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君の妖に願いを  作者: 雨y
青一章 1学期
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体育祭その3

数分前。

美春の重たい表情に湊は首を斜めにする。

コソッと喋り、自分の仕事を後回しにした星夏と共に行った美春が涙を流して帰ってくるなどおかしい。

星夏が美春を泣かせるわけがない。


「何かあったのか?」

「湊…くん、」


美春は湊の顔を見るなり、涙の大きさを変えた。

その場にいる先生たちも心配した様子で美春を見ており、そういうのを恥ずかしがる美春がここまでなるなんておかしいとより警戒心を高める。

出来るだけ鏡花を起こさぬよう、美春を手招きする。


「実は、No.03であろう人が」

「は?」


一気に鋭くなる湊の目はより美春の心をえぐる。

悪い人ではないのかもしれない、その人はただ翔を思っているだけだ。

そう美春は思ってしまったから。

しかし湊は知らない。

湊にとってNo.03は未知な存在で、翔の背中を引っ掻いて血を流させた。

同じ研究所の被害者であろうと、翔を傷つけるのを許そうとは思えない。

鏡花の頭をゆっくりと自分が座っていた椅子に置き、美春と目を合わせる。

震える美春を支えるように両腕を掴んでしっかりと。


「どこにいる」


冷たい言葉と共にあるのは、冷たい空気。

発作が起こっているわけではないが、いつ起こってもおかしくはない。

しかしこの時いつもなら翔がそばにいて落ち着かせてくれるが、彼はそこにはいない。

そんな中でも美春は教えてはいけないと強く思う。

No.03と湊が出会えば戦いが起こるかもしれない。

そして負けるのは湊の方だ。

相手は星夏と美幸を抑え込むほど強いため、湊はすぐにでも殺されてしまう。

今の湊は冷静ではない。

ぐちゃぐちゃな頭の中でもそれだけは理解していた。


「早く!」

「No.03と合っちゃダメって決めたでしょ!今は星夏さんが見てる。だから、」

「何を騒いでいるのだ?」


2人の話し合いに鏡花が目を覚ます。

鏡花から見ると美春を湊が泣かせたようにしか見えず、見えない速さで刀を湊へ向ける。

吊り目の黒目は冷たく湊を睨め付けるが、湊はそれに怯えたりはしない。

翔の事しか今は考えられないのだ。


「鏡花ちゃんやめて。湊くんは何も悪くない。そう、誰も悪くないの…」


落ちるように地面にペタンと座る。

そしてとうとう下を向いて泣き出した。

鏡花はすぐに刀を納め、美春の背中をさする。

湊も少し冷静になったのか、半袖ではまだ寒いが、ある程度は温度が上がった。


「美春、何があったか教えてくれない?」


そう声をかけたのは清水だった。

彼女らの担任であるために事情は知っている。

その上、彼女は研究員である。

当然、翔とNo.03に何かあったのだとすぐに予想がつく。


「翔くんの後を追ったんです。そしたら、そこに翔くんに似た子がいて、それで、翔くんが辛い目にあってるって、翔くんの幸せのためには湊くんがっ、」


そこから先、美春は口が動かなくなった。

これを言ってはいけない気がする。

今までの2人では無くなってしまう。

あの時の翔の口ぶりからするに、記憶が戻ったり消えたりを繰り返している。

今湊がそれを知った時、翔の記憶が消えているというのに変な態度を取られたら、その時翔は本当に消えてしまう、そんな予想をして。


「ボクが?」

「っ、いえ、えと、No.03と翔くん、すごく幸せそうに話してて、家族みたいで…」


誤魔化し切れてはいないため、湊は美春の言うことに違和感を持つ。

兄だと慕っている、なのに怪我を負わせた。

翔の記憶がないことをいい事に洗脳しようとしているのではないか、翔を攫おうとしているのではないか。

そういう考えばかりが巡る。

また下がる温度に、中庭にいる生徒たちも凍え始める。

熱妖気を使える者はすぐに妖気を放ち始め、風邪を引くことはないが、湊の妖気適正は57%と一級でもなかなか辿り着けない程である。


「はっ、家族?記憶が消えたボクが言えた事じゃないけど、昔家族だっただけだろ。今の家族はボクだ!」


どれだけ顔が似ていようと、翔の幸せを1番願っているのは自分だと信じている湊に対して美春は地面を見る。

1番幸せを願っているなんてどうでもいいのだ。

願う事に1番なんてものはない。

願うだけで翔はきっと幸せなのだ。

湊の苛立ちは美春も理解できた。

しかし、あの異様な2人の雰囲気から察せられた事により分かった事もあるのだ。


「教えろ。どこにいるんだよ。合わない。見るだけだ」


絶対にダメだ。

2人の会話に何度も湊のことを言っていた。

何をしでかすのかわからない。

あの2人の空気を壊してはいけない。

壊して仕舞えば、翔がどれだけ傷つくのだろうか。

あの3人はどう繋がっていけば3人とも幸せになれるのだろうか。


「すまないが、見せられない」


一気に温度が元に戻る。

星夏の声と共に熱妖気を皆が感じ取った。

そんな星夏の目はほんのり赤く、美春同様泣いていたのだとすぐに皆が思う。

一体何があったのだと湊はさらに苛立ちを覚える。


「なんでだよ」

「翔とNo.03の会話をお前が受け止める事はできない。それにそろそろ翔は過去の記憶が消えて戻ってくる。行っても遅いし、今はこの空気を元に戻すことが優先だ」

「はぁ⁉︎なんでそんな事する必要が、」

「いいから聞け!翔を苦しませたいか!?何も知らない翔がこの状況を見て思う事はなんだ?湊が怒り、美春が泣いている。それを見て翔はどういう感情を持つんだ!」


湊はすぐに言葉を飲み込む。

湊にとって最優先な事は翔の幸せだ。

翔がこの状況をみたらどう考えるのか、ずっと翔を見てきた湊はすぐにわかる。

また1人でどこかへ行ってしまう。

妖気パフォーマンスの練習の時のように。

そして追いかけて行けるのは鏡花だけだが、最近鏡花と話していないのにプラスして、あの時とは違い激しい状況下、どんな言葉をかけたらいいのかわからないという点もある。

それは、翔も鏡花も傷つく結果となる。

それに、過去の記憶ってなんだと疑問を持つ。

思い出したから翔はNo.03に会ったのか?とも考え始め、その場にいる全員に背中を向ける。


「頭を冷やす。翔には適当に言っておいてくれ。後で説明しろよ」

「分かった」

「ごめんなさい、湊くん…」

「悪いのは美春じゃねぇんだろ」


そう吐き捨て、タオルを持って誰も行っていない駐輪場へと向かった。

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