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最後の騎士  作者: 槍の人。


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第六幕:「名と町と将軍」


第六幕:「名と町と将軍」



大陸の北の端には北方諸国、または北方9王国と呼ばれる文字通り大小9つの王国が興り、時の流れの中でその国境を変化させながらも新たに興る事も滅びる事も無く、9つの文化が根付いた。

状況に変化があったのは100年ほど前、大陸の中央に位置する資源にも農地にも恵まれた1つの王国がその名を帝国に改め、周辺諸国を瞬く間に飲み込んだのだ。

その後も帝国の拡大は続き、遂にはパルデニア湖とそこから海へと至るパルダベンデ川を挟んで南側の地は帝国のものとなった。

幸いにもこの湖の水深は深く雪解け水の流れ込む先であった事から水温も極めて低く、流れ出る川幅も広く流れも穏やかとは言えなかった為、渡河には大掛かりな船の準備が必要であった。

この天険とも言える守りと、未だ大陸の東や西では帝国に抵抗を続ける国々があった事から、帝国の興味が北へと向かう事は無かったのである。

それでも北方諸国の国王たちは帝国の脅威を間近に感じ取り、同盟を結んで互いに不可侵と定め、外からの侵略には協力して対抗する盟約を結んだのが80年ほど前の事だ。


帝国と水を介して間接的に国境を接していたパルデニア王国が帝国の奇襲を受けたのは昨年の事で、長い平和の油断からか事実上初の侵略であったからか各国の対応は遅れに遅れた。

同様にパルダベンデ川流域に国土を持つ軍事大国ゼルゴニアでさえも、自国南部の防衛と再編に追われ援軍の派兵を決めた頃にはパルデニア王都陥落の報が届くといった有り様であった。

侵略を受けた際にはゼルゴニアこそが軍事大国として北方諸国の中核となり北の地を守ってみせようと、そう豪語していたゼルゴニア王の面子は見事に潰された形である。

彼にとっての救いは、パルデニア王国が最後に呪いを残し、侵略者をその地で食い止めた事で万全の防衛体制を整える時間を得られた事くらいか。

そんなゼルゴニア王国の西部、サンカニア王国へと至る細い街道上に設けられた砦では小規模な戦いが起こっていた。


「貴様、名は何という!その腕で無名という事はあるまい!」

「パルデニアの騎士ルドガー、しっかり覚えておけ下衆が!」

「ははっ、では無名では無く無職という訳だ、亡国の騎士がここで何をしている!」

「“亡国”では無い!訂正しろ!」


怒りと共に打ち込んだ剣は鋭く決して悪い攻撃では無かったはずだ。

だが相手の巨漢はすくい上げるように戦槌を振るいルドガーの一撃をあっさりと弾き返して見せた、とんでもない馬鹿力である。

そのままついでにと振り下ろされた得物によってルドガーの足元にはくっきりとその跡が分かる程に窪んだ地面が残る。

あんなものをまともに食らったら鎧など簡単にへしゃげてしまうだろう、金属製の大楯を構えたとて凌ぎ切れるかは微妙なところだ。


「はっ、その誇りだけは買うがな、ではパルデニアの騎士ルドガーよ、己の無力を嘆いて死ぬがいい!」

「黙れ!」


再び凶悪な一撃を見舞うべく振り上げられた戦槌は、しかしその顔のすぐ横を風切りルドガーの足元に突き立った矢によって頭上で動きを止めた。

対してルドガーはまずはその大振りな攻撃を避けてからの反撃を企図し、いつでも後方へと飛べるように重心を後ろへと倒しかけていた事と、飛来した矢への驚きもあってそのまま尻もちをつくように倒れた。

その様子を見て慌てたのは壁上から矢を射った本人である。


「あ、すまん怪我は無いか!当てるつもりは無くて、仲裁の為に最初から地面を狙った矢で本当にお前を狙って射ったものではなかったんだ!頼む、怒らないで話を、話を聞いてくれ!」

「話を聞いて欲しいのはこっちだ!何なんだこの砦は!!」




時間は少し遡って、モニカとルドガーがサンカニア王国を出立する頃にまで戻る。

サンカニア王国の王都バロアーゾサンカニアはお祭り騒ぎを終え、今後の食料をどうするのか顔を青ざめさせていた。

突然の王の結婚発表があり、キストニア王国のハンゲルホーン王を迎える為に用意されていた料理や装飾がそのまま祝いの席となったのがそもそもの問題か。

ハンゲルホーン王曰く「めでたい、ならば祝え!丁度ここには酒も料理も、見届ける臣下たちも揃っておるではないか」と。

ついでに決まりは無いが王族の婚儀には慣例として北方諸国の他の王族が呼ばれ出席するのだが、そう、そこにはキストニア王たるハンゲルホーンが居たのだ。

めでたい話などついぞ無かった王都はこの降って湧いた出来事(ハンゲルホーン王の来訪だけでも大事だったのだが)に沸きに沸き、数日に渡って民も傭兵たちも散々に祝って祝って祝い尽くした。

結果、当然のように物資不足が深刻化したのである。


「では、上手くいくかの保証は無いがキストニア国内での作業はハンゲルホーン王自らが請け負ってくれたのだ、その意を汲んでくれるな?」


サンカニア王とキストニア王の2人を前にして、この話に否と言える傭兵団長は居なかった。

サンカニア・キストニア連名での遠大な開拓計画の成功を前提に、将来豊かになったサンカニア国内に土地を割譲するという条件で、集っていた6つの傭兵団全てが正規軍となったのである。

これにより正規軍騒動の根本的な問題は解決したのだが、現在進行形で発生している王都周辺での食料品を中心とした物資不足だけはどうしようもなかった。

その為すぐさま正規軍の国内各地への分散配置が決められ、その中でも国境付近に建築される村砦への大規模な移動が早々に実施される事になったのだが。


「はは、この俺が正規軍とはなぁ、出世したのか早まったのか」

「頼みますよダンゲラ隊長、サンカニアとアルタニアを結ぶ街道を管理する大事な役割ですよ」

「隊長か、そう言われる事もあったがやっぱり団長の方がしっくりくるんだよなぁ」


珍しくぼやくダンゲラだが、それもそのはずで元々彼と彼の率いる灰色狼傭兵団はアルタニアでの仕事が無くなったから次の仕事を求めてサンカニアを移動していただけであり、ベルメナム家に雇われたのも領内の警備と領兵の訓練という小銭稼ぎ程度の契約だったのだ。

だが今回の騒動の流れの中で、ロトナム家とケンラシア家に雇われていた傭兵団と同列に扱われてしまい、2王を相手に俺たちは違うと言い出せず気付けばサンカニア軍の仲間入りである。

