第8章 昭和テニスマン、決戦の地、苫小牧へ! 妖精とどうなる? 今更ながら第二ヒロインらしき人も登場!
第8章 決戦の地へ(インターハイ編 前編) 7月~8月
1 7月20日に一学期の終業式があって、夏休みに入ったので、翌日から平和の森で毎朝7時~9時の2時間、インターハイのための特訓を行った。
いつも夜間、ナイターで練習しているけど、インハイ本番は昼間に試合をするので、太陽とか風とかに慣れておいた方がいいのと、「朝からちゃんと身体が動くように」という配慮からだ。
杏佳が毎日送迎して練習をつけてくれたし、真司も学校の練習と被るとき以外は付き合ってくれた。
そうやって、強度の高い練習を連日こなすうちに、僕の腕もだいぶ上がってきた印象だ。特に、優秀なストローカー二人と毎日のようにバンバン打ち合えるので、ストロークの安定感が格段に向上し、グリップの使い分けも自在に出来るようになった。もう、トップスピンロブでラリーを行うこともできる。早く試合で使ってみたいな。
インハイの日程は、7月29日~31日が公式練習、31日に開会式、8月1日~3日が団体戦、4日~6日が個人戦となる。9日間の長丁場だ。
本当なら、真司のいるW実業にくっついて行って、一緒に公式練習に出てみたかったけれど、僕の初戦の4日まで間が空き過ぎて、その間練習できないのでは困るし、何より宿泊費が勿体ないので、前日に現地入りして、コートの見学をするにとどめることにした。
会場の「苫小牧緑ヶ丘公園庭球場」は、ここ平和の森と同じオムニコートなので、直前までこっちで練習できた方がいいだろう。
そういうわけで、団体戦出場の真司は30日の早朝練習のあと、「じゃ、行って来るぜ」「おお、頑張れよ」ということで、一足先に北海道に旅立っていった。
僕は、8月3日に杏佳と早朝練習した後、午後の飛行機で向かうことになる。
‥‥‥と思っていたら、真司が2日の夜に帰ってきた。ラインに連絡が入ったので、「それじゃ、長旅でお疲れのところ悪いんだが、明日の早朝練習来てくれよ。本番前の最後の練習だし」と頼み込んだところ、「オーケー。いいぜ」と、快諾を得た。
翌日、平和の森に姿を現した真司は、思いのほか、サッパリした顔をしていた。
「初戦は勝ったんだけどなあ、二回戦で大阪の青風高校と当たって負けた。俺はどっちも第一シングルで勝ったんだけど、やっぱり青風は強かったよ。選手層が厚かった。まあ、俺も高校テニスの最後を連勝で飾ったから、概ね満足かな。だけど、来年はウチの学校、厳しそうだ」とのことだった。
「試合会場はどんなとこだった?」
「高台の公園に綺麗なオムニコートが20面あってな、それぞれに観覧席が付いてて見やすいし、立派なクラブハウスもあって、実にいい会場だった。広い駐車場もあるから、レンタカーで行くのがいいな。何より、緑が多くて、空が広くて、涼しくて、なんか決戦の舞台なんだけどギスギスしたところがない、居心地のいい会場だった」
「へー、いいな。コートはここと同じ感じ?」
「そう。深めの人工芝で、粗い透明な砂が入ってて、ここと全く同じだな。カラーは、黄緑と濃い緑のツートンで、こことちょっと違うけど、そこは全然気にならないだろう。‥‥‥あ、そうだ。忘れてた。レストランないぞ。出がけにコンビニで食料購入が必須だ」
「おー、それは貴重な情報。ありがとうな。おにぎりとバナナ買ってこう」
その後、三人でストロークとサービスリターンを中心に練習し、いつもどおり、真司と本番を想定したゲームを行った。
サーブのコースと球種は全部バレているので、リターンは返ってくるのだけど、そのやり方で四カ月近く練習しているので、僕の方も当然返って来ることを前提にプレーを組み立てるようになった。慌てず騒がず、ボレーを深くオープンコートに送り、その返しを仕留めればいい、というスタンスが身に付いた。
リターンゲームでは、ファーストは前から猛速サーブを打ってくるので、「なんとか返ればいい」というくらいでしのぎ、セカンドは全部セイバーで攻撃した。
