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第一幕:「樽と魚と吟遊詩人」

第一幕:「樽と魚と吟遊詩人」


「何を隠そうこの私もかの国の出身、では如何にして私がここまで逃げて来られたのか、その奇跡の様な軌跡を詩にして聞かせましょう!」


場末の酒場では見慣れた流れの吟遊詩人の弾き語り、だがこの言葉を発した途端に彼は店から追い出された。

幸い暴力を振るわれた訳では無く、彼の楽器も荷物も無事である。

むしろ荷物を忘れていくなと指さされ、喉を潤す一杯の為に支払っていたコインも彼の手に戻っていた。

窓の外でコインを握りしめたままため息をついた吟遊詩人は、やがてゆるゆると歩き出し視界から消えた、恐らく詩を披露出来る新たな場所を求めて酒場を渡り歩くのだろう。

怒声も収まりいつもの騒がしさが戻った酒場では、マスターが苦い顔をして旅装束の女の相手をしていた。


「くそっ蜂蜜酒一杯分損したぜ」

「…でしたらあのコインを返さなければ良かったのではありませんか?」

「パルデニア銅貨なんて受け取っても、釣りにも両替にも使えねぇよ、最初に気づいてりゃそもそも断ってたさ」

「亡国のコインも価値は変わらない、違うのは刻印された紋章だけ、のはずでは…」

「価値の問題じゃねぇ、どうしたってパルデニアの物はみんな避けたがる、少なくともこの先何年かは、な」


それを聞いて女は外套の裾をギュッと押さえた、しっかりとした厚さと重さがあり簡単に脱げたりめくれたりする様な物ではないが、その下に着ている服が気になったのだ。

幸いにもマスターは新たな注文に対応すべく木製のジョッキを拭いており、一瞬女の様子がおかしかった事には気付かなかった。

その女、外套の下にパルデニアの紋章が入った従者服を着る女はさてどうしたものかと思案する、何故なら彼女の腰に括りつけられた革袋に収まっているのもまたパルデニアのコインだったからだ。

町に着いた時点で銀貨の両替をしておけば良かったと思うがそもそも先ほどのマスターの話を聞く限り、等価のはずの母国のコインは価値が低いか両替を断られてしまいそうだ。

だが、それも仕方のないことだろう。


「王も国も静かに消えてくなんてのは、どんな状況だったんだろうな。ああいや、詳しく知りたいって訳じゃねぇんだけどよ、やっぱりそいつはちょっと異常だろ」

「…そう、ですね」

「ま、うちの領主様も大概薄情だよな、パルデニアは包囲されてからも随分と粘ってたのによ、結局最後まで援軍を出さなかった。他領のお貴族様や隣国も同じか、どいつもこいつも普段は仲良くしてたのにいざ帝国が攻め込んできたら誰も助けねぇ」

「どうして助けてくださらなかったのでしょうか、ひとつひとつの国では敵わずとも同盟諸国が団結すれば帝国相手でもきっと…」

「お?あんたもしかしてパルデニアの人だったりするのか?」


国が滅ぶ以前、包囲戦が続くさなかからずっと思っていた事がうっかり口をついて出てしまい女は焦った。

パルデニア出身者の扱いは先ほど見た通りである、少なくとも今現在はそうなのだ。


「いえ、私は…妹があの国に嫁いでいて、それで…」


一瞬表情を硬くしたマスターであったが、それを聞くと今度はとても申し分けなさそうに眉を下げた、そうして注いだばかりだった蜂蜜酒を無言で女の前に置く。

他の客の注文で用意していたはずの物だが女はそれをありがたく頂く事にした、マスターの態度の変わりようがあまりにも可笑しく、そして心底すまないと思っているのが伝わってきたからだ。


「おう、いい飲みっぷりだな…ありがとよ。俺だってあの国が好きだったんだ、あんなにも良い噂しか流れてこない王様なんて他にはいなかったし、あの国から届く湖の魚やエビを使ったメニューはうちでも大人気だったからな。もうあれが食べれないと思うと残念で仕方がないよ、それに何だ、その、妹さんも残念だったな、せっかく良い国に嫁いだってのによ」

「いえ、妹もあの国で過ごした日々は幸せだったと思います、そうであったと願っています」


しんみりとした空気が流れるが、そこに「パルデニアの為に」という声が聞こえた。

近くの席で酒を飲んでいた男の声で、先ほどはパルデニア出身の吟遊詩人を追い出す為に声を張り上げていたはずの男だ。

だが男と同じ席に座る他の面々もそれに続いて同じ言葉を紡ぎ、静かに杯を打ち合わせ、それを見た他の席でも同様の行動が見られた。

並々と注がれたエールの杯を運んでいた女給も一瞬足を止めるとこちらを向いて無言の祈りを捧げ、帰る準備をしていた名も知らぬ老人はわざわざカウンターの前まで来ると「妹さんにお悔やみを」とだけ伝え去っていった。

酒場にいた誰もがパルデニアに縁があったという女に優しく、そして誰もが彼女の妹の死を疑わなかった。


「パルデニアや最後までそこで暮らしてた人を嫌いな奴なんていねぇさ、心情的にはそうなんだ、だがどうしてもパルデニアから来たって聞くと人でも物でも怖くなっちまう、みんな悪気はねぇんだ許してやってくれ、勿論俺もな?」


そう言ってニカッと笑うマスターに、女は泣きそうになるのを必死にこらえ、笑顔で応えた。

店を追い出された吟遊詩人の男も、嫌悪や排他の感情でそうされた訳ではない、恐怖と保身からそうせざるを得なかったのだ。



ある日、国が滅びた。

その国の名はパルデニア、大陸北方のパルデニア湖の畔に王都を持つ湖畔の小国。

北方諸国へと至る最初の防壁となり南の帝国に滅ぼされた悲劇の国。

優しき王は北方諸国の援軍を信じ最後まで王都に留まり、王の優しさを慕う民もまた王都に集い共に抗う道を選んだ。

地の利を活かすパルデニア王都への攻囲は実に3季にも及び、その後半は攻めあぐねた帝国による補給路の遮断と降伏勧告が繰り返された。

湖には毒が流され、陸路水路問わず徹底した封鎖が行われ、事態は膠着したまま冬を迎えようかと言う頃、城門前でどうせ今日も無駄足だろうと雑な大声で降伏の条件を読み上げる使者は、しかしそのあまりの静かさに違和感を覚えた。

勧告を始めた当初は帰れだの何だのと反応があったものだが繰り返すうちにそれすら無くなり無視されるようになっていた、それでも城壁の上や矢狭間に人の気配を感じたのだが、それが無かったのだ。

毎日同じ事の繰り返しで少し苛立っていたからこそ、その静寂により不気味さと疑問を感じたのだろう、何度も繰り返した降伏条件の内容は既に頭の中にあり、試しにその文言をいじって適当な事を言ってみてもやはり反応も気配も現れない。

その報告を受けた帝国の指揮官は盾を構えた重装歩兵と共に城門を突破して王都へと雪崩れ込み…既にこの国が滅亡していた事を知った。

壁上には倒れて動かぬ王国の兵が、城下には数え切れぬ墓標とそれを上回る腐敗した民の骸が、王城へと続く跳ね橋を渡れば二度と動くことの無い数多の鎧の群れが、そして王の間には身を寄せ合いひと塊となって眠る王城の住人達が居た。

多くの民が集まり、補給の利かぬ状況で主食となった湖の幸は毒に侵されており、果たして毒が先か飢えが先であったかは定かではないが…死が、この王都を襲った。

そして埋葬しきれぬ死は新たな死を呼び、王都は死に呑まれた。


帝国にとってこのパルデニア王都は、北方諸国へと攻め込む橋頭保になる予定であった。

その為当初、帝国の指揮官は黒く歪んだ骸を集めて燃やそうと試みた、だが湖畔の王都に吹く風は多分に湿気を含んでおり、冬の訪れを前にして全てを燃やすには時間も燃料も足りないという結論に至る。

王都を取り囲む湖に捨てるのが簡単で早かったが湖とその東にのびる川は貴重な水源であり、いずれ毒も流れて生き返るだろうと思われた、だから水葬は避けたかった、そもそも水葬とするにも骸の数が多すぎたと言うのもあった。

結果、兵たちにその骸の群れを城外へと運び出して埋葬する様にと命じる、冬までに王都を綺麗に掃除して温かい寝床を確保したい兵たちも鼻をつまみ顔を背けながら必死に運んだ。


この帝国の北方攻略第一陣はそのほとんどが、“パルデニアの呪い”によってこの地で息絶えたという。

今もパルデニアでは死の病が蔓延し、パルデニアの民も帝国の兵も、その骸を鳥獣に荒らされる事なく埋葬されるのを待っている…。



「ま、あんな話を聞いちゃどうしたって、な。まったくやってらんねぇぜ」

「その話、どの様な経緯でこうして伝わったのでしょうか」

「ああ、何でも生き残った帝国の兵の一部が国境を越えて来て捕まったらしくてな、パルデニアの最後の様子を吐いたらしいぞ」

「アルタニアへ逃げ込んだ帝国兵がいたのですね…その者たちが今どこに囚われているか知っていますか?」

「何だ気になるのか、恨み言のひとつでも言ってやりたいってか?しかしそうだな、こういった情報には価値があってだな」


そう言ってコツコツと指先でカウンターを叩く、情報料を要求しているのだ。

酒場には地元の人間だけでなく様々な客が来ては上機嫌になって酒と噂をこぼしていく、そういった噂を頭にしまっておいて迷惑料代わりに転売するのも酒場のひとつの役割と言えよう。

