不安な感じ
「こういう話をしに来たんじゃなかったな。特別扱いはしない、という話だったが、退治師協会を統率してるお偉いさんがどういうわけか、週に1回はお前たちのチームを訓練してやる事になった」
「は?ボク達には選択の自由があったんじゃないのかよ」
彼女が言った事を湊の解釈で簡単に説明すると、1級退治師が練習に付き合うから退治師になれ、だ。
退治師は選択の一つとしてしか考えていない2人にとって、いらない助けで、自由を縛る言葉と受け取れる。
「あたしも反対したさ。そしたら翔の体質を気に掛けたような事を言いやがって何も言えなくなっちまったんだ。ごめんな」
2人は星夏がどれだけ自分たちを大切にしているのかを知っている。
特に湊は昔の記憶はないが、助けられてからの記憶はしっかりとある。
当時、自分たちの扱いについて話があった時、自分たちに自由を与えてくれたのが星夏だった。
美幸と星夏の2人が湊にとって翔を預けられるほどに信用できる相手となるのに、彼女らにとっての正義への実行は嬉しいものだったのだ。
そんな星夏を責めることなど出来ない。
「ボクのせいで…」
「翔のせいじゃない。そう言う理由だって言うなら美幸が来ないのは対処してくれてるって事だろ。その間練習に付き合ってくれよ」
「あぁ。もちろんだ」
星夏は2人の頭を同時に撫で、赤崎にも山谷にも髪の毛をくしゃくしゃにするほど撫で回した。
それから授業中ずっと星夏が全員分を見ては教えていた。
ブラコンコンビは妖気使いとしていつものようにビシバシと。
赤崎には赤崎敦史を長年見ているために教えられることをしっかりと。
山谷は観察に力を入れ、怪我したらすぐに手当をするを何度も繰り返し、一人一人の癖や仕草を記録した。
「そろそろ昼休憩か。午後からは座学だろ?頑張れよお前達」
「はい!」
「ありがとうございました!」
赤崎と山谷が感謝を伝えると、星夏は急ぐように部屋を出た。
訓練服は初日のはずなのにボロボロになっており、山谷以外は全員クタクタになっていた。
「さすが1級だな。こんなに体が動かないのは初めてだ」
「無理しないで鏡花ちゃん。1番頑張ってたんだから」
「ありがとう。でも美春、これで君も本業発揮できるんじゃないか?」
「うん。訓練計画立てられるよ」
女子同士で話をしている間、いつもよりボーっとしている翔の元へ湊は近づく。
久しぶりにあんなに妖気を使ったため、精神が体に追いついていなかったというのは湊も星夏も理解していた。
しかし、初日から飛ばしておけば後日からの訓練も放心状態が緩和される。
「大丈夫か?」
「うん。サンドイッチが食べたい」
「今日の弁当の事だな?」
「楽しみ。あ、それと星夏、焦ってた。ボクらに言ったこと、半分は嘘だよ」
こう言う時の翔はよく当たる。
人が怖いから、翔は自分が侵される最悪な可能性全てを幼いながらも考えてしまう。
もしかしたら、というものがある限り、翔はすぐに人を信用する事など出来ない。
イフが確信に近づきかけた時によく湊に共有する。
自分はどうするべきなのか、それを湊から教えてもらうために。
「本部は何かを釣ろうとしてる。それにボクらが必要で、多分…ボクらを死なせないために」
「何かって、ボクらが関わってんなら研究所か?でも研究所はもう存在しないぞ」
「研究所じゃない。なんとなく覚えてる。えっと、ぜろ、ゼロなんとか…」
「わかったいい。思い出すな」
思い出そうと翔が体を縮めた時、湊はそれをやめさせるために背中を軽く叩いた。
不思議そうに、心配そうに見る女子組の方を向き、軽く頷く。
ゆっくりと立ち上がらせ、制服に着替える時、雨が降り始めた。
その雨音によりかき消された声。
「ゼロナンバー、No.03、湊の____」