているやつは、そんな澄まし顔でスラスラと言葉が出てこないもんだぞ」


「今のは鉄真が悪いよ」


「彼女の言動もどうかと思うが、初対面で説明もなしにさっきみたいなことを言われたら、誰だって困惑するだろ」


「いや、そうだけど。ついうれしくてな」


 ガシガシと頭を掻くと、とりあえず鉄真は話を進めるために二度目の自己紹介をする。鉄真に続くように、友則と静音も名乗っていた。


「わたしはヨゼッタ。世界の神意を崇める巫女の一族です。その最後の一人になります」


 鉄真たちが名乗ると、ヨゼッタも自分の素性を明かしてくる。鉄真にとってはこれを聞くのは二度目だ。


 お互い自己紹介を終えると、この場にはいないユイナのことについて尋ねてみた。


「えぇ。その亜麻色の髪をした。偉そうな少女とは数日前に会っています。魔女の森を抜けて、あなた達がいる平原のほうに行ったときに」


「そのことはもう前の周のあんたから聞いている。平原でユイナと会って、五人の来訪者のことや、そのなかの誰かの願いによって、俺たちが天の地に招かれたことを話したんだよな」


「……前の周のわたしというのがどういう意味なのかはわかりませんが、わたしがユイナさんと会っていたことを知っていたのですね」


 ヨゼッタは顔をそむける。なんだか、つまらなそうに唇をとがらせていた。


 もしかして、ユイナのことや、五人目のことを鉄真たちに話して驚かせたかったのだろうか? 


 だとしたら話の腰を折ってしまい、悪いことをした。


 だが今は一刻も早くヨゼッタからいろいろ話を聞いて、夜闇の王を倒すために王剣を入手しないといけない。


「ユイナを説得してみたけど、協力は得られなかった。あいつはこの世界をクリアしたくないようだ」


「それは残念です。優れた実力を持った人だと見受けられたので」


 そのことは鉄真たちが誰よりもよく知っている。


 もともと実力のあるユイナだ。【レベルループ】で経験値と装備品を引き継いだことで、現在の強さは相当なものになっているはずだ。


 屋上で赤黒い刀を取り出してきたときに、その力の一端を垣間見た。


 だからこそ、パーティに連れ戻せなかったことが惜しまれる。


「にしてもあんた、よく一人で魔女の森を抜けられたな。あの森を迷わずに抜けることができるって、前の周では言っていたけど」


「人形使いは、最愛の夫の命を奪った英雄を憎んでいます。巫女であるわたしの一族が、その英雄を封印したので感謝しているようです。わたしが魔女の森を訪れた際は、立ちこめる霧を晴らしてもらっています」


 道を間違えたらスタート地点に戻される極悪ギミックを解除された状態で、ヨゼッタは森を抜けていたようだ。


 巫女の一族である自分には危害を加えないという関係を、ヨゼッタは上手く利用していた。


「……なにそれ、うらやましい」


「そうですか。それはよかったです」


 前の周で何度も森のスタート地点に戻された苦痛の時間を思い出して、鉄真は恨めしげな目をする。


 ヨゼッタは、ちょっとだけ誇らしげだ。


「あなた達がここまで来たということは、人形使いと獣王は討たれたのですね」


「あぁ、やらないとこっちがやられていた。だから力ずくで通させてもらった」


「彼女の精神状態を思えば、わたしのように特別な関係でないかぎり、武器を抜かずに通るのは困難でしょう。致し方ないことです」


 人形使いアーネルと獣王ガブス。二人の魂が無事に天に昇ることを祈るようにヨゼッタは目を閉じる。


「人形使いも獣王も、天界の大戦によって狂わされた哀れな者たちです。あなた達に討たれたのは、救いだったのかもしれません」


 そうつぶやくと、ヨゼッタはまぶしい日差しが降りそそぐ青空を仰いでいた。




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