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第10章 (小武海戦後編) 死闘が最終決着へ! 昭和テニスマン裕が第三形態に進化! カーボネックスが火を噴くぜ!

(ゲームカウント5-4 裕リード。ワンブレークアップ。次は裕のサーブから)


 さあ、ついにワンブレークアップしたぞ!

 コートチェンジでベンチに座り、タオルで汗を拭きながら振り返る。フォアのスライスがよかった。あれで小武海のペースが狂った。やっぱり小武海でも1ゲームでは対応難しいんだな。

 ここからは、もう、サービスキープに集中だ。それで8-6。あんまりスケベ心を出さないで、目の前のポイントに集中しよう。

 

 10ゲームめ。僕は、ボールを2回つきながらコースを考える。

 そういえば、まだ真正面に打ってなかったな。杏佳は、「ポケットが苦手」だって言ってた。

 僕は、トスを真上にあげ、背中を反らし、体を起こしながら、肘をボールにぶつけていく。ああ、ボールの継ぎ目が良く見えるな。集中できてる。遅れて来たラケットヘッドがボールを打ち抜き、視界から消える。瞬間「パンッ!」という炸裂音とともに、ボールが小武海の正面を襲う。

 小武海は窮屈な姿勢でバックハンドを当ててくる。ああ、やっぱり小武海は返してくるんだな。だけどだんだん慣れてきた。小武海の動きも良く見える。バックにダッシュしている。僕は、サービスライン付近から、今小武海が立っていた場所に正確にボレーを送り込む。返ってきたら次で仕留めればいい。

 だけど、ボレーが良かった。逆サイドに走り出していた小武海はもう戻れなかった。15-0。


 このゲームは全部真正面にフラットを打ち込んだ。これなら9割方入るから、セカンドもお構いなくフラットだ。ダブルフォルトが一つあったけど、40-15からのリターンを小武海がネットにかけて、サービスキープ。

 これでゲームカウント6-4。あと二つキープだ。


 油断はダメだけど、このあたりが師匠が言っていた「実力の交差点」なのか?


 しかも、僕には、今、そこを抜けつつある感覚が、確かにある。


 すぐサービスチェンジ。次のゲームは「もしブレークできたらよし」くらいの気持ちで臨もう。ファーストからセイバーでプレッシャー掛けることにするか。

 小武海もそのあたり分かってて、最初のポイントからサーブは全力でフラットを打ってくるが、当然精度は落ちてくる。長い。僕は「フォルト!」と言いながら、サーブを打ち返してネットにかける。


 が、その時、「バチッ!」っていう、不吉な音が響いた。


 観客席で、「あ!」って言ってる声が聞こえる。‥‥‥これは参ったな。ハードにスピンかけて打ち合ってたから消耗が早かったのか。ガットにも過度な負荷がかかってたんだろう。

 僕は「ガット切れたので、ラケット替えます」と主審に告げて、ラケットバッグから、レクシスを張った銀色のR22を取り出した。頼んだぞ。もと相棒。


 ******

  

6 裕のガットがまた切れた。レベルの高い選手同士がトップスピンでバンバン打ち合ってるから、すごいテンションがかかってるのは分かるけど、一試合もたないなんてね。こんなことあるんだ。片方のガットは1.30㎜にしておけばよかったかな。いやそれより、米山さんからブイコアをもう2本貰うように、裕に言えばよかった。もう遅いけど。

 

「なんと? あれR22だろ? まさかインハイで見ることになるとは思わなかったなー」って、米山さんが驚いてる。

 見ている選手たちからも、

「うわ、あの小っちゃい銀色のラケット何? 四角いからヨネックスなんだろうけど。見たことないな」って声が湧いてる。

 小武海戦を見物に来てた監督さんやコーチなんかのオールドファンからは、

「あれR22だぞ。ナブラチロワが使ってたやつ。懐かしー。いいラケットだったなー。だけど未だにインハイで使うやついるんだ。小武海相手に大丈夫かな?」って声が聞こえてくる。


 澄香も「杏佳さん。あのラケットで大丈夫? なんか随分古いモデルみたいだけど‥‥‥」って聞いてくる。私は、

「うーん、どうだろ。まあ、こないだまで使ってたラケットだから、ある程度は出来ると思うけど、あと二つサービスキープできるかな‥‥‥」って、正直に不安を口にしちゃった。


 裕は、デュースコートに戻り「悪い」って手をあげてから、前傾姿勢で構えて、小さなラケットをくるくる回した。おお、なんかかっこいいじゃない。パツパツの昭和ウェアと相まって、様になってるわよ。頑張れ裕。

