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31.しんさつ

 






 突然のその申し出に、彼はまた驚いた様子を見せた。

 自分で言うのもなんだけれど。彼自身のいまの状況、はたから見ればかなり怪しいと言わざるを得ないものだ。 

 それだけ本気で心配しているということなのだろうか。


「え……。いいんですか?」

「もちろん」


 にっこりと笑顔を浮かべるアステラ。

 ツヅリが感謝を伝えようとするよりも先に、彼女はこう言葉を続ける。


「ただし、一つ条件。ここアンフェドールで働いてもらうわ。そのメイド服を着てね」


 言葉尻にハートマークを付けたような言い方。

 ツヅリはハメられたような印象を受けながらもその反面、それが絶好の助け舟であることを理解していた。

 うまい話だけのわけがない。

 社会は相互利益によって成り立っているのだ……。天秤は釣り合っていないかもしれないが。


「あ、ありがとうございます……?」


 いまいち感謝していいのか分からないながら、彼はそうアステラに礼を言う。


「ふふふ。よかったわ。そうそう、部屋はこの近くの寮を使わせてあげる。家具家電付きだから住みやすいと思うわよ」


 数刻後……ツヅリは食いしんぼうのシャルロッテとともに、病院らしき場所を訪れていた。

 なぜ「病院らしき」というあいまいな表現なのかといえば。

 そこは素人目に見ても軍の基地にしか見えないからである。

 黒塗りの高い塀に囲まれた場所。出入り口には監視塔がたてられていて、銃のような武器を携えた人間?が辺りを警戒している。


「あの、ここって病院ですか? なんか違うような」

「うーん。ここが病院ってよりか、この中にあるんですよね病院が」

「でも軍事基地ですよね? たぶん」

「軍病院ってことですよナハトちゃん。そしてなんでここにきたか……分かりますか?」

「なんでですか……?」


 警備要員にIDカードを提示したのち、ツヅリは渡された許可証を首にかける。

 二人は基地内の通行路を、奥に見える白塗りの建物へと向かって歩いていく。ツヅリはといえば少しこわごわとした様子でシャルロッテの後ろを引っ付いているようだ。


 奇妙なもので、男だったときならばもっと堂々とした振る舞いで歩いていたことだろう。

 もっとも、性別の変化が性格に影響を与えているというよりは、強い不安を行動に表しやすくなったといったほうが正しいだろうか。

 男というのは往々にして、弱気な感情を隠して生きなければならないものだ。


 またあるいは……彼らがいまもなお着用している「メイド服」がその一因だったりするかもしれないが。


「安いからですよ! ナハトちゃん! 軍病院は軍事関係者なら費用の三十パーセントを補助してもらえるんです! それに、いろいろと融通が利くんですよ?」


 通行路の途中にあったいくつかの天幕を抜け、二人は見えていた白い建物にたどり着く。

「アントーブリッツ軍病院」と掲げられたその建物は小学校くらいの大きさがあり、見た目にもツヅリのしっている病院とそこまで大差はない。


 自動ドアから中に入れば奥に待合室とカウンターがあり、その手前にあるちょっとした広間に金色の彫刻像が置かれているのが目に入る。

 一人の女性が錫杖を掲げているような彫刻。

 かなり大きいもので、錫杖も含めた高さは5メートルほどある。


「ナハトちゃん、こっちですよ」


 しばらくその彫刻像を眺めているとふいに袖を引っ張られた。

 彫刻の下になにやら作品名のようなプレートが付いていたが、当然ながら彼に読めるはずもなく。

 ツヅリはシャルロッテに引っ張られるがままカウンターのほうへ歩いていく。


「おはようございます~」

「おはようございます。IDをお願いします」


 受付嬢がシャルロッテからIDカードを受け取って照合を行う。

 しばらくしてIDカードを返すとともに、受付嬢がバインダーに簡単な問診票を挟みながらたずねてくる。


「それで、きょうはどうなさいました?」

「いやー、じつはうちの新隊員の診察をお願いしたくて」






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