だが困った事に女の持っているコインには全てパルデニアの紋章が入っていて、更にはこういった場合にどれくらい渡せばいいのか女は知らなかった。

外套の中に手を入れたまま動きの止まる女は今度こそ様子がおかしく、マスターが改めて声をかけようとした所で酒場に新たな客があった。

目の前の女と同じく長旅用の裾が長く厚手で頭をすっぽりと覆うフード付きの外套を纏った、背丈は普通だが肉付きの良さそうなガッシリとした男だ。

外套の下、腰には明らかに剣を下げていて職業は騎士か兵士か傭兵か、はたまた最近流行りの冒険者あたりかとマスターは見当を付けた。


「ルドガー!」

「ああ、そこで…あー、そこか、モー、モニカ」

「あん?何だあんたら新婚さんか何かか?」


そう聞かれた二人の男女の反応は真逆であった、モニカと呼ばれた女はキョトンとして首を横に振り、ルドガーと呼ばれた男は明らかに狼狽えながら器用に顔は横に振り首を縦に振る。

だがマスターの勘違いも仕方ないと言えよう、声音(こわね)と挙動を見れば二人が旧知の仲でそこに信頼や安心感が見て取れる、と同時にまだ一線を踏み越えられていない初々しさの様なものも見受けられるからだ。

様々な人間模様を見てきたマスターの感では、この二人はどこか故郷の村から駆け落ちして来た裕福な家のお嬢さんとその従者か村の衛兵辺り、であった。

少なくとも帯剣するこの男が冒険者崩れの賊や野盗の類では無いだろう事に安堵する。


「そうだルドガー、貴方お金持ってるわよね?私はその…両替するのを忘れちゃって銅貨が無いの、えっと、アルタニア銅貨とか」

「勿論ですとも、もしやお支払いでお困りでしたか?」

「このお嬢さんの酒代は俺持ちだ、ついでに旅の連れらしいあんたにも一杯奢ってやろう。まぁそれとは別にちと捕まった帝国兵についての話を聞かせて欲しいと言われて、な?」

「ああーなるほど、それは出所のしっかりとした有益な情報ですか」

「はっ、酒場に出所のしっかりとした話なんてあるもんか、別に無理に売る必要もねぇが話の出所はこの町の領主に仕える兵士連中だ、ただし揃って酔っ払いだったがな」


ルドガーは少し悩んだ末に銅貨を2枚カウンターに置いた、この町を含むこの辺り一帯を治めるアルタニア王国の紋章が刻印された銅貨だ。

へへ毎度ありっと銅貨をエプロンのポケットにしまったマスターは、蜂蜜酒が並々と注がれた杯をルドガーの前にも置くとゆっくりと話し始めた。

だいぶ大げさに装飾されていた様に思うが要約すれば話はこうだ、南から逃げてきた帝国兵の一団が西の樹海で野営をしている事が確認され土地勘のある領主の兵達が奇襲を仕掛けてこれを捕らえた。


「帝国とアルタニアはまだ戦争を始めちゃいないが、パルデニア湖を越えて北上を始めた時点であいつらが北の国々全てを狙ってるのは明らかだからな、その偵察か先遣隊かと思われたんだが…」

「奇襲が成功したとは言え帝国兵を相手によく、その、地方領主の兵が生かしたまま捕縛出来たもんだな」

「そうそれだ、言っちゃあ何だがこの話をしてた兵達だって多少は腕が立つが定期的に酒場で飲んだくれてるような奴らだからな」

「アルタニアで大きな戦いがあったのなんて何十年前かしら、しかもパルデニアと樹海に接するこの町なんて過去に戦場になったことすら無いのではないかしら」


北方諸国と呼ばれる国々の間では鉱山や水源の領有権を巡って争いが起きる事はあったが、国が滅ぶ程の衝突は過去一度も起きていない。

それは飛びぬけて強力な国が存在せずある程度の均衡がとれていて、どこかの国が愚かな欲を出せばその他の国々が連携して抑え込む構図があったこと、そして何より戦いで疲弊すれば南の帝国に付け入る隙を与える事になるからであった。

これまで帝国に狙われながらも侵略を受けていなかったのは、北の国々が有事には団結する姿勢を見せていた事に加え、雪深い西の高山とその麓に広がる樹海、その雪山と樹海を水源とする巨大なパルデニア湖、湖から東へと流れる大河、この天然の防衛線によって騎馬や大軍の移動と補給線の確保を難しくしていたからである。


「ああ少なくともこの町は俺のじいさんの代から平和なもんさ、日頃の訓練がとかぬかしてやがったがどうにも帝国兵はほとんどが立つのもままならないほど衰弱していたそうだ、“パルデニアの呪い”だろうな」

「それではその兵達は、いえ今帝国兵達を捕らえている場所も危ないのではありませんか!?」

「と言うわけで情報料の対価だ、奇襲作戦に加わった領主の兵の一部と捕縛された帝国兵達はここから北西にある廃坑に移送されたそうだ」

「その廃坑までは遠いのでしょうか、詳しい場所と行き方も購入出来ますか」

「それについてはタダで教えてやっても構わねぇが、行っても封鎖されてるだろうし外の兵に追い返されるのが落ちだぞ、やめとけやめとけ」


妹の嫁いだ国を滅ぼした帝国の兵に何か仕返しでもしたいのか、その姉妹の絆には涙腺が緩くなるが行先は僻地であり、たとえ護衛付きだとしても若い女性を行かせるにはどう考えても向かない場所であった。


「まぁ一応簡単に地図に目印なんかを描いてやるけどよ…無理すんじゃねぇぞ?あんちゃんもこの嬢ちゃんを守る事を考えるならそもそも止めてやってくれ、下手したら二人とも野ざらしの死体になっちまうんだからな、これ以上の悲劇はごめんだぜ」


流れてきた旅装の客相手に絶対に行くななどと言えはしなかったがそれでもマスターの心からの心配は伝わったようで、モニカは胸に手を当てて膝を折り、ルドガーは拳を胸に当て深く頭を下げた。


店を後にする二人を最後まで視線で見送りはぁーっと深いため息をつく雇い主に、苦笑する女給は「いい人たちでしたね」と声をかける。

そう、真っ直ぐな瞳と率直な物言い、人に騙される事はあっても騙す事は無いであろう人柄には出会ったばかりだと言うのに好感が持てた。

今思い返してもとても不思議な二人であった、ただの純朴な田舎者かとも思ったが言葉からは教養が感じられたし別れの挨拶は優雅ですらあった、パルデニアに縁がある人間はみんなあんな風になるのだろうか、噂に聞いたかの国の王様の様に。


「ふむ、裕福な家のお嬢さんとその従者かと思ったが、どこぞの貴族の姫さんとその騎士、か?いやそんなはずもねぇか、がははははは」

「マスター!また薬屋のとこの爺さんが琥珀蟹の酒蒸し食わせろって言って聞かないんだけどー」

「だぁかぁらぁ、おい爺さん!あれはパルデニアからの荷が無くなってもうメニューにねぇんだよ!何度も言わせるなこのクソ耄碌…」




「とても良い方でしたね、丁寧に教えて下さって、地図にも印を…これはアルタニア語なのかしら?」

「あれが良い人?丁寧?…モニカ様、もう少し人を疑う事を覚えて下さい、あとこのメモは字が汚いだけで共通語です」

「人を疑っては何事も始まらないのよ、それでその、これは何て書いてあるのかしら」

「…はぁ、えーとですね、最近になって廃坑や樹海開拓時の古い開拓村跡なんかに野盗が出没するから注意が必要、だそうです。帝国だけでなく野盗まで現れるとは嫌な話ですね、ロストアの領主は何をやっているんだか」

「この町の領主様を悪く言ってはダメよ、それに野盗さんにだって何か事情があるのかもしれません」

「野盗にさん付けしないで下さい、それでどうしようって話ですか」


酒場を出た二人は初めて訪れたロストアの町中を興味深げに眺めながら歩いていた。

ここアルタニア王国領ロストアの町は林業と鉱業を主とする、辺境にしては人の多い活気のある町であった。

町の外周部では木材に斧を振り下ろす小気味よい音が響き、町の中心部では鉄にハンマーを振り下ろす高音硬質な音が聞こえてくる。

南に抜ければパルデニア王国との国境があり、西には鬱蒼とした樹海が広がる、元々はこの辺りも樹海であった場所を切り拓いて作られた比較的新しい町だ。

そんな職人や作業員が多く住む町だからだろうか、通りを歩けば酒場の看板がいくつも目に入った。


「捕まった帝国兵と言うのが私たちの出会った者たちかは分かりませんが、もしそうであれば奪われた品を取り戻したいのです」

「金品はともかく、アレですか…」

「ええ、アレが無いと身分を証明する術がありませんから」

「レモニカ様の顔を見ればそうであると分かる者もいると思うのですが」

「国外で私の顔をしっかりと覚えている方となると、この国ではアルタニア王とその側近、使者として度々来ていたナントカと言う重臣の方くらいでしょう、いずれも身分の証明出来ない今の私が簡単に会う事は出来ない方々です」