それでもスコアは3-1で真司だった。
「いやー、負けたー。結局最後まで勝てなかったなあ」
「いや、まあ、ハンデ付きだからなあ」
「だけど、今日は1ゲーム取れたし、中味もだいぶ充実してきた実感はあるな」
「そのとおり、この二、三週間で、お前は大きく伸びている。だから、最後にさ、俺とハンデなしで8ゲームマッチやってくれよ。俺もお前が今どのくらいのレベルになったのか、体感してみたいんだ。杏佳先輩、今日試合できないけど、いいかな?」
「もちろん、そうして。私、審判やるよ。真司君が本気でやってくれるなら、裕にもいい練習になるからね。お願いね」って言いながら、杏佳が再び審判台に登る。
ゲーム開始。だけどハンデなしのゲームは、ずいぶん楽だった。
サーブはコースが自由なので、サービスエースも沢山取れたし、そうでなくても、真司が「予め構えて待つ」ことができないので、いいリターンもそうそうはなく、サーブ&ボレーがバンバン決まった。
リターンのゲームも、これまでの方式よりも、サーブが遠くから飛んでくるので、時間の余裕があるうえに、フォルトも増えて、対処が楽になった。セカンドは全部セイバーだ。
そして15分後、杏佳が、静かにゲームの終了を告げた。
「ゲームセット&マッチバイ 裕 スコア8-0。裕、お見事」
僕と真司は、ネットに歩み寄って、笑顔で握手を交わす。
「ナイスゲーム。参った。俺は、手を抜いたわけでも、疲れていたわけでもない。お前は本当に強かったぞ。残念ながら、もう俺の手の届かないレベルまで到達してしまったようだな。今まで俺が対戦したどの選手よりも段違いに強かったよ」
「そうか。そう言ってくれると自信になるよ。小武海にも堂々とぶつかって来よう」
「てか、お前、普通に勝てるんじゃないか? 今、試合してて、もう絶望的な差を感じたぞ。もう何やってもダメ、全部相手が上、みたいな気持ちになった。おそらくは、俺とやってるハンデ付きの試合が小武海戦と同じくらいの強度だと思うが、サービスのコースは自由なんだから、本番の方が実は少し楽だろう。もちろん勝敗は分からないけど、少なくとも競ることは間違いない。お前のサービスゲームは、そうそう破れない」
「そうか。それじゃ終盤までジリジリした展開をしのいで、一つだけブレークできるようにやってみるか」
「そうだな。小武海がこの一年でどのくらい伸びたか分かんないけど、去年俺が見た小武海よりも今のお前の方が強い印象だ。臆せず、自信もってやって来い」
「ありがとな。そうする」
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練習後は、杏佳の車で、小平の真司の家まで送って行った。
「今日の午後、羽田から行くのか」
「うん。14時30分の便。新千歳に着いたらレンタカー借りて、一応、試合会場を見に行ってみようと思ってる」
「それがいいな。車なら自由利くしな。‥‥‥そういや俺さ、今回、ホテルから出なかったから、名物食べられなかったんだよ。俺の代わりに食べてきて、感想聞かせてくんない?」
「苫小牧って、何が名物なの?」
「カレーラーメンとホッキ貝だそうだ。特に苫小牧市民はホッキ愛が爆発しててな、正統派のホッキ丼だけじゃなくて、ホッキカレーとかホッキ焼きそばとか、何にでもホッキ貝入れるらしいぞ」
「カレーラーメンとホッキ貝‥‥‥。なんか微妙な感じだな。まあ、どっちも美味いものではあるが、名物がそれか」
「名物になるくらいだから、その土地にあった食材とメニューなんだろう。きっと地場で食べたらすごく美味いぞ」
「そうか、まあ、じゃ、アンテナ張っておくよ。カレーラーメンとホッキカレーだとダブっちゃうからいっぺんには無理だな」
「ははは、そうだな。頼んだぞ」って言いながら、真司は帰って行った。今日から、テニス選手じゃなくなって、長い夏休みに入るんだな。お疲れ様でした。
「さて、俺たちも帰って、遠征の用意をしよう」
「そうね。14時30分の便だから、12時に迎えに行くわよ。夜まで少し空くから、ご飯はちゃんと食べておいてね」
