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第6章 第2話

 インターハイ予選 5回戦(ベスト32) 相手はM大付属№2


5 試合が始まった。裕は、今、ウォームアップしてる。緊張した感じはない。

 相手は結構大きな選手で、ストロークはオーソドックス、ボレーも上手い。

 ああ、サーブもいいのね。偏ったところのないオールラウンダー。


 ラケットを回してフィッチ、サーブは裕から。

 裕のサーブはこの1カ月でさらに良くなった。ジムで体幹を鍛えている成果か、軸が安定してコントロールが良くなり、フォルトが減った。スピードは相変わらずだし、腹筋と背筋の筋力が上がって、スピンサーブの落差とバウンドが大きくなった印象だ。


「8ゲームマッチプレイ!」の声が響き、裕は「お願いしまーす」と言いながら、スッとトスを上げる。身体を反らせ、ラケットを直立させて、一瞬静止し、そこから鍛えた腹筋で一気に前傾しながらボールに肘をぶつけていく。

「パンッ!」って、炸裂音とともに、閃光が相手を襲う。挨拶替わりのフラットサーブを正面に打ち込んだ。正面でいいならば、もう9割方入る。 

 あ! だけど反応した。触った。なんとかバックハンドで当てた。ボールは力なく上に飛び、裕はネットに詰めて叩こうとする。が、リターンはそのまま落ちてきてネットにかかった。15-0。相手選手も、その応援団も、あまりの速さに茫然としてる。

 

 裕はアドコートに移動して、予想通りトスを少し外側にあげる。スライスサーブ。相手も反応して予めバックに寄る。しかし、裕のサーブにはそんな想定も通じない。ネットを超えてから鋭く落ちたボールは、サイドライン内側で跳ね、さらに外へ。相手選手も必死にラケットを伸ばすが、当てるだけで精一杯。力ないリターンがサイドを割った。30ー0。

 でも、この選手、届くのね。M大付属の№2。割とやるか?


 デュースコートから、今度はトスを背中にあげてスピンサーブ。そうね、この試合の間にいろいろ試しとこう。だけど、試合開始直後で身体がキレてない。スピンのかかりもイマイチで、コースも正面に行っちゃった。それでも逆方向にボヨーンと跳ねて、相手はエンドラインの2mくらい後ろからリターンを強いられる。裕はドロップを選択せず、バック側に深くボレーを返す。相手は必死に追うが、これはもうロブだろう。予想通り、コンチのバックで上に高く上げてきた。

 もちろん裕は予想してて、もうサービスラインまで下がっている。高い。いったん落とせ。落とした。そしてグラウンドスマッシュをオープンコートに叩き込む。ナイス。これで40ー0。


 そして、アドコート。裕は、また外側にトスを上げる。相手が今度は大きくバックに寄る。あれかな? そうだ。裕はボールをカットせず、そのままフラットでセンターへ。少し甘いコースだったけど、バックに寄っていた相手は、「あー」って見送るしかない。サービスエース。1本目。ゲーム裕。スライス返されるまで続けていいって言ったのにね。まあいいか。練習ね。スコア1-0。


 相手にとってはすごくダメージの残る1ゲーム。実力差を痛感、これは強い、サービスを破るのは至難、ということは自分のサービスキープは絶対条件、と思いながらコートチェンジしてるはず。


 さあ、第2ゲーム。裕はセイバーしない。当然よね。どんなサーバーか分かんないだもんね。相手は長身だけあって、なかなか速いサーブを裕のバックへ入れてきた。裕はスピンの握りでブロックしてバックへ深く返球。前には出ない。相手はスライスで裕のバックへ。しばらくスライスの繋ぎ合いが続く。

 だけど、裕のスライスは強力だ。上から下に高速スイングで強烈な逆回転をかけ、ボールを相手コート深くに侵入させる。「シュッ」って滑るだけで、全然跳ねない。

 相手はたまらず4球目が短くなる。裕はそれをスライスでクロスへアプローチ。深い。相手はなんとか追いつき、フォアで無理にショートクロスにパスを放つけど、真ん中に寄り、裕がオープンコートにポンと決める。0ー15。この相手、ストロークはそれほど大したことはない。真司君には遠く及ばない。


 そうなるとできることは、サーブ&ボレー。相手はアドコートから対角線にサーブを打って前に出る。裕をコートから追い出して一発で決めるつもり。が、フォルト。次はセカンドサーブ。安全にバックに入れて、また繋ぎ合いでしのぐほかない。‥‥‥しかし、そこには裕がいた。