それでも離脱者は数名で他の団員たちは残った事から決して悪い話では無かったといったところか。


「ま、せいぜい解雇されない程度には頑張るさ、解雇で傭兵団に戻ったところで信用はガタ落ちだろうしな。おうクラッサ!この嬢ちゃんたちを頼むぜ」


ダンゲラに呼び止められた元傭兵団長の女隊長は苦笑しながら任せろと言った、お前たちとは信用の度合いが違う、とも。

掴みかかろうとするダンゲラの事を他の新米隊長たちも笑っていた事から、灰色狼傭兵団がやはりあまり上品な集団では無かった事が伺えた、やはり。

そうしてモニカとルドガーは、サンカニアとゼルゴニアとの国境付近に新設される村砦の担当となったゼルゴニア出身の元クラッサ傭兵団の面々と共に東へと旅立つ事になった。

パンザニット村の人々と共に宿場町の改装と復旧に従事する事も考えたのだが、今はまだ人手は必要無いと言われたからだ。

彼らが忙しくなるのは北から風と水が、緑と鳥たちが渡ってきてから、必ずその日はやって来ると信じその時こそ共に汗を流そうと約束して。


「リムナリア王妃には別れの挨拶を出来ましたが、リリスティアニア様やリンデルシア様には会えませんでしたね」

「仕方ないわよ新しい事ずくめで皆忙しいんだから。それにしても慣れないわ、リムナリアが王妃…ついこないだまで可愛いだけの妹だったのに」

「いや本当の妹でも無いでしょう、と言うか可愛いだけって失礼ですよ、相手はもう一国の王妃なんですからね?」

「それくらい気安い仲なんだからいいのよ、私にとってリーナは可愛くて素敵な妹、それでいいの」


なんだかなぁと思うがこれ以上反論しても何も良い事は無いと学習しているルドガーはため息を吐いて引っ叩かれた。

どうやら「なんだかなぁ」と思いっきり顔に出ていたようで、やはりまだまだ未熟である。


「それで、行ってどうしようって言うんですか、ベンデュリア王国。こっちはパルデニアの王族だって名乗れないんですよ?」


リムナリアがサンカニア王エジムと結婚し、リムナリア・サンカニアとなった事でモニカたちの領主補佐官の役目も解かれた。

病床のベルメナム家当主に代わり彼らの師であるソラムが政務に復帰し領主代行となった為、補佐官を置く必要性が無くなったのだ。

その結果当面の目的が失われたのだったが。


「そうなんだけど…ほらルドガーが“あの子”に世話になった事がある、とかそんな感じで」

「そんな雑な…相手は王族なんですよ?って何かこんな事ばっか言ってるな俺」


ベンデュリア王国は北方9王国の中でも東部に位置する小国で、古くはゼルゴニアに対抗するため近隣の3小王国で連合を組んだ東部連合国の一角であった。

パルデニア湖から流れるパルダベンデ川の河口にあり、「パルデニアからベンデュリアへ」というその川の名前の由来にもなっている小さいながら歴史ある王国である。

川の名前の縁もありパルデニア王国とは以前から良好な関係を築いていたが、数年前にはこの国の王女がパルデニア王国の重臣の家へと嫁いだ事で特に緊密な関係にあった。

そう、レモニカ王女のもう一人の妹の生まれ故郷である。


「きっと国に手紙を送ったりはしてたと思うけど、パルデニアに来てからどんな様子だったかとか知りたいと思うの、だから少しでも伝えられたらなって」

「その気持ちは分かりますが…まあ悩んでも仕方ないか、どうせ補佐官を解任されて無職ですしねハハハ」


当然ながらルドガーは脇腹を抑えてうずくまる事になったが、いつも通り自業自得だろう。

そうしてゼルゴニア王国を越えた先、遥か東のベンデュリア王国を目指す旅は始まったのだったが…。




「すまん、本当にすまん、何と言ったらいいか…本当に本当にすまん!」

「いや、貴女が謝る事じゃないですし」

「そうだな、嬢ちゃんが謝る必要なんてないだろう」

「おっさんは謝れよ!!」


豪快に笑う(が謝らない)巨漢の男をルドガーは好きになれそうに無かった。

何だかんだ真面目で若い彼からすると、一番苦手な笑えない冗談を勢いと共に放り込んでくる厄介だが実力のあるタイプの老が…ベテランに見える。

そしてそれに輪をかけて厄介なのが、その巨漢がこのゼルゴニア最西端の砦の副将という地位にある事だ。

そもそも何故こんなにも面倒な事になっているかと言えば、東へ向かい国境を越えたモニカとルドガー、そして女隊長のクラッサたちがこの砦を訪れた事にある。

クラッサはゼルゴニアとの国境付近に村砦を新設する事を通知する文章を携え、モニカはゼルゴニア国内への入国証明を申請する為に、代表してこの2人が砦に入ったのはもうだいぶ前になる。

出て来るのが遅いのを心配したルドガーやクラッサの部下たちが砦に入ろうとするとこの巨漢が行く手を塞ぎ、俺に勝ったら通してやるなどと言うではないか。

それに応じず状況を確認したいだけだと申し出たルドガーに返って来た返事は「話し合いはもうすぐ終わる、まぁ体のどこで話しているかは分からんがな」であった。

挑発にしっかりと乗った若きルドガーとクラッサの部下たちが剣を抜き、待ってましたとばかりに巨漢と幾人かのゼルゴニア兵が応じれば戦闘開始である。


「もう副将殿、勘弁して下さい、これではゼルゴニア軍のイメージが…本当にすまなかった!」

「ああいえ、とにかく冗談で良かった、いや冗談でも言って良い事と悪い事があると思いますがね!?」

「何だよちょっと本気を出させる為の演出だろ?ウトガーだって思いっきり戦えて楽しかっただろ?」

「ルドガーです!無駄な戦いは好みません!と言うか北方諸国の仲間に死ねって言いましたよねあんた!?」


幸いと言うべきかルドガーにとっては不幸と言うべきか、巨漢の副将の腕は確かで双方決定打は入らず、また守りの堅いゼルゴニア兵と自分の命も惜しむ元傭兵たちの戦いも程よく膠着した事で死傷者は出なかった。

…出ていたら間違いなく国際問題で下手をすればサンカニアとゼルゴニアとの間で開戦していてもおかしくない重大事だったのだが。


「何だよつまらんな、帝国の奴らも腰抜けのパルデニアじゃなくてこっちに来てくれりゃー良かったのによ」

「黙れよおっさん、結局ゼルゴニアは自国を守るばかりで助けになんて来なかったじゃないか、流石はゼルゴニアの口先王の手下だな」

「小僧…!」

「そこまでだ!!」


またも一触即発、戦闘再開かと思われたタイミングでやって来たのは明らかに身分の高い老騎士とモニカ、クラッサ。

老騎士に一喝され舌打ちをしながら踵を返す巨漢の副将を皆が微妙な表情で見送る。

だがその背中に一番優しい目を向けるのはたった今厳しい表情で退出を促したばかりの、恐らくこの砦の守将と思われる老騎士であった。


「我が部下がすまぬ、許せとは言わぬがあれにもちと理由があってな、あいつの息子が学士としてパルデニアに留学中に事は起こった、我らは進軍の命が出ぬまま貴公の国もあいつの息子も救えなかった、それ以来パルデニアを腰抜け呼ばわりして聞かんのだ」

「…一介の騎士に過ぎない私には戦争の大局がどうであったのかは分かりませんし、家族を亡くしていたとしても暴言は許せませんが、騎士であればこそ命令に従う事の重要さと時にあるその歯がゆさは理解は出来ます」

「ああ、貴公が話の通じるまともな騎士で良かった、私の軍は何処へでも誰が相手でも必要とされれば駆け付ける、だが王命を覆す事だけはしてはならぬ事だ。…それで、王都での戦いは厳しいものだったのかね」

「帝国兵は精強で数も多く戦力差は圧倒的でしたがそれよりも飢えと病が大敵でした、いえそれも帝国によってもたらされたと考えればやはり帝国が強敵だったのでしょう」


老騎士は先ほど自身の副将に向けていたのと同じような優しい目を向ける。

恐らく、サンカニアとの国境付近にあり南に山を越えた先はパルデニアと、地理的にはゼルゴニア国内で比較的戦場に近い位置に駐留していた彼らは救援の準備を整え進軍の命令を今か今かと待っていたのだろう。

結局出る事の無かったその命令と、勝手に動かなかった自らの正しい判断を後悔しているに違いない。


「そうか、情報に感謝する。貴公の従者からは遍歴の騎士として諸国を巡っていた最中の出来事と聞いたが、なるほど王都にいたのだな?」


目を光らせる老騎士の後ろでモニカが暗い光を宿してルドガーを睨み付けていた、間違いなく状況が落ち着いた頃に詰められる事だろう。

これによって会話の主導権を握られたルドガーは、それ以上先ほどまでの無礼や危険な行為に対する文句を言えなくなってしまった。

鬱憤の溜まっていた副将の“実戦形式の訓練”に付き合わされた、記録として残るのはこんなところだろうか。


「まあ今はこれ以上聞くまい、どこで何をしていたにしても貴公らには故国の苦い思い出であろうからな」

「…ご配慮に、感謝します」


死人が出ていてもおかしくなかった事態について文句を言っていたはずなのに、気付けば礼を言って会話を終わる形になっていて、老騎士の経験と実力を思い知らされたルドガーは落ち込んだがその後に待つモニカの雷を思えばそんな事も言っていられない。

そんな泣くに泣けない感情を抱えて砦を後にしたルドガーには、別れと新たな出会いが待っていた。

無事にゼルゴニア側にサンカニア王からの書簡を届けたクラッサとその部下たちは、ここでサンカニアへと引き返し村砦の建造に加わる為お別れである。

そしてここから東、ゼルゴニア国内へと進むモニカたちには新たな同行者が出来たのだ。


「見事に言いくるめられたなルドガー殿、あれではもうゼルゴニアの非礼を責め賠償なりなんなりを引き出す事も出来やしない」

「う、すみませんクラッサ殿」

「とは言ったが、サンカニア王もこの時期にゼルゴニアとごたごたしたくは無いだろう、部下たちが危険な目にあった事だし欲を言えばもう一声チクリと言ってやって欲しかったところだがまあいいさ」

「くうう、すみません」

「相手が悪かったんだよルドガーさん、むしろあのガルロッド将軍相手によく引き下がらなかったと褒めるべきだな!」


その名を聞いてルドガーは目を丸くし、モニカは首を傾げ、クラッサは確かにと笑う。

騎士であるルドガーは他国の名のある騎士を多く知っていたがその中にその名は確かにあった、主にゼルゴニア出身者で構成されていた元クラッサ傭兵団の面々も当然知っていたのだろう。

だが各国の政治的要人は把握していても、軍事的な面でのみ有名な人物には知識が及んでいないモニカは一人仲間外れにされた気がして不満顔である、そしてその不満は当然のごとくルドガーに向けられた。


「そのガルロッド将軍て方はそんなに有名な方なの?将軍なんだからそれはまあ有名なんでしょうけども、何か特別な勲功がおありなの?ってニヤニヤしてないで教えなさいよ!」

「少なくとも私たち傭兵団には…ああ、“元”傭兵団にとっては頼りになる将軍だったのよ、その辺の話、してあげてね」


不満顔のモニカと、嵐の前の穏やかな時間を楽しむルドガーと、ゼルゴニアの輸送隊長キュリッタの明るい笑顔に見送られ来た道を引き返していくクラッサたちは、きっと将来の自分たちの為に立派な村砦を造り上げてくれることだろう。

次にサンカニア王国へと足を踏み入れるのはいつになるか分からないが、そう遠くない未来にまた訪れたいと思っているし、その頃には王国の状況が好転しているとモニカたちは信じている。

勿論、自分たちの状況も好転していて欲しいと願いながら。


「それでは東の国境までの長い道のり、ガルロッド将軍や他のゼルゴニアの名将たちのお話でもしましょうか!」

「流石にその話題だけでは足りないでしょう」

「あら、パルデニアの騎士殿はそんなにゼルゴニアに人がいないとでも?」

「いやそうは言いませんがしかし…」


とても気さくに話し掛けてくれるこのゼルゴニア人の女性は、先ほどの砦で仲裁に見せかけてルドガーを射殺そうとしたと思われていたら嫌だと泣きそうになって無罪を訴え謝っていた射手である。

