第7章 オマケ2連発! その1「カーボネックスの戦闘力」 その2「杏佳のお金事情」
第7章 オマケ1 カーボネックスの真の力
1 ふふふ。今日の壁にはこれを持ってきたんだ。ジャジャーン! 親父の忠告を聞かず、奮発してレクシスの1.25㎜を張ってしまった、カーボネックスの赤!
フレーム保護の黒いビニールテープも貼っておいたぜ。
うー、かっこいいー。惚れ惚れしちゃう。
しかし重い。太い。グリップ四角い。これ、厚い握りでスピンかけることを全然考えてないな。ワングリップを想定してるのか?
ではでは、早速打ってみましょう。
ポンとボールを出して返ってきた球をフラットでそれっ!
おお、なんか「ボヨヨーン」って打球感。シャープさ皆無。当たり前だが木の棒で打ってる感じがすごくするな‥‥‥。
ちょっとハードヒットすると、ラケットが弓なりにしなるのが良く分かる。カーボン入れてるんだから、これでも当時は固いほうだったんだよな。ただ、このように柔らかいのに全然優しくない。許容性ゼロ。しっかり真ん中に当たらないとまともに飛んでくれない。
そんじゃスピンは‥‥‥と、おお、全然スピンかからない! マジか? これは厳しい。これだけ面が小さいと、スピンをかける幅が確保できないんだな。思い切り擦り上げても、なんか申し訳程度にシュルシュルと縦回転がかかるだけだ。
バックのスライスも同じで、どうにも逆回転かかんないなー。
「スライス気味」に当てて押す感じの打ち方ならできるけど、ブイコアみたいに、ラケットが自らギュンってスピンかけて発射してくれる感じは全然しない。確かにこれは40年前のラケットって感じだな。
それじゃ、サーブは‥‥‥お、重いー、ああ、でもフラットサーブはそんなに悪くない。ブイコアみたいに「パンッ!」って感じじゃないけど、なんか「ドッカーン!」って感じで、明治の大砲みたいに球が飛んでいく。
スライスサーブは‥‥‥、ああ、ダメだな。ろくに回転かかんない。もう対角線にフラット打って、気持ち、ちょっとだけ擦るか、くらいの感じだな。スピンサーブは‥‥‥ああ、無理です。これはまるで無理。一瞬で白旗。致命的にラケットの幅が足りない。擦り上げるのに必要なガット面を確保できない。あーあ、やっぱり、「カシーン!」ってフレームに当たって、ボールがどっか飛んでっちゃった。
しばらくやってみたけれど、結局、ストロークはワングリップでフォア、バックともにフラットで当てて、前に押し出していくほかない。なんともスローモーかつ優雅なフォームになってしまうな。ワルツ踊ってるみたいだ。サーブも、もうフラットオンリーで、場合によりちょこっとスライス気味に斜めの回転かける位がせいぜいだと分かった。
いや、これ以上やると、ブイコアに影響出そうだから、このくらいにしとこう。
しっかし、ボルグと神和住純、信じられん。僕にはとても真似できない。
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2 「おー、カーボネックスの赤。いやー、小っちゃいなー。ウッドのレギュラーだから70インチなのか。だけどこれ、何ともかっこいーなー」って、真司が眼をキラキラさせて感嘆の声を上げる。
「ううむ、確かにこれはテニス者の心を捉えて離さないわね。って、なにこれ、重ーい! 重さ何? げっ、『ミディアム』って書いてある‥‥‥。こんなの初めて見た。今は、『ライト』が一番重いのよね」って、杏佳も興味深々だ。
「うん、量ったら、張り上げで380gあった。現代テニスではありえない重さだな。グリップも5で極太なんだけど、これだけ重量があってグリップが細いと、かえって重く感じるから、これが標準的なバランスだったんだろう」
「なるほど‥‥‥うん、これ打ってみたいな。杏佳先輩、相手してくんない?」
「いいわよ。後で私にも貸してね」
「真司、それスピンかかんないぞ。ワイパースイングなんてとんでもなくて、地面と平行にフラットで押してかないと、まともに返らないからな」
「へへっ、ま、俺が使いこなしてやるぜ。たまげるなよ。ボルグみたいなトップスピンを打ってやる!」
‥‥‥と言いつつ、
真司談 「うっわー。なんだこれ? スピン全然かかんない。反発力もゼロ。引っ叩くと全然飛ばない。それで当てて押すほかないのか。ああ、なるほど、ちゃんと返るな。しかし、これ、絶対的にスピード不足だろ。操作性も悪いし。残念だが、これはもう現代テニスでは全く通用しないな。観賞用だ。よく分かった。ありがと」
杏佳談 「なにこれ。重ーい。なんか丸太で打ってるみたい。飛ばなーい。お嬢様みたいなスイングしか出来ないわよ。昔の人はこんなんでよくやってたわねー。もういい、これダメ。よく分かった。ありがと」と、二人ともあっという間に挫折して、僕のもとにカーボネックスが返ってきた。
「ははは。まあ、今日は貴重な体験になっただろ。まだまだ新品ピカピカだから、大事に取っておくことにするよ」
しかし、この赤いカーボネックスが、後に驚愕のハプニングを招くことになるとは、この時点では誰も分かっていなかったのだった。
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第7章 オマケ2 金遣いの荒い女?