 セイバー。バックのスピンでブロックして相手バックへ。不意を突かれた相手は慌ててヘナチョコの返球。ネットに詰めてた裕の餌食に。0ー30。


(これは絶対ファーストいいとこに入れないとだめだ)って思ってる。

「フォルト!」

(セカンドも叩かれるから強めに)

「ダブルフォルト!」 0-40。気持ちはとても良く分かるわ。


 もう裕は無理しない。深く返してストローク戦にお付き合い。フォアとバックのスピンも駆使してる。ちょっと、あんた練習してるでしょ? あ、バックをネットにかけた。もう、まだまだ練習しないとだめね。

 裕のミスで1ポイント取られたけれど、相手もミスして、ゲーム2-0。


 第3ゲーム。裕のスピンサーブがコーナーのいいところに落ちた。コートの遥か外まで跳ねて、相手は高い打点でハードヒットするけど、十分ネットに詰める時間のあった裕がドロップボレー。こんなの追いつけるはずがない。15-0。

 アドコートからは基本通りスライスサーブ。だけどさっきのセンターの残像がある相手は、トスを見ても予めバックに寄れない。慌てて追うも、ラケットの先をボールが通過。エース2本目。30-0。


 もう山張って飛ぶしかない。確率2分の1。当たれー! って、そりゃそうなるわよね。だから裕はもう真ん中にバンバンとフラットサーブを叩き込む。どっちかに寄ってる相手は、完全に逆ではないからラケットは届くんだけど、まともに返らない。一本はサイドアウト。40-0。もう一本は弱弱しくネットを超えるも、裕がバックのスピンでクロスへ。だけどアウト。もう、また練習してる!


 だけど、裕は次のサーブをきっちり入れて、相手がリターンミス。

 ゲーム3-0。うん。もう大丈夫そうね。


 ******

  

「雄介君。私、1番コート見てくるね。また後で戻ってくる」って言い残して、1番コートに移動。

 ここは掘り込みになってて、コートの周りの柵に掴まって観戦できる。テニス中継と同じロケーションだ。私はW実業の選手と監督に分からないようにサングラスして日傘を差して観戦。目の前の試合はゲーム6-2。手塚リード。


 真司君は、サーブはスピンで確実に入れていく。相手が嫌がるところに打って、有利な返球を待つ。ストロークに絶対の自信があるから、サーブでは無理しない。ストローク戦になってしまえば真司君のペースだ。ボールを左右に散らして、徐々に相手をコート外へ。最後にオープンコートに決めたり、逆ついたり、ドロップショット落としたり、変幻自在だ。足が速い、スタミナもある。テクニックとアイデアに溢れた魅力的なテニス。まさに牛若丸。


 だけど‥‥‥、去年からあまり変わっていない印象。既に完成されているように見える。

 とてもよくまとまっている好選手だけど、私も同じだったからよく分かるの。

 残酷だけど、どこかで限界に当たる選手。


 真司君、次頑張りなよ。裕は強いよ。


 それも、すごく。


 ******


 じきに試合が終了したので、9番コートに戻ると、こちらは7-2。

 意外、2ゲーム取られたんだ。って思って見たら、裕が楽しそうにストローク戦やってた。バックとフォアのスピンをバンバン打ってる。ミスって、「やっちゃったー!」とか頭抱えてる。まったくもう、あんたってば途中からそればっかりやってたんでしょう? あれ、でも、なんか上手くなってるわね。使い物になってる。やっぱり真剣勝負の実戦って、急速にスキルが身に付くのね。


 最後は、相手が裕のバックにアプローチ打ってネットに詰めてきたところで、私が、「打て! クロス!」って叫んだのと同時に、裕がドカンとクロスにスピンでパスを放った。あんまりいいコースじゃなかったけど、高速だったので相手のラケットをかすめてコーナーで弾んだ。


「ゲームセット&マッチバイ奈良。スコア8-2で都立K高校奈良裕選手の勝利です」ってコールと共に両選手がネットを挟んで握手。裕が、

「いやー、楽しかったー。またやりたいな。ありがとうな」って爽やかな笑顔でお礼言ってる。まったく人柄がいいわね。そういうのが肝心なとこで足引っ張らないといいけどね。

 だけど相手も楽しかったらしく、

「いやー、強かった。すごかった。参りました。またお手合わせする機会があったらお願いします! 次も頑張って下さい!」とか励まされてる。

 

 そうよね。裕の傍にいるとなんか幸せな気分になるわよね。弱点かも知れないけど、そこが裕のいいところよね。


 さあ、裕、しばらく身体休めて、コンディション整えよう。


 いよいよ次はインハイかけて手塚戦だ。

 






 



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