「身分を保証してもらうために身分の証明が必要とは…」

「そう言う訳で当面の目標はその廃坑に囚われている者の調査と、アレの奪還です。いいですね、ウ・ル・ド・ガ?」

「あ…分かりましたモニカ様…あー、モニカ?」


口に手を当てクスクスと上品に笑うモニカに、ルドガーの耳は自然と赤くなっていた。

遍歴騎士ルドガーとその従者モニカを名乗る二人の旅はこの町から始まったが、身分を隠した二人の旅の目的はこの時まだ定かでは無かった。

それ以前の人生と身分を考えれば国の復興復権を考えるべきであったが、パルデニアの王都は“パルデニアの呪い”と呼ばれる死の病に蝕まれそれは今なお広がり続けており、王国民のほとんどは王と共に王都で眠っているのだ。

治めるべき国土も、統べるべき国民も、今は存在しないのである。


この時、

元パルデニア王女レモニカ・パルデニア 19歳

元パルデニア騎士ウルドガ・ラグーナ 28歳

いずれも若く、国策を語るにも、騎士としての腕前もまだまだ未熟であった。


「さて、それでは宿を探しましょうか、この町で得られる情報はまだまだありそうですし、今夜こそは冷たい土の上ではなくベッドの…せめて藁や毛皮の敷物の上で休みたいわ」

「同感です、野宿にも硬い寝床にも慣れてはいますが、壁があると無いとでは周囲に気を配る必要も少なく緊張の解れ具合が違いますから」

「なるほど確かにそうね、いつも先に寝てしまって申し訳なかったわ、もっと体力を付けておかないとダメね」

「いやそういう意味では!その!私は騎士ですから!」


そう言うルドガーであったが、ここ最近の逃避行における癒しはモニカの寝顔であったなどとは口が裂けても言えないのであった。

それに何よりこの規模の町の宿であれば、よほど場末の店にでも行かない限り安全は保証されるであろう事は実際大きい。

王都を脱出してからここまでひと月あまり本当の意味での休息を取る余裕などなく、モニカにはしっかりと休んで欲しかったのだ。

敬愛すべきこの王女は口にこそ出さないが、その手や足には細かな切り傷や擦り傷が増え、時折足を地面に下ろすだけでビクリと肩を震わせ唇を噛み締めているのを知っている。

モニカは父王に愛され蝶よ花よと育てられてはいたが、決して自ら行動する事を知らぬ訳でも市井の生活を知らぬ訳でも無い、むしろ民と共に湖を行く漁船に乗ったり荷馬車の馬の世話をして遠乗りをしたりもするお転婆とまでは行かずとも活発な女性であった。

だが死にゆく国と民をその目で見て、使命を帯びての脱出は失敗に終わり、そこから経験の無いひと月の旅である、身も心も疲弊しているのは間違いなかった。


「あら、あの方は…」

「先ほどの吟遊詩人ですね、パルデニア出身と言っていましたが本当でしょうか」


見れば酒場からリュートを背負った男が出てくるところであった、あれからの時間と男の表情を見れば一曲歌って来たという事では無いのだろう。

改めて見ると服装は簡易的な旅装で、背負ったリュートもむき出しのまま、このご時世に律儀にパルデニア出身である事を名乗っているあたり世慣れた者とは思えず、吟遊詩人を名乗って日が浅いかどこぞの町に定住して細々と歌っていたのだろうと推察された。


「もし、そこの吟遊詩人さん」

「あ、はい?これはこれは旅のお方、わたくしめにどのような御用でしょう、歌をご所望ならば近隣各国で人気の歌をそらんじれますよ!伝説の騎士の英雄譚から間抜けな王の凋落譚まで何でもござれ!」

「あらそうなの?それじゃあ…“湖面に浮かぶ白亜”は歌えるかしら」

「それ、は、その、故郷の漁師達の間では有名な歌ですのでもちろん歌えますが、今もパルデニアの歌を断られて来たところでして…」

「お代はこれでいかが?」


モニカが差し出した手のひらには、パルデニア銀貨が1枚。

詳しい相場を知らずともこれが対価として多すぎる事は分かっていた、そして一曲銅貨数枚が相場の吟遊詩人が銅貨100枚分の価値を持つ銀貨を見ることなど極めて稀な事だ。

男は目を丸くして、そして目ざとく銀貨の表面に刻印された紋章が故郷パルデニアの物であることにも気づいた。


「もちろん十分です…が、仮に両替商に難癖を付けられても銅貨50枚分、領主様の直売店での買い物であればそのままの価値で使えると思うのですが、本当にいいんですか?」

「あらこの町の事情に詳しいのね、それじゃあその他にも色々と教えて下さらない?良い宿の場所やこの町での案内、その直売店というのも気になります。全部で銀貨10枚お渡ししますから」

「銀貨10枚!?」

「レ…、モ!モニカさ…モニカ、それはいくら何でも多すぎます、銀貨10枚では従者だった頃の私のひと月の褒賞と変わりません」


贅沢をしなければ銀貨が数枚あればひと月は暮らせる世の中である、その破格の申し出に正直者の吟遊詩人はどう答えたものかと唸り、ルドガーは過去の自分の倹約生活を思い出し泣きそうな思いで止めに入る。

だがモニカは止まらなかった、彼女なりにせっかく見つけた一筋の光明を逃すまいと考えての事で、決して同郷である事が確定したからという理由では無い…はずである。


「(大丈夫よ、どうせパルデニアのコインを沢山持っててもこの先使いづらそうだし、大量に両替商に持ち込んでも変な目で見られるでしょう?)」

「(いやいやそうかもしれませんがしかしですね、銀貨10枚ですよ?10枚あれば…)」

「(もう決めたの、そんなに気になるならルドガーにも私から褒賞を出すわよ、この旅が終わる時に金貨1枚、ね?)」

「き!!!」


通りの真ん中で突然奇声を上げた男に道行く人々が怪訝な顔をする、屋根の上から獲物を探していた猫たちも驚いて走り去ったが、さもありなん。

金貨と言えば銀貨100枚分、つまり銅貨にして10,000枚分の価値がある代物で、たとえ騎士であろうとも普通に生活をしている中ではその現物を目にする事すら稀な輝きだ。


「んー、んー、分かりました、いいでしょう、いいでしょうとも、さあ案内を頼みます吟遊詩人の、えーと」

「あー、ラングです。ありきたりな名前ですが」

「私はモニカ、こちらのルドガーの従者です。ラングさん、パルデニアの漁師に多い名前ですね」

「そうでした、私の名はルドガーで職業は遍歴の騎士で、パルデニア出身で今は従者のモニカと共に諸国を旅する者で、それからそう、帝国の侵攻を聞き国に帰るところだったが間に合わず悔しい思いで夜な夜な枕を濡らしている、とそんなところだ、うん」

「妙に詳しい紹介をありがとうございます…そうでしたか、ご同郷の騎士様だったとはこれも何かの縁ですね。私の親父と祖父が同じラングって名前で王都に暮らす漁師でした、私はその、どうしても漁師が性に合わなくてですね…恥ずかしながら1年前に王都を出奔したんです、丁度帝国がやってくる直前でした…」


少し声のトーンが落ちたのは、それが家族との最後の別れになったからだろう。

その白亜の姿を湖面に浮かばせるパルデニアの王都には多くの漁師たちが住んでいた、彼らがパルデニア湖で獲る魚や蟹・海老が王都の食卓の常であり、そして王国の主要な交易品の一つであった。

王は漁師たちを大事にし常日頃から彼らこそ国の要と評していた、そんな職業から逃げた事、そして結果的に二度と帰れぬ旅となってしまった事をこの吟遊詩人は気にしているようで。


「今ここでこうしてラングさんに出会えたのは、貴方が自分の信じた道を進んだからです、どこかでこの出会いを祝して乾杯しましょう?」

「それはいい、さっきの蜂蜜酒も美味かったがやはり長旅で疲れた体はエールが飲みたいと言っていたところです」

「おお、おお、そうしましょう、是非そうしましょう!それでえーと、酒場はいくつもあるんですが私はここ数日でこの辺の酒場からは出禁をくらっていましてですね…」

「ここ数日…そういえばラング殿はいつからこの町に住んでいるのだ?」

「そんな殿なんてやめてください騎士様、ラングと呼び捨てで結構。この町にはひと月ほど前に着いたばかりでして、それまでは国境沿いのパンザニット村におりました」


意外な名前が出てモニカは首を傾げた、いずれ王の代理を務める事もあるだろうと国内の事についてはそれなりに学んできている、その知識によればパンザニットは王都の北にあるパルデニア王国内の小村であったはずだ。

帝国は大小問わずパルデニアの各町や村に兵を送っており、そのほとんどは帝国に抗って武力制圧されたか、土地を放棄して王都に逃げるかの選択をしたはずなのだ。


「パンザニットは無事だったのですね!」

「ああいや、まぁ無事と言えなくもないですが…あそこで暮らしてた村人達とは帝国が来た時に村を捨てて一緒に逃げましてね、近くの森にあった炭焼き小屋なんかに隠れ住んでたんですよ。でまぁ占領しても旨みが無かったんでしょうなぁ、3か月くらい前に帝国兵は引き上げていったようで、しばらく様子を伺ってたんですが戻ってくる気配もないってんで村に戻ったんです」

「まだパルデニアの民が残っている、それがどれだけ素晴らしい事か」

「えっと喜んでるところ申し訳ないんですが、村は荒れ放題で一部の家は焼け落ちたり打ち壊されたりしてて、食べ物や家畜なんかも根こそぎ持ってかれてたんでとても冬を越せないからと、結局揃って他へ移動する決断を下したんですよ、王都方面も他の町も帝国兵だらけって話だったんで食料を探しながら森を越えて北東のサンカニア王国へと」


