その6
教員室には既に来客があった。
その人物の名前を聞いて、モニカはますますわけがわからなくなった。
「こちらはリナリア・クレメンタイン嬢の姉上、コーネリア・クレメンタイン嬢ですよ。ご挨拶を」
「御機嫌よう」
「ご……御機嫌よう」
モニカは目くばせでルイーズに問いかける。
(リナリア、って実在するの!? 身分を偽った人物じゃなかったの!?)
(こうしてご家族が訪れている以上、実在するとして考えて良いのでは)
修道服を纏った教師が、貴族らしい品のあるドレスを纏った女性と向かい合っている。
挨拶が終わると教師は呆れた瞳でメリッサを見た。
「メリッサ、どうしたのです」
「えっと、そのですね……」
「お客様がいらっしゃっているのよ。時間をあらためておいでなさい」
わたし達も一応お客様なんだけどな、とモニカは心の奥で呟いた。
食い下がるわけにもいかず、そのまま教員室を出る。
収穫は、リナリアの家族の出現という、謎を増やしただけだ。
庭園に出て、歩きながら考えをまとめる。
生垣の間に、小さな女神像が設置されているのをモニカは見た。
力強さを感じる石像の佇まいを見ていると、元気が湧いてくるのを感じる。
「やっぱり、リナリアが本当の貴族じゃないっていうのは、間違いないと思うの」
モニカはルイーズの推論を信じた。
「どこかに本物の『リナリア』がいて、その子の名前を騙ってるんだ、きっと」
「じゃあ、私の友達のあの子は……いったいだれ?」
「わからないけど、本物の家族が来てるんだとしたら、正体がバレるのも時間の問題なんじゃない」
あ、とモニカは手のひらをぱちんと重ねた。
「わかった。だから姿をくらましたんだ」
「え」
偽リナリアは、祝祭に本物のリナリアの家族が来ることを知った。
家族と対面すれば、自分が偽物だと明らかになってしまう。
そんな時に主役をやっている場合じゃない。
「どう? これがわたしの推理」
「そんな……」
メリッサは泣き出しそうに顔を歪めた。
「そんなの嫌だよ。すごくいい子だと思ってたのに。友達だと思ってたのに。偽物だなんて」
信じないよ、と駄々っ子のように身体を揺する。
「もしそうだとしても、きっと何か理由があったんだよ。悪いことを企むような人には思えないよ」
「メリッサ……」
「あんな優しい子に何かあったら、恨むよ、女神様……」
女神像を睨むメリッサの瞳は困惑と悲しみで揺れている。
「……ッ、ゴホっ……」
「モニカお嬢様!? ああ、お身体が……」
ふらつくモニカの身体を、ルイーズが駆け寄って支える。
少し休みましょう、と手を引いて近くのベンチへ座らせた。
メリッサも、はっと我に返って彼女へと近づく。
「どうしたの、どこか悪いの!?」
「大丈夫……このところ、よくあるの」
深呼吸をして呼吸を落ち着けると、モニカは、じっとメリッサを見上げた。
「ねえメリッサ、ひとつ教えて」
「なにを……?」
「本当は、リナリアの居場所を知っているんじゃないの?」