だが仲裁の為とは言え、味方の顔をかすめルドガーの足元に突き立つ矢を放つなど、相当の自信と実力が無ければ成し得ないだろう。

喜怒哀楽が激しくお喋りでよく動くまるで小動物のような、まるで少女のような、可愛いという言葉のよく似合う…年上のお姉さんである。


「ところでキュリッタさん?本当に東のベンデュリア王国との国境まで送って下さるのですか?その、お仕事は大丈夫なのですか?」

「ああ問題ないよ、と言うかこれが仕事になった!ガルロッド将軍からの正式な依頼だから心配しなくても大丈夫さ」

「将軍が?どうしてかしら、もしかしてルドガーたちとの“訓練”の“お礼”?」

「それもあるかもね、まあ私は輸送任務専門だから、武具や食料なんかの物資以外に人も運ぶのよ、今回だって王都からあの砦まで増員される兵たちを率いて物資と一緒に輸送して来てたの、で引き渡した帰路は手ぶらになってたところだからそれならばって将軍がね」

「ああなるほど、キュリッタ殿はガルロッド将軍の部下と言う訳では無かったのか」

「そーゆーこと、あとそのキュリッタ殿ってやめれる?キュリッタって呼び捨てでいいよ。国が違うと騎士とか戦士とかの格やら扱いやらも違うけどさ、少なくともパルデニア王国の騎士がゼルゴニア王国の兵長相当の私と同格かそれ以下って事は無いはずだから」


ルドガーが殿付けで呼んだのは必ずしも格を考慮しての事では無く、出会ったばかりの人物だし自分たちはゼルゴニア王国にお邪魔している旅人という立場なのを考えての事だったが、ルドガーの方が格上と暗に言いながらも砕けた口調で話を続けるこの女性が普段から誰に対してもこういう態度なのだろうという事は想像出来た。

持って生まれた性格や人懐っこさ、と言うだけでは説明し切れない技術と権限を持ち合わせている事から、貴族階級の家の末子や愛妾の子などだろうか。

少なくとも30歳に満たぬ年齢で、後方支援の輸送隊とは言え力仕事や発言力が必要になるその隊長職を女性で任せられているのは異例の出来事だろう。


「分かったキュリッタ、それで早速だがうちのお嬢様が大変ご立腹でいらっしゃってな、手始めにガルロッド将軍の事を話して貰えるだろうか」

「あははそうだね、見てると騎士と従者って言うより気の強いお嬢様に振り回されるお付きの騎士みたいなんだもん、楽しい旅になりそう!」


ケラケラと明るく笑うキュリッタと、良く分かっていますねとやれやれ顔で応じたルドガーのやり取りは、いつも通りルドガーが悲鳴を上げる結末に落ち着いた。

その様子を見て指を差し更に大声を上げて笑うキュリッタは、ここが野外では無かったなら腹を抱え床を転げ回っていたかもしれない。

ゼルゴニア王国を横断して東のベンデュリア王国へ、その旅の始まりはたった3人とは思えないとても賑やかなものとなった。


ゼルゴニアの友将、ガルロッド

彼についての記述や噂で良く登場する言葉は友情や優しさ、義理堅さなどである。

齢60を超える歴戦の将であり、若い頃から名の知られた優秀な騎士であった。

しかしながら長年の功績によって大国ゼルゴニアの将軍職にあるも、同列の諸将に比べてこれといった戦果の無い特殊な例と言われている。

騎士として多くの前線に立ちながら交戦に至った回数は少なく、また大きな戦いの際にもその活躍の場は敵の撃破では無く友軍の側面や後方の警戒、後退の援護、退路の確保などであったからだ。

一方で例え遠方でも要請があれば駆け付けるなど高い柔軟性と機動力も併せ持ち、その対応の範囲は友軍や自国の民に限らず、傭兵団や国境を越えた先の他国の村にまで及ぶ事もあった。

その行動方針を臆病者と蔑んだり都合の良い駒と表現する者もいたが、そういった血気盛んな騎士や将たちはやがて戦場で倒れ、今彼と肩を並べている将軍たちはそのほとんどが彼に頭の上がらない者たちばかりである。


「有名なのはそうだな、アントライムの戦い…かな?」

「なんで疑問形なんだ、甲乙付け難い戦いが他にもあるのか」

「いや、さっきも言った通りガルロッド将軍には華々しい戦果が無いんだよ、でも確かにそこに居て、他の将や騎士たちがガルロッド将軍のおかげで勝てたって言うから功績はしっかりあるんだ」

「どの戦場でも影の功労者と言う訳か」


素晴らしい人物だと思うと同時に、ルドガー自信が同じような道を目指すかと聞かれれば否と答えるような人物である。

正直、騎士として名を上げるには基本的には戦果が必要となり、また大きな話題となるような行動を取れば異名を付けられ有名人になれるため、多くの騎士はそういった道を目指すのだ。

一騎打ち連戦連勝の不敗騎士や、敵陣を突破し総大将を討った首獲りの騎士などの話は本にもなって今の世に残されている伝説で、多くの騎士たちの憧れである。


「とある領主が隣の領地にて王国への叛意の兆しありと言い傭兵団を連れて攻め込んだんだ、ところが自身が流れ矢を受けるとそのまま自領まで逃げた、直属の部下だけを連れてね、死を間近に感じて恐れをなしたって言われてる」

「酷い領主だな」

「ああ、その後処刑されたってさ。で、撤退命令も無く当初の予定通りに進軍してた傭兵団は敵地深くで孤立して、やがて指揮官不在を知って停戦を持ち掛けたんだが…既に相手側にも大きな被害が出ててね、せめて戦利品をと傭兵団の殲滅を図ったんだ」

「まあ傭兵団を降伏させても大して身代金も取れないだろうし、生かしておいても食料は減るし管理は手間だし禍根を残すしで良い事ないんだよな、身ぐるみ剥いで売り払った方が楽で儲かるのは確かだ」


横で話を聞いていたモニカは顔をしかめたが、口を挟まなかったのはそれが現実というものとして納得はせずとも理解はしていたからだろう。

長らく戦いとは無縁だったパルデニア王国には存在しない価値観で、平和しか知らない民たちならばきっと侵略をした領主と損害分を回収しようとした領主のいずれも非難してしまうのではないだろうか。

だが国土も軍事力も大きなゼルゴニア王国はいわば北方諸国の武器庫の様なもので、領主同士のいざこざや内乱、戦後の治安悪化による賊の跋扈といった話題は定期的にあり、またそういった出来事が結果的に国を強くしたという側面もある事から戦いを良しとはせずとも悪だとは言わない気風がある。

弱肉強食の無法地帯では無いが自身の生活や権利を守る為の自衛力は各々が持つべきと考えられており、その生活圏や個々の主張する権利がぶつかれば必然的に戦いが起こるのはゼルゴニアの伝統とも言えよう。

一方でしっかりとした王制は維持されており、多くの戦いの経験が積み重なった結果、ゼルゴニアの軍は極めて統制の取れた精鋭揃いなのだ。

兵の数と戦術や陣形の運用ならばゼルゴニア、装備の質ならばアルタニア、個々の戦闘能力ならばキストニア、北方諸国で名の挙がる軍事力と言えばこの辺りか。


「だが、この話の流れでその傭兵団がそのまま潰されたって事は無いんだろ?」

「ええもちろんです、停戦を拒否された傭兵団は逃走、追撃を受けながら雇い主や近隣の他領主に保護を求めましたが受け入れられず…」

「雇い主の領主は徹頭徹尾クズだが、まあ他の領主だって厄介事を抱え込みたくは無いだろうなあ」

「そこへ王都から状況監視の為に派遣されたガルロッド将軍の一軍が到着しそのまま傭兵団を守る為に参戦、正当な権利を主張する追撃軍を相手に数日に渡る防戦を続け、戦利品の回収どころかむしろ更に被害の拡大した現地領主が折れたと」

「まあ、それでガルロッド将軍は傭兵たちからの人気があるのね」


手のひらをパチンと打ち鳴らし、その話の結末に嬉しそうな表情を見せるモニカは間違いなくガルロッド贔屓になることだろう。

先ほどの砦で交付された入国確認の証明書にはガルロッドによってサインがなされており、それが改めて嬉しくなる。

実際の所ゼルゴニア国内では清廉なガルロッドの人柄を嫌う者も一定数存在するが、多くは親ガルロッド派であり、特に兵や傭兵団に人気がある事から彼のサイン入りの証明書はきっと役に立つはずだ。

証明書が無くとも国内を移動する事は可能だが、どこの国から来てどの砦を通ってゼルゴニア国内に入国したか、それを証明する書類があると町へ入る際の確認が簡易的になるなど様々な面で便宜が図られる、その証明のサインが人気の将軍なら尚更と言う訳だ。


「ところで、雇い主だった領主はその後処刑されたって話だったが、相手側の領主は?」

「少しの間荒れたみたい、あくまでも謀反の芽を摘みに行っただけと主張する侵攻側は補償に応じなかったし、領主が処刑された後の領地を自領に併合する権利を主張したけど国王に却下されて、国庫から僅かな見舞金が出ただけだって」

「それは荒れるだろうなあ」

「でも今は代替わりして落ち着いたみたいよ、現アントライム卿は温厚な人なんだってさ」


そんなものかと思うが、そういった歴史を積み重ねて来たゼルゴニアでは珍しくないのかもしれない。

その後も過去に居た有名な将軍や、この後通過する事になる土地の領主に関する話題に花が咲き、ゼルゴニアでの旅の始まりは最初に峠を越えたおかげかゆったりのんびりとしたものとなった。

自然はそこそこに豊かで緑も多く、街道を進めばそれなりの頻度で人に出会う、直近の旅がサンカニア国内であっただけにその違いは歴然としていて大国ゼルゴニアに来た事がひしひしと感じられた。