とある日の練習の帰り、運転席の杏佳に、
「ところでさ」
「何?」
「お前、俺と週三日も練習してるけど、バイトはしてんの?」って聞いてみた。
「バイトはしてない。しなくていいから、ちゃんと勉強しろって言われてる」
「へー、そうなんだ。小遣いでやりくりしてるんだ。いくら貰ってるの?」
「3万円かな。足りないときは、『ごめんっ』って言って、お母さんに貰ってるけど。ガソリン入れたりすると、割とすぐなくなるしね」
「3万円か、割と普通の感じだな。10万円くらい貰ってるのかと思った」
「そうよ。普通よ。あんたはいくら貰ってるの」
「1万円。高校生だからな。ガットとボール代はどうしようもないので、都度申告して出して貰ってる。だけどバイト代が月に6万円くらいになるから、お金は次第に貯まっていくな」
「ふーん、それで部員たちに牛丼奢ったりできるのね」
「まあ、そのくらいはな。だけど、お前、服とかどうしてんの。沢山持ってそうだけど。例えばテニスウェアとかどのくらい持ってんの?」
「テニスウェアは、そうね‥‥‥30着くらい? 長くやってたからね」
「さ、30着。‥‥‥失礼致しました。お見それしました。だけど大学生になると私服も必要だし、大変だろ。特にお前が着るようなハイブランドの服とか」
「ハイブランドじゃないよー(笑)。いつもヨーカドー行って買うか通販だよー。こないだのグレーのミニワンピだって、アマゾンで5000円で買ったのよ」
「ゲゲっ、あれ5000円なのか。全然そんな風に見えない。やっぱり、こんだけ美人でスタイルがいいと、何でも似合うんだな」
「ふふ、そう、ありがとね。だけど、まあ、確かに大学に入ってお洋服は毎月買ってるわね。これから秋冬物も必要だし、プチプラブランドでも一揃いするまで、結構かかりそうね」
「そうだよな。秋冬物高いし、女子は大変だ」
「そうだけどね、お父さんに打ち出の小槌を持たされてるから。アメックスゴールドの家族会員カード。お洋服は大抵これで買っちゃうわね」
「な、なんだ。それじゃ、実質小遣い無制限じゃないか。『割と普通』なんて思って、とんでもない勘違いだった。騙された」
「だけど、そんなバンバン使ってないもん! 使ったら、『これ買いました』ってちゃんと報告してるもん! お友達とカラオケ行ったり、焼肉行ったりするのは、お小遣いでやってるもん!」
「そっか。確かに、『これ買ったの』って着て見せたら、院長、喜んで許しちゃいそう。‥‥‥なるほど、なんかいろいろ勘ぐってごめんな。実情がよく理解できたよ」
「‥‥‥裕、あんた、私のこと、金遣いの荒い女で、一緒になったら苦労しそうって、心配してたんでしょ?」 杏佳が三白眼になって僕をジトーって見透かしてくる。
「う‥‥‥」
「まったくもう‥‥‥。確かにお家は割とお金あるけどさ、私、きっと、普通か、ちょっとお金使うかなー、くらいだと思うわよ。一緒になっても、あんたのお給料でちゃんとやりくりして見せるわよ」
「おお、そうか。それ聞いて安心した。任せたぞ」
「そう? ふふふ」
「そう。ふふふふ」
ニギニギ(手を握り合う音)。