村人たちと一緒に行く選択肢もあったが元々村の者では無かったラングはここで別れ、以前から気になっていたアルタニアを目指したのだという。

パルデニアは漁業と水上交易、アルタニアは林業と鉱業で栄える王国と呼ばれる事があるが、サンカニアは平野の真ん中に王都を持つこれといった産業の無い小国であった。

現在の国王は老齢でよく言えば野心も無く穏やか、だがそれは決断力に乏しく面倒ごとを避ける傾向にあるとも評されている。

事実パルデニア王からの援軍要請に際しては、最後まで返答を保留としたまま今に至る、だが心優しきパルデニア王はそれも仕方なしと思っていた、かの国の兵は職業軍人では無くほぼ全てが有事に招集される民兵で構成されていたからだ。


「あ、ここですここです、しかしどうしましょうか、私はこの通り男の独り身なんでこの倉庫暮らしで問題無いんですが…」


通りを歩きながらこれまでの経緯を話していた一行は、町の外周に近い宿屋の前に来ていた。

規模はやや大きめだがいかにもコインを節約したい旅人向けの、何よりも利便性と実利を優先した作りと見た目の建物である、そしてラングが寝泊まりしているというのはその横に併設された倉庫であった。


「ここの宿の女主人には良くしてもらってます、パルデニアから来たって言ったらどこも泊めてくれなかったんですが、ここでいいなら自由に使ってもいいと」

「それはどうなんだ?良くしてもらっていると言えるのか?」

「もちろんです!ここなら他の客に文句も言われませんし、倉庫なんで部屋が大きくてむしろ快適なくらいですよ、ベッドも備品も倉庫の管理人や用心棒をしてた人が使っていた物があるんで不自由しません」

「その管理人さんや用心棒の方たちは?」

「あー、この宿屋の女主人さん、亡くなった旦那さんがパルデニアの人だったらしくこの倉庫を使って魚やら何やらの輸入と卸売りをしてたって話で…だから今は倉庫がほとんど空っぽなんです」


亡くなった旦那が昔の伝手を活かしてパルデニア産の湖産物を輸入し手広く販売していたのだろう、この規模の宿屋を維持出来ていたのは恐らく宿賃の収益だけではあるまい。

倉庫に一歩足を踏み入れれば懐かしい香りがした、パルデニアの王都では珍しくもなかった魚や香草の匂いだ。

そんな少し前までは当たり前の様にそこにあった日常の残り香に、モニカは人知れず涙を流し、残された数少ない木樽の表面を、そこに焼き印された故国の紋章をそっと撫でた。


「残っているのは売れ残りだろうか」

「ええ、腐ったのは捨てたそうですが干物や塩漬け魚とかはまだ食べられそうってんで、今や買い手が付かないみたいですけどね」

「こんなに美味いものを、もったいないな」


男二人は大いに頷きあいながら空の手で乾杯をする、新鮮な魚であれば主食として食べるのがいいが、こういった品であれば酒が進むことだろう。


「ここが気に入りました、お部屋もいくつかあるようですし私たちもここをお借りしましょう!」

「まあ無難、ですかね分かりました。ようやくぐっすりと眠れそうですね」


「で、ラング?こいつらは一体誰なんだい?」

「マドレアさんっ!?」


突然掛けられた声にラングは文字通り飛び上がるが、届いた声はその内容の割に穏やかであった。

マドレアと呼ばれた女は倉庫の入り口に背を預けひらひらと手を振っている、やや恰幅の良い中年の、しかし見るからに働き者といった雰囲気を醸し出すエプロン姿の似合う女性であった。


「こちらの宿屋の経営者さんでしょうか?私はモニカと申します、騎士ルドガーの従者でラングさんと同じパルデニアの出身です」

「へぇパルデニアの。そっちの騎士さんも同じなのかい?それならここを使っても構わないが宿賃は他の客と同じだよ、それでいいかい」

「ええもちろんです、ぐっすり眠れそうな素敵なお部屋が見つかってうれしいです」

「倉庫でぐっすり、ね。最初に提案した私が言うのも何だけどラングと言いこんな魚臭い場所で物好きなもんだ」

「だって、いつもそこにあった香りですから…とても落ち着くのです」

「ふぅん…なるほどね、あんたも旦那と同じ事を言うんだな。旦那が生きてりゃパルデニア料理でも振舞えたんだがあたしじゃ捌き方が分からない、その“香り”で我慢しておくれ」


ニカッと歯を見せ豪快に笑うとマドレアは去って行った、だがその背中が少しだけ寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。


「なるほど良い人だな」

「とても素敵な人でした」

「ね、そうでしょそうでしょ、あの後ろ姿なんかも妙な色気が…」

「ラング?パルデニアの恥になるような行為は厳に慎むように、これは命令です」

「は?はいぃぃ!」


宿から提供されたライ麦パンとオニオンスープ、小樽でエールを買って来たルドガー、マドレアに交渉して塩漬け樽を一つ開けたラング。

モニカが慣れた手つきで魚の腹に香草を詰め炙り焼きにすれば素晴らしい香りが広がった、それをそのままパンにはさみ各々頭や尻尾からかぶりつく。

漁師が船の上で食べる簡素で手軽な食事、だがそれこそ失われて久しいパルデニア料理の一つ、その懐かしい故郷の味は少しだけ塩辛く、エールの樽はすぐに底を見せた。

夜遅くまで響いたリュートの音と吟遊詩人の歌声は、やがて大きないびきへと変わっていった。



翌朝、改めての礼を言いに行ったモニカ達は頭を抱える女主人に遭遇した。


「ああ、あんたたちか、よく眠れたかい」

「はいそれはもうぐっすりと…あの、どうかなさいましたか?」

「さっき商会の使いが来たんだ、麦も野菜も値が上がる、宿賃に込みでうちが出してるパンとスープも今まで通りには提供出来なくなりそうなの」

「では値上げが必要に?えっと追加でいくらお支払いすれば…」

「あっははは、すぐにコインを出そうとするもんじゃないよ、ぼったくられたくなけりゃね!しかし値上げすると客足は遠のく、でもうちは料理付きが売りでそれで選んでくれる客も多い、ほんとに困ったもんだね」


そう言ってやれやれと笑うが、眉の寄ったその顔は声音以上に深刻そうであった。


「おいおい料理付きが売りって言ったって、もそもそとしたライ麦パンと玉ねぎスープだけじゃねぇか、昔はもっといいもん出してただろうが」

「何も出ないよりマシでしょ!文句があるなら他の宿を使いな!」


眠そうにあくびをしながら階段を下りてきた客は冒険者だろうか、短剣と弓で武装した軽装の男は「けっ」とつまらなそうな顔をするが、軽く手を上げると宿を出て行った。

どうやら常連客のようでこういったやり取りもいつもの事なのだろう。


「昔はね、旦那が料理を作って提供していたのよ、味も人気でそれが目当てでこの宿を選んでた人も多かったくらい。だから客足は減る一方、パルデニアとの交易も無くなったし、ここに来てこの値上げ…はぁ」

「あの、私に…私に何か出来る事は…そうだ!私が各部屋を回り無償で歌を歌うサービスとか…」

「あんたこの町に来た日にここでパルデニアから来たって堂々と言って、他の客に同じ宿に泊まりたくないって言われたの忘れたのかい?」


しまったそうだったとばかりに大げさに手で顔を覆うラングは、これが彼の素なのだろうがとても滑稽でなるほど吟遊詩人に向いているように思える。

残念ながら高級な施設で優雅に()を奏でるタイプではなく、大衆が集う酒場で指笛や囃し立てる声に歓迎されるタイプであろうが。


「不当な値上げという訳では無いのだな?もしあくどい商売をしているなら領主に掛け合ってみてはどうだろうか」

「残念ながら不当でも何でも無いのさ、何なら領主も手を焼いている野盗被害が原因って話でね」

「酒場のマスターさんも話題にしていた野盗さんでしょうか、それならば話を聞きがてらその商会を訪ねて情報収集をしましょう」

「だから野盗ごときにさん付けしないで下さいって、しかしその案には賛成です」


ラングの案内によりほどなくしてたどり着いたのは、ロストアの町の中央に位置する領主の館に近い、比較的大型の商館などが建ち並ぶエリアだった。

ロストアは鉱業が盛んな為か地方の町にしては石造りの立派な建物が多いようで、美しさは白亜のパルデニア王都に遠く及ばないがそのシルエットの重厚感や堅牢さは特筆すべきものがある。