だが同時に少しだけ落ち着かない面も見えて来ていた、すれ違う旅人や商人たちは帯剣し中にはしっかりと武装した者も含まれていて、笑顔の裏にも若干の警戒を含んでいるように見えるのだ。

時に前方から来る隊列を組んだ巡回兵の集団や、後方から馬を飛ばして通り過ぎていく伝令など、大国ならではのどっしりとした落ち着きと緊張が表裏一体で見え隠れする、まさに大国は大国でも軍事大国という名に違わぬ雰囲気がある。

そして、そんな他国から来た人間だからこそ感じるであろう違和感の最たるものが目の前に見えてきた町、を取り囲む威容であった。


「ねえキュリッタさん、あれは普通の町なのよね?領主の居る領都とか軍事上の要衝として作られた城や砦じゃなくて」

「ああそうだよ?ダナハブルは中規模の町で…うーんこれといった特徴の無い町かな、王都へ繋がる街道沿いだからよく言えばだいたい何でも揃ってる交易商が多く立ち寄る町かな」


ゼルゴニアに入って以来、見かけた村はいずれもどっしりとした石壁や丸太を組んだ高い柵に囲われていたが、前方に見えて来たその町はこれまでの比では無い程に要塞化されていた。

周囲をぐるっと高い壁に囲まれていて、その下には鋭く削られた木の杭が、更に人が手を上に伸ばしても届かないくらいの空堀まで作られていて、壁の上を歩く弓兵が余程の怠け者で無い限りは気付かれずに町への侵入を果たすのは不可能だろう。

これは他国であれば王都や要衝クラスの防備で、ゼルゴニアがいかに軍事に特化した、これだけの防備を必要とする歴史を歩んで来た国であるかを物語っている。


「なんだか緊張するな、中規模の町であれでは王都や領都は一体どれだけなのか」

「そうね、それに同じ様な石造りの防壁でもロストアの町ではこんなに威圧感を感じなかったわ」

「ロストア、ロストア…ああ、アルタニア王国南部の町だろ?アルタニアの建築は何て言うか素直だったな、しっかり守ってますって感じはするけどこっち来んな!って感じはしないっていうかさ」

「なるほど上手い表現だな、そうか威圧感の正体はつまり拒絶感なのか。関係ない奴は近づくんじゃないぞっていうトゲトゲしさとでもいうのかな」


同じ石造りの壁でもその組み方や配置のし方、直線的か曲線的か、返しや突起といった工夫の有無などによって印象は全く異なって来る。

アルタニア様式とでも言うべき壁の造りは、地面から素直に真っ直ぐ上へと伸び定点的に窓の様な矢間が並ぶ、見た目にも均整の取れた美しさも併せ持つ防壁で、町自体の景観に溶け込んでいると言える。

それとは対照的にゼルゴニア様式と呼ばれる壁の造りは、まずその壁面や壁の並び自体がジグザグとしており上に行くほど反り返っていて、至る所に鋭い突起や壁から突き出す形の矢間を持つでっぱりがあり、壁の上からだけでは無くより積極的に壁に取り付く敵を排除する事が念頭に置かれている。

それはつまり、敵を寄せ付けず追い返すだけでは無く、この壁に挑む者には死を以って報いるという強い意志とメッセージ性を示しているのだ。


「国内にこれだけの防備が既にあるってのに、何で帝国が動いた時にゼルゴニアは動けなかったんだ?」

「うーん、あちこちのそれぞれの事情は分かんないけどさ、ゼルゴニアって割と反撃で勝つというか、敵を引き込んでそれこそ強力な防備を活かして打撃を与えるのが得意なんだよ、攻める時も投石機とか攻城塔なんかを作ってじっくり攻めるし、遠征の場合には中継地点に大掛かりな野営陣地を作ったりして進むんだ。あ、陣地を作る時なんかは私の出番ね」

「…なるほど、夜を徹してでも駆けに駆けて救援に、とはならなかった訳か」

「一応準備はしてたんだからね?ガルロッド将軍のとこ以外でも色んな場所で兵が集まってたし、私たち輸送隊も忙しく動いてたんだ。でも…」

「ゼルゴニアが盟約を破ったとは思っていません、キュリッタさんの言ったとおりそれぞれに事情はあるもの」

「うん…。結局ね、南部の川沿いの連中がこっちからもパルデニアに侵攻したのとは別の帝国軍が川を渡って攻めて来るかもしれないって言って、王様の命令は南部防衛を優先するって事になったんだ」


パルデニア王国が帝国の侵略を受けた際に、結局北方諸国の援軍は来なかった。

パルデニアが侵略を受けてから1年を待たずしてその形を失ったという時間的な問題もあったが、それ以上に各国の腰が重かった。

実際に帝国がパルダベンデ川以北へと侵攻して来たのはこれが初めてであったし、長い平和な時代を切り裂いた突然の奇襲は多くの者にとって驚きでしかなかったのだ。

唯一すぐさま救援の軍を発した常戦常備のキストニアだけが例外であったが、その軍がパルデニアに至れなかったのは既に語られた通りである。


「ガルロッド将軍はきっと悔しかっただろうし、他にも同じ思いの将軍たちは居たと思う。ま、その逆も然りってのがゼルゴニアなんだけどね」

「高い軍事力とそれに伴う誇りはありつつも、根本の部分では自分の事は自分で何とかする、しろ、というのがゼルゴニア流か」

「それが強さに結び付いているのであれば、きっとこれも国を治める正解の形の一つなのでしょう」

「で、だ。キュリッタ、重要な確認があるんだが…ダナハブルの兵たちがこっちに向かって来てるが、あの町はガルロッド派か?」


キュリッタはにっこりと微笑むと突然走り出し、大きく手を振りながら前方からやって来る兵達と合流すると何やらこちらを指差しながら喋っている。

先んじて状況を伝えてくれている、のかと思えば話を聞いていた兵達の隊長らしき人物が剣を抜き、ゆっくりとこちらに歩いてくるではないか!

彼女に裏切られたのか、いや騙されていたのか、と剣の柄に手を掛けたルドガーは、しかしモニカが指さすキュリッタたちの様子を見て訝しむ。

キュリッタも兵達もその場から動かず、ただ一人抜剣して歩み寄る隊長を応援しているのだ、明るく笑いながら…何やら賭けまで行っているように見える。


「そこへ来たはパルデニアの騎士殿と聞いた。何でもガルロッド将軍の砦で大立ち回りを演じたとか、是非手合わせ願いたい!」

「騎士として受けない訳にもいかないが、こちらとしては旅の途中でのんびりと町での買い物などをしたいだけなのだが」

「なるほどでは私との一騎打ちに勝てば全てが丸く収まるという訳だ!」

「どうしてそうなるっ」


道で出会えば力比べをしたがるキストニア人でもあるまいに、と思うが挑んで来た隊長も笑顔なのを見ればこれは日常的な娯楽の範囲なのだろうと思われた。

キストニア人のそれは己の名誉を掛けた全力でのぶつかり合い(得物は拳や棍棒などだが)だが、これはいわば模擬戦の様なもので、挨拶代わりの訓練であったり相手の力量を量る意味合いが強いようだ。

何とも面倒なと思うが、つまりここでこの隊長相手に騎士としての強さを示せれば、きっと敬意を示して管轄する町での自由な行動を保障してくれるという寸法か。

…やはり何とも面倒な。



「何とも面倒な性質でしょ?ゼルゴニア人って、あはは私もそう思うもん」

「いや、私は何も言っていないぞ?」

「でもそう顔に書いてあるって、ね?」

「ええ、ものすごくそう書いてありますね」


ホクホク顔のキュリッタとニコニコ顔のモニカに揃ってそう言われては否とは言い返せないのがルドガーだった、己の頬や額に手を当てムムムと唸る。

ダナハブルの町の中は外から見た時の威圧感とは対照的になんとものどかな、ごくありふれた町の景色が広がっていた、道行く人々もそれなりに多く表情は明るい。

外壁さえ気にしなければ本当に一般的な中規模の町といった様相で、商店の軒先に並んでいる商品も雑多でこれといった特徴が無く、ゼルゴニアらしさとでも言おうか、そういうものが感じられないのだ。

大通りには旅人や行商人の姿も散見され、宿屋や商館と思われる建物の前には幾台もの荷馬車が並びそれそれに異なる商会旗を掲げている。

キュリッタの言った通り、ここは王都へと繋がる街道上にある事こそがその存在意義で、この町自体に生産性や特産品といった物は無いのだろう、町の経済は各地と王都を行き来する交易商たちが卸す品に支えられ、彼らが足と馬を休め情報交換をする場として賑わっているようだ。

そうして自然と雑多でまとまりのない品々と多種多様な人々が集い、このゼルゴニアにありながらゼルゴニアらしさの無い町が出来上がったのだろう。


「ま、西から来て王都へ向かう場合、とその逆に王都から西へ向かう場合なんかには丁度いい休憩と補給地点なんだよね、ここ」

「なるほど、この地自体に特別な生産性が無くとも、交易の要衝として機能する立地という訳か」

「そう考えればあんなにも立派な壁に守られているのも納得です、そしてあんなにも立派な方が守備を任されている事にも」


ルドガーと巡回兵たちの隊長との一騎打ちは想像以上に熾烈なものとなり、ルドガーは辛くもこれに勝利を収めた。

何だかんだで死線を幾度も潜り抜けたルドガーの腕は確かで、そんじょそこらの兵に後れを取る事など無いと思っていたが割と接戦となった。

が、それもその筈で戦い終えた後に聞けば相手はこの町全体の守備隊長だと言う、ゼルゴニア軍としてはあくまでも町に駐屯する兵たちの隊長という程度の認識だが、その権限の範囲や役割を聞く限りパルデニアにおける上級騎士に近い役職であった。