「うん、ありがとう。待ってるよ。だけど‥‥‥」
「だけど?」
「真司、俺たちが同じホテルに泊まるって分かってるんだよな。まあ、同じ部屋ではないにしてもさ」
「そうだろうね。一緒に車乗って行くんだからね」
「何にも言ってこなかったな。こないだみたいに『悪さするなよ』とか。まあ、冗談半分にしても、なんか言うと思ってた」
「そんなこと言ったら、私たちが真司君のことすごく気にして、悪いなって思って、いろいろ行動が制約されるでしょ。邪魔しちゃうでしょ。だから、あえて言わなかったのよ。ホッキ貝の話も、そのあたりの話題を微妙に避けたからじゃないのかな」
「‥‥‥そうか。あいつ、ホントに出来た男だな。かっこいい」
「そうよ。真司君はそういう人よ。私もあんたも、彼が友達でよかったわね」
******
2 お昼の12時丁度に、杏佳がアウディで迎えに来てくれた。
今日の杏佳は、テニスしに行くわけじゃないから、リゾート風のロングワンピだ。半袖で、白地に青と赤の花と緑の葉の柄が入ってる。細身の作りで、ウェストが締まってて、だけど胸がはちきれそうで、杏佳のスタイルの良さが際立っている。帽子は水色のリボンがついたアイボリーのストローハットで、下はアンクルストラップの白いヒールサンダル。プラチナのオープンハートが深いV字カットの白い胸元に映えて、匂い立つような美しさだ。
「杏佳、そのワンピいいな。すっごく似合うぞ。これからリゾートに向かう美人さんって感じだ。テニスウェアもいいけど、こういう私服もよく似合うなー」って褒めると、杏佳は、
「ふふ、どうもありがと。今日のために新調しちゃた。まあ通販なんだけどね」って言いながらトランクに僕のバッグを詰めてくれて、さあ出発だ。そしたら、杏佳は帽子脱いで、車用のスニ―カーに履き替えちゃって、アレレっ? って感じだけど、まあ仕方ないな。
調布インターから中央高速に乗り、首都高に入って羽田線へ。40分くらいか。天気も良くて快適なドライブだった。羽田が近づくと、
「おお、飛行機が飛んでる! でっけー。遅っせー。あんなんでよく飛べるな。下に見えないレールが付いてんじゃないのか。銀河鉄道999か? メーテル!」
「もう、騒がしいわね。‥‥‥もしかして、あんた、飛行機乗るの初めてなんじゃ?」
「恥ずかしながら、その通りだ。羽田に来るのも当然初めてだ。なので、実を言うと明日の試合より、今日のフライトの方が不安だ。あんな重いものが空を飛ぶのが、どうにも理解できない」
「飛行機落ちて死ぬより、交通事故で死ぬほうがよっぽど確率高いって言うわよ。大丈夫、大丈夫。千歳だからね。すぐ着くよ。私が付いてるからね。よしよし」
「‥‥‥うう、頼んだぞ」 シッカ(すがり付く音)。
空港の駐車場に車を入れ、バッグを持って、第一旅客ターミナルへ移動。
自動チェックイン機でチェックインした後、JAL519便まで一時間以上あるので、空港内のレストランや土産店を探検して周った。
「何もかも高けーなー」「そうねー。家賃高いからねー。あ、だけど吉野家がある」「おお! なんか窮地で関羽と張飛が助けにきてくれた気分だ!」とか言い合いつつ、三本珈琲店に入ってブレンドを頼み、ハムサンドを二人で分けた。
戻ると既に519便の搭乗案内が始まっていたので、搭乗ゲートから飛行機に乗り込み、エコノミーのシートに並んで座る。僕は通路側で、杏佳が一つ窓側。しかし、こ、これは狭い! 197㎝の大男のことは全然考えてない設計。ベビーチェアに腰掛けてる感じ。
「これ、アウディの後部シートの方がずっと快適だぞ」
「しょうがないでしょ。一時間半で着くわよ。隣が私でよかったわね」と言ってる間に、ベルト着用サインが出て、おお、動いてる、滑走路の端っこで待機してる。
さあ、いよいよ離陸。エンジン噴射。は、速い! 端から見てるとあんなゆっくりなのに、すごいGだ。ひー。って思ってたら、隣の杏佳が僕の手をそっと握ってくれている。柔らかくて、暖かい手だ。ああ、ありがとう。落ち着くなー。まるで聖母様の手だ。