冒険者ギルドと思われる建物も質実剛健といった佇まいで、それだけで出入りする冒険者たちが心なしか頼もしく見えるのは恐らく良い事なのだろう。


「思ったよりかなり立派ですね、そうなるとさてどう切り出したものか、いきなり私たちが行って話を聞かせてくれるだろうか」


目的の商館の前にはいかにも用心棒といった風体の傭兵が立っていて通りに睨みを利かせている、突然現れた旅装束の人間を素通りさせてくれる様にはとても見えなかった。

新たに訪ねて来る者は皆、文章の書かれた紙を提示して通されていて、それが何らかの許可証か仕事を請け負っている事を示すものなのだろう。

宿屋のマドレアであれば取引先という事になるだろうが、勝手にその名前を使って何か問題があれば迷惑を掛けてしまう、それは避けたかった。


「なあやっぱりさっきの依頼、諦めるには勿体なくないか?」

「しかしよう、正体不明で神出鬼没な野盗集団だぞ、しかもその規模も練度も不明なんじゃいくら賞金が高くたってリスクが大きすぎるだろ」

「だから俺たちだけじゃなくて他の連中にも声を掛けてさ、大々的に討伐隊を組むんだよ」

「で、それだけの伝手や説得力がお前にあるのかよ」


苦い顔をして通りを横切って行ったのは先ほどの冒険者ギルドから出て来た者たち、その会話に3人は興味を引かれた。

そして名案を思い付いたのかパンッと手のひらを打ち合わせるとモニカは商館の前に陣取る用心棒たちの元へと歩き出す、男2人は慌ててその後を追いかけるのであった。


「もし、お伺いしたい事が」

「これはこれは美しいお嬢さん、うちの商館に何か御用で?領主様の使いか何かかな?」


応じた男の後ろで他の用心棒たちがゲラゲラと笑う、モニカがいかに整った顔立ちをしていても、上等とは言えない旅装束の娘を領主の使いだなどとは本気で思っていないのだろう。

だがすぐに追い付いてきたルドガーの姿とその形相に空気は一転して一気に張り詰めた、帯剣するガタイのいい男に睨まれればそうもなるだろう。


「申し遅れました、私はモニカ、こちらの遍歴の騎士ルドガー様の従者をしております、この度は冒険者ギルドにて話題に上がっている野盗の件について、こちらの商会も依頼主なのか、また被害状況はいかほどなのかを事前に確認したく参りました、どうぞお取次ぎを」


騎士という職業は基本的には自称では無くいずれかの国から任命されているものだ、そして当然ながら国が認めるにはそれなりの功績や実績を示す必要がある。

故に偽物で無い限り、騎士の実力の最低ラインはそんじょそこらの用心棒よりは高いのが常識だ、はたして目の前のルドガーという男は威風堂々としており、従者を名乗った女の素養は明らかに高い、そして何より。


「渡りの騎士と従者に、その武勇伝を弾き語る吟遊詩人とは、まるで物語の中から出て来たようなご一行だ。従者の方への無礼をお許し下さい、すぐに商会長に取り次ぎますので中でお待ちを」


丁寧な対応が出来るなら最初からそうしていればもっと重用されそうなのに、とは言わず。

背筋の伸びた用心棒に見送られ足を踏み入れた商館は、一階から三階までが吹き抜けのやはりとても立派な建物だった。

入り口の正面には大きなカウンターがあり商人や運び屋風の者たちが商館のスタッフと話し込んでいて、左右の壁沿いにはいくつかのテーブルと椅子が並び順番を待つ者に飲み物や果物が振る舞われている。


「あちらのテーブルでお待ち下さい、食べ物や飲み物はご自由にどうぞ」

「随分と気前がいいのだな」

「実働している商店や倉庫は他にあってこちらは主に商談をする為の場所ですので、まあ先行投資といった感じなのかと」


館内には外と同様に少しガラの悪い用心棒たちが点々と配置されていて、逆に荷を運ぶなど働いているスタッフの姿はほとんど見かけない。

一般的な商店と倉庫を兼ねる商館では無く、もっと大きな商会の中枢商館、主に部屋に保管されているのは証書や証文、権利書の類で、働いている人間は鑑定士や価値の確認や管理を行う者ばかりなのだろう。


「お待たせ致しました商会長のホルドと申します、旅の騎士様御一考と伺いましたが、いずれの国の騎士様でしょうか」

「長らく国を離れていたパルデニアの騎士ルドガーです、帰国の途についておりましたが帰るべき場所を失いました」


商人は利に聡く嘘に敏感だ、それが大商会の商会長ともなれば百戦錬磨の商人だろう。

他の国の名を出したところで言葉のなまりやちょっとした話の中に違和感を見つけ出してしまう、だから話題性の高い本当の事を堂々と述べた、情に訴えその影に経緯の嘘を隠して。


「ほうパルデニアの…それは大変でしたね、かの国については我々も心を痛めていたところです。それではお立場は辛く旅も順調とは言えないのでは」

「はい、残念ながら世間では“パルデニアの呪い”なる病の話が広がっており、宿も満足に取れぬ有様でして」

「然り、然り。私も心苦しくはありますが商人としてはパルデニア産の商品の取引を停止しております、例えそれが古くから市場にあった物だとしてもです、買い求める側からすればいつ入荷した品かなど分かりませんからな」


パルデニアの滅亡とその呪いは今最も大きな話題のひとつと言えるだろう、特に交易によって多くの品のやり取りをしていた商人からすれば大問題である。

大きな損益を出した商会もあっただろうし、現在進行形でその穴を如何にして埋めるかも話されているはずだ、だからこそ苦労を共感出来るパルデニア出身者の話を、初対面でわざわざその出自を明かす騎士を、疑いたくは無かった。


「それで、本日は当商会にどのようなご用向きでしょうか、お手伝い出来る事は限られるかもしれませんが…」

「あーえーと、まずはどの件から聞くべきだ?」

「もうルドガー様ったら。ホルド様、従者モニカと申します、本日は2点お伺いしたい内容がございます。まずは現在倉庫を宿として貸して下さっている方が食品の値上がりで困っておりました、実際のところ状況はどうなのでしょうか」

「倉庫を…本当に苦労されておりますな」


にじむ視界を胸元から取り出したハンカチで拭い、いや失敬失敬と微笑むホルドはだいぶ情に脆い性格の様だ。


「お伺いの件は何とも耳の痛い話ですが、決して利益を貪っているつもりはございません。この町の交易は南のパルデニア方面、北のアルタニア王都方面、東のサンカニア方面で成り立っておりました、お察しの通り南の交易路は封鎖され今は使えません。そして最近になって北と東の道に野盗が出没する様になった為、度々荷が奪われる被害が発生しておるのです」

「交易によってこの町に入ってくる物、食料自体が大きく減ってしまっているのですね…」

「ええ、特にパルデニアからの荷が無くなったのが痛い、交易の総量からすれば半数以下でしたが、パルデニアの湖産物はロストアの町でも人気でよく食卓に上がっていましたからな」


周辺に魚を安定収穫出来るほどの大きな川や池などが存在せず、山や樹海に近く平地の少ないロストアでは獣肉と根菜類が主食で、希少なパルデニアからの荷は売れ残ることが無かったという。

そんな話が少しだけ誇らしく、少しだけ懐かしく、少しだけ悲しかった。


「まあそんな訳でして今ロストアは飢えるほどではありませんが食料不足な状況です。商人としては食品類の値を何割か上げるしかありません」

「値上げの理由も、値下げの交渉が難しい事もよく分かりました。…それでは2点目ですが、その問題になっている野盗についてです。どうやら冒険者ギルドが討伐の依頼を掲示しているようですが情報が少ないという話も聞きます、実際に被害に合っている商会の方で何か分かっている事はありませんか」

「ほう、もしや騎士様も討伐に参加して下さるのですかな?確かにうちも含めた商人ギルドから賞金首として討伐依頼が出ております、野盗1人の捕縛か遺体の引き渡しで銀貨1枚、だったかな」

「それは…高いような安いような、いや1人からでも賞金が出るなら冒険者たちもやりようはあるのか」

「数日お時間を頂けるなら現場の者たちからのより詳しい報告を集めさせましょう、実のところ困ってはおるのですが当商会の隊商は規模も大きく護衛も増やしたので被害は比較的少ないのです、その分人件費が掛かっておる訳ですが。討伐すべしと大きな声を上げているのは主に小規模商会と行商人連中ですな」

「ありがたいお申し出です、ですが私たちが参戦すると決まった訳ではありません、それでも構いませんか?」

「なに、国を失ったとは言え騎士様は騎士様です、これも何かの縁、商人としてはその縁に時間とコインを使うのは悪い話じゃありません」


二コリと笑うその顔は優しいが、恐らく今その頭では損得勘定がフル回転で行われているのだろう。

モニカ達としても大きな影響力を持つ商会と利害関係で結ばれた事は大きい。

そんなやり取りを、漁師出身の吟遊詩人はただただ目を見開いて見守っていたのであった。



「あーうまい、頭がスッキリしますわ、あーうまい」


ホルドとしっかりと握手をして、笑顔の強面用心棒たちにも見送られ商館を後にした一行が次にやって来たのは「直売所」なる場所だ。

町の中央にある領主の館に併設された建物で、一見すると先ほどと同じ商館の様に見えるが、中に入ってみればそこはとにかく雑多な印象の不思議な空間であった。

ある一角では料理や飲み物が売られており、ある一角では保存食が、またある一角では生活用品が並べられ、別の一角には武具や馬具などが置かれ兵士も配置されている。

商館でのホルドとのやりとりを見て頭をパンクさせていたラングは、到着するなり慣れた様子で飲み物を注文すると味わうよりその冷たさを楽しむ様に一気に喉に流し込んでいた。


「はぁぁ、お二人もどうです?ここの品はとにかく安いのと領主の直轄なんでパルデニア硬貨も問題なく使えますよ」


パルデニア、の名に何人かの客が振り返り、近くに居た者もじりじりと距離を取っているように見えるが、本人が気にしている風にも見えないので見なかった事にする。

とても残念な反応だが原因が原因だけに仕方がない、そう思っていちいち気にしないようにするしかないのだろう。


「領主様の直轄の販売所だから直売所?どうして領主様が商人さんたちとは別にお店をやっているのでしょう、それに安く売っているのでは商人さんたちから文句は出ないのかしら」