モニカがニコニコ顔なのはそんな人物に一騎打ちで勝ったルドガーが誇らしかったからだ。

ゼルゴニア軍は軍としての機能性が重視されている為か騎士と呼ばれる役職の人物は少ない様だ、いわゆる騎士団も存在せずあくまでも軍団であり、将軍、軍団長、部隊長といった名で呼ばれる者が多いらしい。

王や領主、または特定の個人に対して剣を捧げ忠誠を誓う騎士は、この国では正規の軍人というよりは個人のボディーガードのような立ち位置で、常にそういった要人と共に行動している事からあまり表には出て来ないのだとか。


「そうだね、あの隊長さんもこの町にいる限りは守備隊長だけど、もし国王からの出撃命令が出たら軍団長扱いじゃないかな、将軍の一つ下の階級ね」

「そんな人物がほいほい巡回に出て来て気軽に一騎打ちを挑んでくれるなって思うんだが」

「キュリッタさんは随分と親しそうでしたけど、お知り合いなんですか」

「親しいかは分からないけど、ほら私輸送隊長じゃん?これでも一応隊長なのよ、で、この町って補給地点だから必然的に立ち寄る事も多いのよね、だから顔見知りではあるかな」


淡々と語るキュリッタだが、こうして聞いているとどうにもその階級に違和感が出て来る。

パルデニア王国や縁のあったアルタニア王国の基準だと後方支援を担う輸送隊とは軍人と民間人の中間の様な存在で、その隊長と言うのは隊長とは言いつつもあくまでも支援職であって、軍内での指揮系統における扱いは正直言って低かったのだが。

先ほどの守備隊長がパルデニア基準では上級騎士相当であったように、もしかしたら彼女の輸送隊長という役職も実はかなり高い階級にあるのかもしれない。


「ま、何はともあれ今日はここまでにして一泊しよー!まだ早いけどゆっくり買い物とかしたいし、この時間から宿を押さえておかないと夕方には満室になっちゃうかも、いいよね?」

「ええ、私たちも急ぎの旅ではありませんし、キュリッタさんにお任せします」


先ほどのルドガーと守備隊長との一騎打ちでどちらが勝つかの賭けを持ち掛け、守備隊長に賭けた兵士たち相手に一人勝ちしたらしいキュリッタはそのホクホク顔とホカホカの懐具合で何を買おうかと楽しそうだ。

だが懐具合が温かいのはモニカたちも一緒で、せっかくのゼルゴニアなのだからと一緒に宿を取って町に繰り出す事にした。

なぜ温かいのかと言えばサンカニア王家への貢献を認められた事でそれなりに褒賞を貰っているのだ、とは言え財政難に喘ぐ国庫からでは無く、ベルメナム家でリムナリアが貯めていたおこずかいや、その姉妹たちの私費からに寄るところが大きいのだが…きっと姉たちは将来への投資のつもりでもあるのだろう、とても強かである。

そしてこの褒賞の申し出を遠慮し切れなかった理由として、手持ちの多くがパルデニア硬貨で、それも金貨や大金貨ばかりである事も大きかった。

金額としては大金を持っているモニカだがそのほとんどは故国のコインであり、アルタニア王国のロストアで苦労した様に現在の北方諸国ではパルデニア硬貨は非常に使いづらいのだ。

それに日常的な買い物には銅貨や銀貨で事足りるのに、その支払いに銀貨100枚分の価値がある金貨や、その金貨10枚分の価値がある大金貨など出されても店主は困惑するだろう。

ロストアを旅立つ際にホルド商会に若干の両替はして貰っていたが、そのアルタニア硬貨は先日まで滞在していたサンカニア王国でほとんど使い切ってしまっていた。

その為今モニカの手のひらの上で輝くのは姉妹からの想いが詰まったサンカニア硬貨ばかりである。



「ルドガーは何か必要な物はある?装備品の修理とか新調とか」

「いえ、幸いにも剣も防具も大きな痛みはありませんので大丈夫です、それよりも思いっきり戦ったのでお腹がペコペコですよ、何か美味い物が食べたいなあと」

「いっつも食べ物の話ばかりじゃない」

「悪いですか」

「いいえ私も美味しい物が食べたいです!」


笑い合い手をつないで宿を出た二人の後ろ姿は、宿の主人に旅の夫婦なのだと勘違いさせるに十分なほど幸せそうであった。

それもそのはずで、普段であればモニカがルドガーの手を取る事は無かったのだろうが、はたかれるのを前提におどけて差し出されたその手をモニカは珍しく握り返したのだ。

それは何だかんだあったここまでの旅への同行に対する感謝であったし、今や他にいるかも分からないモニカの本当の名と素顔を知る相手であるという事もあったし、少しだけ疲れて、少しだけ安心したかったのかもしれない。

死が蝕みゆくパルデニア王都の光景は今も忘れていないし、モニカの脱出に同行した騎士や兵士たちの顔と名も誰一人として忘れてはいない、ロストアでの出来事も、サンカニアでの出来事も、その全てに共感し思い出を分かち合えるのはもはやこの世にルドガーしかいないのだ。

そこそこ上等ではあるがただただ普通で特別な事など何も無い宿屋の一室で、窓から見下ろす町並みは至って普通で穏やかで、そこにはまるで世界は何事も無いかの様な時間が流れていて。

ふとここまでの旅路を思い出し、次にこんなにも“普通”な時間を過ごせるのはいつになるだろうかと思ったら自然と涙が溢れ、足から力が抜けたその体はペタリと床に落ちるとそのまま動かなくなってしまった。

じきに20歳の成人を迎えるモニカだが、この時はまだ、少しだけその背に多くを背負い過ぎてしまった19歳の、一人の少女に過ぎなかったのだから。

だから、急いで涙を拭いしっかりしろと自分に言い聞かせて立ち上がり、ノックに応えて開けた扉から差し出された見慣れたその手が少しだけ特別に見えたのは、きっと一時の気の迷いで…。



「あ、いたいた!おーいルドガー、モニカ!大ニュース大ニュース!」


ダナハブルの町を散策し、酒場で腹と喉を満たし、露店商を相手に値引き交渉をして、夕方になってそろそろ宿へ戻ろうかと話をしていた頃、ここ数日で聞きなれた元気な声が二人を追いかけて来た。

健脚で通りのど真ん中を走り抜けて来た声の主は息を切らすことなく興奮気味にまくしたてかけて、流石に喉は渇いたのか腰の革袋から水をあおるとぷはぁと酒でも流し込んだかのような声を出した、こんな姿を見てしまうとますますこの人の出自が分からなくなる。


「そんなに慌てなくても別に逃げる訳じゃないんだからさ」

「いやだって絶対聞いたら喜ぶだろうと思ってさ」

「私たちが喜ぶ話ですか?この先の旅に役立ちそうな情報でしょうか」

「違う違う、いやそうなのかもしれないけどさ、そうじゃなくって!カンタレリア商会って知ってるか!?」


その名にルドガーは「おや?」と首を傾げ、モニカは記憶の遠く何処かで疼くその名に鳥肌が立った。

その名を何処かで聞いたか見た事が確かにある気がする、そしてモニカの記憶の中に埋まっている商会の名など故国パルデニアの商会くらいなのだ。

王都に拠点を持つ商会ならば例え小さな商会でも名くらいは把握していた自信がある、だとすればパルデニアのいずれかの領地に拠点を持つ地方商会、それもそれなりに大きな商会の名か何かだっただろうか。


「カンタレリア、カンタレリア…ロドルグ・カンタレリア卿?あの商騎士か?」

「商騎士!その名は記憶にありますとても珍しい呼び方だったから、確かパルデニア東部出身の…騎士なのに商才が豊かだという方で…カンタレリアのロドルグ商会!そのように呼ばれていたと記憶しています!」

「ああ、確かにあの騎士は自身の商会を持ってたってので有名で、出身地の町の名前が家名と同じカンタレリアだった事からカンタレリア商会ともロドルグ商会とも呼ばれていたんだったかな」

「そのカンタレリア商会の隊商が少し前にこの町に来てたって話を聞いたんだ!ここで交易をして、王都へ向かったって!」

「え?カンタレリア商会が、まだ活動している…?」


実はどこかでまだ生きているパルデニア人の可能性として、帝国が侵略を開始した時期に国外へと交易の為に出掛けていた隊商の可能性は考えていた。

パルデニアの大商会は湖産物や穀物の交易の為に陸路ではアルタニアやゼルゴニアへ、水運を使っては川下のベンデュリアやそれこそ川の南岸の帝国領へも行っていたはずなのだ。

その人員数や総数は多くは無かったかもしれないが、何処か交易先の地で雇い主と帰る場所を失い、路頭に迷った者たちが居ても不思議では無い。

だが、国王の承認と庇護の元で活動している商会は、その名とその掲げる旗のいずれも商会の主と国王の存在に依存しており、今となってはパルデニアに所属する商会も隊商もその後ろ盾を失いそのままの形で残っている事は無いはずで。

だから…帝国領でその時を迎えた者たちのその後はあまり考えたくは無いが、居るとすれば北方諸国のいずれかの場所で所有者の居なくなった荷を売り払いその地に居付いた者や、そのコインを元手に新たな人生を始めた者になら出会えるかもしれないと。


「そのカンタレリア商会は本当にパルデニアの?同名の別の商会だとか、そういった可能性は」

「ちゃんとパルデニア王国が発行した交易の許可証を持っててこの町で売買をした記録も残ってるんだ、対応した地元の商人がカンタレリアの商会長と直接話して商談に応じたって!」

