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「そうすねないでください~。ごめんっていってるじゃないですか」
「到底、許せることじゃないです!」
しばらくして、『アンチ・フェルライン・ドールズ』の一室。
そのテーブルにて。
ツヅリは眉間にしわをぎゅっとよせながらココアをすすっていた。
その横では眉を下げて手を合わせている少女が一人。──シャルロッテ・リプレットはしょぼしょぼと申し訳なさそうな顔をしている。
アンフェドールの勇壮たる一番槍である彼女。シャルロッテがそんな表情を見せることも珍しい。
よほど悪かったと思っているようだ。
「まあまあ二人とも。落ち着きなさいって」
戸口に姿を見せたアステラが、こちらに向けて一つのかごを掲げて見せた。
その中にはたくさんのクッキーが入っている。
「これでも食べて。上層部からの差し入れ」
「えっ! もしかしてグリンパゴのクッキーですか!?」
「そうなんだけどねえ。うち、甘いの食べれるのあんたと所長くらいしかいないし。食べていいわよ」
「やったー!」
シャルロッテは先ほどまでのしょんぼりさを捨て去って、テーブルに置かれたカゴの中を覗き込んだ。
バニラ、チョコ、ストロベリー、マッチャ……。
いろいろな味のクッキーを目の前にしてその大きな瞳を輝かせている。
ツヅリはため息をついた。
こんな子供にムキになったところで大人げないだけ。先ほどまでの自分を俯瞰して、彼はすこしばかり冷静さを取り戻した。
「もう、いいんですか?」
彼……まあこの際、彼女でも彼でもどちらでもいい。
彼はアステラに話しかける。
アステラは今しがた、連絡が入ったといって少し席を外していた。
「ええ、大丈夫よ。それにしてもどうしようかしらね。きみのこと」
アステラはツヅリの正面の席に座ると、思案するようなポーズでツヅリを見つめる。
「行く当てもないんでしょ?」
「はい……すみません」
「なに謝ってるのよ。べつに悪いことじゃないでしょう。記憶喪失だっていうならしょうがないわよ」
彼女は椅子の背もたれに背中を預けてタバコにパチリと火をつける。
「まあでも、とりあえずは病院かしらね」
「病院ですか」
「そうねえ。健康状態確認してからじゃないと、受け入れもしづらいわね」
彼女はそう言って一息に煙を吐くと、ツヅリのほうへずいっと顔を近づけた。
ジィーっと見つめてくるアステラ。
鋭いわけではないその視線に、ツヅリは目を逸らしていいのかもわからず動揺する。
──な、なんだろう。わからないけど、何かを探られているのだろうか……。
「……いーい顔してるわねぇ」
「はい?」
ため息を吐くのと同じようなテンション感で、アステラはぼそりとそう言葉をこぼした。
ツヅリは頭にはてなマークを浮かべて目をぱちくりとさせる。
そんな彼をよそに、彼女は机の引き出しからごそごそカメラを取り出すとそれをツヅリに向けた。
「え、ちょっと!」
「なにかしら~。ほら、笑って笑って」
驚く暇もなく、パシャリとカメラのシャッターが押される。
フラッシュの余韻に目を瞑る彼を尻目に、アステラはいま撮れた写真のデータをポチポチと確認している。
「うんうん。これもこれでかわいいわね」
見つめる先。そのカメラの画面には驚いた様子で目を開き、慌てながら顔を隠す寸前のツヅリの顔が写っている。
言わずもがな、あまり人に見られたくはない写真であることは確かだ。
「あ、あの。撮るなら断り入れてください……!恥ずかしいので!」
「しょうがないでしょう? 証明書用の写真が必要なんだから」
「証明書……? えっと……。え、いや、その写真使うってことですか!?」
いろいろと聞きたいことが重なりすぎているし、ツッコミどころも多すぎる。
──こっちのことを考えてくれてるのは確かだけど……。なんか方向がおかしくないか!?
なにせいまの彼はメイド服。そのうえ、ご丁寧にカチューシャまでつけているのだ。
写真を撮られただけでも赤面ものなのに、それに加えてそれを証明書に使われるなど赤面を通り越して真っ白になってしまう。
「これは提案なんだけど。君さえよければ、うちで預かってあげてもいいわよ」