「それはここにある品が全て戦利品や没収品、廃棄品だからだ、旅の方」


当然の疑問に答えたのは武具の前に立っていた兵士だった、王国の正規軍とは異なる地方の町では一般的な領主の私兵である。

町の治安を守り有事に戦うのはこの私兵たちで、町にいる兵士の9割は彼らのようなこの町で雇われこの町に属する兵であり、王国から派遣されている正規兵は1割ほどであった。


「領主がその権限において討伐した賊や獣から得た物、犯罪を犯した者や町で亡くなった身寄りの無い者の所有物、領主の館や我ら私兵が公務で使用していた古い品の払い下げ、そんなところだ」

「わぁなるほど、それで安く買えて、商人さんたちの取り扱う品とも競合しないのですね!」


つまりは中古品だが、見ればその品質は新品の様に見える物からまだ使えるのか不安になる様な物まで様々であった。

そして数多く並ぶそれらの中には、見慣れた物もあったのだ。


「…これは、パルデニア様式の服ですね、これも、これもパルデニアの」

「そんな、どうしてこんなにも…あ、あの兵士さん、その…これらの品はどこから」

「パルデニア硬貨と聞こえたが、君たちもパルデニアから逃げて来た民か?あんたはパルデニア兵の生き残りか何かか?」


きちんと対応してくれた私兵は嫌な顔もせず距離を取ったりもしなかったが、その声からは若干の緊張が伝わってきた、その心中を思えばモニカ達に最大限の配慮をしてくれているのだろう。


「旅の帰り道、その辿り着く先を失った騎士とその従者です、ロストアの方」


その返答を聞いた私兵は深く頭を下げると、私に出来るのはこのくらいですがと飲み物を二つ注文した、それはだいぶ気の抜けて品質の落ちた、でも冷たく美味しいエールだった。

ラングが空気を読まずに「パルデニアの為に!」と乾杯の声を上げれば、しかし店のそこかしこから応じる声が聞こえた、顔は見えずとも、いや顔が見えないからこそ、その心は見えた気がして冷たいエールで満たされた体が温かく感じられた。


「あれらの服ですが、パルデニアから逃げて来た者たちが身に着けていた物です。一時はこのロストアに数十人が暮らしていました、しかしその、例の話が広まると職を追われ…困窮した者から町を出ていきました。あれは彼らが残した物やひっそりと飢え死んでいた者の遺品、と…」

「…と?」

「どうぞご内密に、パルデニアの騎士と伺ったので話しますが…最近討伐された賊から得た戦利品も含まれます」


私兵が小声で伝えた内容は衝撃的だった、それではまさか、と。

賊が難民となったパルデニアの民を襲い奪い持っていた品である可能性も否定は出来ない、出来ないが、別の可能性の方が遥かに高く感じられた。

そんな話があって良いのかとモニカは目の前が真っ暗になる感覚に陥り、ルドガーも野盗ごときと言い続けた先ほどまでの自分を殴りたい気持ちでいっぱいになった。


「領主は…もう兵を出しません。討伐を躊躇っています、私も出撃の命が出ずにホッとしています。ですが…」

「ええそうね、商人ギルドを止めなければ」

「無理でしょう、商人たちは間違いなく被害者です、モニカ様、これは…」


パルデニアを脱出し生きている民がいる事を昨日喜んだばかりだったはずなのに、なぜどうしてと思わずにはいられない。

だが町の人々の対応を思えば恨み言を言う気にもなれなかった、伝染する病の恐ろしさは不気味なほどの静けさを増していく王都をその目で見て知っている、その結末を噂で伝え聞いただけのロストアの人々が恐れ避けるのは当然だろう、それでも彼らの心までは離れていないのだから。

そして領主は隔離や追放といった対応は取らなかったようだ、だが庇護もせず流れに任せた、その結果の今の状況は恐らく領主にとっても想定外であろう。


「(何か我々に出来ることはないか考えましょう)」

「(そうね、でも直接会えるかどうかも分かりませんし、私が“私”であると名乗りを上げて出ていく訳にもいきません)」

「(そうですね、王都の民であれば顔を見てモニカ様であると分かるかもしれませんが…身分を偽る、特に王族だなどと名乗り、疑われ、証明出来なければ死刑もあり得る重罪です)」

「(何をするにもまずは情報ね…あとルドガー?モニカね?モニカ様って何?)」


モニカにジト目で見つめられ、色々と誤魔化すように一気に残りのエールを飲み干すルドガー。

酒のせいかどうかはさて置き顔を赤らめる彼は、それを言ったら従者が主を呼び捨てでいいのかとは思い至らなかった。

そしてルドガーのその様子は、やるせない状況を憂えて酒をあおる亡国の騎士の姿そのもので、水面下での会話など知る由もない私兵は踵を揃え一礼をすると持ち場に戻って行った。

…ラングが既に3杯目に口を付けているのは、報酬の銀貨、パルデニア銀貨がここならば額面通りの価値で利用出来るからだろう。

革製の水袋や小型のランタンなどいくつかの携行品を買い求めた後、すぐにどうにか出来る状況に無いと判断した一行は商会長ホルドからの情報を待ちつつロストアでの滞在を続けるのであった。




「はい?まーそうですね、私は幸い私財を持って逃げて来られましたんで、着る物や寝袋、このリュートも。それ以外の物はパンザニットの人たちに買い取って貰ったんでパルデニア硬貨も少々と」


宿の倉庫に戻り、そういえばラングはこの町に来て生活に困らなかったのかと質問したのはモニカである。

少なくとも吟遊詩人としての収入もそれ以外の仕事も出来ていそうには無いが、宿賃や食費などは問題無かったのかと。

野盗討伐の(くだり)は私兵との間で声を潜めて行われていたが、難民が残した品が並んでいた点についてはラングも承知で、自分と彼らとでは状況が違うと答えた。


「恐らく、ラングより以前にこの町に流れ着いた者たちは、急な帝国兵の出現に着の身着のままで逃げだしたか、抗った末に抗いきれずに脱出したような者たちでしょう」

「尚のことその人たちも無事であって欲しいと願わずにはいられません、冒険者ギルドによる大規模な討伐が行われる前に、何か、何とか…」

「冒険者たちもきっと情報を集めているでしょう、遭遇した場所やその規模、武装状況などの情報を得ているかもしれません」

「彼らからも話を聞けるでしょうか?そういえばこの宿にも冒険者が出入りしていましたね」

「どうでしょう、あの酒場のマスターじゃありませんが情報には価値があります、コインで解決出来ればいいですがこれから請け負うかもしれない依頼の前情報をそう簡単に話すとも思えません、依頼の先を越されては元も子もない話ですし」


うまくいかないものですねと項垂れるモニカ、その姿すらも魅力的だなどとは口が裂けても言えないルドガーは後ろから掛けられた声に変な声が出た。


「なああんた達、ってなんだいびっくりさせるんじゃないよ。えっとモニカだっけ?あんた料理は作れるかい?」

「魚を使った簡単な物であれば出来ます」

「あ、あ、私も作れます!こう見えて元漁師なんです!だいたいの魚と蟹海老の料理が作れます!」

「ああ?漁師から吟遊詩人への転職なんて聞いたことないよ、やっぱりあんた変わり者だね。でも丁度良かった、良ければ店を手伝ってくれないかい?もちろん礼はする、宿賃から引いとくからさ。実はさっき部屋が埋まるくらいの冒険者が来てね、どうやら大きな仕事で人が集まってるらしい、そいつらがパンとスープじゃ足りないってうるさいんだよ」


大きな仕事、と聞いて心中は穏やかでは無い。

今この町で冒険者たちに提示されている大きな仕事と言えば恐らくアレだろう、つまり着々と人手は集まっているのだ。

だがこのタイミングで彼らと接触出来るのは好機と言えた、よく食べる者は大抵の場合、よく飲むのだ。


「手伝います!お料理を運ぶのもやりましょう!」

「私も!私も!作って運んで奏でます!」

「お前は厨房から出るなラング、顔覚えてる客だっているんだから引っ込んでな!…でもありがとね、助かる」


やがてマドレアの宿からはとても良い香草の香りと魚や蟹が焼かれ煮込まれる匂いが溢れ出し、宿泊客だけでなく道行く人々の鼻までも魅了し始めた。

それは最近のロストアから失われていた、パルデニアからの荷が届いた日の夜に町を包んだ湖畔の国の香りだった。


「うめぇなぁ、俺久しぶりだよ魚なんて」

「こっちの蟹もうめぇぞ、ああ汁までうめぇ、酒が進む!」

「おい早く食べないと無くなっちまうぞ、後からやっぱり欲しいったってこりゃ残らんぞ」

「うぐ、しかしパルデニアの…なぁ本当にこの食材は大丈夫なんだな!?」


絶品の香りを漂わせる黄斑鱒の香草焼き、ホクホクと口の中でほぐれる赤筋鮭の蒸し焼き、弾力のある歯ごたえは湖底魚の白焼き、味がしみ出し汁も身も美味い岩肌蟹の鍋、そして最高の大人の味とも呼ばれる琥珀蟹の酒蒸し…

最初は別料金を渋っていた冒険者たちであったが、厨房から鼻を幸せにする匂いが漂い始めるとにほとんどの者がコインを出した。

懐事情や料理の質と量を気にして悩んでいた者も、次々と運ばれてくる色鮮やかな料理と美味い美味いと連呼しながら豪快に食べて飲む仲間たちを見れば加わらない訳にも行かず。

