2周目 終
満天の星空がそこにあった。
現実世界と違ってここには雑多な建物がない。遮るものが何もないから、夜空を彩る星々がよく見える。
ここは空に浮かんでいる島だから、きっとどこよりもあの星たちに近いはずだ。
「…………」
静寂な平原のなかを歩く。日が高いうちは魔物たちの姿が散見されたが、もうソレらはどこにも見当たらない。みんな消えてしまった。
全身が真っ黒で、ドロドロに粘ついたモノに殺されてしまった。
一人っきりで前に進んでいく。歩く度に傷口から血がこぼれる。生命の数値であるHPが減り続ける。
三日目の夜に結界が崩壊するのはわかっていたので、今回は最初から学校にはいなかった。
学校から離れた洞窟の奥に待機していたが、そこにもヤツらは現れた。どこからでも湧いてくるようだ。
一周目よりも遙かに強くなっていたから戦うことはできた。しかしそれも最初のうちだけだ。もっとレベルの高い闇の眷属たちが新たに出現してきた。
仲間たちと必死にレベリングしたが、足りてなかった。
それから洞窟を出ても、闇の眷属たちは襲ってきた。
「……すまない。もしも続きがあるのだとすれば、次の俺に託す」
そう言って、友則は倒れた。
一緒にその言葉を聞いていた静音は「ありがとう」と鉄真に感謝を伝えてきた。
どうしてそんなことを言うのか尋ねてみたら……。
「鉄真、わたしたちのためにがんばってくれたから。二回目だから、わたしたちよりも辛かったよね」
鉄真のことをねぎらうと、静音はやさしく微笑んでくれた。
それが静音が見せた最後の表情だった。そのまま静音は動かなくなった。
満足なんてしていない。ぜんぜんこんなんじゃ納得できない。
それでも、静音が笑ってくれた。ありがとうと、言ってくれた。
がんばって良かった。そう思えた。
ユイナは……一日目に別れた後から、学校には戻ってきていない
今頃どこで、何をしているのか?
あいつのことだから、死んではいないはずだ。
「……そろそろか」
視界全体が白く濁って、目まいがした。生命の数値であるHPがなくなりかけている。
倒れることはしない。膝を折ることはない。
意地を張るように、最後まで立ち続ける。
夜空を見あげれば、ぽっかりと天に穴が穿たれている。満月を黒く塗り潰したような真円。そこから半透明な光の階段が伸びている。
生温かな風が吹いて、ザワザワと草木が音を立てている。
遠くのほうで、銀色の髪が揺れたような気がした。
「……そんなに離れてたら、【鑑定】できねぇよ」
今回はまともに出会うこともできず、近くで顔を見ることすらできなかった。
――夜空が引き裂かれる。
空の割れ目から、ドロドロがこぼれ落ちてくる。
とめどなくあふれ出てきて、止まらない。
天の地にソレがひろがっていき、全てを呑み込んでいく。
まもなく終焉がもたらされる……。
『ゲームオーバーを強制的にキャンセルします』
『【レベルループ】を発動します』
『『隻眼の騎士を撃破』『魔剣士を撃破』『巨人の騎士を撃破』『氷の魔術師を撃破』』
『以上の項目を達成しました。報酬として経験値が与えられます』
『――――コンテニューします』
…………どうやら、またやり直せるようだ。
高宮鉄真の冒険は、まだ終わらない。