 小武海君は、セカンドサーブを安全にスピンで入れてきた。ラケットが変ったので、様子見だろう。その目論見は当たって、裕はバックで返そうとしたけど、ラケットの端っこに当たって、ネットに掛けてしまった。やはり許容性が少ない。きちんと真ん中に当てないと、上手く返らない。


 だとすると小武海君はもう無理する必要がない。丁寧にサーブを入れておけば、勝手にミスしてくれる。「これじゃダメだ」って裕がセイバーしてきても、打ち切れなくて置きにいくから、返しのパスが面白いように通る。ゲーム小武海。ゲームカウント6-5。まあ、これはしょうがない。次のサービスキープが大事よ。


 裕は、ベンチで汗拭いて、気持ちを落ち着けてる。大丈夫、R22ではスピンもスライスも少し切れが悪くなるけど、返って来るの想定して前に詰めるしかない。

 サイドチェンジして、裕はエンドライン上でスっとトスを上げる。真上だ。フラットサーブを正面に打つんだな。ラケットに慣れるまで、それが安全ね。


 だけど、インパクトの瞬間、なんか「メシャ!」って変な音がして、ボールがネットの下にめりこんだ。何があった?


 裕がネットまで行って、小武海君に何か話し掛けてる。え? でもガット切れてないでしょ? 何? あ! なんかラケットが変な形になってる。平行四辺形になってる。今、ラケットのフレームが折れたんだ‥‥‥。そういえば去年もサーブで一本折れたって言ってた。だけどこんな大事なとこで‥‥‥。


 裕は折れたR22を持ってラケットバッグのとこに行って覗き込み、だけどなんだか青い顔になって、こっち向いて両手合わせてる。何? どうしたの?


 裕がバッグから取り出したのは、小っちゃ!

 なにそれ。カーボネックスの赤じゃないの!

 それ見て私と澄香と米山さんは、「ズコーン!」って仰け反っちゃった。

 あんた、こないだ平和の森で打った後に、入れ替えるの忘れてたのね。何やってんのよ、ほんとに。もう、バカ、ドジ!


 それ見て、小武海君が裕に近づいて、え? なんて言ってる?

「いや、お前、それ、いくらなんでもあんまりだろ。誰かのラケット借りて来いよ。俺の貸してやってもいいぞ。こんなんで連勝記録伸ばしても、なんか気持ち悪いからさ」って言ってる。

 私、澄香を見て、「これ貸して! お願い!」って涙目で頼んじゃった。澄香も頷いて、ラケットを持って立ち上がる。


 ‥‥‥だけど、裕は潔かった。言い訳しなかった。小武海君に笑顔を向けて、

「人のラケットで2ゲームも取らせてくれる相手じゃないだろ。まあ、準備不足も実力のうちだしな。このレベルになると2本じゃダメだって、分かってなかった。だから今日は俺が持ってるもので勝負するよ。それにな、お前、カーボネックスをなめるなよ。俺、これでずいぶん練習してきたんだぜ。腰ぬかすなよ」って言って、エンドラインに下がる。


 ああ、裕、かっこいいけど、そんなところで男らしさを発揮しなくてもいいのに‥‥‥。


 場内はもう騒然となっている。

「うおーっ! なんかウッドのレギュラーが出て来たぞ。今時あんなのどこに売ってんだ? 小武海相手に正気か?」

「いやー、でもあのラケットすげーかっこいいな。なんかウェアもレトロだし、昭和のテニスマンが令和の最強選手と戦ってるみたいだ。ま、頑張れよー」って声援も飛んでる。

 オールドファンからは「うっわ、今度はカーボネックスだよ。さらに時代が遡ったぞ。なにがどうなってんだ?」

「長身でウッドでサーブ&ボレーって、まるでスタン・スミス(往年の名選手。アディダスのスニーカーの名前にもなっている)だ。エレガントでかっこいいなー」って、昔を懐かしむ声が聞こえてくる。


 裕は、カーボネックスを構えて、スッとトスを上げ、再びフラットで小武海君の正面に打ち込む。スピンもスライスもヘナチョコしか打てないから、もうフラットしかないわよね。

 でも、主審から「フォルト! ダブルフォルト!」の声が飛ぶ。オーバーした。重くて柔らかいから、インパクトで面が上を向いてオーバーする。次からもう少し打点前めで、叩き落す感じで。0-15。