パルデニアの食材である事を気にしていた最後の砦も、呪いが広まる前の品だと断言した女主人と、さあパルデニアを味わって下さいと微笑んだ女給仕の美貌に陥落した。

倉庫に残っていた樽は今を置いて使い道は無いと全て開封され、厨房で本領を発揮する吟遊詩人ラングと、そのラングに怒鳴られながら必死に手伝う騎士ルドガーによって次々と調理され冒険者たちの胃袋へと送り出されていった。

そしてこの匂いと陽気な宴会の声は新たな客をも呼び込む。


「なぁマドレアさん、こいつは何の騒ぎだい?珍しく繁盛してるじゃないか」

「珍しくは余計だよ!見ての通り冒険者御一行の宴さ、うちが扱ってたパルデニアの荷を使った最後の料理のね」

「やぁマドレアさん、良い匂いに釣られて覗きに来てしまったよ、なんとも美味そうじゃないか」

「こいつらに別料金で出してるんだ、払うもん払うなら席に着きな」

「よぉマドレアさん、懐かしい香りと光景だな、まるで旦那が生きてた頃みたいだぜ」

「あんたはデリカシーってもんを覚えな!ほら、いつもの席は空いてるよ」


そろそろ一息つこうかと思っていた矢先、マドレアから追加の注文と店にある全ての食材を使い切って構わないと言われ、慌てて火に薪をくべ棚からありったけの皿を出し並べるラング。

地下室に走ったルドガーは芋や人参、芽の出た玉ねぎ、カチカチの干し肉、表面にカビの生えたチーズの固まり、更に何度も往復して大樽から注ぎ出したワインを運び、ラングと共に流れる汗を拭く間もなく働いた、騎士なのに。


「新しくワインの樽も開きました、エールのおかわりもまだまだありますよ」

「ああ嬢ちゃんこっちこっち、ワインだワイン!ちまちま飲んでられないからこの器に注いでくれ」


先ほどまで生野菜が入っていた底の広い器を持ち上げワインを注いでもらう禿頭の冒険者は、並々と注がれゆくワイン、陶器の壺を持つ白くしなやかな手、その先に見える豊かな膨らみ、そして安宿にはもったいない秀麗な笑みに蕩け落ちた。

それを羨ましそうに見つめる他の面々も既に酒が回っているのか顔は茹で蟹の様に赤く、次は俺だと揃って空になった杯を持っている光景は傍から見るととてもシュールだ。

それでも女給仕の美しさを考えれば男などそんなものだろうとも思えるが、それが身分を隠した亡国の王女だなどとは夢にも思うまい、本来ならば例え金貨を積んでも受けられないサービスである。


「はい、お次はどなた?あ、待ってください順番ね?それにしても皆さんいつもこうして一緒にお食事をしているのですか?」

「あーいやいや、今回はたまたまだ。ちょっと大きな仕事が入りそうでね、顔見知り同士で集まって準備をしてるとこさ」

「まあきっと大変なお仕事なんでしょうね、わたくし尊敬します!でも、危なくないのですか?とても心配だわ」

「おお、おお…っとと、いやーこんな美人さんに注いでもらったらお貴族様が飲むワインよりうめぇぞ!しかも俺たちみたいな冒険者を心配してくれるなんていい娘過ぎて泣けてくるぜ」

「まあお上手ね、でも本当に心配しているのですよ、最近は町の外に野盗が出るという話も聞きますし…」

「はっはっは、その心配の種を俺たちが摘み取ってやろうってのよ!…っひく、あ゛ー、安心してくれ、聞いた話じゃ数を揃えて脅すばかりで護衛が多いと逃げ出すような奴らだそうだ」


それはきっと、彼らが武器を持った事も無いような民ばかりだから。


「それではこれ以上悪さをしないように遠くへと追い払いに行くのでしょうか」

「いーや、脅せば逃げるがすぐにまた現れる、それに方々で襲撃があるからどうにも数は多そうだって話でな、見せしめの為にもある程度は叩かにゃ消えないだろう、武装した女子供までいるらしいぞ」


それはきっと、彼らが生きるためにそうしなければならない状況だから。


「まあ女性も子供も?それならば何かに困っているのかも、話し合いは出来ないのかしら」

「無理だろうなぁ、商人連中が交渉を持ちかけても全て置いてけって返答だったらしいぜ、だからギルドを通じて討伐依頼が出てるんだ。いや、正確には街道の安全確保依頼で賊は殺さずとも捕縛で報酬は出るって話だったか、それが女子供でも1人としてカウントされるって気前の良い話だ。確かまだ人的被害は出てないからとか何とか…捕まった商人も身ぐるみ剥がされたが命までは取られなかったらしい、とは言え殺しちまった方が楽だがな」


それはきっと、彼らに残された最後の良心。


「…血が流れずに解決する事を願うばかりです」

「お、俺らの無事を祈ってくれるってか?へっへっへ美人のお墨付きだ俺たちゃ死なねーぞ!」


うぉー!と掲げられた杯の群れを、モニカは笑顔のまま無言で見つめていた、そうするしかなかった。

耳に入ってくる声を聞く限り、野盗の規模は思っていたよりも多いように感じられた、もしかしたら町を出た集団に新たに加わった者もいるのかしれない。

そして彼らは徹底して物資を狙っている、それも根こそぎ奪っていくスタイルの様だ、冬の訪れを陽の短さや風の冷たさから感じ始めた今、次の春をその目で見る為に必死なのだろう。

野山からも、町の外に広がる畑からも、緑は消えつつある。

パルデニアの者であることも、パルデニアの物であることも受け入れられないのであれば、彼らには奪う事しか残されていないのかもしれない。

それは悲しい、そうとても悲しい事だ。


野盗討伐の英気を養う冒険者たちの宴会と、久しぶりに宿を訪れた町の馴染みたちの日常は、夜遅くまで続いた。




「あ゛っ…くぅ、あたたたた、飲みすぎた…あんなに飲んだのいつぶりだろ…腰も、くぅぅっふふふふふ」


翌日目を覚ましたマドレアは、どうやって戻って来たか思い出せない自室のベッドで頭痛と腰痛に顔をしかめつつ笑っていた。

体を動かせば体のあちこちが悲鳴を上げているのに、口からは楽し気な声しか出て来ない、そんな自分の体なのに融通の利かない状況にまた別の笑いが込み上げてしまう。

それもこれも昨晩のどんちゃん騒ぎのせいだ。


「はー飲んだ飲んだ、飲みつくしたなぁ、どーしよ店に何も残ってないや」


まだ最終的な確認は行っていないが昨日の売り上げは過去最高だろう、元々旅人や冒険者相手に宿を提供する事がメインで食事は宿泊客用に用意していたにすぎない。

何か祝いの席や長旅の慰労にと別料金を出されればそれなりの料理を出す事もあったがそれはあくまでも臨時収入で、収入は美味い飯付きの噂で賑わう宿の宿賃と、その噂を支えるパルデニアから直輸入した荷のみ。

そしてそれはパルデニアから行商でやってきたところをマドレアに捕まった亡き夫の伝手と腕があったればこそであった。


「仕事途中でほっぽり出して飲んで、後の事を気にせず潰れて、厨房から出てきた旦那に抱っこされて…うひひひひ」


今や過去のものとなった甘い思い出にまたしても気持ちの悪い笑いが漏れ出る、が、マドレアが甘く塩辛い恋と苦労と手を取り合って歩んだ月日の物語はまた別のお話である。

ベッドの上でもぞもぞと痛みに耐えながら上体を起こし窓を見れば外は明るい、まだ朝と言える時間のようだがいつものマドレアであれば既に起きて朝食を済ませ、宿客の為にスープを煮込みパンを切り分けている頃である。

客の多くも昨日の騒ぎでぐっすりと寝ているだろうが、だからと言って宿の約束である食事付きを反故にする訳にも行かない、そう思ってのそのそと着る物を探していると隣の厨房から薄い壁越しに声が掛かった。


「あ、マドレアさん起きました?勝手に厨房を使わせてもらってます、朝飯はいつも通り出るのかってお客から聞かれたそうで玉ねぎの代わりに残ってた芋でスープを作ってるんですがいいですよね?」

「ん、ああ、ありがとう、メニューは決まってる訳じゃないから大丈夫」

「食堂の方はルドガー様とモニカさんが片付けてます、ついでにぴっかぴかに磨くと張り切ってますよ」

「え?ああそうなんだ、それは…助かるなあ?」

「あと食材と飲み物なんですが、倉庫も地下室もすっからかんなんで必要そうな物をリストにしておきました、問題が無ければ後で私たちで商会まで買い付けに行ってきますよ」

「ああそれは助かる、正直遠出する気力が無さそう…」


なんだ旦那が全部やってくれるなら以前と同様、私は昼まで寝ててもいいじゃないか。

そう思ってもう一度横になろうとしてハタと気付く、壁越しの厨房、すぐそこにいるのは旦那では無いと。


「マズイ、さっきの独り言、聞かれたか?どこからどこまで聞かれた?恥ずい、っていうか私昨日はどうなった?どうやってここまで戻って来た?…全部脱ぎ捨ててる、のはいつも通りだけどマズイ、色々とマズイ!」


