その1
聖少女の園は、人里離れた山の麓にあった。
「つ、つかれた……」
肩で大きく息をする。ずり落ちそうになるフードを掴んで被り直した。
わたしはモニカ。ピエリス女学院の祝祭に向かっている。
「やっと建物が見えてきた……」
「大丈夫ですか、モニカお嬢様」
わたしに手を差し伸べたのは従者のルイーズだ。
涼しい顔を向ける彼女に、私は空元気を出して微笑んだ。
「ありがとうルイーズ、まだまだ平気」
「おいたわしいですお嬢様。そんなに体力が衰えていたなんて」
「わたしもびっくり……」
でも、と視界の先に見える建物を見つめて呟く。
「ここに来れたからにはもう心配ないの」
目の前に聳えるのは、ピエリス女学院。
女神を祀る聖職に就く、聖少女たちを育成する機関である。
学舎と礼拝堂が並ぶ敷地は広く、巨大な門扉は花飾りに彩られている。
今日は祝祭の日だ。舞う花吹雪が心を夢心地に誘う。
ステンドグラスにひかる光の粒がまぶしくて、目を細めた。
「奇跡の聖歌を聴いたら、きっと元気になるはず。去年みたいに」
「確かにあれは素晴らしいものでした。お嬢様の体調が奇跡のように改善されて」
「だから、わたしは今年もあの歌を聴かなくちゃならないの」
ピエリス女学院は、学生で構成された聖歌隊を擁している。
普段は山の麓の神秘に包まれた学院にも、祝祭の日には聖歌を聴きに旅人が集う。
古代の建国の女神、ピエリスへ捧げられるその聖歌は、聴く者に奇跡をもたらすと言われていた。
「さあ、素晴らしい歌を聴きに行きましょう」
目的地に辿り着いた安心感から、ふっと気を緩めて笑った。
しかし、その笑顔はすぐに困惑に変わることになる。
聖歌隊の主役が今朝から行方が知れない、と聞いて。