 大丈夫だった。裕は分かってた。次のサーブは少し前めにトスを上げて、ゆったりしたフォームから、「ズドーン!」ってフラットを正面に叩き込んだ。十分速い。重そうな球。ああ、でも少しだけ遅いから、小武海君は対応できた。ポケットに来たサーブをコンパクトにブロックしてストレートへ打ち返す。

 裕は、追いついてクロスにバックボレーを放つが、やはりキレもスピードもない。小武海君はすぐに追いついて、一瞬の間を取ってコースの気配を消してから、「シュ」ってショートクロスにパスを放つ。裕は飛びつくも届かず、ボールはサイドライン手前でバウンドした。

 ああ、初めてクロスをパスで抜かれた。小武海君に余裕が出てきた。ブイコアに比べると、スピードもキレも少し落ちるだけなんだけど、あのハイスピードのバトルに慣れた後では、すごく楽に感じることだろう。0-30。


 次のポイントも、小武海君が裕の足元にリターンして、ハーフボレーが返ってきたところをバックでクロスにパッシング。もう流れが完全に変わってやりたい放題になりつつある。0-40。


 もうフラットの正面は使わない方がいい。裕は、トスを外側にあげて、スライスサーブの構え。センターの可能性もあるから、小武海君は真ん中から動かない。

 裕が放ったサーブはスライスしながら、サイドライン際に落ちるが、ああ、キレも角度も足りない。小武海君が悠々追いついて、ドカンとストレートにリターン。裕は一歩も動けず、見送るだけ。

 ゲーム小武海。ブレークバック。これで6オール。追いつかれた。



 サービスチェンジ。小武海君のサーブ。

 カーボネックスでセイバーしてネットに出るのは困難だろう。だけど、やるしかない。ストロークはフラットしか打てないんだから、ラリーになったら必ずやられる。

 やっぱり、裕は小武海君がクロスに打ってきたサーブをバックでブロックししつ前に出る。しかしアウト。やはりスピン掛けられない分オーバーした。15-0。


 次のサーブもバックにきて、裕はセイバーで前に出るも、小武海君はバックのストレートにパッシングを一閃。30-0。やはりリターンに切れがない。置きにいくだけになっている。

 次は、一転してフラットサーブをセンターに。裕は慌てて持ち替えるも、ラケットが弾かれ大きくオーバー。40-0。ああ、もう一方的だ。裕は為す術がない。


 周りで見ている観衆からも、

「なんだよー。結局小武海が勝つのか」

「やっぱり強いな。ショットがキレてるうえに、安定してる」

「いいセンいってたけどなー。頑張れ、昭和テニスマンー!」って声が聞こえてくる。

 

 40-0。アドコートから対角線にフラットサーブが放たれた。裕は、あれ? フォアの握りを厚くして待ってた。膝を落とした態勢から伸びあがって打ち抜く。ああ、壁で練習したやつだ。スイングじゃなくて膝でスピンかける打ち方。

 クロスに打ちだされたボールはオーバーする勢いだったけど、スピンがかかっているので、ライン際でストンと落ち、コーナーに着弾した。小武海君も追いついたけど、ボールの勢いが勝って、当てるだけ。裕はすぐにネットに詰めて、オープンコートにボレーを叩き込む。よし、一矢報いた。


 瞬間、会場が「ウワーッ」って大きく湧く。

 あんなラケットでよく頑張っている。まだ諦めていない。勇敢なチャレンジャーが丸腰で最強王者に挑んでいる。そういうの観客に伝わるのね。40-15。


 ‥‥‥だけど、小武海君は次のサーブを思い切りクロスに叩き込み、裕はブロックしたけれど、弱弱しくネットに掛けた。安定感のなさは、如何ともしがたい。


 ゲーム小武海。これで6-7。


 ついに王手がかかった。











 読者の皆様。お盆休みの最終日、本作をお読み頂いてありがとうございます。


 昨日アップしたスピンオフを喜んで頂けたようで、いいねを3つ頂きました。昨日「5000超えました」と言ったばっかりのPVも、もう今日には6000を超えそうな感じですね。本当にありがとうございます。減量中の腹ペコ状態(わたくし、肉体美の選手なんです)が、皆さんの応援の声で満たされています。いやマジで。


 昭和と令和の最強対決も次で終結ですね。どうなりますでしょうか。


 それでは、また明日お会いしましょう。


 小田島 匠


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― 新着の感想 ―
[良い点] ハラハラしながらも観客のつっこみも面白くて 釘付けになります。実際に見てみたいという気にまります。 昭和のテニスと現代テニスラケットの感覚違いがわかる人にも受けますし。。ずっと終わらないで…
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