「待て待て、カンタレリア商会の商会長ってのはつまりカンタレリア卿の事だぞ?卿が生きてて、隊商を率いてるってのか?」

「わっかんないけど、とにかくそう言う話を聞いたからこうして走って来たんじゃないか!はい、ありがとうございますキュリッタさん?」

「「ありがとうございます、キュリッタさん!!」」


あまりにも突然であまりにも突飛な状況に未だ頭の上では「?」が踊っているが、その衝撃を上回る喜びがあった。

失われたパルデニアの騎士が、それも名の知られた騎士が生き残っているかもしれない、今や幾人がその足で同じ大地を踏みしめているかも分からないパルデニア人の同胞を連れて。

もし本当にカンタレリア卿が生きて隊を率いているのであれば、その名を冠する商会が活動を続けていても不思議では無い。

少なくともパルデニア王の庇護と承認による後ろ盾、商人としては極めて大事な信用という保証は無い状態ではあろうが、商会長が健在なのであれば解散せずに商会としてそのまま他国への亡命や移籍移住を考えている可能性もある。

平時であれば各国各地にはその地元で長らく商売を続ける商会が少なからず存在し、彼らを庇護する王や領主も簡単には商会単位のよそ者を受け入れる事は無い、それは地元商人の不満を招き経済バランスを崩す事にも繋がりかねないからだ。

だが今は戦時であり、常とは異なる需要や動向があればそれを補いうる新たな商会を受け入れる可能性は十分にある。

それに隊を率いているのが騎士なのであれば荷の安全も確保しやすくなるだろう、まさに今だからこそ必要とされる商会と言う訳だ。


「王都へ向かったという事は、彼らの目的はゼルゴニアへの亡命と移籍だろうか。単純に交易を行うにも王都は行く価値のある場所ですが、後ろ盾の無い商会ではむしろ検査の厳しい王都での商売は難しい、それどころか王都の門を潜れず追い返される可能性だってあり得る」

「そうね、パルデニアという国と職を失った人たちの現実は厳しいわ、ロストアやサンカニアで出会ったあの人たちの様に。それに自分たちではどうする事も出来ない“呪い”まで背負ってしまっているもの。だからもしこれまでの職をそのまま活かせる形で生きる道があるならばそれを選ぶと思う」

「ふーんなるほどね、自衛力と商売のノウハウを持った集団か、それなら確かにゼルゴニアも欲しがるかも。で、どうする?」


どうすると言うのは行き先の事だろう、元々サンカニア王国から東のベンデュリア王国へ向かう旅の途中であり、ゼルゴニア王国はその間に存在する避けては通れない場所というだけでこの国での予定は特に無かったのだ。

国内の道に詳しい輸送隊のキュリッタにベンデュリアへと抜ける最短距離になるであろう経路を案内して貰っていたため、ゼルゴニアの王都には立ち寄る予定は無かったのである。

だがモニカたちのここまでの旅の話(半分くらいは遍歴騎士とその従者としての作り話だが)を聞き、二人の今は亡きパルデニア王国への強い想いを知った彼女はわざわざ市場で仕入れたパルデニア関連の話を走って届けてくれた、それはつまり予定を変更して彼らを追って王都へ向かうかという話で、態度を見ればそのつもりなら先にそっちに案内するよという優しさに見えた。

であれば答えは分かり切っている、分かれ道を左に行った同胞を追うか、予定通り右の道を進み“親戚”を訪ねるのか。


「まずはカンタレリア卿ですね」

「ええ、キュリッタさんお願い出来ますか?」

「おう、それじゃあ行き先を変更して行くとしますか、ゼルゴニア王国の王都、カイアンへ!」


突然の吉報にテンションの上がる二人と期待通りの反応を得られて大満足のキュリッタはその勢いのまま日が暮れたダナハブルの町に繰り出し、同胞との再会を信じてささやかな前祝と、抜け目なくカンタレリア商会と接触のあった者を探しては話を聞いて回った。

パルデニアの名を出せばやはり“呪い”を怖がる者もいたが、逃げられたり追い出されたりまではしなかったのはゼルゴニアが自分たちこそ北方一の大国であるという自信と帝国になど負けるかという気概を持っている事や、ダナハブルが内陸の町でパルデニアから遠く離れている事、そして何より陽気で話の上手いキュリッタのペースに巻き込まれたというのが大きかった。

強大な帝国と正面からぶつかっても負けるつもりは無いが、その帝国の軍をも巻き込んで共に滅んだパルデニアの呪い、残された目に見えぬそれはその存在自体が曖昧で警戒のしようも対処法も分からず話だけが独り歩きしている状態で実体がない。

だからこそ人はその呪いを怖がるのだが、そもそもどんなものかも分からないんだから考えるだけ時間の無駄、というのがキュリッタの言で暴論だが説得力はあった。

少なくともゼルゴニア国内で呪いの蔓延の話は聞かず、僅かな例として報告されているのがパルデニア方面から戻った旅人が倒れたというものや、交易に向かっていた隊商が呪いの感染と思われる症状の報告を最後に連絡を絶ったというもので、以降は国境線が封鎖されて久しい。


「聞いた話だと去年の夏頃から南のなんとかって町に滞在中だったそうだ、侵攻の話を聞いてパルデニアに帰れなくなってたんだと」

「呪いの話が出る以前からゼルゴニアに居たから、そこの領主が国内の移動を認める許可証を出したんだとよ」

「パルデニアなぁ、そりゃあ助けられるなら助けたかったさ、うちの商会だって国境方面に集まってた軍に食料を送ってたんだよ」

「ま、そういう経緯もあってちょっとした引け目もあってな…お人好しのうちの商会長が信用して何種類かの食料品の売買に応じたみたいだよ。ね、会長!」

「お人好しで何が悪い!ったく、であんたらか今日町に来たパルデニア人ってのは。こないだの奴らも久しぶりのパルデニア人だったが国があんな事になっちまったのにどうして珍しい事もあるもんだ。で?」




王都カイアン

ゼルゴニア王国中北部に位置する首都であり、北方諸国で最も堅固と言われる城塞都市だ。

その威容はダナハブルの町を見た時に受けた衝撃を遥かに上回った、かなり遠くから既に立派な市壁の輪郭が見えていたが、近づくほどにその高さ巨大さに圧倒される。

平地のど真ん中に広大な円形の都市があり、その中心に更に円形の城壁に囲まれた王城が存在する二重構造で、壁の上や町中の随所に設置された監視塔から多くの兵が睨みを利かせる如何にも軍事大国の首都といった様相である。

そしてそれだけ巨大であれば当然ながら人口も多く、人が多く集う場所には商機があり、王都に近づくにつれ方々から道が合流する主要街道は数多の荷馬車が行き交い活気に満ち溢れている。

すれ違う隊商の多くはゼルゴニア国内の商会であったが、時折アルタニアの国旗を掲げる隊商もおり、更に稀にではあるがサンカニアやキストニアの旗を見つけると何故だか少しだけ嬉しくなった。


「うーん、流石にここでばったりホルド商会の方たちに会えたりはしませんね」

「あそこもそこそこ大きな商会でしたがそうそう上手くは…でもほら、あの隊商はアルタニア旗を掲げていますよ」

山燈鳥(やまひどり)の紋章は…少なくともロストアでは見なかったですね」

「あーあれはね、確か…うんうん、アルタニア北部のランデランダ領の商会だね、結構大きかったと思う。北のキストニア経由で帰るとこかな?」


鞄から何やら分厚い手帳を取り出すとパラパラとページをめくってそう教えてくれるキュリッタは、その他にも目に入った隊商の事を片っ端から答えてくれた。

ゼルゴニア国内の商会については余程小さな商会では無い限り旗を見ただけで分かるらしく、どんな商品を主に扱う商会なのかやその土地の事などスラスラと情報が出て来る。

これも輸送隊は各地を回っているからだとか、物資調達の為に直接交渉をする事があるからだとか言うが、それにしても博識で細かい情報がびっしりと書き込まれた手帳を覗き込めばその努力が伺えた。


「その手帳は手作りなんですよね?すごい量ですね…」

「あはは、まーね。前にも言った通りゼルゴニアって各領地がそれぞれに自主性や独立した個性を持っててさ」

「自分の領地は自分で守れっていうアレか」

「そうそう、町中で取り引きする分にはいいんだけど街道で直接買い付けをしようとすると向こうも身構えるのさ、そんな時にあんたらはどこそこの領地のなんちゃら商会だよな!あそこの鶏肉を使った料理は美味かったなぁとか言ってやると話が上手く運ぶんだよね」

「キュリッタさんは商人としても上手くやっていけそうですね、それこそ商騎士と呼ばれるロドルグ卿みたいに」


えーそうかなぁ?と否定するそぶりは見せるが、口元を見れば少しだけ口角が上がっているように見えた。

そんなキュリッタは当然ホルド商会の事も知っていて、その口から出て来るキュリッタ調べの情報を聞けばその正確さに驚いた。

雪解けを待ち旅立ったロストアでの事はつい先日の事のように感じられて、実際まだあれから一季も経っていないのだからそんなに時は経過していないはずなのだが、それでもその後のサンカニアでの出来事の密度を思えば随分と前の事の様にも思える。

溢れ出て来る多くの思い出と止まらないキュリッタの話に耳を傾けていれば、いつしか迫る壁は高く巨大になり左右の端は見えなくなっていた、今眼前にあるのは見上げるばかりの巨大な門とその前で検査を受ける多くの隊商や旅人、そして人の背丈の半分程の浅く掘られた空堀が外壁を取り囲むように永遠と伸びている。


