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第7章 オマケその3 洋介師匠三本勝負!

*第7章 オマケ3  師匠の金言



1 ある日、ジムのレストスペースにて。


「洋介師匠」

「お、裕か。なんだ?」

「師匠は毎日ハードトレしてますけど、『今日はどうも気分が乗らねーなー』ってこと、あったりします?」

「そんなのしょっちゅうだよ。仕方がないさ、人間だもの。みつを。ププっ」

「なんスかそれ(笑)。‥‥‥で、そういう時はどうしてます?」

「まあ、大抵はジムに来るな。来て、トレしてると、そのうちに調子出て、やる気も出てくるからな。大概これで解決する」


「それじゃ、ジムに来るのも嫌だったり、来てトレしても調子出ないときは、どうするんです?」

「そんときはもうサボるか、とっとと帰っちまうな。俺だって日和ひよるときはあるよ」

「へー、なんか意外な感じ。それ聞くと、ちょっと安心しますね」


「それにな、そういう時は、『コルチゾール』っていうんだが、テストステロン(注 男性ホルモン。筋肥大に寄与)の逆の、『筋トレいやいやホルモン』が出てるんだぞ。これが出ると、筋肉削ってエネルギーを作り出すから、やるだけ無駄どころか、むしろやったら害なんだぞ」

「えー、それじゃ、根性出してやっても、全然逆効果じゃないですか」

「そうだよ。だから、そういう時は、筋肉とか栄養バランスとか一切忘れて、一生懸命サボることが大事だぞ。テストステロンに復活してもらわないとな」


「一生懸命サボるんですか。例えば?」

「ジム行くのやめて、ソファーに寝そべって、コーラとポテチ食いながら、アマプラでエッチなアニメでも見たらどうだ。サボってる感が出るだろ」

「うーん、それ、割といつもやってるので、一生懸命感がないですねー。惜しい」

「それじゃ、それに加えて、『たまにTシャツめくって、腹をボリボリ掻く』ってのと、『我慢してガス溜めて大音量で放出する』ってのはどうだ?」

「おー、それいい! さすが師匠。それ頂きます」


「お待たせー。じゃ、トレ行こっかー」


「お、杏佳。悪いんだがな、今日は、お前、一人でやってくれ」

「えーっ? 何よ、急に?」

「俺はな、家に帰って、我慢して溜めたガスを大音量で放出しないといけないんだ。すまん、分かってくれ」

「なにバカなこと言ってんのよ。ほら行くわよ!」 グイッ。


「ひー!」


師匠「サボり失敗の巻‥‥‥。ま、頑張れよ」(と静かに微笑んで見送る)。



2 別の日、ジムエリアにて。


「お、洋介師匠。おはようございます。今日は胸トレですね」

「おう、裕か。おはよう。頑張ってるな」


「いやー、だけど相変わらず、すげー胸と肩だな。師匠、とてもアラフィフに見えないですよ」

「そうか。ありがとな。長くやってるんで、自分じゃよく分からないんだけどな」

「師匠。やっぱりそのくらいマッチョになるとモテますかね? マッチョじゃなかった時と比べてどうですか? 僕、まだペナペナなんで興味あるんですけど」


「うーん、どうだろうな。俺はマッチョ前後であまり変わった覚えはないなあ」

「ああ、まあ、そうですね。もともと師匠かっこいいもんなあ。聞いた相手が悪かったか」

「でも、マッチョマンがモテるのは本当だと思うぞ。まず、見た目が若々しくカッコよくなるし、自信に満ちた態度になる。あと、基本的にいい人が多い。毎日毎日こんな苦しいことを続けられる人だから、まじめだしな。それと、筋トレ続けるのはお金も時間も必要だから、それなりの収入もなきゃいかん。だから、マッチョになれるということは、おのずとモテる条件が揃った男ということになるな。もっとも、マッチョ維持が大変で、女の子と遊んでる時間が取れないのが悩ましいところではあるな」


「なーるほどー。よく分かりました。そういや、マッチョは、お医者さんとか弁護士さんとか、会社社長とか多いですもんね。いい人ばっかりだし」

「あと、女の側にも、マニアがいるんだよ。『マッチョ好き女子』ってのが、昔も今も一定割合で存在する。動物の本能なんだろうな。潜在的には4分の1くらい、顕在化させてる女は5%くらいのイメージだな。飲み会で、おずおずと腕を触って口に手を当てて赤くなってるのが前者、キャーキャーと眼を輝かせて胸と背中まで触ってくるのは後者だ。後者は、それだけでは飽き足らず、自分でボディメイク始める人も多いな。憧れるあまり筋肉に同化したくなるんだろうか」


