始まり
僕に取って親分は、誰よりもかっこいい人だ。
単純でどうしようもないバカだけど、誰よりもポジティブでどんな人であろうと偏見を持たない強い人だ。
親分の笑顔は誰よりも輝いていて、特に子供と遊ぶスゴロクでは負けっぱなしでも笑顔が絶えることはなかった。
そんな親分を子供たちは好きだし、子分である僕も大好きだ。
でも、そんな親分が殺された。
親分は鬼だった。
角を隠し、青い肌を化粧で誤魔化して生きていた。
でもそんなの僕も子供たちも知っていた。
知っていても怖くなんてなかった。
いつだって親分は全力だったし、その全力は遊びと僕らを守ることに注がれていたから。
一緒に畑を耕し、税もきちんと納めていた。
山に住んでいたため、変な大人にバレるはずもない。
でも、大人が急にやってきて、子供を守ると言い張り、親分を殺した。
親分は子供達を傷つけたりなどしたことはない。
僕は何もできずにいた。
親分が血だらけでいるのが怖くて、足が動かなかったから。
声を殺して涙を流すしかできなかった。
僕は子供達と一緒に保護された。
子供も親分の死を見て、声をあげて泣いていた。
大人たちに怒った。
でも大人たちは何も言わなかった。
今でも思い出す、親分の最後。
苦しくて、今にでも逃げてしまいたい。
「実験結果は」
「成功っすね」
「ははっ、やっぱコイツはいい。鬼の血との相性が最高だ」
僕が今いるのは真っ暗な場所。
何も見えないし、感じるのは痛み。
よく首がチクチクし、そこから何かが流れてくる。
あと、寒い。
親分が死んでから、僕はずっとこうだ。
気づいた時にはずっと暗い中を生きている。
会いたいと願い、涙を流しても何も変わらない。
何度もやったスゴロクとカードゲーム、あやとりにけん玉、それを思い出しながらも最後に見えるのは血だらけの親分。
大きな角に隠しきれていない、暖かい青い肌。
そんな姿から、ツノが折れ、冷たい赤い肌の親分に変わる時、僕は四肢が繋がれている気になって、怖くなる。
「No.8、ついに第二段階成功しました!」
「やっとか。No.3は最終段階まで進んだ。高値で売れるぞこれは」
「No.3に関しては、ネットでは4000万の価値があると見られております」
「まだ安いな。こいつの価値をわかってない。ま、明日億は確定する」
今日はそれをうんと感じる。
親分が初めて泣いた日、雨が降っていた。
ごめんなと言い、僕を優しく抱いた。
雨のせいで青い肌は完全に見えていた。
子供達には内緒だぞと言って、鬼だということを教えてくれた時にはもう知っていることを黙っておいた。
親分の僕を撫でる手があまりにも大きくて、心地よかったから。
僕もあんな手で子供達を撫でられたら、親分みたいに尊敬されるだろうかと思うと、なぜだか手が動かないのが不思議でたまらない。
親分の好物はかぼちゃだ。
カボチャのスープを作るのが1番得意で、僕も大好物だ。
他にもいろんなものを使って料理するのが親分は好きだった。
でも時々バカが発動して分量を間違えたりする事もあった。
その度に子供達と笑った。
親分は笑うなよと叫びながら、自分でも「しょっぺ」と舌を出すのだ。
時々子供達の親も来る時があった。
その度にうちの畑では足りない食材をくれた。
いつもお世話になっている、と。
みんな暖かい人で、親分が鬼だという事も知っている。
僕が親分の元に来る前から親分と近くの村は交流があったのだ。
親分は山の木を育てたり切ったりして薪を売っていた。
子供達が来ない日は仕事をして、その日は僕も手伝いをした。
よく褒めてくれて、撫でてくれるんだ。
「客の人数は?」
「500人と言ったところでしょう」
「No.3だぞ。少ないんじゃないか?」
「いえ、大物ばかりですので問題ないかと」
「“流精氷牙の調停”だと言えば小物を招待しても仕方ないですしね」
「それもそうだな」
なぜだか今日は痛みを感じない。
温もりも感じない。
なんだかこわい。
いつも親分を感じ取れていた。
そのおかげで親分のことを思い出していた。
そのおかげで親分のことを忘れないでいれた。
徐々に親分の声を忘れていく。
親分の名前を忘れていく。
親分の、親分って、
鬼とは一体?
光が見えた。
彼に取って“初めて”見る光。
黒い世界にいた自分を救い出してくれるかのよう。
彼は光に慣れるまで、下を見た。
下に見えるものは赤色だとすぐに理解した。
ゆっくりと顔を上げていく。
目の当たりを覆う仮面を被った人たちが番号が振られた札を持って数字を叫んでいる。
8500万、9000万、1億200万
徐々に数が大きくなってゆく。
彼の首は鎖で繋がっており、鎖は白衣を着た女性が持っていた。
その女性は嬉しそうな顔をして数字が上がるたびに鎖を引っ張る力は強くなっていく。
気がつけば2億5000万、3億といった数字になっていた。
この数字になんの意味があるのかは彼は知らない。
が、みんなが必死になっている姿と女性の表情を見て、なんだか彼自身も嬉しくなっていった。
「4億」
「342番、4億!それ以上の方はいらっしゃいませんか!」
一気に場が静かになった。
みんなひそひそと話し始め、ため息をつく人がたくさん出てきた。
札を下ろし、立っていた人も座り始めた。
女性の近くに立っている男性が彼の近くに寄る。
首を傾げ、彼も男性に近づく。
まるで赤ん坊だ。
純粋で、怖いものを知らない。
みんなが楽しいなら自分も楽しいと感じる、ほんとうに純粋な。
しかし男性の手は彼の目をとらえるために首を掴んだ。
近距離で彼の目をカメラで写した。
「みてください!彼の瞳を!ミシュレルットの色でございます!太陽光を避け、ミシュレルットの水を毎日摂取させるなどして完成させることができました!」
男性がそういうと、観客は立ち上がり、それを直で見ようとステージの近くに駆け寄る。
彼の瞳は真っ白ではないが白く、ほんのり青みを感じ、光が当たると黄色くなった。
それを見ると観客は再び数字を叫び始めた。
諦めたと思った人たちも再び叫んだ。
彼は恐怖をやっと感じ始めた。
彼らがうるさいからか、自分にいきなり群がり始めたからか、仮面の下の顔を想像してしまったからか。
早くここから逃げてしまいたいと着ている布を掴む。
「10億だ」
「なっ、」
先ほど4億と言った男が、2倍以上の金額を言った。
ゆっくりとその男性を見ると、青い髪に青い目、そして青いスーツを着ていた。
濃淡にばらつきはあるが、目立つ色をしていた。
「ぉゃ、ぶ…」
小さい声であったが、男性は気づいたかのように立ち上がり、怒った顔をした。
少年は自分が一体何を言ってしまったのかがわからなかったし、喋れていたかどうかもわからなかった。
だが、自分が怒らせてしまったのではないかと不安になり、すぐさま下を向く。
そこからはその男性の声ばかりが彼の頭に響くようになっていた。
そしてついには気絶してしまった。
海が近くのある場所におよそ15メートルの高さのある壁で囲まれた大きな国がある。
海とは逆の平野側にはその国の中で一番有名な学校があり、妖魔を退治する退治師を目指す子ども達が通う。
そんな学校の入学式が行われる。
亀さん投稿の者です。
これからよろしくお願いいたします。