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33.かいこう

 






「じゃーねー、またくるわ!」

「あいよ。次はもっといいリンゴを仕入れておくぜ」


 リンゴのたくさん入った袋を片手に、アマネは八百屋の店主に手を振る。

 意気揚々と歩きだした彼女の向かう先は、港から少し離れた小高い丘にある灯台である。

 良い見晴らしは良い気分転換になる。そのため彼女はここグレースパームの大灯台をよく訪れていた。


 時刻は正午を少し回ったころ。

 ご機嫌な様子の彼女は、少しだけうっそうとした木々の生い茂る小道を歩いていた。

 灯台へと続く道はこの一本限り。

 人気ひとけのない道ではあるが……こういう場所を歩いているとき、彼女は自分の性格がちょっぴり幼くなるような気がしていた。


 セルジニアで「女帝」を全うしているときはもちろんのこと、彼女は4000年余りを生きる大人のエルフとしてしかるべき判断を、背負うべき責任のもとに下している。

「冒険者」、あるいは「バンカー」として人混みに紛れているときは、反動で無邪気さが強くなってしまうのはよくあることで。

 それでも自分を取り繕うことは忘れないだろう。


 しかしながらこうして誰にも見られることなく、辺りに自分しかいないとき。

 彼女はいつも非常にスッキリとした心持ちを味わうことができていた。

 子供のような純粋さというのだろうか。年をとればとるほどに、いろいろなものに縛られて考え方を左右されてしまう。

 べつにそれが悪いと言うわけではなく、ただ単純な違いでしかないが。


「……ん?」


 まあそれに加えてあと1つ言うことがあるとすれば……そういうときの彼女はよく、面倒ごとに巻き込まれる。


 ちょっとした鼻歌を歌いながら歩いていたアマネの視界に奇妙なものが映る。

 道の先。草木の陰。

 路傍の生い茂る雑草から、なにか白いものが不自然に飛び出している。

 近づけば近づくほどに鮮明になるそれは、間違いなく植物のような質感ではなく。まるで人間の足のような形状をしている。


「……うっ」


 そしてそれに近づくほどに、アマネの全身を悪寒のようなものが襲う。

 思い出したくはない嫌な記憶。気配。

 その悪寒の出所でどころを彼女は十二分に理解していた。

 忘れるはずもなく、できれば近づきたくない。

 しかしそれに気づいているがゆえにどうしたって近づかなければならない。


 ───人間の足。

 そして雑草の陰には白い髪の少女が一人、見間違いようもなく横たわっているのだった。


「………………」


 彼女はその足先を指でつんつんとつついてみる。だが反応はない。

 正直に言って見て見ぬふりをしたいのが本音。

 記憶の中にあるほど強烈ではないにしろ、この気配の持ち主に関わりたくない。その少女の気配はアマネのトラウマを呼び覚ますほど、記憶の中のあれにそっくりである。

 けれどここで見て見ぬふりをしてもし、あとでそれを問い詰められるようなことがあれば。想像なんてしたくないが、そうなってしまう可能性も十分に想像できてしまうのが嫌だった。


 見た目こそ違うが気配はかなり似通っている。

 アマネは少女が完全に意識を失っていることを確認したのち、その身体を慎重に抱き上げる。

 ここからなら灯台は目と鼻の先。

 いったん灯台まで連れて行って様子を見ることにしよう。あとのことはそれから考えればいい。







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