第6章 第4話
~ 裕vs手塚真司 ゲーム2-0 裕リード ~
第3ゲーム。
真司君はまだ1ポイントも取れていない。もう展開は一方的になりつつある。
裕はデュースコートからセンターにフラットサーブ。対角線のスピンサーブを予想して下がってた真司君は慌てて飛びつくもラケットを弾かれる。15-0。
アドコートからはまたスライスサーブ。真司君は極端にバックに寄ってたけど、それでも追いつくので精いっぱい。対角線にロブを上げるが、浅くなりスマッシュの餌食。30-0。うん、次もまだスライスで大丈夫よ。
真司君が山張るようになった。裕はそれを見越して正面にフラットサーブを叩き込む。バックに寄ってた真司君は手を伸ばして当てるが、まともな態勢で打てず、大きくアウト。40-0。あっという間に差が開いていく。
アドコートからまたも裕はスライスサーブ。真司君はもう隣のコートに片足入れるくらい。滑ってくるボールを完全に追い越し、クロスへ全力でスピンかけてリターン。きれいなフォームだ。ボールはネットを越えて鋭く落ちる。
ストレートをケアしてた裕は飛びついたけど、届かない。ラケットの先を抜けた。40-15。真司君初ポイント。さすがだ。ついにスライスに対応して逆襲してきた。
次のデュースコート、裕は最初のと同じスピンサーブを対角線に。だけど、真司君は山張ってて、フォアの強烈なリターンをストレートに。遠くから飛んでくるから、裕も追いつきはしたけど、返しのボレーをネットにかける。40ー30。じわっと詰めてきた。だけど気にしなくていい。山が当たる確率は半々。山が当たっても返ってくるだけで、即ポイント取られるわけじゃない。
さあ、裕、次はあれよ。
裕は、スッと外側にトスをあげ、真司君はまた急いで移動して隣のコートに足を踏み入れる。今だ。
裕はボールを擦らず、腕を内転させてセンターに。もうハーフスピードでいい。追いつけるはずない。7割の力で飛んだボールはセンターライン内側に跳ねて、そのまま通過。はるか遠くにいる真司君は、(外れろ!)って願いながら横目で見送るだけ。
ゲーム裕。3-0。これでスライスはまたリセットされた。
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「‥‥‥すごいな。こんな選手が都立にいたんだ」 (信じられない)という顔で、米山さんが私に言ってきた。
「私も去年初めて見て驚きました」
「スケールだけのビッグマンじゃない。フットワークもいいし、ショットも器用だ。まるで左利きのフェデラーだな。サーブはマッケンローだし。プレー全体がエレガントで魅力的だ。おまけに顔がいい」
「まだまだこれから進化しますよ。キャリアは二年ちょいなんですから。今は素質だけでプレーしてる感じで、基本技術をもっともっと磨く必要がありますけどね」
「杏ちゃん、すごい選手発掘したんだな。あとで紹介してくれよ」
「いいですけど、誰にも渡しませんよ。今私が大事に育ててるんですから、愛弟子なんですから」
「はは、わかってるって。だけど俺、ヨネックスのスカウトだからさ。ツバつけとかないとな」
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第4ゲーム。
真司君が突如として渾身のフラットサーブを放つ。対角線深くコーナーを抉り、前に出ていた裕はラケットを弾かれる。
「なんだよー。手塚、お前、こんなすげーサーブ打てるんじゃないか。今まで隠してたのか。はは」って、裕が笑顔で相手のプレーを称える。
「うるせーよ。俺だって本気出したら速いんだ。お前にはちょっとだけ負けるけどな」って言い返しながら、真司君も笑ってる。15-0。
確かにね、セイバーを避けて、ストローク戦に持ち込むにはこれしかない。強いサーブを入れ続けて、守りのリターンをさせるほかない。
‥‥‥でも、それは、今まで確率悪くてやらなかったことを、無理にやらざるを得なくなったってこと。劣勢を認めたってこと。いつまでも続くものではない。
真司君はアドコートからもフラットを対角線に叩き込む。だけどフォルト。オーバー。打点が低くて球が速いから、上下の角度がつかず、どうしても遠くまで飛んでしまう。セカンドはスピンで仕方ない。だけど、セイバーされて、無理な態勢のパスはネットに。15-15。
そのあと、2ポイントずつ取り合って、40オール。
さあ、次のポイントは重要だ。ゲーム3-1と4-0ではえらい違い。4-0になったら、裕のサーブを二つ破らないと負ける。