この日は天気がよくて、飛行機が揺れることもなく、フライトは順調だった。
文庫本を読んでいるうちに、津軽海峡を渡り、あ、あの港湾都市は、そうだ室蘭だ、上から見るとこうなんだ、へー、って思ってたらベルト着用サイン点灯。ほどなく新千歳空港に着陸した。ホントにあっと言う間なんだな。
到着後は、空港の表で待っててくれたトヨタレンタカーのバスで店舗に移動して、杏佳がヤリスをレンタルする手続きを行った。
「お客さん俺たちだけなんだから、空港まで車持ってきてくれればいいのにな」
「そしたら、お店の人が帰れなくなっちゃうでしょ。バカね」
「あ、そうか。そうだな。はは」とか言いながら、ヤリスで国道36号線を南下する。
「ああ、建物が少なくて、空が広いなー。あと沿道に草原が広がってるのが、いかにも北海道って感じだ」
「そうね。気持ちいいわねー。苫小牧まで20㎞ちょいだから、30分もあれば着くわよ」
しばらく行くと左手にウトナイ湖が見え、少しずつ建物が増えてきた。苫小牧市街に入って来たんだな。
「ホテルは駅の南にあるんだけど、明日の会場は北側にあるのね。だから先に会場の下見に行くよ」と言って、杏佳はメインストリートから外れて、駅の北側を西に走る。しばらく行くと、「緑ヶ丘公園入口」の看板が見えたので、右に曲がって公園へ向かう。緑の街路樹が整然と並んだ、すごく気持ちのいい道だ。
公園の一番奥にある駐車場に停めて、コートまで続く並木道を、杏佳と手を繋いで歩いた。いやー、ひんやりと涼しくて、緑が多くて、穏やかないいところだな。真司の言った通りだった。横向いて杏佳を見ると、あれ残念、帽子で顔が見えないや。だけど、涼しい風が帽子のリボンと栗色のロングヘアを撫でていく。
空を見ると、ああ、うろこ雲だ。北国はもうそろそろ秋なんだなあ。
しばらく行くと、右手に緑色のオムニコートが整然と並んでいた。「歓迎。第〇回インターハイ硬式テニス競技。7/31~8/6」という横断幕が掛かっている。奥に、二階建ての立派なクラブハウスも見える。もう、団体戦は終わっているので、誰もいない。
「ここが会場か。コートは平和の森と全く同じだな。これなら確かに公式練習不要だった。いい判断だったな」
「各コートにひな壇の観客席が付いてる。見やすくていいわね。いいコート。あ、団体戦の結果がまだ貼ってあるよ。ああ‥‥‥決勝は大阪青風と柳田だったんだ。青風が優勝したのね。W実業も強いとこに当たっちゃんだな。ドロー運悪かった」
「決勝は2-1。小武海が一矢報いたんだな。青風のエースを8-2で退けてる。団体戦もシングル5連勝したんだろうから、連勝はもう60を超えてるかもな」
「そうね。だけど、青風のエースは真司君に負けてるのよ。裕は真司君に8-0じゃない? 物差しが二つ挟まるから、どこまで信頼できるか分からないけど、小武海君も絶対じゃないと思うよ。対戦相手は、小武海君の名前と連勝記録に負けてるっていう部分もあるんじゃないかな」
「そうだな。洋介師匠の言うとおり、明日は、過大評価もせず、自分も過小評価せず、そのままぶつけてみよう」
「一回戦だってあるんだから、油断しちゃだめよ」
「へい、了解。おっしゃるとおりだ」
「さ、少し暗くなってきた。5時40分か。ホテルにチェックインして、街を探検して、どこかでご飯食べよう!」
「おう、腹減ったぜ! カレーラーメンとホッキ貝あるといいな‥‥‥」
みなさま、いつも本作を読んで頂きまして、大変ありがとうございます。
今回は6000字超えで少しボリュームがありましたね。申し訳ありません。第8章は2万字以上ありますので、第4話までいくと思います。
それと今回から、コソっと、タグに「旅行」が入りました。
苫小牧は、令和5年のインターハイの開催地で、実際に、緑ヶ丘公園庭球場で熱戦が展開されました。高台にたつ、とても素敵なコートです。
試合はもちろん、旅とグルメと、二人の恋模様もきちんと書いていきたいと思います。
なのでお色気回からは、R15指定しないとですね。
それではまた明日。




