その2
ー主役の子、消えちゃったんだって
―うそー?
ーほんとほんと。あたしの友達が聖歌隊なんだけど、朝から大騒ぎしてたんだから
「ど、ど、どういう事。聖歌は歌われるの!?」
礼拝堂にいた女学生達がぎょっとした表情でモニカを見た。
「ねえ、声が大きいよ。聞いてるひとがいたじゃないの」
「ご、ごめん」
モニカ達が礼拝堂に入ったタイミングで、女学生が噂話をしていたのだ。
なんでもないんです、と言って学生たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ去っていった。
「ちょ、ちょっと」
「慌ただしいこと。彼女たちも聖少女なのでしょうか」
ルイーズが呆れたように呟く。
王都への集権化で地方の神が力を失いつつある今の時代。若者の間で信仰は形だけのもので。
ピエリス女学院も、他の神学校と同じように単に学歴に箔をつけるだけの機関になりつつあった。
礼拝堂で騒ぎ立てる少女たちはそんな現代っ子の象徴のように思えた。
「あら、まだ残っている子がいるじゃないの」
「ひっ」
一人、立ち去るタイミングを失ってオロオロしている女学生にモニカは近づく。
すると女学生は顔を真っ赤にして叫んだ。
「あ、あ、あの、リナリア様は、大事なお役目をすっぽかすお方じゃありません」
必死に言葉を絞り出そうとする少女の耳までが朱色に染め上がっている。
「あのかたこそ、奇跡の聖少女ですわ」
そう言い残し、くるりと踵を返して去っていく女学生をモニカはぽかんと見送っていた。
「……さっぱりわからない。何があったんだろう」
「祝祭が中止になるような事では、ないと良いのですが」
「やめてよルイーズ。万が一だとしても聖歌が聴けないなんてそんな」
モニカは重たい身体を両手で掻き抱いて肩を震わせた。
「とりあえず、話を聞けそうな人にでも聞いてみましょ」