真司君はデュースコートを選択。おそらく対角線にフラット。裕も予め下がって、分の悪いセイバーを避けている。やっぱりフラットサーブ打ってきた。「フォルト!」 長い。
さあ、セカンドサーブ、どうせクロスにスピンかスライス。裕はもう隠さず、バックの握りでサービスライン手前に詰めてプレッシャーをかける。
そこに真司君がトスをあげて、あ! フラットだ。しかもセンター。ギャンブルに出た! 裕、返せ! せめて触れ! ああ、ラケット弾かれた‥‥‥。握り替えが間に合わなかった。
が、同時に、審判から「ダブルフォルト!」のコール。ボール一個分長かった。センターはサービスラインまで距離がないからね。クロスなら入ってたのに。
ゲーム裕。4-0。これは、もう、時間の問題だ。
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7 ああ、何やってもダメだな。奈良、お前、ほんとに強いな。
すごく俺のこと研究してきた感じがする。まあ美人コーチにはオレのこと筒抜けだからな。この間、ずっと俺の対策練ってきたんだろう。
‥‥‥もっとも、それがなくても勝てたような気はしないな。
分かってた。去年の段階で、もう並ばれていた。一年もたったら、お前のキャリアは倍になるわけで、俺は殆ど止まってるんだから、追い抜かれるのは当然だよな。
もう、俺も、あるはずのない才能信じてプロを目指すのは、今日限りやめるよ。
小さい頃からずっとテニスやってきて、東京は獲れたけど、お前がこんな軽やかに飛び越えていくのを下から見てたら、俺はここまでだ、もう潮時だって、ようやく踏ん切りがついたよ。
‥‥‥ああ、光ってる。眩しいな。
俺が喉から手が出るほど欲しかった、テニスの才能。
しかも憎たらしいことに、お前、すげーいい奴なんだよな。気持ちいい男なんだ。一緒にテニスしてると楽しいんだ。本当に悔しいけど、杏佳先輩が惚れこむのも良く分かるんだ。だって、俺も惚れちゃいそうだもんな。
去年から先輩が三人抜けて、最後の一年は、全国レベルが俺一人になって、頑張って部を支えて来たけど、やっぱり戦力ダウンは大きかった。オーダーやりくりして、なんとか団体でインハイ決めて、これで俺も責任果たしたんじゃないかな。
ああ、でもお前と一緒に高校でテニスしたかったなあ。絶対、お互い伸ばし合えたのに。ダブルスなんて楽しかっただろうな。
‥‥‥まあ、今更そんなこと考えても、詮無いことだ。まだ試合は続いている。俺の出来ることを最大限やることに集中しよう。
奈良がデュースコートからサーブを打つ。俺はさっき飛んだから、今度は正面だろう。ほら来た、分かってたぜ。だけど、うわっ、速っ。なんとかストレートに低くリターンを落とす。奈良はフォアボレーをクロスに深く返すほかない。俺はそれを予期して走り出してる。さあ、追いついた、充分の態勢、どっちだ?
俺は、ストレートを目で牽制して、奈良が一瞬詰めたところで、さあ良く見とけ! これがトップスピンロブだ! 俺はバックの厚い握りでボールを擦り上げ、対角線にロブを放つ。フェルトが黄色い霧になって目の前を舞う。奈良はロブも警戒してたらしく、急いで下がるが、このロブは極上だった。奈良は長い腕を伸ばしてジャンプしたけど、ボールはそのずっと先で急落下し、エンドライン上で高く跳ねた。
奈良は、コートに尻もちついて、
「あー! また今年もやられたー! お前のあれ、ホントいいなー。今度教えてくれよー」とか笑ってる。まったく憎めない男だ。
俺は「へへっ、やだね。これは俺の専売特許だ」って返し、続けて「さあ、まだマッチポイント続いてるぞ。最後まで気を抜くなよ。まくるからな」って言って、アドコートに移動する。
さあ、いよいよ、長かった俺のシングルス人生最後のポイントだ。
金網に杏佳先輩もいるな。
俺の散りざま、よく見ておいてくれ。
読者の皆様、いつも本作を読んで頂き、ありがとうございます。
昨日、どなたかが評価ポイントを10入れて下さって、70になりました。これまで評価100を次の目標にしておりましたので、一歩近づきました。大変嬉しかったです。ありがとうございました。
一時のpv激増もだいぶ落ち着いてきましたが、これは、新規について下さった読者様の一気読みが一巡して、毎日最新話を読みに来て下さるサイクルに移行したからと思われます。
わたくしも、穏やかな気持ちに戻り、毎日丁寧に校正して、最新話をアップしていきたいと思います。
まだまだ暑い日が続きますが、お盆を過ぎれば朝夕は少し凌ぎやすくなるでしょう。
あと少し、お互い頑張っていきましょう。
小田島 匠




