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第3章 テニスの妖精は鬼コーチだった‥‥‥ しかし特訓後はデレ化の兆候が!

第3章 第1話 新兵器 4月12日(金)


1 今日は、杏佳と夕方7時から練習することになっている。


 午後6時45分に、「それじゃ、これから迎えに行くからね。5分位したら家の前にいてね。教会の角を曲がったとこの奥よね?」って、杏佳から電話が入った。

 5分後に、僕が家の前に立っていたら、教会の角からなんだかスタイリッシュな車が走ってきた。ライトをピカピカとパッシングしてる。気が付いてるんだな。

 僕は、右シートに乗ってるんだろう杏佳に手を振った。


「おまたせー」 杏佳がドアを開けて右シートから出てきた。今日はこないだの白いパーカーに、中は白のポロシャツ、スコートは薄いピンク。正統派でとても清楚だ。

「おまたせーって、お前、アウディTTクーペに乗ってたのか? なんか悪い予感がビンビンにするんだけど、これ、お前の車だろ?」

「うん、そうよ。だって、2ドアクーペなんて、家族で乗れないじゃない。私とお母さんの専用車。大学入学のお祝いに買って貰ったの」


「やれやれ。これ1000万くらいするんじゃないのか」って呆れて言ったら、

「そんなにしないわよ。コミコミ800くらいじゃないの。‥‥‥って何? せっかく迎えに来てあげたのに、嫌なら乗んなくていいわよ!」って、プリプリしかけたので、

「ああ、ごめん、別に他意があったわけじゃないんだ。驚いただけ。なんかヤリスとかフィットみたいな小さいのを想像してたからさ。杏佳、迎えにきてくれてありがとな。上品な銀色のクーペ、すごくかっこいいぞ。お前に似合ってる」ってフォローしたら、

「ふふ、そう? それじゃ行こうか。バッグ後ろに載せなよ」って言って、杏佳はキーをピってやって、バックドアを開けてくれた。ドアに若葉マークがついてるな。

  

「ああ、そうだ。この緑の屋根が俺んち。お前、よく一発で分かったな」

「こんなデカい男が前に立ってたら間違いようがないでしょ。それに、ウチのこと言うけど、あんたんちも、いいとこのお屋敷じゃないの」

「うーん。まあ、そうなるのかな。お前んとこの三分の一くらいだけどな」

「だからもう、お互い言いっこなしよ。さ、いこ!」って杏佳が促し、僕は、座面の低い、クーペの助手席に乗り込んだ。


 杏佳の運転は思ったよりずっと丁寧でスムースだった。エンジンも思ったのと全然ちがって滑らかで、なんか「ズボボボ」みたいなのを予想していたから、見事に裏切られた。


「これ、初めて乗ったけど、いい車だな。クーペなのに滑らかだ。お前の運転も丁寧で上手で驚いた。若葉マークなんて全然思えない」

「そう、ありがと。練習のときはいつも迎えにきてあげるよ。どうせ私も車で行くんだしね」

「うん。ありがとう。助かる。だけどなんか悪いから、せめてコート代だけは俺が出すよ。バイトしてるからちょっとはお金あるし」

「えー、いいよ。市営のコートだからナイター取ったって大した金額じゃないし。裕は一年後輩なんだから、その気持ちだけで十分だよ」

「違う、それがダメなんだよ。俺は別にお前のヒモじゃなくて、テニス仲間なんだからさ。そんなんじゃどんどん一緒にいにくくなるだろ? お前と一緒にいるときの、心の自由度を確保しておきたいんだよ。ガス代とかは計算しようがないけどさ、どこで何するにしても、全部割り勘で頼むよ」

「ふーん、そうか。そうね。裕の言ってることも分かる。じゃ、そうしようか」


「せっかく俺のために言ってくれてるのにごめんな。だけど、こういうのは最初に関係設定しないとダメな気がするんだ。なんかズルズル慣れちゃいそうで」

「謝ることないよ。私だって、実は知らないうちに裕が居心地悪くしてるんじゃ、嫌だもん。‥‥‥ふふ、あんた、そういうとこ固いけど、なかなかいい男よね。じゃ、あとで1100円ちょうだい。今日のコート代の半分。さっき『割り勘』って言ったんだからね、全部は出させないわよ」

