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3周目 3




 腕鳴らしに戦った隻眼の騎士、魔剣士、巨人の騎士、氷の魔術師は前回よりも楽に撃破することができた。


 鉄真のレベルも325まで上がる。


 それに二周目でドロップしたものと同じ武器を、また入手することができた。


 その後は、学校から西に進んだ先にある魔女の森にやって来て攻略を開始した。


 ……というのが、一日目である昨日の昼下がりのこと。


 今は二日目の真昼。鉄真たちはグッタリしながら、魔女の森の入り口のそばで腰を下ろしている。【アイテムボックス】に入れてきた学食のパンを食べて、小休止を取っていた。


 真夏のように暑い日差しに当てられて、汗が頬をつたっていく。セミの鳴き声を思い起こさせる虫たちの合唱が、森のほうから響いてくる。


 近くには神意の像が立っているので、学校と同じく結界によって守られている。この辺りに魔物が近寄ってくることはない。安心して食事を取れる。


 鉄真は手にしていた焼きそばパンにかぶりつく。甘酸っぱいソースの味とやわらかな食感が口のなかでまじわって空腹を満たす。 


 ほどよい疲労は食事を美味くするが、さすがに何日も学食のメニューやパンばかりだと飽きてくる。


 せっかくゲーム世界に来たのだから、ここにしかないものを食べてみたい。そう思って一度だけ樹木に実っていた赤い果物をちぎろうとしたら、友則に止められた。


「食べれば目から火が出るぞ。リアルに」

 

 そう言われたので、食べるのをやめた。世界観こわすぎだろ。


 もそもそと小さな口を動かしてクリームパンを食べている静音は、ごくりと喉を鳴らして飲み込む。そして鉄真のほうを横目で見てくる。不満全開の眼差しだ。


「並んだ木立の三つ目の隙間だって、わたし言ったのに。なんで言うとおりにしなかったの? 鉄真のせいでまたやり直しだけど?」


「それについてはごめんねってさっき謝ったじゃん? もう何回も謝ったよね? ねぇ、俺もう謝ったよね? ねぇ?」


「世の中には謝って済む問題と、そうじゃないことがあるから」


 静音がジトっとした目つきになって、冷ややかな視線をそそいでくる。


 まちがった道を選んでしまったのは鉄真なので、非は自分にある。言い返せずに、グヌヌヌと唸ることしかできない。

 

 そんな二人を見かねて、友則が仲裁に入ってくる。


「二人とも、食事は仲良く取りなさい! ごはんが美味しくなるなるでしょ!」


「……怒られた」


「かーちゃんかよ?」


 友則に叱責されたので、二人ともこれ以上の口論は控えることにした。


「それから静音。さっきから食べているのは菓子パンばかりじゃないか。ちゃんと肉や野菜も食べないと体によくないぞ」


 友則が食事について注意すると、静音は頬をむくれさせてそっぽを向く。これは絶対に言うことを聞く気がないやつだ。


 静音は食料を【アイテムボックス】に入れる際に、甘いものばかりを好んで選ぶ傾向がある。栄養とかは度外視だ。


 ちなみにユイナは、学食に置かれているスモークサーモンやローストビーフが挟んであるパンなど、高価なものばかりを持っていく。先に取られてなくなっていると、鉄真は地味にショックだったりする。


「魔女の森が一筋縄でいかないことは覚悟していたが、まさかここまでとはな」


 友則は手にしたコロッケパンをかじると、疲労感のにじんだ面持ちで魔女の森を見やる。


 森のなかは鬱蒼とした木々が生えていて、白いミルクのような濃霧が立ち込めている。


 鉄真たちは昨日から三十回以上は森のなかに入っているが、いまだに抜け出せていない。この森には、決まった道順で進まないとスタート地点まで戻されるというギミックが仕掛けられている。


 それに森のなかは分かれ道が多くて、出口までの道のりが長い。この道で正解だと思ったら、記憶違いで間違っていることがある。そこにでっかいアリや蜘蛛といったレベル300クラスの虫系の魔物が襲いかかってくるので、悪夢のようなステージだ。


 何度も道を間違えてスタート地点に戻された。野宿を挟み、二日目に突入してしまった。でかい虫たちとの戦闘を繰り返してレベルアップしたが、果たして三日目の夜になる前に森を抜けられるのか心配だ。


 人形使いが魔女の森にいることはプレイヤーたちの間でも推察されていたが、ネットワークテストでは森に踏み込んだせいで死んだプレイヤーが続出していた。そしてこの森を抜けたプレイヤーは皆無だ。


「一人でも道を間違えれば、パーティメンバー全員がスタート地点に戻されてしまうとは……。協力型ゲームにおいて最悪のギミックだな。鉄真と静音が口喧嘩をしていたように、この仕掛けは集団の輪を乱す。まさに呪われし森だ」


 先ほどの鉄真と静音よろしく、この森に入ったプレイヤーたちは険悪な空気になっただろう。魔女の森の仕掛けを考案したヤツは、とても素晴らしい性格をしている。悪い意味で。


「それでもやるしかないだろ。攻略情報があれば見たいところだが、あいにくそんな便利なものはない。だったら自分の足で情報を稼ぐだけだ」


 鉄真はパシッと膝を叩く。この足があるかぎり、立ち止まるつもりはない。


「……鉄真」


「なんだ?」


「さっきはごめん。責めるようなこと言っちゃって」


 ボソボソと静音が小声で謝ってくる。


 まさか頭を下げてくるとは思っていなかったので、鉄真はキョトンとなる。


「あ~、まぁ悪いのは道を間違えた俺だしな。それにこの森のせいでストレスがたまっていたんだろ? 仕方ないさ」


 気にしてないことを伝えるために笑いかける。


 すると静音も表情をやわらげた。


「また鉄真がミスをしたら、たぶん責めるだろうけど、そのときは気にしなくていいよ」


「責めんのかよ」


 そこは優しくしてほしい。傷つくから。なるべく不用意なミスをしないように肝に銘じておこう。


 鉄真が困った顔をすると、静音はおかしそうに口元をゆるめていた。





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