「そうか。昇さんと尚さんの関係がまさにそうですね」

「うむ、あのレベルで二人揃うのも稀有なことだけどな」

「もしかして、師匠のお相手もマッチョ好き女子ですか?」

「そうだよ。今はアメリカに行っちゃってる。フィットネスビキニの選手」(作者注 師匠の彼女はビキニの「絶対女王」高木優里。超美人。裕は知らない)


「へー、尚さんと同じなんだ。尚さんは、滅多にお目にかかれないレベルのいい女ですけど、師匠の彼女もそんな感じなんですか?」

「そうだなー、美貌とスタイル、それとキャラクター。どうだろ? 甲乙つけ難いか?」

「えー? マジすか? 今、なんか、試しに言ってみただけなんですけど‥‥‥」

「うーん。むしろ、世間的には、ちょっと勝ってる評価なんじゃないかなあ?」

「なんですとー? 師匠、僕、絶対ボディビルやります。マッチョ好き女子にモテモテになりますよ!」


「お、おう、頑張れよ。だけど、お前、今、ハイゴレーが‥‥‥」

「ハイボレー? なんで急にテニスの話?」

「いや、背後霊が後ろに‥‥‥」 それ聞いて、僕は戦慄とともにギギギと振り返る。


「ふーん。あんた、マッチョ好き女子にモテモテになりたいんだってねえ(怒)」

「こ、これは、杏佳さんではありませんかっ! ま、マッチョ好き女子候補の杏佳さん! わ、わたくしはあなたにモテモテになりたいっ!」

「ふん、うまいこと言ってんじゃないわよ。こっち来なさい! 性根叩き直してやるわ!」 ギュイ!

「ひー、耳引っ張るのやめてー!」


「師匠も、裕に変な事吹き込むのやめて下さい! もう、イーっだ!」


師匠「行っちまった‥‥‥。おー怖。くわばらくわばら」


 杏佳のお説教を聞いた20分後、僕は、昇さんから「世界の高木優里」の話を聞いて、「月間ボディメイク」のグラビア見てビックリ仰天した。師匠、恐れ入りました。参りました‥‥‥。



3 さらに別の日、レストスペースにて。


「これは洋介師匠。お疲れ様です」

「おお、裕か、これからトレなんだな」


「師匠は、コンテスト出てて、『すげー身体だ。こんなのに勝てねーよ!』って思うことあります?」

「もちろんあるよ。てか、どの大会も大抵そうだな」

「僕、今度、インハイで、高校無敗のラスボスに当たるんですよ。話聞けば聞くほど全然勝てる気しなくなるんですけど、どう臨んだらいいですかね」


「‥‥‥うーん、まずな、自分が『わー、すげー!』って思ってる相手は、思ってるほどは、すごくない場合が多い」

「なるほど、自分の気持ちが相手を大きく見せてるんですね」


「そう、そのとおり。そして、その相手と比較している自分は、自分が思ってるほどは小さくない。実は向こうも『すげーよコイツ!』と思っていることがままある。だから、3割まではいかないけど、相手を2割減、自分を2割増しにするくらいで、大体客観的な評価と合致する印象だ」

「なーるほどー。過大評価と過小評価を補正するわけですね。それメンタル面でもだいぶ違いそうだな」

「そうだよ。だって、『こいつすげー!』ってのがいる大会で、俺が優勝するんだから、結局客観評価がそうだったってことだろ? 自分じゃ自分見てもなかなか分かんないから、まずは補正してから、フラットに見るんだ」


「おお、なるほどね。じゃ、実際に試合やってるときは、どんな気持ちです?」

「まあ、ボディメイクはテニスみたいに相手がいるわけじゃないから、どこまで参考になるか分かんないけどさ、とにかく俺は自分の出来ることに極力集中してるな。笑顔を絶やさずに、手指の先まで意識して、一つ一つのポーズを完璧に、綺麗に見せることに集中する」

「まあ、それしかないですよね」

「そうだよ。だって、普段の自分の力以上のものって、本番では出ないからさ。テニスだって相手が強いからって、全部エース狙ってバチコーン!って叩いてたら、そりゃ一つ二つは決まるかも知れないけど、そんなの続かないだろ? 結局ポイントの積み重ねで負けるだろ? だから普段やってることをそのままに、だけど最大限出す、というのが絶対の条件なんだよ。相手が誰でもそれは変わらない」


「おお、すごい! 今日の師匠はなんかかっこいいじゃないですか。まあ、いつもかっこいいけど」

「ははは、そうか。なんか気持ちよくなっちゃうな。もっと褒めてくれよ。フハハ! ‥‥‥と、器の小ささを露呈したところでな、さっき言った、『自分の力以上のもの』ってのも、実はちょっと違ってて、絶対に出ないわけではないんだ」