「はは、なんかそれでも全然不公平な気がするけどな。じゃ、そうしよう」


「そうだ。さっき聞き忘れたけど、裕のお父さん、お仕事何されてるの? お家みてそう思ったんだ」

「新宿で弁護士してる。俺も後を継ごうと思ってるんだ。推薦で杏佳と同じW大の法科に入れるといいな。勉強はちゃんとやってるから成績は足りてるし、部活でインハイ決めたら、指定校推薦取れるんじゃないかな」

「えー、それ楽しそう。待ってるわよ。裕も受かったらさ、一限のあるときは一緒に車で通おうよ。朝9時20分までに電車で府中から早稲田に行くなんて、ラッシュで死んじゃうわよ」

「うう、さっき『ヒモじゃない』って言ったばっかりなのに、なんて魅力的な提案なんでしょう‥‥‥。それじゃ高速代半分出す条件で乗っからせて貰うよ」

「あはは、好きにしなさいよ。じゃ、あと2カ月、あんた鍛えてインハイ決めなきゃね。さ、着いたわよ。地下に入れるわ」


2 生涯学習センターの地下駐車場に車を停めて、エレベーターで1階へ。表に出ると、森の中にナイターの光が見えた。


「ここが『平和の森テニスコート』。これからメインの練習場になるよ。人工芝貼り換えたばかりのいいコートなのに、なぜか不人気なのよね。なんでだろう。暑い時期はセンターのシャワーも使えるわよ」って言いながら、杏佳は高いフェンスの入り口を開けた。

 僕は、ボールのカゴを下げて、杏佳に続いて、足を踏み入れる。ああ確かにいいコートだ。芝がまだ新品でフカフカ。粗めで透明の砂も僕好み。ラインもまだ真っ白で見やすいな。


 ベンチにバッグを置いて、ラケットを取り出し、準備体操をしていたら、杏佳が、

「裕。お誕生日おめでとうね。一週間遅れちゃったけど、はいこれ。プレゼント」って言って、ヨネックスのラケットケースを手渡してきた。

 僕が「え? ホント? ありがと‥‥‥」ってちょっと戸惑いながら、取り出してみると、入っていたのはヨネックスV-COREブイコア95だった。おお、赤い、薄い、カッコいい!


「それ、裕に合うと思って。今のラケットの中では、小さめで薄めなんだ。ガットも裕の使ってるの張っといたわよ。55ポンドにしといたから、少し硬めかも」

「えー。嬉しいけど、こんな高いもの貰っていいのかな。これ3万円くらいするだろ。ボールだって新品で何十個もあるし」

「気にしなくていいわよ。だって、それ貰ったラケットだから。去年東京で優勝したときに、メーカーさんが『ウチのラケット使ってみないか』って、支給してくれたの。私、今使ってるのを頂いて、あと、もうちょっとソリッドで小さいラケットも使ってみたかったら、それも頂いたんだ。実際打ってみたら、私にはちょっとハード過ぎたんで、しまい込んだまんまになってたの」

「へー。そうだったのか」

「だから、プレゼントって言っても、それのガットと、ボール30個だけよ。気にするほどじゃないでしょ? ね、貰って!」って言って、杏佳が小首傾げて微笑んでくる。キャップの穴から出したポニテとピンクのリボンが揺れる。うー、可愛いですー。これは勝てません。


「そうか、そういうことなんだ。よく分かった。それじゃ遠慮なく頂こうかな。本当にありがとう。嬉しいよ。とはいえ、使ってみないと相性分かんないけどな」

「大丈夫。絶対相性ピッタリよ。裕には少し軽すぎるだろうから、サイドに重り貼っておいた。あとグリップ2じゃ細いからテープ二重に巻いといたわ。もう1本あるから、今日使ってみて気に入ったら、バランス整えて2本揃えよう」

「そうだな。じゃ、今日はまずR22使ったあと、ブイコアに持ち替えて比較してみようか」


 僕はそう言って、赤いブイコアのラケット面をポンポン叩いた。


 昭和のR22と、令和のブイコアか。どう違うか楽しみだな。






 みなさま、いつも本作をお読み頂いてありがとうございます。

 PVの動向を観察致しますと、大体15名程度の読者様が毎日お読み下さっているようです。

 スマホから読んで頂いている方も多いので、高校、大学のテニス関係の方も多いのでしょうね。

 

 頑張って毎日アップしますので、またよろしくお願い致します。


 小田島 匠

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