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第9章 第3話

~ 裕と小武海が全キープして、2オール ~



 2オール後、僕と小武海はさらにサービスをキープしあって、ゲームカウント3オールになった。

 

 そして小武海のサーブ。ああ、なんか息苦しいな。さっきからじりじりした展開が続いている。

 サービスキープは出来るけど、どうしても小武海のサーブが破れない。お互い、一つ落とすと致命傷になるから、もう必死だ。

 ただ、僕も、ファーストをセイバーできずストローク戦になっても、なんとかついていけるようになってきた。バックのスライスも効果的だと分かった。小武海のレベルでも、あの低く滑るボールは、どうしてもハードヒットできずに我慢して繋ぐことになる。そうなると、小武海のバックにトップスピンロブを放つチャンスだ。

 

 だけど小武海は小武海で、きちんと対応してきた。

 僕が厚いグリップにすると、ロブが来るのが分かるので、ススっと落下地点近くまで詰めて、ライジングでポポンと返してくる。カウンターになるから、僕はネットに詰めることが出来ない。なんだよ、ライジング打てるんじゃないか。いままで必要なかったから打たなかったんだな。

 ロブが長い時には、ライジングにすらせずに、直接ボレーで返してくるし、時にはそのままネットに詰めてくる。これは考えたことなかった。さすがだ。小武海も、この試合の中で、いろいろ工夫して、スキルを身に付けつつあるのかも知れない。


 ああ、結局またキープされた。ゲームカウント3-4でコートチェンジ。

 ベンチに座って汗を拭きながら考える。どうしたらいい? バックの深いところに押し込めるためには、何をする?

 まだ考えがまとまらない。だけど、もう時間だ。次のゲーム集中しよう。

 キープを続けている限り、負けることはないんだ。


 ******


4 裕が3-4からのサービスをキープして、4オールになった。

 臆せず、渾身のサーブをバンバン打ち込んで、小武海君に攻撃の糸口を与えない。返ってきてもボレーが安定しているから、そうそう破られることはないだろう。


 裕は、もう相手が小武海君だとか、高校無敗の王者だとか、そんなことは忘れてる。「一人の手ごわい相手」くらいにしか思っていない。ストロークだって、小武海君とそれほど遜色なく打ち合ってる。やっぱり師匠が言ってたとおりだ。小武海君が裕の力を引き出してるんだな。


 さあ、でも、問題はリターンゲーム。どこかで一つ破らないと勝利はない。

 小武海君は、バックのトップスピンロブを対策してきた。ライジングで返すようになってきた。あれをされると、前に出られず、ストロークの精度で劣る裕には苦しい。繋ぎ合っているうちに、どこかでミスが出てしまう。だから、ライジングで打たせたらだめよ。裕、考えて。

  

 9ゲームめが始まった。

 小武海君は、鋭いスライスサーブを裕のバックに入れてくる。フラットよりスライドしてバウンドも低いから、セイバーしにくいサーブ。裕は仕方なく、小武海君のバックに深く返す。

 小武海君はオープンコートに3球目攻撃。裕も予測して戻ってたけど、そこで、あれ? 初めて見た、フォアの薄い握りでスライスを掛けてバックに返す。ボールは低くネットを越えて、コーナー深く侵入して、スっと滑る。

 小武海君は予期してなかったから、腰を落として安全にフラットで合わせるだけだ。ボールは真ん中に緩く返り、裕は厚い握りのバックハンドを構える。一度センターに戻りかけた小武海君が、ロブを予測してスっとバックに体重移動した、まさにその刹那、


 「シッ!」


 っていう声とともに裕の渾身のバックハンドがクロスに放たれ、コーナーを(えぐって金網に着弾した。小武海君は完全に逆を突かれて見送るだけ。裕、お見事。

 そうか、別にバックのロブにこだわる必要ないんだ。相手がそこだけケアしてるなら、リスク取ってクロスでエース狙ってもいいんだ。よく考えたわね。

 

 こうなると、組み立ての自由度が出てくる。

 もう小武海君は、トップスピンロブが上がりそうになっても、バックに寄れないから、ライジングできずにコートの後方から無理やりパッシングを打つことになる。裕は届く範囲なら、すべてドロップボレーだ。小武海君の体力も少しずつ削りたい。


 とはいえ、さっき身に着けたばかりのフォアのスライス、どうしても安定はしない。低く遠くまで飛ぶのでネットやオーバーの危険は常にある。なので裕にもミスが出て、お互い何ポイントか取り合ったんだけど、最初のエースが効いてた。カウント40オール。


 さあ、ついに来たわよ。今日初めてのブレークポイント。

 裕、ここ集中しよう。

 

 小武海君はデュースコートを選択。どうせ、対角線にスライスサーブだろう。裕はもう隠そうともせず、バックの握りでサービスライン付近に詰め、プレッシャーをかける。小武海君がスッとトスを上げる。


 あ! 真っすぐ上だ。これはセンターにフラットだ!