「ほう、そうなんですか」

「自分よりはるかに力が上の者に、耐えてくっついて行ってると、突然同レベルに引き上げられることが稀にある。前に、大学の駅伝ランナーが言ってた。そいつが実業団の合宿に参加して山道走ったら、初日は全然ついていけなくて宿舎で伸びてたんだけど、翌日、練習始めたら、急に同じペースでついて行けるようになってて、驚いたんだって」


「へー、そういうことってあるんですね。実は、僕も、実力って階段状に伸びるって思ってました。なんでかなって」

「そうなんだよ。不思議だよな。きっとそれって、厳密に言うと、力が急に伸びたわけでも、自分の力以上ものが出たんでもなくて、単に持っていた本来の力を、レベルの高い相手が引き出してくれたってことなんだと思うぞ。階段状に見えるのはそういうことなんだろう。その階段がすごく高くて、周りもビックリするような状態を、きっと『覚醒』って呼ぶんだろうな」


「ああ、そうか、なるほど。よく分かりました。僕がずっと思ってた疑問が、今、ストンと落ちました」

「だからさ、俺はその最強選手が誰だかも、どんなに強いかも知らないんだけど、とにかくお前は、そいつを過大評価せず、自らも過小評価せず、対戦時は臆せずにお前のそのままを出せ。すごく強かったら、我慢して耐えてくっついていけ。どっかでお前がそいつに並ぶ瞬間が来るかも知れん。最初が苦しくても、そのうちに『あれ、なんか俺、いい勝負できてるぞ?』って思えたら、そこがお前とそいつとの実力の交差点だ」


「‥‥‥師匠。ありがとうございます。本当にすっきりした心持になりました。そのとおりにやってきます。それでも勝てないかも知れませんけどね」

「そこまでやってダメなら、それはもう埋めがたい実力差があったということだな。そん時は、全力を出したうえで、潔く散ってこい。だけど、諦めて背中向けるなよ。最後まで、お前の実力どおりやって、見せ場を作れよ。負けても一瞬はコートの主役になって、爪痕残してこい。負けっぷりがいいと、対戦相手にもそうだけど、見てる人の記憶にも残るからな。昇がずっとそうだった。だけど、あいつのすごさは、見てるみんなが分かってた」


「昇さんがそうだったんですか。今の彼からは想像もつきませんね」

「負け続けてたけどな、かっこよかったぜ。だからさ、お前もラスボスに負けるかも知れないけど、それは今の負けに過ぎないんだ。大事なのは、『今どこにいるか』じゃなくて、何年か後に『どこまでいけたか』なんだ。もっと言うと、『どこまでいけるか分かんないけど、それを信じて今努力できるか』なんだ」

「なるほど。心に響くお話です」

「そうだよ。お前は、ボディビルやってモテたいなんてチャラいこと言ってるけど、まあ冗談半分なんだとは思うけどさ、まだまだテニスで限界が見えないんだから、当面はテニスに集中して納得いくまでやった方がいいと思うぞ。それが、お前の才能に惚れて、力を貸してくれてる杏ちゃんとか練習パートナーに対する責任と、そして感謝でもあるな」


 そしたら、ロッカールームの柱の陰から、顔を横向けて両目出してる人がいた。ロングの栗毛が垂れてるからバレバレだよ。


「お、杏佳。聞いてたのか」って僕が声を掛けると、

「うん」って言いながら杏佳が出てきて、

「‥‥‥師匠ー。すごくいいお話でした。私が裕にしてあげたくても、上手く言えなかったこと、全部言ってくれましたー。私感動しましたー」って、師匠と握手しながら、片手で眼をぬぐって、グシグシ言ってる。


「いやー、そうかなー。あははは」

「うん、普段、エッチでおバカな話ばっかり裕に吹き込んでる師匠と、同じ人とは到底思えませんでした。やっぱり、だてに『師匠』って呼ばれてないんだなって、今日よくわかりましたー」

「『エッチでおバカ』って、ひどい言われよう‥‥‥。俺だって、やるときはちゃんとやるんだよ。ってか、大抵はちゃんとやってるぞ」

「ふふ、そうでしたね。ごめんなさい。さ、じゃ、裕、行くよ。さっきのお話聞いたでしょ? 今できることを全力でやろう。『家でおならプー』とか言ってる場合じゃないわよ」


「そうだな。行くか。それじゃ師匠、また」


「おう、頑張ってこいよ」(微笑んで見送る)








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