「いやあデカい…見上げるようなってのは正にこういうことか」

「実際、ここまでの規模の建築は他だとアルタニアの王都でしか見た事ないよ。あー帝国の町は除いてね、あっちの規模は桁違いらしいから」


情報通で行動力の塊の様なキュリッタも流石に帝国領にまでは行った事が無いらしく「らしい」に止まったが、きっと開戦前のまだ帝国との国交があった時期には帝国の商人や帝国領で商いをした者たちからしっかりと情報を集めていた事だろう。

現在は当然ながら北方諸国と帝国とを行き来する隊商は無い、帝国領に向かった隊商はパルダベンデ川を越えたまま戻らず、帝国からの荷は届かなくなっている。

キュリッタは帝国からの荷の不着や隊商の減少の動きを把握出来ていればその侵攻を予見出来たかもしれないと言ったが、流石にそれは誰を以てしても難しかっただろう。

隊商などちょっとした天候不順や事故、野盗の活発化や軍の移動などによって簡単に予定を狂わせられるのだから。

…だからこそ雇われの護衛や傭兵団の仕事が無くならず、情勢の変化による影響を受けづらい国が管理する輸送隊が必要になって来るというのはある意味皮肉な話だ。


「しかしダナハブルに比べて堀は浅いな、あれでは大した足止めにならないのではないか」

「この規模の町を深い堀で囲うのは現実的じゃないよ、それにもし誤って落っこちたら助けるのにも一苦労だし」

「だがそれで敵の侵入を許しては本末転倒なんじゃないか?」

「あの壁がそう簡単に越えられるように見える?この規模の防壁を本気で攻略しようと思ったら攻城塔なんかを使うのが一般的だけど、とりあえずあれくらいでも堀があれば設置は難しくなるからね」


なるほど納得と頷くルドガーに対し、軍事に疎いモニカには少し理解が難しかった。

ただでさえ王女が攻城法や兵器の扱いについて学ぶ機会など無いうえに、モニカが生まれるよりも遥か昔からパルデニア王国では戦争や内乱などは無かったのだから。

知識として戦争とはどのようなものなのか、どういった結果をもたらすのか、そういった学びはあっても具体的に攻城塔や破城槌、投石車などの性能や使い方を知る必要は無く、それは騎士や兵士そして傭兵団などの仕事である。


「おや、キュリッタ様?」

「はいはい輸送隊のキュリッタ隊長のお帰りですよーって訳で通っていい?」

「失礼ですがお連れの方々は?」

「パルデニアからのお客さん、ガルロッド将軍のお墨付き」

「パルデニアの…いえ、お二人が関わっているのですから出自や呪いを心配する訳ではありませんが…」


互いに顔を見合わせる門衛たちの表情には困惑が見てとれた、呪いを心配するのでは無いというなら一体何があると言うのだろうか。

キュリッタも門衛たちの対応が意外だったようで、顔パスで通る気満々、キュリッタさんに任せなさいと胸を張っていただけに少し肩身が狭そうだ。

王都の外門からかなり距離のある王城へと急ぐ早馬の後ろ姿を見送り、門衛たちの詰め所で豪勢な歓待を受けながらも絶対に出歩かないようにと厳命されたモニカ達は、これまでに無い種類の緊張を感じていた。

歓迎されているのに自由は無い、兵達も心は開いている様だが何かしらの命令によって監視も怠ってはいない、そんなちぐはぐな状況である。


「なあ、何かあったのか、一体何処の誰からどんな命令が出てるんだ?」

「ううむ、私の口からは何とも…ですが先日この門で少々いざこざがありまして。そちらの方々同様パルデニアからの客人がいらっしゃったのですが、どうにも不自然な点があり…」

「パルデニアからの、ってもしかしてカンタレリア商会か」

「何と、流石はキュリッタ様ですなパルデニアの商会にもお詳しいとは」


会話を聞いていたモニカ達に緊張が走る、追いかけて来たカンタレリア商会の名が早くも出て来たうえに、不自然な点があったとはどういうことだろうか。

柔らかく表現しているが言葉の響きと今の対応を考えればどう考えても問題があったとしか思えず、ロドルグ卿の安否が気にかかる。


「実はその隊商を率いていた男、ロドルグと名乗る騎士に我らの隊長が胸を借りるつもりで挑んだのですが…決着はあっさりと」

「その言い様だと守備隊長の方が勝ったのか、それも圧勝で。ゼルゴニアに気を使って手加減された?いや卿の立場を思えば実力も示したいところだよな、やるなら良い勝負をして最後にギリギリ負けて見せるはずだ。もしや怪我や病気を…それで呪いを疑われたか!?」

「いえその、我らの目から見ても剣の構え方も腰の入れ方もなっておらず…服装こそ立派でしたがまるで新兵を見ているような」


ロドルグ・カンタレリアと言えばれっきとしたパルデニア王国の騎士である。

ただの商人が騎士の称号を得ていた訳ではなく、まず先に騎士であり、その上でその商才をも評価されて商騎士と呼ばれていたのだから。

それが如何に国を亡くし失意の底にあったとしても、もしくは苦労の末に無理を押して活動していたとしても、剣もまともに構えられないとはどうした事だろうか。

確かにそんな様を見せられては、商騎士ロドルグ・カンタレリアという人物自体に疑問を抱くのも当然だろう。


「はーん、それでその新兵みたいな騎士殿はどうなった」

「なりすましの可能性があるとして王城へ連れていかれました、隊商の者らも全員です」

「なるほどね、それでパルデニアからの客人に警戒しているって訳か、確かに今や確認のしようもないパルデニア籍ってのは難儀なものだな」

「ええ、それに身分を偽るのは重罪ですからアムラッタ様がピリピリされているのも仕方の無い事かと」

「ち、叔父上か…面倒な」


どうやら自分たちは思った以上に面倒な状況に首を突っ込んでしまったようだと、笑顔を保ちながらもモニカとルドガーは顔を見合わせる。

それに何より身分を偽るのは重罪と改めて認識させられ言葉が続かない。

村人や市民として暮らす者が出身地を偽っていたところで問題を起こさなければ捕まる事も無いだろう、だが王に名と立場を保証された騎士を名乗る者が偽物ならば大問題だ、王族など言うまでも無い。

そんな内心の不安が少しだけ顔に出ていたのだろうか、モニカとルドガーの様子を気にしたキュリッタが代わりに言葉を続けてくれる、まさか身分の偽りを疑われた訳ではあるまい、恐らくは会える事を楽しみにしていたロドルグ卿の事を心配し不安に思っているものと考えての事だろうが。


「そうすると件の騎士殿は今頃は王城の一室に軟禁でもされているか?」

「聞いた話では地下牢行きになったと」

「おい、疑いが掛けられただけでまだ罪状が確定された訳じゃないんだろう!?それなのにいきなり地下牢送りか!」

「私も詳しくは…王城勤めの同僚の話ではそうだと」

「困ったな、客人扱いの軟禁なら私の権限でもこのパルデニア人たちと面会させて、言葉の癖や訛り、故郷の思い出話なんかで同郷の者か確かめる事が出来たかもしれないが、地下牢じゃ会いに行くにも相応の許可が必要だ」


キュリッタの最後の言葉は、話し相手の兵士との会話のようでモニカとルドガーへのメッセージでもあった。

どうやら王城には地下牢が存在し、そのエリアへは特別な許可が無いと出入り出来ないようだ。

相応の許可とは高官の、先ほど会話に登場したアムラッタという人物などの許可が必要なのだろう、そしてどうやらその人物はキュリッタの叔父であるらしい、やはり彼女は国の要職にある貴族の近親者なのだろうか。


「こんな時世だ、パルデニア人同士会って話がしたいだろうと思って連れて来たんだが、すまない二人とも」

「そんな謝らないで下さいキュリッタさん、お話を聞く限りとても無理は言えませんもの」

「うん、しかしせっかく寄り道して王都まで来たってのになあ」


しょんぼりと肩を落とすキュリッタと、下がり眉の笑顔で応じるモニカ、その様子を見た周囲の兵士たちも一様に申し訳なさそうな表情を浮かべていて“キュリッタが連れて来た客人”に対する同情を感じる。

言葉選びや距離感を見るに兵士たちのキュリッタに対する態度は輸送隊の隊長という肩書に対しての敬意だけでは無く、それ以上のものを感じさせられて日頃から良好な関係にある事が伺えた。

それが純粋にキュリッタの人柄によるものなのかそれとも他に理由があるのか、とても気になるが少しだけ複雑そうな背景を抱えていそうで、さりげなく聞いてみようかと迷った末に結局言葉を飲み込んだ。

彼女のグイグイと来る性格と、最初から壁を取っ払ったような距離感で忘れそうになるが、まだ出会ってから日が浅くどこまでプライベートに踏み込んでいいのか判断し兼ねたからだ。


「しょーがない、私のオススメの店とか建物とか、王都の観光名所でも楽しんでもらって、それから東に…」

「その観光名所に王城は含まれるのかな?キュリッタ」

「叔父上…」


場の空気が一瞬にして変わったと感じる程、その人物の登場は周囲に影響を与えた。

鎧装では無いもののいかにも軍人といった機能美を追求した正装、腰に帯びる長剣はその柄も鞘も精緻な意匠が施され格式の高さを伺わせる。

そして何より厳格さというものが服を着て歩いているかのような巌の如き表情、低く響く声、その場にいた全員の背筋を伸ばし口をつぐませる圧倒的な存在感。

初めて出会った者でもすぐに理解するだろう、この人物と意味も無く敵対してはいけないと。


「その者たちがお前が連れて来たというパルデニアからの客人か、子細は」

「はっ、パルデニア王国の騎士ルドガー卿とその従者モニカ殿、遍歴の旅路よりの帰国途上で国を失い、アルタニア、サンカニアを経て西の防砦より入国、ガルロッド将軍の入国確認証明書有り」