途端に顔が真っ青になったり真っ赤になったりするマドレアの頭は真っ白だ。

ここ数年は倉庫番とその用心棒が荷運びや力仕事を手伝ってくれたり、週に1、2日くらい近所の茶飲み仲間な夫人たちが僅かな謝礼で掃除や洗濯の手伝いに来てくれる以外は一人で切り盛りをしていたから、あんなに飲む事も夜遅くまでバカ騒ぎに付き合う事も無かった。

それが手伝ってくれる人間が居たからと言っていくら何でも羽目を外し過ぎだと自分を叱りつける、しかも今も厨房や食堂に居る彼らはつい先日から宿泊(倉庫だが)している初顔の客なのだ。

下手をすれば店の売り上げや備品と共に消えていてもおかしくはない状況ではなかったか。


「とは思うけど、なーんかそんなはずも無いって思うんだよね、あいつら。どう見たって正直者とお調子者、悪人の類には見えないんだよねぇ」


我ながら随分と楽観的だなと思うが、これでも長年この宿を営んで多くの人を見て来たのだ、自分の直感にはちょっとした自信があった。


「いい奴らだよなぁ、もう少しこのまま手伝ってくんないかなぁ、そしたら楽出来るんだけどなぁ」

「あ、もしもーし、マドレアさん起きたって聞いて。食堂と玄関まわりはぴっかぴかにしておきましたよ!入っても大丈夫ですか?」


ちょっと待ってと応じて急いでしわくちゃの服を着るマドレア、体が上げる抗議の悲鳴を黙らせ手櫛で髪を整え何とか“いつものマドレア”になる。

よし、と気合を入れて扉を開ければ厨房はとても良い香りに包まれていた。


「おはようございますマドレアさん、普段がどうなっていたのか分からなかったんですけど、テーブルや椅子は綺麗にしておきました!いくつか杯とお皿が割れてしまっていましたけど…」

「あんたがそう言うんならきっと新品みたいにぴかぴかだね、ありがとね。壊れたのも気にすんな、宿賃に織り込み済みさ」

「ああ、おはようございますマドレアさん、その、おはようございますマドレアさん。も、もうすぐ朝食が出来上がりますんで!ははは…」

「あん?何だよ人の顔見て目逸らしやがって、マドレアさんの寝起きの顔はそんなにブサイクかい?ああ?」

「ち、違います綺麗です美しいです可愛いですほわああああ」


そう言ってやっぱり目を逸らすラングに憤然とする、だったら目を見て話せと、特にせっかく褒めてくれるなら。

領主の夫人やその館で働くメイドたちみたいに見目麗しいつもりも、彼女たちが使うような化粧品や曇り一つない鏡がある訳でも無いが、これでも若い頃から旦那と冒険者たちには美人と評判だったのだ。

もしやどこかおかしな所が、慌てて着た服に着崩れや昨日の騒ぎで大穴でも開けてはいないかと心配になるが、パッと見にそんな事も無さそうだ。


「なあモニカ、私どこかおかしなところあるかい?」

「いいえ?いつも通りの、とても働き者のかっこいいマドレアさんです」

「はっはっは、そうかいそうかい、ったくじゃあ何なんだあいつの態度は、失礼な奴だね。ほら失礼ラング、とっとと器によそって客に出せる準備しな」

「はい!ただ今!おわっとととと…」


厨房を出て見れば、いつも以上に整然と並んだテーブルと椅子、明らかに他とは色が違うほどに磨き上げられた床や壁。

数年分のたまった汚れが一掃されとても綺麗な、逆に他の場所が汚く見えてしまうくらいにぴかぴかな玄関ホールがあった。


「ああマドレアさん、どうでしょうだいぶ綺麗になったと思うんですが」

「ああ、そうだね…ありがとうルドガー、しかしまあなるほど」


この二人は商売というものを、旅宿というものを分かっていないなと思いながらも、その真面目さに文句を言う気にもなれない。

しかしこのままでは何と言うか、入ってすぐにその綺麗さに期待を持って、その後に客室に上がったらガッカリする事にはならないだろうかと心配になる。


「ま、騎士様たちに手伝ってもらってこれ以上の贅沢は言えないね、残りは少しずつでも私がやるか、…明日から」


再びよしと気合を入れて、まずは昨日の売り上げの計算とその収入を使って何をどれだけ補充するのかを考えなくちゃと頭を巡らせる。

そういえばラングがリストを作ったとか言っていたなと見渡せば、厨房前のテーブルに置かれた紙が目に入った。


「えーと?昨日の売り上げが…おわこんなに!?って言うかあいつ入った注文と作ったメニューを全部書き留めてやがったのか、でこっちが使った食材の数と…おおよその原価?残ってるのが芋と酒が少しだけで、必要になりそうなのが…」


そこには几帳面な性格をうかがわせる整然と並んだ文字と数字の列が紙一面に記されており、必要な情報が全て揃っているではないか。

領主や大商会は書記官などという無駄にも思える人間を雇っているというが、なるほどこういう仕事をしてくれるのであれば雇うのも悪くは無いなと思った。


「おいラング、さっきは失礼ラングとか言って悪かったよ、このリストはとても役に立った、ありがとね」


は、はいぃぃと厨房から情けない声がかえって来たのは減点だが、マドレアの中でラングの株がだいぶ上がったのは言うまでもない。


「それでマドレアさん、この宿での滞在についてなんだが」

「ああそういや手伝ってくれた礼に宿賃から引くって話だったね、とりあえず昨日と今日の分をタダって事でどうだい」

「それはありがたい、それはそれとして当分の間、引き続きあの倉庫を借りても良いだろうか」

「ああもちろん構わないさ、気が向いたら宿を手伝ってくれるとなお嬉しい」


親指をグッと立てたマドレアのクールな笑顔に、モニカとルドガーも自然と笑みがこぼれる。

昨夜のうちに、商会長ホルドからの情報を待ちがてら引き続きこの宿と町で話を聞いて回るという方針は話し合われていた。

一刻も早く、冒険者たちが本格的に動き出してしまう前に野盗と接触したいとは思っているものの、結局のところ正確な居場所は分かっておらずこちらは二人だけなのだ、闇雲に探し回るよりも先にもっと情報を集める必要があった。


「それでは引き続き、宿中をぴっかぴかに磨いて回りますね」

「おおお!それは助かるよ、いや本当に!」

「それから、買う物が決まったらルドガーに商会まで買い付けに行かせますね、彼とっても力持ちですから」

「おおおお!それも助かる、任せちまって悪いけど頼むよ!」

「それから、マドレアさんさえ良ければラングさんがこれからも厨房を手伝いたいと言っています」

「おおおおお!それも助かる、滞在中だけでも料理を任せられるならだいぶ楽が出来るってもんさ」


よっしゃー!と元気に両の拳を突き上げる姿はとても清々しく、マドレアの良くも悪くも真っ直ぐな正確をよく表していた。


「でもだからってあまり飲み過ぎないで下さいね、昨日みたいなのは流石に心配になってしまいます、女として」

「いやすまないね、客に心配かけちまうようじゃ…女として?」

「だって昨日のマドレアさん、酔って脱ぎ始めちゃうし、お部屋まで運ぼうとしたラングさんに抱き着いて顔中にキスして、彼厨房で茹で蟹みたいになってましたよ?」


「お、おおおおおお…おお?…お、ほ、ほわあああああぁぁぁぁぁ!!?」


それから数日、マドレアが失礼ラングに目を合わせる事が出来ず、失礼マドレアになったのは仕方のない事だろう。

この日をきっかけにマドレアの宿は再び美味い料理を出す上宿として噂に上るようになる。

それはラングが慣れない獣肉や根菜を使った料理や魚介を使わぬスープを必死に研究した成果であり、モニカとルドガーによって数日をかけて磨き上げられた武骨だがとても清潔感のある外観と内装のおかげでもあり、そして何よりも苦労を感じさせない素敵な笑顔を取り戻したマドレアの人気があったからに違いない。




晩年、娘に宿の経営を任せてからも玄関ホールで宿客を出迎え続けたマドレアは、とある暖かな昼下がりにお気に入りの椅子に腰かけたまま昼寝をし、眠りについた。

娘の悲鳴を聞いて厨房から顔を出した主人のラングは、そっとその体を抱き抱えると二人の部屋へと連れて帰り、ベッドにその身を横たえ額にキスをした。

その棺にはラングが自分用にと取っておいたパルデニアの紋章が焼き印された古い樽の木材が使われ、その墓標には名と共にパルデニアとアルタニアと、そして宿の看板に描かれた魚のマークが彫り込まれた。

数十年ぶりに紡がれた吟遊詩人の歌声と、その人生の物語に登場する昔馴染みの騎士と、そして宿泊名簿に名を連ねた多くの者たちに見送られ、その魂は空へと旅立ったのだ。



第一幕:「樽と魚と吟遊詩人」 了


第一幕は以下のキャストでお送り致しました!

・パルデニア王国の王女モニカ(レモニカ)

・パルデニア王国の騎士ルドガー(ウルドガ)

・パルデニア王国の吟遊詩人ラング

・アルタニア王国の宿屋女主人マドレア

・アルタニア王国の大商人ホルド

ご登場ありがとうございましたー


第二幕ではホルドさんが頑張ります。

よろしければ引き続きそちらもどうぞ!

ご感想やご指摘も大歓迎、用語の誤用や誤字脱字の報告も助かります。

※本当は簡単な地図みたいなの作りたかったけど、槍の人。の技術力では絶望的でした、まる

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