その8
結論から言って、ピエリス女学院に通っていた『リナリア』は本物のリナリア・クレメンタインではなかった。
教員室を訪れていたリナリアの姉、コーネリアは次のように語った。
「私たちも、つい最近知ったのです。リナリアが学院に通わず、放蕩生活をしていたことを」
リナリア・クレメンタインは我儘で思慮に欠けた令嬢であった。
彼女の傍若無人ぶりを嘆いた両親、クレメンタイン侯爵と夫人は、規律の厳しい聖職学校へ半ば追いやる形で更生を願った。
令嬢リナリアの学院までの旅路にお供したのは、若い召使いの少女だった。
「しかしリナリアは、旅の途中の宿で、男性と恋に落ちました。そしてあろうことか、学院に通う役目を召使いに任せ、彼と逃亡したのです」
その事実が発覚したのは、男とリナリアが窃盗の罪で都市の警備隊に捕まったからだった。
すぐにクレメンタイン侯爵のもとへ知らせが走り、自暴自棄になったリナリアはすべてを白状したという。
「なんと情けない妹でしょう」
コーネリアはハンカチを取り出してすすり泣いた。
「リナリアは学院でとても品行方正にやっていると。評判を聞いて私たち、とても驚き、嬉しく思っておりましたのに」
召使いが彼女と歳が近く、なんでも言う事を聞くような素直な子だったからこそ入れ替わりが成立したのでしょうね、と涙を流す。
若い使用人が一人いなくなったところで、気に留めるような屋敷ではなかったことも一因だった。
「お父様たちは堪忍袋の緒が切れた様子で、ついにリナリアと縁を切ることを決心なさいました。私もあの子のことをもう妹だとは思っておりません」
目に涙を湛えて、貴婦人は言い放つ。
「それで先生。リナリアの名でこちらに入学した召使いは、大層評判がよく、学院始まって以来の聖少女であるとか」
「ええ……学院はそう認識しております」
「お父様はこう申しております。失ったリナリアの代わりに彼女を正式に養子にとり、引き続き学院に通わせたいと」
その言葉を言い終わるや否や、慌ただしく教員室の扉が開いて、メリッサが飛び込んできた。
「先生……今の話、もう一度聞かせてください」