「ガルロッドの、な。してお前は」

「西部への増員を引き渡し後、ガルロッド将軍の命により両名の国内案内を」

「ゼルゴニアでの、カイアンでの目的は観光か、王への謁見か」

「当初の予定では東へと抜けベンデュリアへ」

「それではカイアンは遠回りだな」

「ダナハブルにて件のパルデニア隊商の話を聞き、同郷の者との邂逅を果たせればと…」


あれ?キュリッタさん?と思ったのはモニカとルドガーだけだったようで、多数いる兵達の誰も驚いた様子は無い。

この努力家の才女は本当に何者なのだろうか、人懐っこい性格と自ら輸送隊を率いて各地を飛び回る行動力からは所謂貴族らしさは感じられないが、明らかに高い教養と高官への対応の慣れを感じる。

とても「輸送隊長だから」では片付けられないレベルの会話や所作は騎士のウルドガよりも国の中央に近い人物のようで、それでいて王女レモニカとは明らかに異なる人生を歩んで来たようにも思える。

これは宮廷での貴族同士の社交、外交に長けたサンカニアのリリスティアニアなどとも異なり、より実務的な貴族の従者や補佐官、書記官といった立場が長かった者に近しいものがあるが、そういった経験を積んだ人物がその後に輸送隊長という道へと進んだ事例は聞いた事が無い。


「ルドガー卿と従者殿、この様に引き留めてしまい申し訳ない、気を悪くされていたならば国を代表して謝ろう」

「い、いやそんな、そのような事は微塵も思って…」

「では率直に聞くが旅の目的は、諸国を横断してベンデュリアを目指す理由は」

「え?ええと、ベンデュリア王国に縁者がおりまして、それでそのとりあえず…と言ってしまうとアレなんですがまあ何と言いますか…」

「ほう、帰る家無き旅路の先に血縁を頼って、か。今は曇天の歩みであろうがいずれ蒼天に迎えられん事を祈ろう」


一瞬だけ下がった太くそれでいて綺麗に整えられた眉は、二人に言葉以上の祈りを届けた。

その厳格さは相対する者に緊張をもたらすがそれは同時に礼儀の正しさや品格の高さをも意味するもので、極めてまともなタイプの、その能力に見合った高位貴族と言えよう。

緊張感は未だにたっぷりと漂っているが、その優しい言葉には自然と頭が下がった。


「ふむ。それで?キュリッタ」

「はっ、と、ええと…」

「我らが王城は観光名所に含まれるのか?」

「あ…可能であれば、と思っていますが今は難しいでしょうか、叔父上の言葉もあればなおありがたく」

「賢明だな、今お前の兄は機嫌が悪い、行くならば正式な客人を連れての訪問では無くお前の私用として行くのがいいだろう、パルデニアの名は出さずに“友人”を連れてな。ああ、私も“把握”している」


アムラッタは厳格ではあるが、話の通じる人物であった。

亡国とは言えパルデニアの騎士を連れて王城に行くとなればそこには多少なりとも外交が発生する、そうなれば当然挨拶をすべき人物やコンタクトを取って来る貴族も現れる事だろう。

話を聞く限りでは上層部の機嫌は良く無さそうで、普段よりも客人は歓迎されない空気のようだ、だから公に名乗りを上げての訪問では無くあくまでもキュリッタの同行者という体で行けと。

そしてアムラッタはこれを黙認してくれる、自らに責任の発生する“許可”はしないが、事前に“報告”は受けている、という事にでもしてくれるのだろう。

この人物が無責任な事を言うとも思えないので、最低限の便宜は図ってくれるに違いない、それにこの様な提案をしてくれている時点でモニカとルドガーが危険人物かどうかの確認も無事に終わったようだ。


「叔父上…ありがとうございます!」

「アムラッタ様、ご配慮に感謝致します。我らはキュリッタ殿の旅の友としてこのカイアンでの滞在時間を有意義に使い、その素晴らしさを旅の空で謳う事でしょう」

「騎士殿が語ってくれるならばゼルゴニアの名声は益々誇れるものとなろうな、良き旅を」


部屋に充満していた緊張という空気を纏ってアムラッタが出ていくと、しっかりと彼の離脱を確認するだけの間を空けてからキュリッタが大きく息を吐き、それを合図に机につっぷす者、壁に背を預ける者、杯をあおり喉の渇きを潤す者、とまるで止まっていた時が一斉に動き出したかのようだ。アムラッタ恐るべし。

あのような人物と共に働く者はきっと大変だろうが、同時に国のトップに居てくれると安心出来そうな人物でもあり、当世の傑出した、所謂逸材とは彼のような者の事を指すのだろう。


「ふぃーいつ会っても緊張する、特に予告無く目の前に現れると!」


キュリッタの大袈裟な身振りに笑いが起こるが、皆一様に頷いて同調しているあたりその意見に異議は無いようで、モニカ達も一緒になって笑い気付かぬうちに固まっていた体を動かしてほぐす。

元より友好的ではあったが一緒に苦難を乗り越えた同志となった事で兵士達との距離は一気に縮まり、騎士殿災難でしたねとか我が国最難関の関所を突破しましたぞなど、労いの言葉と共に渡された杯の酒はとても美味かった。

そうして王都の有名な酒場や美味い飯屋、質の良い土産物の店や珍しい品を扱う店、何を勘違いされたか男女が二人で行くのに良いスポットなど、兵士達のとっておきの情報に背を押されついに足を踏み入れた王都は…既に夕暮れの時を迎えていた。


「参ったな、まだ門は開いてると思うけど、この時間から駆け込みで王城に行くのはちょっと目立つかも」

「先程の話だとあまり目立つような事はするな、と仰っていたように思います」

「だよね、という訳で今日の所は宿屋に部屋を取って、“王都観光”は明日からって事で!さてディナーは何を食べに行くかなー」

「良さそうな店の情報をいっぱい聞けたし、キュリッタのオススメも捨てがたいな、大国ゼルゴニアの王都の料理、期待するなって方が無理ってもんだ」


やっぱり一番盛り上がるのは食べ物の話で、キュリッタもルドガーも既にこの後の食事の事で頭がいっぱいで、そんな二人の様子に苦笑しながら話に加わるモニカの頭の中もやっぱり美味しい食べ物の事でいっぱいだった。

王都カイアンの大通りには巡回の兵によって灯が灯され始めていて街並みも人々の顔も明るい。

一見すると排他的とも思える威容は、しかしそこに住む者に確かな安心と笑顔をもたらしていた。

北方諸国を代表するこの国はその国土の広さだけでは無く間違いなく大国と呼ぶに相応しい姿で、様々な問題を抱えつつも長きに渡り維持されて来たその王政と方針は確かな力と形を示している。

その全てを誇れる素晴らしき故国パルデニア、豊かで美しいアルタニア、未来に大きな希望を抱くサンカニア、そして畏怖と敬意を抱かせるゼルゴニア。

世界は広く道行く先で得られる知識には際限が無い、失意と逃亡から始まった旅であったがその先には果たすべき当初の目的とは違った光が見え始めていた。


「そういえばキュリッタさん?アムラッタ様の事を叔父上と呼ばれていましたが、あの方はその、いったいどのような」

「あー叔父上はね、この国の摂政だよ」

「…え?」

「見たでしょあの堅物っぷり、あんな性格だから継承権第二位だったのに五位までの五人で争われる次期国王選出の儀で1票も入らなかったのは有名な話なんだ」

「…いやいや」

「ほんとに頭は良い人なんだけどとにかく面倒でねー、兄上が14票、叔父上が0票、姉上が4票、大叔父上が2票、伯母上が3票。ね?」

「「ね?じゃないでしょう(だろう)!?」」




旧来、交易の中継地として栄えていたダナハブルは、その領主に元将軍のガルロッドを迎えた事で更なる繁栄と安定を得た。

その有名は王都カイアンにも劣らず北方諸国に広まり、商人ならば誰もが知っている町から北に暮らす者ならば誰もが知っている町となった。

更なる影響を与えたのは後に発行されたとある騎士の人生を描いた全九編の物語で、そこには町での滞在の思い出やガルロッドとの交流が幾度か登場し、彼の人柄や町の発展の軌跡を知る資料ともなっている。

そして今、書物で“ガルロッドの町”と表現されたダナハブルは正式にその名をガルロッドへと変えた、彼への敬意を忘れぬ為に、忘れられるはずも無いのにと呟く昔馴染みの騎士と共に町を眺め、その魂は空へと旅立ったのだ。



第六幕:「名と町と将軍」 了


前回のサンカニア王国編とも言うべきお話が一段落してからだいぶ空いてしまいましたが、細々と書き続けておりました~。


サンカニアでのあーだこーだが何だかんだ収まって、モニカとルドガーは東のベンデュリア王国を目指して旅を再開しております。

ベンデュリア王国からパルデニア王国へ嫁いできた王女を妹の様に思うも、姉らしい事をしてあげられなかった事を後悔していたモニカは、サンカニア王国で出会ったリムナリアにその姿を重ね親身になりその仲を深めました。

パンザニット村の人々との出会いも果たし、当面の目的を失った二人は思い出を頼りにベンデュリア王国を次の目的地に定めました。

サンカニア王国から遠く東のベンデュリア王国への間には大国ゼルゴニアが横たわります、北方随一の軍事大国は盟友ではあるものの結局援軍を送る事の無いままパルデニア王国での戦争は終結したという過去もあり、宿と物資の補給以外には予定の無かったはずが入国早々に騒動に巻き込まれていく二人。

そんなこんなでゼルゴニア王国編の開幕です!

寄り道無しの素通り旅の予定は果たしてどこまで狂うのか、乞うご期待っ。


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