 裕、戻れ、握りフォアに!


 ハイスピードのサーブがセンターラインをかすめて飛んでくる。裕は薄い握りで必死に食らいつく。あ、当たった。だけどボールは力なくネットを越えただけ。小武海君が詰めてくる。


 が、「フォルト!」の声が主審から飛ぶ。

 小武海君が、ネットに手を置いて、着弾点をじっと見つめる。裕も着弾点まで行って、じっとボール跡を見つめ、「これだな。小武海、出たぜ。2㎝」って、指で2㎝くらいのマークを作った。小武海君は、それ見て、「そうか。じゃ、しょうがない。惜しかった」とだけ言って、潔くエンドラインに戻って行った。


 さあ、仕切り直してセカンドサーブ。だけどこうなるとプレシャーが掛かるのは小武海君の方だ。終盤に差し掛かるところで、ワンブレークダウンは大きい。

 裕は再びバックの握りで、もうサービスライン上にまで詰めている。バック以外にフラットが来たら、きっともう取れない。

 小武海君が、ボールを2回ついて、スッとトスを上げる。


 あ! また真上だ。フラットだ! ギャンブルに出た! センターケア!


 裕が握り替える間もなく、小武海君の全力のサーブがさっきと同じコースを襲う。裕がラケットを伸ばして飛ぶ。とにかく当たればいい。当たって!

 

 ‥‥‥だけどボールはネットを越えてこなかった。白いコードに「パシーン!」って当たり、大きく上に跳ねる。小武海君が、思わず「入れー!」って叫ぶ。真上に跳ねたボールが落ちてきて、再びコードに当たって跳ね、そして‥‥‥小武海君のコートに、ポトリと落ちた。


 ダブルフォルト。ゲーム裕 5ー4。ついに試合が動いた。

 この勝負所でプレッシャーに打ち勝ったのは裕だった。


 ‥‥‥ああ、もう私、心臓が口から飛び出しそう。さっき喜びあった澄香も米山さんも、言葉をなくしてじっとコートを見つめるばかりだ。


 あれ、16番コートの周りに人が集まり始めた。100人くらいいる? 小武海君が競ってるのが珍しいんだな。


「おい、小武海負けるかもよ。お互い残り全キープで8ー6だもんな」

「だいいち、あの相手誰よ? あんなのいた? エントリー№4って、ノーシードじゃんか。なんであんなすげーの?」

「東京の奈良裕だって。全然無名の選手だな。ノーシードなんだから、東京をぎりぎりで通過したんだろう。なんでかさっぱり分からん」

「小武海、高校無敗で終わると思ったけどな。連勝は67でストップか?」

「まあ、8ゲームマッチだからな。どこかで負けることもあるだろう。何にせよ、貴重なシーンを見られるかもな」


 見ている観客たちも、だんだん理解し始めている。


 まだ二回戦だけど、全くの無名選手だけど、目の前の二人が、今高校最強の座をかけて戦っている、と。





 読者の皆様。今日も本作をお読み頂き、ありがとうございます。さぞ緊迫した接戦でお疲れのことと思います。だけど、ついに試合が動きましたね。裕はこれをものにできるでしょうか。


 息詰まる展開で、ストレスも溜まるでしょうから、次は、小武海戦後編の前に、オマケでスピンオフを一つ挟みたいと思います。この2日間、書下ろしで、ハイボール濃いめ飲みながら一生懸命書いてました。

 「if その2」で、「もし二人があの時壁で再会していなかったら」というお話です。わたくしも、本編を書いていて「この二人、たまたま朝に壁で会えたからよかったけど、そうじゃなかったらどうなってたんだろう?」って、ずっと思ってたんです。

 「結局、二人の人生は交差せず、それぞれ別の人と人生を歩みました」ってんじゃ、非難轟々(ひなんごうごう)間違いなしで、一気にpvが半分になりそうな気もしますが、さすがにそんな無体なことは致しておりません。プロローグ扱いの第1章手塚戦から3年後の春のお話になります。


 それじゃ、また明日お会いしましょう。


 小田島 匠








 

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